消えない思い

樹木緑

第136話 新しい学期

「は~ 新学期始まって早々実力テストって、
いやんなっちゃうわよね~

ねえ、赤城君は進路希望調査どうした?
まだ2年生始まったばかりなのにもう進路って嫌味よね~
先輩達送り出したばっかりなのにね~
でも楽しい事もあるわよね!
何と言っても修学旅行!
楽しみ~!」

「ホントですよね。
修学旅行の希望は何処にしましたか?」

「勿論、沖縄よ!
本当はハワイとかが良いんだけど、
費用がね~」

「僕、中学生の時は修学旅行
行けなかったので、今年は是非行きたいです!」

「赤城君は何処希望したの?」

「僕も沖縄です!
やっぱり何かあった時、国内だと安心だし、
両親も直ぐに駆けつけて来れるので……」

「そうよね!
あ~ 白い砂浜、真っ青なビーチ!
女の子の憧れの島~」

奥野さんは目をキラキラとさせてそう言っていた。

「ハハハ、何時か青木君に連れて行ってもらうのも良いですね」

僕がそう言うと、奥野さんはポカーンとしたように僕を見て、

「それ、いいアイデアね!」

とお茶目に言った。

「ところで、奥野さんの進路はどうするんですか?」

「ん~ 私ほら、叔父さんのカフェを継ぐわけじゃ無い?
だから大学なんていっか~とか思ってたんだけど、
叔父さんが今は大学位は行って無いと、
もしもの時に大変だからって頑として譲らないのよね~

私としては無駄なお金使わせたくないんだけど、
叔父さんも頑固だからな~

赤城君はどうするの?」

「僕はやっぱり行けそうなところで~
って思ってますがまだはっきりとは決めてませんね。
都内って言うのは決めてるんですが……

青木君はどうするんですか?」

「猛は大学へ行ってもバレーするみたいだから
バレーボールの盛んな大学かな~
特待来れば受けるって言ってたけど、
それも狭き門らしいからね~」

「皆頑張ってるんですね~
僕も頑張らなくては!
差し詰めはこの後控えた全高絵画展への出品作を終えなければ!」

「そっか~ 入った早々大変だよね~」

「新入生のクラブ紹介もやってきますよね~」

「ホント、こうやって2年生になって忙しくなって、
後輩を導いていた先輩たちの偉大さが身にしみてわかるわ~

あ、予鈴のチャイムだ!
私もう行かなきゃ」

そう言って奥野さんはバタバタと自分の教室へと戻って行った。

このように、奥野さんは相変わらず僕の教室に来ては
キャラキャラと話をして自分のクラスへ帰って行く。

あまり一人になる事が無かったので、
それは今の僕にとっては凄く助かっていた。

今日は実力テストの最終日なので、
今日からほとんどのスポーツクラブは活動が始まる。

文化部は大体自主参加が多い。

美術部も全高春の絵画展を控えてはいたけど、
部員の中でも絵画展に出展する人達は大体決まっていた。
それでも、部室に居て活動をする人はまれだった。

僕は家に帰っても両親は仕事でいないので、
相変わらず放課後は部室に入り浸っていた。

全てのテストが終わり、
新学期初めての活動をしに部室へ行くと、
一人の女子生徒が部室の前に佇んでいた。

「あれ? どうしたの?
新入生? 美術部に何か用?」

「あ、すみません、
美術部の先輩の方ですか?」

「うん、僕2年生の赤城と言います。
君は?」

「あ、私、1年生の林田桃子と言います。
入部希望なんですけど、もう受け付けはされているのでしょうか?」

「え~ 入部希望者?
凄く嬉しい!

