消えない思い

樹木緑

第63話 櫛田君

「さ、さ、佐々木君もここに座って」

お母さんが佐々木先輩を誘導すると、
僕の隣に座らせた。

それで奥の席に青木君と奥野さん、
時計回りに、お母さん、僕、
佐々木先輩、矢野先輩、そしてお父さん。

先輩たちは自分たちが持ってきてたお弁当を
それぞれに広げた。
僕も一応はお弁当を持ってきてはいたけど、
お母さんが更に沢山重箱でお弁当を
作って来てくれていた。

それと、奥野さんのお弁当も併せて、
僕達のグループは、
小さなブッフェのようなランチタイムと化していた。

「あれ~ 佐々木先輩、
こんなところで何してるんですか~?
一緒にお昼しようと探してたんですよ」

偶然通りかかった櫛田君が僕の事を
チラッと見ながら佐々木先輩に声を掛けてきた。

「おや? 君も一緒にどうかい?」

そうお父さんが声を掛けたので、
櫛田君も僕達の輪の中に参加した。

彼は僕と佐々木先輩の間に、
遠慮も無しに席を取ると、

「うわ~ 先輩のお弁当美味しそうですね~
卵焼き一個貰ってもいいですか~?」

とわざとらしく尋ねた。

「お前、卵焼き好きなのか?」

「先輩のお弁当だったら何だって美味しそうです~」

更に媚を売ったように話し掛けた。
でも、佐々木先輩の返答は最高だった。

「じゃ、ほら、これ全部やるよ。
俺、要のお母さんと奥野さんのお弁当ごちそうになるから」

そう言って先輩は櫛田君の膝に自分のお弁当をポンと置いた。

それを見ていた奥野さんと青木君は、
事の詳細を感じ取って、
櫛田君を見ながらクスクスと笑って、
コソコソと話していた。

櫛田君は真っ赤になりながら、
僕は何もしていないのに、
僕をキッとにらんで、
負け惜しみの様に、

「先輩のお弁当何でも美味しいです~」

と美味しそうに食べた。

先輩は一言、

「よかったな、
俺、それ食べずに持って帰るところだったんだ。
余り、好物な物も入ってないしな。
家のお手伝いさんが作ったんだが、
無駄にならずに済んで良かったよ」

と言ったので、僕も櫛田君を気の毒に思いながらも、
笑いが込み上げてきそうになるのを我慢するのに
必死だった。

そこに、

「何? 君、裕也の事好きなの?」

と、矢野先輩も容赦ない。

櫛田君は顔を真っ赤にして、

「あ……僕は……」

と言い淀んでいると、佐々木先輩が、

「何バカなこと言ってるんだよ!
馨は俺の事良い先輩だと
慕ってくれてるだけだよ」

と束さず答え、

「な?」

と櫛田君に同意を求めた。

「いえ、僕は……」

櫛田君がそう言いかけた時に僕のお母さんが、

「そう言えば佐々木君のお家って
お手伝いさんがいらっしゃるのね?
良いわね~」

と会話を変えてきた。

僕はもうちょっと櫛田君の反応を見て見たかったけど、
人を好きな気持ちは分かるので、
先輩の鈍感さに少し同情もした。
だからお母さんの気使いに少し感謝もした。

そんなお母さんの質問に緊張しながらも、
先輩はお母さんの質問に答えていた。

「はい、家は両親が忙しいので……」

「あら~、じゃあ寂しくない?」

「いえ、もう慣れました。
それにもう高校生ですし」

「お母さん、裕也の家は代々議員の家ですよ。
それに総理大臣も出してきた家系ですからね~」

そう矢野先輩が口添えをすると、

「あら~ それじゃ将来は議員さん?」

とお母さんが尋ねた。
その答えは僕もずっと気になっていた。

「はい、そのように考えております」

やっぱりそうか~
と思っているとお母さんが、

「凄いわね。
がんばってね」

と先輩を激励した。

「ありがとうございます!」

「もしよかったら、ご飯食べに何時でも来てね。
矢野君も時々顔を出してくれるのよ。
ね、矢野君、今度佐々木君も一緒に連れておいでよ」

「そうですね。
僕もまた遊びに行きたいし、
お二人のお話ももっと聞きたいし……」

「ほらね、矢野君もそう言ってくれてるから、
是非遊びに来てね」

そうお母さんが佐々木先輩をさそうと、
先輩は嬉しそうに、

「是非!」

と答えた。

でも矢野先輩はなんだか
余り、乗り気ではなさそうだった。

何時も僕の家に来る事が大好きな先輩なのに、
その時は凄く不自然な感じがしてたまらなかった。


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