消えない思い

樹木緑

第147話 時間は経つものだ

一学期はとんとん拍子で過ぎて行った。

体育祭で使うアーチも例年の如くうまくいったし、
青木君のいるバレー部も、
今年もインハイへのチケットを手に入れた。

夏休みは佐々木先輩が毎日バレー部に顔を出すと言うことだったので、
僕もせっせと美術部へと足を運んだ。

相変わらず美術部はもぬけの空だったけど、
佐々木先輩と隠れて会うには、
ちょうど良い隠れ蓑となっていた。

そんな部室に今日も僕は来ていた。

まず部室に来ると、
一番に窓を開ける。

古い木造作りになっているので、
梅雨などの湿気がある時期だと、
窓を開けるのが大変な時がある。

窓だけでも入れ替えてくれればいいけど、
もうすぐ立て壊しになるようなことを言っていたので、
それはそれで何だか寂しい。

窓を開けてカーテンをサッと開けると、
目の前には大きな木々が広がっている。
校舎の立て壊しと共にこの木も切り倒されてしまうようだ。

学校の卒業生から、せめてこの木々は残してくれるよう
署名運動が出ているようだけど、
今の所まだどうなるかは分からない。

まあ、立て壊しと言っても、まだ数年先の様だ。

僕は葉っぱの間から見える真っ青な空を眺めて、
大きく深呼吸した。

昨日は帰り際にスコールが来てしまったので、
僕と先輩はずぶ濡れになって公園の東屋へ飛び込んだ。
家が近かったので走って帰ればよかったものの、
それでは直ぐに先輩と別れてしまうことになるので、
なかなか一歩が出なかった。

“今日は晴れて良かった!”

そう思っていると、部室のドアががらりと空いた。

「赤城君!
やっぱり此処にいたんだね!」

「あ、奥野さん、来てたんですね」

「うん、猛に差し入れしに」

「あ、そうかもうあれから1年になるんですね。

どうですか?
インハイの準備は出来ていますか?」

「うん、それは大丈夫だと思う。
これ、次いでって訳じゃないけど、
赤城君にも差し入れ。
体育館行ったら佐々木先輩が来てたから、
赤城君もここにいると思って!
はい、これは赤城君と佐々木先輩で食べて」

そう言って奥野さんは、オニギリと、少しのお菜を持って来てくれた。

「うわー、有難うございます!
凄い良い匂い!

この後は青木君とのデートですか?」

「そうなのよ~
ところでさ、矢野先輩の居所ってまだ分かんないんでしょ?」

「そうですね~ 
相変わらず授業でとったノートのコピーは送って来てくれるんですけど、
でも先輩も向こうで頑張ってるって言うのが分かってるので、
僕も頑張らなくちゃって思います」

「今日は佐々木先輩はこの後来るんでしょう?」

「はい、前半の練習が済んだ後何時も来るので、
もうすぐ来るはずなんですが……」

「そうなんだね、
私、もう行かなきゃだけど、
佐々木先輩に宜しくね。
それにしても今日も熱いね~
セミの鳴き声が憎らしいよ!」

そう言って奥野さんは笑いながら部室を後にした。

奥野さんが部室を出たのと同時に、
廊下の方で話声が聞こえて来た。

どうやら佐々木先輩がやって来て
奥野さんとかち合った様だ。

話が途切れた途端、先輩が部室にやって来た。

「ハハハ、奥野さんって相変わらず元気玉だよな。
気も利くし、青木と付き合ってるって
七不思議だよな」

「先輩~
信じられないかもでしょうが、
あれで凄いラブラブなんですよ。

何を隠そう奥野さんの方が青木君にゾッコンで、
あれぞ、尽くす女ですよね。
僕、女の子じゃないけど、見習わなくてはって思います~」

「是非そうしてくれ!」

「あ~ 先輩!
何ですか! 僕が何もしていないような返事は!
僕、もう先輩にメロメロで先輩しかいないのに!
まあ、先輩に甘え切ってるのは否定しませんが……」

「ハハハ、冗談だよ、冗談!
実際お前は凄く俺を安心させてくれる。
最近では凄く俺の事愛してるんだなって言う事が分かる!
甘えてもらえるのは俺にとっては凄く嬉しい」

そう言いながら先輩は何時ものように汗で湿ったTシャツを着替えた。

「何だか改まって先輩にそう言われるとテレますね~
エへへ」

そう言ってテレると、先輩が僕の所に来て、僕にキスをした。

もう何度も何度も先輩とはキスをしているのに、
何だかこの時は凄くくすぐったい気持ちがして恥ずかしかった。

「もうすぐお前の誕生日だよな」

「ですよね、僕もう17歳になるのか~
早いですよね。
何だか去年から成長したのかな?
って感じはあるんですけど先輩と付き合い始めてもう1年以上経つんですね」

「だよな、あの頃は俺もハラハラのし通しだったんだけどな。
強気ではいたけど、お前を諦めようと思った事もあったしな」

「先輩~ 僕を諦めないでいてくれてありがとう~~~
僕、過去に行けるんだったら、あの頃の僕に
一言ビシッと言ってやりたいですよ!」

「ハハハ、 でも、俺を選んでくれてありがとう。
去年のお前の誕生日は浩二に先取られてしまったからな。
今年は一緒に祝えて嬉しいよ。

沖縄への予約は全て済んだから、
楽しい思い出にしような」

「本当に沖縄に行くんですね。
僕、家からこんなに離れるのは初めてかもしれません。
ちょっとドキドキですけど、凄く楽しみです!」

「まあ、2泊3日という短い時間だけど、
今年のクリスマス辺りは1週間くらいかけて海外に行きたいよな。
ハワイで温かいクリスマスとか、
カナダでスキーとか……」

「先輩、もうクリスマスの心配ですか?
気が早いですね~
でも本当に出来たら凄く楽しいでしょうね。
先輩と1週間も一緒に寝泊まりだなんて、
僕の心臓持つかな~
一泊でさえもドキドキしすぎて発作を起こすんじゃないかって感じなのに~」

「ハハハ、まずはお前の誕生日だな。
もうあと1週間しかないから直ぐだぞ」

「沖縄か~
何を持っていったらいいかな?
海パンでしょ?
おやつにガイドブック?
それとおこずかい!」

「お前、それ修学旅行か!」

そう言って先輩は大笑いしていた。

でも、半分はちょっと心配もあった。
何故なら、もうなくてはならなかった発情期がまだ来ていなかったから。
でも、先輩との旅行が楽しみ過ぎて、
僕はそのことを考えないようにしていた。










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