消えない思い

樹木緑

第128話 お泊り会

「外は寒かったでしょ?
お茶入れるけど、皆どうする?」

お母さんが尋ねた。

「あ、私達ジュース買ってきたので、
どうぞお構いなく~」

奥野さんがそう言うと、

「あ、お母さん、僕お茶貰います。
お手伝いしますね」

と、矢野先輩はお母さんと一緒に
キッチンへと行った。

玄関で奥野さんと青木君をびっくりさせた後、
僕達は、皆リビングに集まって、
井戸端会議が始まろうとしていた。

「でも、赤城君のお家、凄いね。
これ、セントラルヒーティングっていうの?
こたつも無いのにあったか~」

奥野さんが周りを見回しながらそう言った。

「そうだよね~
冬はこたつにアイス!だけど、
家はこたつないよね」

僕がそう言うと、お茶を入れた矢野先輩が、

「え~ 冬はこたつにミカンでしょ?」

と、リビングにやって来た。

お母さんも続いてやって来て、

「要はアイスクリーム大好きだもんね。
昔からお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの所へ行くと、
要の定番はアイスクリームにおこただったもんね~」

というと、矢野先輩も、

「なんだ~
要君って小さい時からそうだったんだ~
そのまま育ったんだね~」

と、からかった様に言った。

皆がリビングに座ると
奥野さんが周りを見渡して束さず、

「ちょっとまとめさせて!
頭こんがらがってるから!」

そしてお父さんの方を向いて、

「で、赤城君のお父さんが実は蘇我総司で、
外の顔は変装している。
結婚して、要君がいる事も秘密にしている。
この事を知るのは、私達のみ~
それって一介の女子高生には責任重くない~?」

とプルプルしている。
そして次はお母さんの方を見て、

「お母さんは実は男性のΩで
赤城君を生んだご本人で、
お母さんも外では変装、女装?していて、
実は、何ていうの? 
プロのバイオリニスト?っていう代物?

ごめんなさい! 私、クラッシック会には疎くて!」

そう言って奥野さんが両手を合わせて頭をぺこりと下げた。

「ハハハ、大丈夫だよ。
むしろ、君たちの年で僕の事知ってたら驚くよ。
まあ、音楽家の生徒たちは知ってるかもだけど……」

「ですよね~
でも良く化けれるものですね~
は~ 今だに信じられないや~
赤城君が男性のΩから産まれたって~
やっぱりΩって男性でも子供産めるんですね~」

奥野さんも佐々木先輩と同じように感動している。

「ハハハ、佐々木君も同じように不思議がってたよ~」

お母さんがそう言うと、

「そうですよね、と言う事はお父さんはαなんですよね?
番か~ 羨ましい!
私と猛はβだから関係ないんだけど、
ほら、何ていうの?
都市伝説化してるじゃない?
魂の番? 運命の番?」

「うん、まあどちらでも呼ばれてるんだけど、
僕と優君はね、運命の番なんだよ」

お父さんが自慢げに言った。

「え~ 本当に実在してるんですか?
只の番では無くて、本当に運命の番?
と、言う事は~ あの番同士で行う、
うなじを噛むって言う儀式も済んでるんですか?
普通の番とはどう違うんですか?」

「おい、瞳、そんな矢継ぎ早に何でも聞いたら、
失礼だぞ」

青木君が奥野さんを肘でつついてそう耳打ちすると、
お父さんが、

「良いんだよ、良いんだよ。
僕と優君の恋バナは何時でもウェルカ~ムだよ!」

と、何だか言い方まで矢野先輩そっくりだ……

「要君も実を言うと、
裕也と運命の番なんだよね~」

矢野先輩がそう言うと、
奥野さんが目を丸々として、

「え? そうだったの?
私、ただ、佐々木先輩が赤城君に惚れて
付き合いだしたのだとばかり……」

とびっくりしていた。

「で? 何が違うの?
どうやってそれが分かるの?」

と、もうそれを聞かないと寝かせない!
と言う様な勢いで聞いてきた。

「僕の場合はお父さんと、お母さんとは少し違うけど、
佐々木先輩からだけ漂う特別な匂いがあった。
で、佐々木先輩も僕に対してそうだったみたい。
佐々木先輩は直ぐに気付いたみたいだけど、
僕は最初はぴんと来なかったかな~」

「へ~ やっぱΩってフェロモン出すんだね~
ほら、赤城君、一度教室で発情しかけたじゃない?
私、何の匂いも分からなかったもん。
症状から、あ、ちょっとヤバいのかな?
って言うのは分かったんだけど……」

「あ~ そんなことあったね!
あれ、要君が初めて裕也にあった時だよね?」

と矢野先輩に言われ、

「そうですね、
美術部部室で寝ていた佐々木先輩から良い香りがして、
それがだんだん……」

「は~ じゃあそれが運命の出会いだったんだね~
でもさ、赤城くんが部室に行った時に、
そこに佐々木先輩がうたた寝してるって
所がもう運命って感じよね!
普通美術部部室何て、佐々木先輩行かないでしょう?
まあ、校舎ですれ違ったりはあるかもだけど、
やっぱり、運命の番ってそんなすれ違いでも分かるのかな?」

奥野さんがそう質問したらお父さんが、

「僕達の場合はね、お互い遠くに居たんだけど、
フッと向こうが気になって振り向いたら、
優君も同じみたいで、目が合ったんだよ。
その時僕達は気付いたよね? 優君!」

「まあ、そんな感じだったかな?
あの時、入学式だったんだけど、
何だか、司君の居た方が気になって、気になって……
そっちを向いたら、司君と目が合ったじゃない?
その瞬間、司君だけがあの群衆の中で浮かび上がって見えたんだよね。
で、他の人が視界から消えちゃって……
僕の瞳には、そこに居るのが僕と司君だけって感じで映っちゃって、
僕自身、それこそ顔には表さなかったけど、
大パニックだったよ!
今でこそ笑い話だけどさ」

「ひゃ~ 凄い経験ですね~
私達なんて普通~にバカ騒ぎやってて、
気が合ったから、じゃあ、付き合おうかってなったんですけど、
運命のαとΩの出会いって、世の女の子の憧れですよ~!

じゃあ、その後お父さんとお母さんにも匂いが絡んできたんですか?」

二人はお互いを見つめ合って、
うんうんと自分たちにだけ分かる合図を送っていた。

「あの匂いは特別だよね。
Ωの発情した匂いって、
普通どんなαにでもきついんだ。
簡単にラットを引き起こせるしね。
でも、運命の相手だと、
発情期じゃなくても匂いをかぎ分けられるし、
簡単に発情を促してしまうよね?
お互いが近くに居ると」

「へ~ そんなもんなんですか?
大変ですね~

あ、そう言えば、赤城君もそうなんだよね?
佐々木先輩が近くに居る時って、
一体どうなってるの?」

「多分僕がまだ未熟なせいかな?
今の所危ない時は何度かあったんですけど、
大事にはならずに済んでます。
多分、佐々木先輩が
気を使ってくれているんだと思います」

隣では矢野先輩が、うん、うんとしたようにして聞いていた。

「ねえ、ところでさ、佐々木先輩と長瀬先輩って
一体どうなってるの?」

奥野さんがそう尋ねると、
今それを聞くか~? とでも言うように、
皆が一斉に奥野さんの方を見た。

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