消えない思い

樹木緑

第116話 ハプニング

「あの、矢野君!」

後ろから、いきなり先輩を呼んだ人が居た。

僕達が立ち止まって後ろを振り向くと、
3年生らしき女子の先輩がそこには立っていた。

「僕に何か用?」

連れなく答える先輩に僕は、

うわ~ これ、
絶対告白か後夜祭の申し込みだよな?
先輩、返答の仕方がちょっと冷たくないか?
先輩、彼女が何を言いたいのか
絶対分かってるよね?
僕にだって分かるぞ……

等と思っていると、

「あの……
チョット良いかな?」

とその先輩は聞いてきた。

矢野先輩は僕の方をチラッと見て、

「ここでは出来ない話?」

と聞いた。

「出来れば、二人の方が……」

あれ? デジャブー?
前にもこんな事あったな?
あれは……
そうだ! 
佐々木先輩のクラブ見学に行った時だ!

矢野先輩の話方から、
彼女には興味ない事は分かったけど、
真っ赤になって話し掛ける先輩が、
何だか可哀そうになって、

「先輩、僕は大丈夫だから
話を聞いてあげて下さい。
ここで大人しく待ってるので……」

そう耳打ちすると、

「絶対ここに居てよ。
誰かに話し掛けられても無視するように。
知らない人に付いて行っちゃだめだよ」

と先輩に返され、

「また子ども扱い!
大丈夫ですって!」

そう言って先輩の背中を押した。

それでもやっぱり先輩は心配な様で、
僕からは余り離れていない、
ちゃんと僕が見える離れた所に行って
彼女と話をしていた。

僕は窓際に立って、行き交う人を眺めていた。
すると、

「あれ~ 久しぶりだね~
俺の事覚えてない?」

そう話し掛けてきた人が居た。

え? 久しぶり?
なわけ無いだろ!
こんな格好するの初めてだぞ!

僕が首を左右に振ると、

「あれ~ おかしいな~
君だと思ったんだけどな~」

あれ? もしかして人違いしている?

「まあ、人違いでもいいや!
君可愛いから俺と回らない?
今一人だろ?
ここの生徒?」

やっぱり人違い?!
じゃあ、僕の事ほっといてよ!

僕はお母さんのマネをして、
女の人様な話方をしてみた。

「あの……
困るんですけど……
今人を待っていて……
ここで待ち合わせなんです」

「大丈夫、だ~い丈夫!」

は~?
大丈夫なわけ無いだろ!
先輩~ 早く~

僕は矢野先輩にビンビンに
視線を送ってみた。

残念な事に、
先輩からは彼が死角になっているようで、
見えて無いみたいだ。

だけど、僕と目が合った。
流石矢野先輩!
僕の様子がおかしい事に気が付いた様だけど、
僕は話し掛けてきた人に腕を掴まれ、
グイっと引っ張られた。

先輩は束さず先輩の視界から消えた僕に気付いて、
急いで戻ってくると、

「僕の彼女なので、
触らないでください!」

と大声でその人に言い放った。

その瞬間、僕達の周りの空気が、
え?っと言った様にフリーズした。

僕も思わず先輩を見てしまった。

先輩は息をハアハア弾ませながら、

「すみませんが、
その手を放してください」

そう落ち着いて再度言い返した。

その時僕は初めて、
まだ腕を掴まれている、という事に気付いた。

周りの人も、矢野先輩に彼女が居たことに
驚きを隠せないでいる。

今まで、矢野先輩は

“人当たりは良いが、誰にもなびかない”

と言う事で有名だった。

その先輩が血相を変えて走って来たので、
周りはちょっとした騒ぎになった。

僕の腕を掴んでいた人は、
周りが騒ぎ出したので、
チッっと言った様に僕の腕を離して、
どこかへと消えて行った。

「ほら、これだから
君のそばを離れられないんだよ。
心配していたことがやっぱり起きたね」

「でもあの人、僕の事、久しぶりって……
だから知ってる人に僕が似てるのかな?って……」

「そんなわけ無いでしょう?
それってナンパする時の
お決まりのセリフでしょう?」

え? そうなの?
ナンパされたこと無いので分からなかった!
もしかして先輩も~?

僕がじ~っと先輩を見ていると、
先輩も察したのか、

「僕は違うよ!
ナンパなんてしたこと無いよ!
要君は自分が可愛すぎるって事、
少しは自覚してよ!
ほんと、裕也の苦労が目に見える様だよ!
要君は変装して無くっても
凄く年上男子にもてるんだよ!」

そう言って、視線の集まる中、
何の恥ずかしけも無く
僕の手を引いてその場を離れた。

「あの女子の先輩は大丈夫だったんですか?
ちゃんと話は終わりましたか?」

「要君は心配しなくていいの!
さ、邪魔者も消えたし、行こう、行こう!」

興味の無い 物? 者? には矢野浩二恐ろし!

巷では、『あの誰にもなびかない矢野浩二に
物言えぬような彼女が出来た』と噂になり始めていた。

そんな噂はさて置いて教室へ行くと、
入場口の所で、青木君と奥野さんが、
あと数人のクラスメイトとポップコーンを配っていた。

僕は、ドキドキとしながら彼等に近ずいて行った。

僕達に気付いた奥野さんが、僕達を指差して、
ビックリしていたので、最初はバレたのかな?と思った。

「え~ え~ え~
矢野先輩!
そんな可愛らしい彼女さんが居たんですか!
それじゃ、あのとっかえひっかえは……」

と言ったところで、
彼女は矢野先輩に足を踏まれたようだ。

奥野さんは、

「アテッ!」

と言った後、

「ヤバイ、ヤバイ、そうでしたね。
で、いつこんな可愛い人と出会ったんですか?」

と僕をジロジロと見てきた。

「何? この人、ちょっと同じ女子としてムカつくわね~
ほんと、先輩って仏の様な顔をして、やる時はやるんですね~」

の奥野さんのセリフに、僕は思わず吹き出してしまった。

「うわ! 嫌味~ そんな仕草でもチョ~可愛い~
でも…… 良く見るとこの人、赤城君にちょっと似てる?

あ、赤城君とはね、私達のクラスメイトで男の子なんだけど、
そりゃ、スッゴイ可愛いって言うか、奇麗なんですよ~」

と、やっぱり奥野さんは感が良いが、
辛うじてごまかせたみたいだった。

青木君はというと、
物言えぬと言う様な感じで僕の事を見ていた。
只々、何も言わずに僕の事を見ていた。
だから、彼が僕だと分かったのかは定かでは無いが、
何も言わない所を見ると、
青木君には恐らく、僕だと言う事は分からなかっただろう。

「で? 赤城君は?
後で来るの?
ご両親、もう来られてるよ!」

奥野さんがそう尋ねると、

「分かった、ありがとう!
要君とは後で落ち合う予定さ!」

と矢野先輩は彼等に説明をした。

話せば、ばれると思った僕は、ただ会釈をしただで、
教室に入って行った。

教室に入って行く傍ら、

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花
って彼女の事を言ってるんだね~
でもほんと、矢野先輩、何時あんな人と知り合ったんだろう?
要君はこの事知ってるのかな?」

と言う、奥野さんの声が聞こえてきた。

『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花か……』
その言葉を聞いて、僕は少しほめ過ぎだとおかしくなった。


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