消えない思い

樹木緑

第31話 告白

今は放課後で今日は、クラスの団幕は奥野さんに任せて、僕は美術部のお手伝いに来ていた。
僕と先輩は二人だけで、部室で、アーチに使う木のチップに小さな小さな絵を描いていた。
他の部員は外に出て、竹の繊維をアーチ型に編みこむ作業をしていた。

「要君ごめん。」
そう先輩が不意に言うので、僕は少しドキドキしながら、何事だろうと思った。 
「え?何がですか?」
「裕也に君の事がバレるの、時間の問題かもしれない。」
僕は先輩に僕が聞きたくないような事柄を言われるのかとビクビクとしていたので、
「な~んだ、そんな事か~」と少しほっとした。
「そんなことか~じゃないよ!もう裕也、うるさい、うるさい。部員のΩは誰なのか教えろ、教えろって、そりゃあ、毎日、毎日しつこい!最近、美術部生徒を一人一人チェックしてるらしくって、要君の所へ行くのも、もう止められそうにないや。もし、裕也が来たらごめん。」と先輩が謝った。
「いや、先輩のせいじゃ無いですし、でも何故そこまでして?」と、僕は不思議に思った。
「何故だろうね?こんな事今まで無かったのにね?要君の香りに惚れちゃったとか?」と先輩は僕をからかっていたけど、僕は真剣に、
「先輩、婚約者の居る人をそんな風にいったらダメですよ!」と先輩に言った。
「あ~婚約者ね。ね、優香知ってる?長瀬優香。」
「知ってますよ。奇麗な先輩ですよね。我校のマドンナと呼ばれる。確か彼女も先輩たちの幼馴染でしたよね?」
「そう。彼女。」
「え?」
「長瀬優香が裕也の婚約者。学校では誰が婚約者なのかまでは、あまり知られてはいないけどね。」
僕はヒェ~となって飛び跳ねた。
「凄い人が婚約者なんですね。確か彼女って旧家の出で、皇族の花嫁候補にも上れるって言う…」
「ハハハ良く知ってるね。」
「そりゃ、噂好きの友達が居れば自然と耳に入ってきますよ!」
「ハハハ奥野さんの事かい?」
「先輩、良く分かってますね~」
「彼女は話してて楽しいよね~僕でも知らない学園の噂、あれや、これやと教えてくれよ。」と言った後、
「その優香なんだけど、ま、言わば政略結婚みたいな感じでね。」
「えー!今どき政略結婚なんてあるんですか?」と不思議そうに言った僕に先輩はカッと振り向いて、
「でしょ?君もそう思うでしょう?今どき政略結婚なんて!でもαの世界は今だにそうなんだ。何時も今どき事が当たり前でね。裕也の家なんて総理大臣を生み出してきた政治家家系だから、それが余計にひどいと思うよ。」と先輩は力説している。
「じゃあ、長瀬先輩もαってことですよね?」
「そうだよ、それに、優香の家もコテッコテのα家系だよ。絶対α以外は認めないって言うね。優香もそう言う意識は無きしにも在らずかな~」
「そういえば、先輩はα社会に対しては反発してるような事言ってましたよね~。」
「そうなんだよ、もうその事に霹靂しててさ、実を言うと、裕也も同じ考えなんだよ。」
「と言うと…生徒会長も自分の相手は自分で~みたいな?それとも運命の相手を探してるみたいな?」
「どっちもだよ。ただ不味いのが、優香は裕也に惚れこんでるんだよ。それに良家とももう凄い乗り気でね。あれが崩れたら裕也なんてひっそりと抹殺されるかも…?と言うのは冗談だけど、本当にそんな勢いの家系なんだよ。」
「え~それって難しいですね。」
「そうなんだよな~。まあ、優香は小さい時から裕也の婚約者として躾けられて育てられたから、覚悟も出来てるんだろうし…」
「でも長瀬先輩のそれって洗脳みたいじゃないですか?」
「そうとも言えるかもだけど、優香のあれは純愛だろうなぁ~。」
「純愛って大切ですよね。運命の番でも、運命だからって言うのではなく、やっぱりそこには純愛が欲しいですよね~。」
「ハハ、要君って結構ロマンチストだよね。」
「そう言う先輩だってかなりロマンチストだと思いますよ!」
「やっぱり、好きな人は自分で見つけたいよね~」そう先輩が言うと、
「そうですよ!でも、人生って思うように行きませんよね~。」そう同意して、僕はため息をついた。

そして僕は、「あ、でも生徒会長が来ても恐らく僕だって分から無いと思いますよ。」と、思い出したように切り出した。
先輩はびっくりしたような顔をして、「何故そう言い切れるんだい?」と僕に尋ねた。
「僕、発情期終ったばかりですし、次まで、まあ順調に行けばまだ時間ありますし…多分次の発情期の前には生徒会長も僕に辿り着くと思うし…」
「要君は裕也が来たら、逃げたいと思うの?」
先輩の意外な質問にびっくりした。あまり考えて無かったけど、僕は先輩の言うように逃げたかったのかもしれない。
それでコクリと頷いた。
「要君は彼が運命の番だと、その可能性があるとは思わないの?彼はαだよ。可能性は0じゃないでしょ?」
「それはそうですけど…でも…」
「でも…何?要君は限りある可能性を使って自分だけのαを見つけるんでしょう?」
「でも…生徒会長には婚約者が…」
「婚約者がいても、もし彼が要君の運命の相手だったら、諦めるの?」
「でも、まだ運命の相手だって分からないし…」
「それは会って、確かめてみないと分からない事でしょう?」
「何故先輩は、そんなに生徒会長を僕に煽るんですか?他にもαは一杯いるのに、何故生徒会長なんですか?」
「いや、僕はただ要君の可能性の話を…」
何だか先輩が、僕には先輩に対して可能性が無いと言ってるようで、悲しくなって、僕はいつの間にか泣き出していた。

「先輩だってαじゃないですか、じゃ、何故自分は?と思わないんですか?」
「要君、僕達、結構な時間を一緒に過ごしたけど、一度だって僕達が運命の番だって感じたことがあるかい?」
先輩のその問いに、僕はただ首を横に振るしかできなかった。
「だろう?僕は要君が運命の番を必死に探してる事しってるから、可能性は見逃しちゃダメだって言ってるだけだよ。」
僕は後から後から流れ出る涙をぬぐいながら、
「でも、僕が好きなのは先輩なんです!」
そう言い切って僕は勢いよく美術室から飛び出して行った。

後に残された矢野浩二は、「だって要君、裕也のフェロモンは分かったのに、僕のは分からなかったじゃないか…」と、こぶしを握り締めてポツリと呟いた。

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