消えない思い

樹木緑

第112話 文化祭準備

文化祭は2日間に渡って行われた。

1日目は各文化部による発表や掲示、
または各クラスによる研究発表等が行われ、
2日目は祭り及び後夜祭が行われた。

僕達の美術部は、
一学期の間にコンテストに出品した作品を展示し、
クラスの発表は2日目の映画鑑賞にちなんで、
日本における、映画の歴史の歩みを調べ上げた。

お父さんは俳優ではあるけれども、
映画の歴史などになると、
そこまで物知りという程ではなく、
僕に課された課題は、
自分で調べなくてはいけい事になった。
でも、それはそれで、割と楽しかった。

何と言っても、矢野先輩のお誘いがあったからだ。

矢野先輩が割と
映画界の歴史に詳しかったのには
ビックリした。

文化祭の準備で、資料室への廊下を歩いている時に、
いきなり後ろから両手で目を隠され、

「だ〜れだ?」

とやって来た人がいた。

その声はとても安心できる、
心地の良い、知った人の声だった。

「先輩、声で分かりますよ」

僕がそう言うと、

「あっ、やっぱり?」

と言って微笑んだのは矢野先輩だった。

「先ぱ〜い、何だか凄く久し振りな気がします〜」

いきなりの矢野先輩の登場に、
僕は凄く嬉しかった。

学校でもすれ違ってばかりで、
会う事はおろか、
姿を見る日もほとんどなかった。

実際に矢野先輩と会ったのは、
少なくとも僕の誕生日以来だった。

「調子はどう?
元気にしてた?
最近すれ違ってばかりだよね〜

寂しいよ〜

ところで、最近裕也とはどう?
上手くいってるの?」

先輩に色々と聞かれて、
あまりもの唐突な質問攻めに面食らったけど、
僕は暫く先輩の顔をジーッと見ていた。

先輩は少し困った様な顔をして、

「何、何? 僕の顔に何か付いてる?」

とおちゃらけた様にして聞いてきた。

先輩は絶対気付いてる!
僕が何を言おうとしているのか!

「先輩、最近僕の事、避けてませんか?」

多分僕のその質問に先輩はギクッときたはずだ。
少し態度が不振だった。

でも、彼はごまかすのも旨い。

「え〜 そんな事無いよ〜
気の性じゃ無い?

それより、要君のクラス、
映画の歴史について調べてるんでしょう?
何かお手伝いする事ある?」

あ、会話をそらした!
怪しい……
やっぱり先輩は……

そう思ったけど、はぐらかされる事は
毎度同じなので、余り突っ込まない様にした。

「僕達が映画の歴史に付いて調べてるって
よく知ってますね?」

僕がそう尋ねると、先輩はちょっと目を泳がせながら、

「いや〜
先日、青木君と奥野さんに会ってね〜」

と、それ以上は聞くなとでもいう様に
教えてくれた。

「え〜?
そんな話聞いてませんよ!」

僕がそう言うと、

「僕の話は良いから、要君のクラス発表ね。
僕の父親がね、映画の歴史に関する本や資料を
いっぱい持ってるんだよ。
週末うちに来ない?」

先輩にそう聞かれて、胸躍った。

「え?
先輩の家にですか?
良いんですか?」

先輩は僕の家には何度も来たけど、
先輩の家に行く事は一度も無かったので、
僕は誘われた事に舞い上がって、
先ほど先輩に追求していた事はすっかり忘れてしまった。

僕って何てお目出たいヤツ……

「うん、もしよかったら、
青木君や奥野さんも誘っておいでよ。
青木君は部活動があるだろうから、
お昼からが良いかな?
皆一緒にやったら楽しいと思うよ。

2人に話して僕の携帯にメッセージして」

「願っても無い助けですが、
先輩自身のクラスは大丈夫なのですか?」

「僕らのクラスは一日目は参加しないんだよ」

3年生は、一日目の参加は受験の為、
自由となっていた。
その為、殆どのクラスが不参加を取っていた。
佐々木先輩のクラスもそうだった。

「分かりました〜
じゃあ、僕は資料室へ
授業に必要な物を取りに行かないといけないので、
青木君たちと話した後で
メッセージ入れておきますね〜」

そう言って僕たちはそこで別れた。

教室に戻ると、青木君と奥野さんが一緒にいたので、
矢野先輩に聞かれた事を尋ねると、
2人とも行きたいと言う事だったので、
青木君の部活動が終わった後、
午後2時ごろに訪ねることにした。

「そう言えば、最近矢野先輩、つれないんですよ〜
何だか僕を避けてる様な気がして……
あれだけ色んな所に神出鬼没だったのに、
最近は姿形も見なくって……」

僕がそう愚痴をこぼすと、
青木君も奥野さんも、
ちょっとギクッとしたようにして、
二人でお互いを突き合った。

そしてボソボソと、

「ねえ、もう隠しておけないんじゃないの?
ちゃんと言ったら?」

とか、

「でも矢野先輩が言うなって……」

と、そんなセリフが聞こえてきた。

「二人とも何隠してるんですか?
ちゃんと教えてください。
矢野先輩には二人から聞いたって言いませんので!」

矢野先輩には絶対に言わないと念を押した後で、
二人は観念した様にポツリポツリと話し始めてくれた。

「実はね、インハイ終って
猛と何度かデートしたんだけど……」

そう言って二人は顔を見合わせた。

「その度に矢野先輩とかち合っちゃってね……」

そう言って奥野さんが黙り込んだ。

「デート中にかち合うって……
それくらいどうってこと無いでしょう?
それが隠す理由になるんですか?」

「あ、いや、それだけじゃないんだよ!」

そう青木君が言った後、奥野さんが、

「先輩ね、会うたびに違う女性といたのよ!

それもね、デート中だって……
腕組んだりとかして仲良さそうにしてたんだけど……」

「……けど、何ですか?」

「けど……、毎回違う女性を連れててね、
何だか遊び人みたいな感じで……
知らない人みたいで……

ちょっと矢野先輩らしくなくて心配になって……

赤城君には絶対に言わない様に言われてたんだけど……

絶対私達がばらした事、先輩には言わないでよ」

と教えてくれた。

確かにそんなとっかえひっかえなんて
僕の知ってる矢野先輩からは想像できない。

沢山の人と付き合ってこの人!って言う人を
見つけているんだら話は分かるけど、
僕に言うなって一体どういう意味なんだろう?

余りにもの先輩らしくない行動に、
心配ばかりが僕の中でグルグルとし出した。


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