あ、でも部長今日は来るか分からないな~
ちょっとライン出してみるね。
中で暫く待ってる?」

「あ、お邪魔じゃないですか?」

「大丈夫だよ!
お菓子とお茶があるんだよ!」

と言ってハッとした。

矢野先輩……

「あの……
大丈夫ですか?
出直しましょうか?」

僕は彼女に声を掛けられ、
またボ~ッとしていたことに気付いた。

我に返り、

「あ、大丈夫だよ!
今年卒業した先輩にね、
お茶とお菓子が大好きな先輩が居て、
僕が初めて部室に来た時もそうしてもてなしされたんだよ!
何だか思い出したらおセンチになっちゃって…… ハハハ」

そう言ってしどろもどろしていると、

「素敵な先輩だったんですね」

そう彼女に言われて、

「そうなんだよ!
矢野先輩と言ってね、美術部部長だったんだけど、
とっても後輩思いの先輩でね、
優しくって、愉快で、奇麗で、かっこよくて……」

「へ~ 凄い先輩が居たんですね。
私も会ってみたかったです!
今は大学生してらっしゃるのですか?」

「……あ……うん……」

「やっぱり、部長をしてらっしゃったって事は
美大ですか?」

「あ……いや……アメリカへ留学に……」

「へ~ 凄いですね!
夢を精一杯追いかけていらっしゃんるんですね!
尊敬です!」

と、彼女が言った瞬間、部室のドアがガラッと開いた。

「あれ? お邪魔だった?」

ドアの方を振り返り、僕の顔がパ~ッと明るくなった。

「佐々木先輩!」

そう言って僕は先輩に歩み寄った。

「あの……この方は?
部長さんですか?」

林田さんが尋ねてきたので、僕は慌てて、

「あ、イヤ違うよ、彼は今年の卒業生で佐々木先輩って言って
今僕が話した前部長の矢野先輩の幼馴染で……」

そう言いかけると、

「初めまして。
佐々木です。
君、新入生?
美術部に入るの?」

と先輩自ら自己紹介をした。

「あ、はい。 林田桃子と言います。
美術部入部予定で今部長さんを訪ねてきたんですが……」

「あ、そうだったね。 
ちょっと待って部長からライン入ってるか……」

そう言って携帯を見ると、
部長からの返事が来ていた。

「あ、部長からライン来てまして……
え~っと ここの棚にある入部届を……」

そう言って棚の上の方を探ってみたけど、
僕には高すぎて良く見えなかった。
椅子を持ってこようとしたら
佐々木先輩が束さず、

「どこだ? この一番上か?」

そう言って入部届を取ってくれた。

「先輩、凄く背が高いですね。
先輩も美術部だったんですか?」

「あ、イヤ、俺はバレー部。
今日はちょっと後輩をしごいてやろうと来たんだけど……

そうそう、ここに立ち止まった理由は、
実はな、浩二から手紙が来たんだよ。
で、その中にお前への手紙も入ってたから持ってきたんだ。
相変わらず住所は書いて無いんだけどな」

「矢野先輩からですか?」

「はい、これ」

そう言って佐々木先輩が一枚の封筒を僕に渡した。

「じゃあ、俺はこれから体育館へ行くから」

そう言って佐々木先輩は体育館へと去って行った。

もっと話していたかったけど、
林田さんが居る手前イチャイチャする訳にも行かず、
そこはぐっと我慢して見送るしかなかった。
多分先輩も同じような気持ちだったろう。
若干ガクッとしたような表情が見て取れた。

「今の先輩、カッコイイですね~
彼女さんとかいるんですか?」

僕は彼女の質問にギョッとしたけど、
お決まりのいつものセリフを返した。

「彼には婚約者が居るよ?」

うわ~ 自分で言って何だかみじめ~
でも気を取り直して、

「あ、じゃあ、これ入部届なので、
記入して、ちゃんとご両親の印をもらって来て下さい」

そう言って、林田さんに入部届を渡した。

「ありがとうございました。
じゃあ先輩!また!」

そう言って彼女は帰って行った。

『先輩か~
僕も先輩になったんだな~
矢野先輩が守って来たこの美術部をこれからも皆で守って行かなくちゃ!

あ、そう言えば彼女にお茶とお菓子の振る舞い出来なかったな~』

そう思いながら、矢野先輩の手紙をドキドキしながら開いた。

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