消えない思い

樹木緑

第68話 矢野先輩炸裂

ドキン・ドキン

ドクン・ドクン

僕の緊張は極限まで達していた。

「あの……先輩……
それは……」

僕が言い淀んでいると、

「あれ? そこに居るのは浩二に要か?」

僕達が振り向くと、
そこに、さっきまで校舎入り口に居た、
佐々木先輩と、長瀬先輩が立っていた。

僕は佐々木先輩の顔を見て、
少しホッとした。

矢野先輩は僕のそんな表情を読み取ってか、

「何か用?」

と投げやりに佐々木先輩に聞いた。

「いや、用って言うか、
只お前ららしい姿が見えたから……
そうなのかな?って」

「僕は今ちょっと要君と
大切な話の途中だから」

そう言って矢野先輩は
僕の方をチラッと見やった。

どうしよう……
僕のハッキリとしない態度の所為で
二人の間にまで
ピりピりとした雰囲気が出てきている……

矢野先輩はあんなに僕の事を守ってくれたのに
これではきっと僕は嫌な子になってしまう。

それに矢野先輩は恐らく気付いている……
ここはもう堪忍して
本当の事を伝える時が来たんだ……

僕はそう思った。

「浩二、実はな、
俺からお前に大切な話があるんだ」

佐々木先輩がそう切り出した。
恐らく先輩は僕が居る状況を理解したんだろう。

横では長瀬先輩がイライラしたように
佐々木先輩を待っているのに、
先輩はそのまま会話を続けた。

僕は少しハラハラとし出した。

おそらく、僕のそんな態度に気付いたのか、
矢野先輩が折れてくれた。

「分ったよ。
で、何時その“大切”とやらな話をするんだい?
それには要君も入るの?」

矢野先輩がそう言った途端、

「そんな子があなた達の会話に
必要なわけないでしょう?
どこの馬の骨とも分からないような子、
裕也に近ずけないで!」

長瀬先輩がピシャリと言いやった。

「優香は関係ないから黙ってて。
君は裕也に相手にされないからって
裕也に関わる子、全てに牽制するのは
間違ってるでしょう?
要君にあれやこれや言う前に、
少しはそのわがままな性格を直したら?
僕達の行動まで
君に強制される言われは無いから!」

矢野先輩も容赦ない。

長瀬先輩はムッとして、

「裕也も何か言ってよ!
何故浩二って何時も私の事いじめるの?
少しは裕也を見習って
幼馴染を労わるくらいはしなさいよ!」

と佐々木先輩に怒鳴りつけた。
佐々木先輩は何も言わず、ただ
矢野先輩と長瀬先輩の会話を見守っていた。

矢野先輩は続けて、

「生憎僕は、僕が良いと思った様に行動するから、
いくら幼馴染といっても、
間違った事をしていたらそれを黙って
見てたりはしないから!」

そう長瀬先輩に言い切った。

「裕也!」

そう言って長瀬先輩は佐々木先輩の腕に抱き着いた。

長瀬先輩は櫛田君とは違い、
佐々木先輩に媚びたような行動ではない。
でも、佐々木先輩の事が好きすぎて、
他の人を近ずけたくないんだろうな、
と言う事は分かった。

「裕也もさ、何か言ったら?
君がそう言って優香を甘やかしているから
君に関わった子が酷い目に合うんでしょう?
僕はこれまでの事は、君自身の問題だったから
何も言わずに見逃してきたけど、
その敵意が要君に向くんだったら、
僕は黙ってはいないから!
優香も覚えておいて!」

そう言い切って矢野先輩は僕の手を取った。

佐々木先輩は恐らく長瀬先輩の居る手前、
僕の事が庇えなくて何も言えないんだろうと思った。

佐々木先輩も、矢野先輩とは違った形で
僕を守ってくれている。
僕にはどちらが正しいとは言えないけど、
でも、矢野先輩にはそれが感に触ったらしい。

矢野先輩は僕の手を取ったまま、

「体育祭の後携帯に連絡して」

そう言い残して、僕の手を引いて
その場を後にした。



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