消えない思い

樹木緑

第117話 両親は騙せる?

教室に入ったら、まだライトは落ちていなかったので、
お父さんたちがどこに座っているのか探した。

まだ人は沢山は入って無かったので、
直ぐに彼等を見つける事が出来た。

僕は少しドキドキしながらも、
ワクワクとして傍まで歩み寄った。

両親は騙せるかな?
どうだろう?
心なしかちょっと緊張で震えてきた。

「早かったですね。
まだだと思ってましたよ」

矢野先輩がそう言って隣に座ると、

「あれ? 要君は?
一緒に来なかったの?

で? この奇麗なお嬢さんは?」

とお父さんが話し掛けてきた。

それを見たお母さんが、
僕をチラッと見て
ブーっと小さく笑ったので、
あ、やっぱりお母さんには分かるのかな?
と僕は思った。

でも、今のところ、
お父さんにはバレて無さそうだった。

「僕のガールフレンドが突然来てくれたので、
要君がチケットを譲ってくれたんです。
お父さんとお母さんに紹介したくて……」

矢野先輩がそう言うと、
お父さんは顔を引きつった様にして先輩を見て、

「こんな奇麗な彼女連れてきちゃって……
もうだめだ~!!!!!」

と訳の分からない事を言い始め、

「矢野くん、僕はね、
今でも、要君は矢野君とが
一番幸せになれると思ってるんだよ。
僕ぁぁぁぁぁ~ 悲しい!」

と、何の根拠も無い事を言い始めたので、

“ちょっと、それ、僕が本当に矢野先輩の彼女だったら、
彼女に失礼じゃない?”

と思ってしまった。

僕が先輩をチラッと見て、目配せしてくすっと笑うと、

「何、瞳で会話してるの!
僕の前でイチャイチャしな~い!」

と、お父さんは本気で矢野先輩が大好きで、
僕とくっつかせたいみたいだ。

お母さんも僕達に便乗してくれたみたいで、

「司君、あなた、矢野君の彼女さんに失礼よ。
こんな可愛らしいお嬢さんなのに……
それに要がどうこうと言うより、
あなたが矢野君に失恋したみたい」

と言った後、僕を見て、又プっと笑った。

お父さんはお母さんに、
お父さんが矢野先輩に恋してるように言われて、
焦った様にして、

「優ちゃん~
僕は優ちゃん一筋って知ってるでしょ~」

とお母さんにタジタジになってるお父さんに、
お母さんもクスクスと笑って、

「ほら、早く謝らないと、
矢野君の彼女さんも
気分を害してしまわれるよ。
矢野君にも嫌われたらどうするの?
要にも叱られちゃうよ?」

とお父さんを突っついている。

お父さんは、もう一度僕と矢野先輩を見て、
ガクリと頭をもたげて、

「ごめんなさい……
矢野君は僕のお気に入りだから、
どうしても矢野君を要君とくっつけたくて……

要君とはね、僕の息子なんだけど、
とってもいい子なんだよ。

あっ、でも、決して君の事を
否定してる訳じゃ無いんだよ?
二人とも、本当にお似合いだよ」

と、トホホとしていた。

「お父さん、大丈夫ですよ。
僕もお父さん、大好きですよ。
でも、要君は裕也を選んだから……
裕也は凄く良い奴ですよ。
信頼するに値する男ですよ。
僕が保証します!」

「矢野君は良い子だね……
別にね、佐々木君がイヤなわけじゃ無いんだよ。
二人ともいい子だしね。
ハ~~~ッ」

そう言って深いため息を付いて、
お父さんがしんみりし始めたので
それを見かねたお母さんが、

「もういいでしょう?
あんまり司君をいじめないで」

そう言ったので、お父さんは訳が分からず
僕達を見上げた。

そして、不躾に僕をジーっと暫く見た後、

「あ~~~~~っっ!!!!」

っと大声を出した。

「何、何?
なんでこんな事になってるの?
え? これ本当に?
間違いない?

さすが僕の子!
いや、化けるもんだね~

でも女の子はやっぱいいね~

ね~ 優ちゃん、もう一人女の子欲しい!
で、矢野君のお嫁さんにしようよ~」

そう駄々こねてるお父さんの所に、
丁度、ポップコーンを配り終えた
青木君と奥野さんがやって来た。

「は~ やっと交代が来てくれたから
助かったわ~」

そして僕達を見て、

「え? 何? どうしたの?
私変な事言った?」

と戸惑った様にしていたところにお父さんが、

「見てよ! 矢野君の彼女!」

と横槍を入れてきた。

「あ~ お父さんには
やっぱりショックでしたか~?

大丈夫ですよ。
私達にも、かなりのショックです!

本当に矢野先輩も水臭いんだから~
私達の仲でしょう?
なぜ今まで言ってくれなかったんですか~?」

そう言う奥野さんに、

「何? 奥野さん達もまだ知らないの?」

とお母さんが聞いてきた。

「え? 私達、何か大切な事見逃した?
何? 何?」

「実はね、矢野君の彼女……」

お母さんが言いかけた後、僕が

「へへへ、実は僕なんで~す!」

と二人にバラした。

そう言った瞬間、奥野さんも、青木君も、
目が飛び出た様にびっくりしていた。

「ちょっと!
何で~?!
いや~! 
私、恥ずかしい事、
あれやこれや言って無かった?!
いや、それは置いといて、
信じらんないくらい奇麗なんだけど、
何故女装なの?」

「あのね、女装してたら、
皆僕だって分からないんじゃないかって
矢野先輩がやってくれたんです。
そうしたら、佐々木先輩と後夜祭出れるんじゃないかって」

僕がそう言うと、
奥野さんは矢野先輩の背中をバチーンと叩いて、

「ナイスアイデアですね先輩!
これ、絶対誰にも分からないですよ!
二人とも安心して後夜祭出れますよね?」

と興奮して言った。

矢野先輩も、

「ほらね、お母さんには直ぐに分かったみたいだけど、
変装好きなお父さんにも直ぐには分からなかったんだよ!
青木君も、奥野さんも分からなかったし、
絶対要君だって誰にも分からないよ!
安心して裕也と後夜祭行っておいで!」

と太鼓判を押してくれた。

映画の後、学校中を回ってみたけど、
それが僕だとはだれにも分からなかった。

そこで矢野先輩の計らいにより僕は、
佐々木先輩へとバトンタッチされた。

文化祭が終わる頃には、
誰にもなびかなかった矢野浩二に彼女が出来た
と噂が立ち始めたけど、

後夜祭で佐々木先輩にバトンタッチされた後は、
実はホスト役で忙しかった佐々木裕也の彼女を
幼馴染としてエスコートしていたと言う噂に変わった。

そして段々と、僕のナイトを気取る先輩達に、
実は僕を挟んで二人のバトルが
繰り広げられているんではないか?
それに佐々木裕也が勝ってしまった?
等と、その噂はエスカレートし始めた。

でも、誰も僕の正体を
突き止めることは出来なかった。
ただ、女装をした僕があまりにも
美化して広まったため、
この学園に居る者は、
誰一人として、逆立ちしても僕には
敵わないという噂だけが尾ひれを引いて残った。

そこで、佐々木裕也の彼女の正体はと
大勢の生徒が押しかけてきたけど、
僕は佐々木先輩と、矢野先輩にガッチリとガードされて、
正体がバレる事は無かった。

そんな中、後夜祭では、キャンプファイヤーを囲んで、
ダンスパーティーが始まり、
大なり、小なり、告白タイムが行われていた。
別に後夜祭は告白タイムの時間ではない。
でも自然と、そう言うムードが出来上がっていた。


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