消えない思い

樹木緑

第76話 体育祭の後2

どうしよう?
お母さんに、佐々木先輩も誘って良いか
聞いてみようか?

急だと何か変に思われるかな?

どうしよう?

どうしよう?

「要君?
何処?」

矢野先輩の僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

今僕は、自分の部屋で
携帯を握り締めて
佐々木先輩へ連絡を
しようかどうしようか迷っていた。

僕は急いで携帯を机の上に置き、

「先輩~!
僕は部屋で~す!」

 と直ぐに答えた。

「あっ、ここに居たんだ」

そう言って先輩は僕の部屋を除き込んだ。

「先輩、僕、先輩があんなに走るのが早いなんて、
ちっとも知りませんでしたよ」

僕はシャツのボタンを留めながら、
先輩に追求した。

「走るのだけ早くっても自慢にもならないからね。
現に他の運動は苦手だし……」

そう言って先輩は苦笑いをした。

「でも、先輩ってインハイ記録なんでしょう?
それって凄いですよ。
僕、先輩は運動全般苦手って思ってたから、
先輩が走る時なんてドキドキだったんですよ。
それが何の、蓋を開けてびっくりですよ!
僕、だまされたって思いましたもん!」

僕がそう言うと、先輩はハハハと笑って、

「要君は見かけ通りだったよね」

と言ったので、僕はほっぺを膨らまして、

「良いんです!
走るの遅くっても生きていけるんです!」

と言ったら、プク~ッと膨れた僕のほっぺを
先輩は指でつまんだので、
僕はブ~ッと噴出してしまった。

そんな僕の顔をマジマジと見つめて先輩は
僕のほっぺをムニュムニュと動かし

「魚の口みたい~!」

と大笑いしていた。

僕も負けずと、

「あ、先輩、僕だって負けてませんよ!」

そう言って、先輩のほっぺに掴みかかった。

先輩は逃げるのも旨く、
僕が先輩のほっぺを掴もうとすると、
ヒョイヒョイと軽く僕の指を交わした。

僕達があまりにもうるさかったのか、
お父さんが様子を見に来た。

「何してるの?
楽しそうだね?
僕も仲間に入れてよ!」

そう言って、仲間に入ってこようとしている。

先輩はお父さんをじっと見て、

「本当に蘇我総司なんですね」

と再度確認していた。

先輩に両親の正体がバレて以来、
僕の両親は先輩が来るときには変装をしていない。
家に着くなり、お父さんも、お母さんも
シャワーに入り、
変装をしていた身なりを解き、本来の自分に戻った。

そして更にまじまじとお父さんを見据えて、

「お父さんって本当にかっこいいんですね」

と言うとお父さんは、

「フフン、僕に惚れてもダメだよ。
僕は既に優君のものだから!
優君もダメだよ!
優君は僕のだからね!」

と、一体お父さんってどこまで分かってるんだろう……?
というような感じだった。

「要君って、お母さん似?」

先輩がそう尋ねると、

「もうねえ~
要君生まれた時は、
可愛くって、可愛くって、
食べちゃい位可愛かったんだよ!」

とお父さんが答えた。

「へ~ 見て見たかったですね~」

の先輩の問いに、

「アルバム見る?」

とお父さんが聞いたので、
先輩は二文字で

「是非!」

と答えた。

「あ、じゃあ、お父さん、
矢野先輩にアルバムを出しておいてもらえる?
僕は着替えを済ませてリビングに行くから」

そう言うと、

「じゃあ、こっちにおいで~」

と、先輩をリビングの方へと
連れて行った。

僕は二人が去ったのを確認して、
すぐさま携帯を取り、
佐々木先輩へメッセージを送った。

「会いたい」
 

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