消えない思い

樹木緑

第140話 何をしたいの?

あれから暫く、
黒塗りの車に乗り込んだ浦上さんに、
何故?と心はモヤモヤとしていた。

『あれって知り合いっぽかったよな?
一体どう言った知り合いなんだろう?
何か脅されてるとかあるのかな?
もしかして、あちら系の御子息とか?』

考え出したらキリがない。

毎日学校帰りコンビニを覗いてみたけど、
浦上さんのシフトとはずれていたみたいで、
会うことができなかった。

取り敢えず、バイトには来てるみたいなので、
生きてはいるみたいだ。

もしかしたら東京湾に沈んでるかも?
とも思った事もあったけど、僕の考えすぎだった様だ。

僕はボーッとしてはハッとし、
ボーッとしてはハッとしながら絵を描いていた。

「赤城君!」

奥野さんが突然美術部部室にやって来た。

奥野さんが美術部部室に来る事は
滅多になかったので、珍しいなと思った。

「あれ? どうしたんですか?
クラブ活動はもう終わったんですか?
今日は確か新入部員の歓迎会だって言ってませんでした?」

「いや、そうなんだけど、
ちょっと買い出しに出たんだけど、あの男来てるわよ」

「え? あの男って?」

「ほら、カフェで赤城君に迫ってた大学生だよ」

「え? 校内に来てるんですか?」

「いや、いや、校門のところで立って
赤城君を出待ちしてるみたい。
私顔覚えられててさ、素通りしようとしたら呼び止められたのよ。
で、要はどこだーって聞かれたから、
知らない、帰ったんじゃ?っては答えたんだけど、それで良かったかな?」

「あ、大丈夫です。
有難うございました。
僕、他の生徒の迷惑になるとダメなので、
ちょっと覗いて来ます」

「大丈夫? 私、一緒に行こうか?」

「大丈夫ですよ。
こんな人目も多い明るい場所で危険はないでしょう。
奥野さん歓迎会に戻って下さい」

「本当に大丈夫?
なんかあったら大声出すんだよ」

「はい、有難うございます」

そう言って奥野さんは歓迎会に戻り、
僕は校門へと向かっていった。

正面玄関を出て校門まで歩いて行くと、
校門を出ていく生徒にハ~イと手を挙げながら、
浦上さんはまだ校門のところに立っていた。

行き交う生徒に迷惑になるので、
本当はイヤだったけど、
彼に話しかけることにした。

「浦上さん!」

「おー要! 待ってたんだよ!
やっぱりまだ校内に居たんだな」

「一体ここで何してるんですか!
それにどうやって僕がここの生徒だって分かったんですか!」

「いや、制服着てるとこ何度も見たから
調べればここの生徒だって直ぐに分かるよ?」

「それじゃストーカーですよ!
でもこんな所に何時迄も立ってると、
本当に不審者と間違われて通報されますよ!」

「あれ? 心配してくれるの?」

「え? 普通するでしょう?
全く知らないって訳でもないのに!」

「嬉しいな〜 
てっきり無視されると思っていたよ〜」

「……」

「何? なんだか浮かない顔だな」

「あの……聞いても良いですか?」

「何? 何? 新しく彼女出来たかって?」

「違いますよ!」

「俺、要だったらいつでもokだぞ?」

「何言ってるんですか!
僕を待ってるんだったら、
僕には何も用はありませんのでお帰りください」

「えー 折角ここまで出て来たのに良いじゃないか。
な~ ー緒に飯行こうぜ」

「だから、僕と一緒にご飯に行きたい根拠は何なんですか!」

「一目惚れ?」

「それ、クエスチョンマークになってますよ!
全然説得力が無いですよ!

それよりも、
僕この間浦上さんが黒塗りの車に乗るの見たんですよ!
何かヤバい事に巻きこまれているんですか?」

そこで彼はブハッと笑った。

「何だお前、黒塗りと来たら皆ヤバい奴なのか?」

「え? 違うんですか?」

「お前こそ、何の根拠があって黒塗り=ヤバイやつなんだよ?」

「え~ 漫画とか、ドラマとか、映画とか、
黒塗りって言ったら大抵そうじゃないですか!
僕、浦上さんが東京湾に沈んでるとこ想像してもう……」

「ハハハ 心配してくれたわけだ!
やっさし~な、要君は!」

「ふざけないで下さい!」

思わず大声が出た。

「いや、すまん、すまん。
あれはヤバいんじゃ無くって、
俺の未来の雇い主の運転手で、
偶然に会ったから乗せて行ってもらっただけだ」

「それじゃ、全然大丈夫なんですね?
未来の雇い主って変な企業じゃないですよね?」

「だ~い丈夫だって。
普通の仕事だよ」

「だったら安心ですけど、
ご飯云々は別の話ですからね!」

その後ろから、

「誰だそれ?」

と声を掛けられ振り向くと、
そこには佐々木先輩が立っていた。

「先輩!
一体どこから来たんですか!」

「いや、そんな事より、
何か困った事でも?」

そう言って先輩は浦上さんの方をチラッとみた。

「あ、これ、雑誌に出てた人だよね?
やっぱり、付き合ってるんじゃん!」

「失礼ですが、どなたで?」

「あ、先輩、彼は家のマンションの下にある
コンビニでバイトしてる人で……」

「そんな人が何でここに?」

「ハハ、ヤキモチかい?
実はね、要君を落とそうとしてるんだ。

君、要君の恋人だろ?
まあ、要君は否定も肯定もしなかったんだけどな」

「要に手を出すのはやめて下さい。
純な子なんです。
遊びで近ずかれても困ります」

「じゃあ、遊びじゃないって言ったら?」

「本気にも見えませんが……」

「君に何が分かるの?
要君の彼氏じゃ無かったら、
黙っててもらえる?
それに君が載ってる経済誌読んだんだけど、
婚約者が居るそうじゃない?」

「あれは雑誌社の方が勝手に……!」

え? そうだったの?
先輩がそう言ったんじゃ無いの?

じゃあ、結構先輩の答えが操作されてる?

そう思ってはみたものの、
二人の言い合いがどんどんエスカレートして来たので、
止めなければと思った。

「先輩、僕は大丈夫なので行きましょう!」

そして僕は浦上さんの方を向いた。

「浦上さん、そう言う事ですので、
ご飯のお誘いはお断りします。

それと、もう二度と誘いに来ないでください。
僕があなたと付き合うと言う事は絶対ありませんので」

「絶対だって、どうしてそう言い切れるの?
絶対なんて言葉は存在しないんだよ。

現に君だって、その坊やと何時まで続くかもわからないんだよ」

僕は僕が一番恐れていたことをズバリと言われ、
少しビクッとして身が怯んだ。

先輩がそれに気付いたのか、
我慢ならなくなったようで、

「俺には絶対という言葉は存在するんだよ!
特に要の事になるとな。

ああ、正直に話すよ。

要は俺の大切な人だ。
誰にも近ずかせないし、
誰にも触らせない。

俺たちが離れると言う事は、
絶対に無いんだ。

分かったら、早く帰ってくれ!」

「お~ お~ 怖い怖い。
じゃあ、邪魔者は退散するとしますわ。
じゃあな」

そう言って浦上さんは去って行った。

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