消えない思い

樹木緑

第175話 番外編 すれ違い

「先ぱ~い!
や・の・せ・ん・ぱ・い!」

僕は大声で矢野先輩を呼んだ。

今日は少し寝坊をして、
矢野先輩に置いて行かれてしまったところ、
ちょうど学校手前で追いついたのだ。

「要く~ん、遅いよ!
15分程まってたんだけど、
何時まで経っても来る気配が無いから置いて行っちゃたよ!」

「や~ 昨夜のドラマ見ました?」

「ハハハ、お父さんの新作だよね?」

「もう、お父さんに捕まっちゃって、
終わるまで離してくれなかったんですよ。
僕、今日数学当たるから予習しないといけないって言ったのに!」

「言ってくれたら予習くらい、
付き合うのに!」

「あれ~? 先輩、余裕ですね~
良いな~ 僕も先輩位頭が良かったらな~」

「そんなの努力、努力!」

そう言って先輩は僕の肩に腕を回した。

「先輩、腕、腕、
こんなに近かったら、
僕の運命の恋人が現れた時、
どんな言い訳すればいいんですか~!」

「ハハハ、要君は本当に運命の番に会いたいんだね~」

「先輩だってそうでしょ!
こんなにベタベタしてたら、
運命の番が見たら、恋人同士だと思って
去っていきますよ!」

そうは言いながらも、
僕はドキドキとしている。

僕が矢野先輩の事を好きだって言うのは自覚したけど、
矢野先輩には好きな人が居るので
僕達は只の先輩・後輩だ。

それも、特別に仲のいい先輩・後輩。

矢野先輩はαって言ってたけど、
矢野先輩が僕の運命の番って事があるのかな?

どうやったら運命の番って分かるんだろう?

「ねえ先輩、今日の部活は何をするんですか?」

「そうだね~
今日は、
要君とお茶して~
新発売のお菓子を食べて~
美術書眺めて~
手繋いで帰ろうっか?」

矢野先輩は僕をドキドキさせることが旨い。

「も~ また僕をからかってるんですか~?
先輩、離れてくれないと、
僕、恋人出来ません!」

そう言ってプ~とすると、
先輩は人差し指で僕のほっぺたを押した。

その時何かが僕の鼻をくすぐった。

『あれ? 良い匂いがする?
何だろうこれ?
何処から?
先輩の指から?
ん? 違うか?

もう桜の季節は終わったのにな~
こんな匂いのする花あったかな?』

そう思って僕は先輩の指をクンクンとした。

「何?
僕の指から納豆の匂いがする?」

「え~ 先輩、
今朝納豆食べたんですか?」

「うん、毎朝食べてるよ!」

「ウェ~」

「納豆嫌いなの?」

「ダメです、
あの匂い、ダメです。
近ずか無いで下さい!」

「ハハハ、じゃあ、僕は颯爽と退散しましょうかね」

「じゃあ先輩、放課後ですね!」

そう言って手を振ると、
先輩も手を振り返し、靴箱の向こう側へ行くと、

「あ、裕也おはよ~」

「お〜 浩二!
あれ? コロン付けてる?
甘ったるい匂いするぞ」

「え〜 何のこと?」

と友達らしき人に挨拶していた。

僕はヤレヤレ、やっぱり納豆の匂いじゃ無いし!と思いながら、
そこへやって来た青木君と

「あ、青木君、おはようございます!」

と朝の挨拶を交わした。


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