消えない思い

樹木緑

第60話 佐々木先輩の嫉妬

「あの……佐々木先輩は?」

生徒会役員席へ来たのに、
佐々木先輩の姿が見えなかった。

「佐々木だったらつい先ほど不審者がって
通報があったから様子を見に行ったけど、
まだ帰って来て無いよ」

どうしよう……
何処に行ったんだろう……?

「分りました。
有難うございました」

そう言って僕は生徒会役員席を後にした。

まだ帰ってないとすると……
一体どこに立ち寄って……?

僕はハッとして、走り出した。
恐らく “あそこ” にいるだろうと思ったから。

体育祭のグラウンドから少し離れて
体育館の建物を前に、
僕は階段のある場所へと走って行った。

階段のところまできて、
上を見上げると、
踊り場で人影が動くのが見えた。

僕は駆け足で階段を上って行くと、
踊り場の所で、壁にもたれ、
座っている佐々木先輩が居た。

「先輩、こんなところに居たら
皆先輩を探しに来ますよ」

そう言って僕は、先輩に歩み寄った。

先輩は僕を見上げて、

「ハハ、情けないよな。
浩二がお前の父親と親密な所を見て
嫉妬するなんてな」

と両手で顔を覆って言った。

僕は先輩が座っている隣に腰かけて、
先輩の腕に僕の腕を絡めて、
先輩の肩に頭を乗せた。

「誰かに見られちゃったら
ちょっと大変だけど、少しだけ」

僕がそう言うと、佐々木先輩も、
自分の肩にもたれた僕の頭に頬を乗せて
僕の頭に優しくキスをくれた。

「俺って救いようの無い恋愛初心者だな。
こんなにも自分が嫉妬心を
コントロール出来ないなんて思いもしなかったよ」

僕は先輩のワンコみないな姿にクスクスと笑った。

「先輩、嫉妬って言うんだったら
きっと僕も同じですよ」

先輩は僕を不思議そうに見た。

「なんだ、お前、俺に嫉妬したのか?」

僕はちょっと先輩を見上げた。

「多分……」

「多分? 確信じゃないのか?」

「先輩、僕だって恋愛初心者なんです〜
多分あれが嫉妬かな?って程度で……」

先輩は僕の髪をクシャクシャとして、

「お前は浩司に惚れてるって事実があるだろ!
少なくとも初心者ではない!
俺よりは経験者だ!」

と、余りにも真面目な顔をして言うので、
僕はおかしくなってしまった。

「クスクス……先輩って、
細かいところにこだわるんですね」

笑いながらそう言うと、
先輩は僕の口を摘んで、

「お前が悪い!
早く俺にホレろ!」

更に真面目な顔をして言ったので、
先輩のそんなセリフに僕は少なからずの
動悸を覚えた。

そんなテレ隠しの中に出た僕の
言葉が、

「……そう言えば先輩、櫛田君から
凄い好かれてますよね」だった。

「あ〜 あいつは人懐っこいからな。
俺を兄貴みたいに慕ってるんだよ」

は?
兄貴?
あれは全く違うでしょう? 

先輩は凄い勘違いをしていた。
類は友を呼ぶってこういう事か……
やっぱりカエルの友達はカエルだな…
先輩も矢野先輩同様
恋愛に関しては鈍感の様だ。

「でも先輩、腕を組まれたらちゃんと払って下さいね。
見ていて気持ちのいいことではないので」

僕が口を尖らせてそう伝えると、

「なんだ、お前も嫉妬か? 
やっぱり嫉妬なんだな」
と嬉しそうに言った。

「先輩、櫛田君に距離が近すぎますよ。
あれ、絶対先輩に気がありますよ!」

忠告をしたのに、
「ハハハ お前は考え過ぎだよ」
そう言って、あまり真剣には受け取ってくれなかった。

僕は「あ〜あ、恋愛に関してはお互い様か」
そう言ってのびをすると、

「先輩も一緒にお昼しましょうよ。
是非僕の両親を紹介したいです!」

と先輩に向かって言った。

「そうだな、浩司が知っていて
俺が知らないって腹立つしな。
ここはお前の両親と繋がるのも良い機会かもな」

「じゃ、あと少し午前の部頑張りましょう」

「待て! 戻る前に少し……」

そいって先輩は僕の両手を取って、
僕の額に先輩の額を当てて、
少しの間目を閉じた。

「よし、落ち着いた。
行くぞ!」

先輩が顔を上げたのと同時に
僕達はグラウンド目指して歩き出した。


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