消えない思い

樹木緑

第74話 運動部リレー2

運動部のリレーは確かに面白かった。

ボールを抱えた部は
うまくバトンタッチが出来ずに、
転がって行ったボールを
追いかけて転んだりとか、
長い竹刀は便利だと思ったけど、
片手で精一杯の長さを保ち
バトンタッチするのはやりにくそうで、
何度か他の走者を突いたりとか、
防具にひかかってしまったりとか、
やっぱり一番便利だったのは、
普通に使えるバトンの陸上部だった。

佐々木先輩がラインに立った時、
周りの女生徒から、

「佐々木先輩
頑張ってくださ~い!」

と、声援が送られた。

声援に紛れて、佐々木先輩が
女の子の群れに向かって
柄にも無く手を振っていたので、
僕と奥野さんは共に顔を見合わせて、

「矢野先輩みたい
やっぱり幼馴染なのね~」

と笑っていた。

周りでは、

「きゃ~ ♡」

と黄色い歓声が上がっていたけど、

僕達の後ろから、

「え? 何、何? 僕が何なの?」

と僕と奥野さんの間を割って
入って来た人が居たので、
僕と奥野さんは

「ギャッ!」

っとびっくりして飛びのいてしまった。

それは紛れもなく矢野先輩で、
僕と奥野さんは、

「矢野先輩!」

と怒り心頭していたけど、
これまた周りからは、

「きゃ~
矢野先パ~イ♡」

と黄色い声が轟いていた。

僕と奥野さんは、

「もう、びっくりさせないでくださいよ!」

と文句を言ったりしてはいたけど、
僕は正直、

矢野先輩は、佐々木先輩の口の動きを
読んだのだろうか?

と、そっちの方がドキドキだった。

「裕也もやるね~
ピュ~」

のセリフに、
僕はやっぱりか……
と思うしかなった。

でも、先輩の態度からは、
僕が思ったような心配事は
全然感じ取る事が出来なかった。
それで僕はやっぱり、
さっきの事は
気のせいだと思う事にした。

「ほらほら、バトンが裕也に渡るよ。
応援しないの?」

の先輩の声に、
僕はハッとしてグラウンドの方を向き直した。

先輩にバトンを渡した
女子バレー部の先輩は緊張していたのか、
肝心の所でモタモタとしていた。

なんだか真っ赤な顔をさせて、
先輩にボールを渡すときに少し手が振れたのか、
キャッ! としたような、
ビクッとしたような態度をして、
ボールを落としてしまった。

「フフン、彼女、裕也の事、
凄い意識してるよね」

と、矢野先輩も後ろから
僕達に耳打ちして来た。

そう言った後で、先輩が僕の耳に
フウ~っと息を吹きかけてきたので、
僕は耳を抑えて、先輩から一歩引いた。

先輩チョット大胆になって来てる?

僕は真っ赤になって
涙目で先輩を
キッと睨んだ。

そんな僕を見て先輩は、
アハハと笑っていた。

奥野さんは

「何、何?」

と突っ込んできたけど、僕は

「ほら!見て下さい!
佐々木先輩、巻き返してますよ!」

そう言ってグラウンドの方を指差した。

クラブ対抗リレーは、
総合タイムで割り出され、

結局運動部の優勝は陸上部で、
バレー部は2位に終わった。

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