消えない思い

樹木緑

第26話 ゴールデンウィーク2

「遠い所良くいらっしゃいましたね。」
そう言って中からお手伝いさんが快く出迎えてくれた。
「山根さん、こちらは僕の学校の後輩で、赤城要君です。」そう言って先輩が紹介してくれた。
「初めまして、宜しくお願いします。」僕が挨拶をすると、
「ベッドも整えて、お掃除もすんでますので、今日はゆっくり休んで下さいね。夕飯も、お風呂も準備できてますよ。明日は朝食の準備をしに7時には伺いますね。じゃ、私はこれで。」と言ってお手伝いさんは帰って行った。
先輩は僕を見て、「ご飯準備できてるってよ。先に食べる?それともお家のツアーをする?」と聞いてきたので、
「じゃあ、先にお家を案内してください。」と頼んだ。

「じゃ、玄関は今入って来たから分かるよね」と言って、ドアの所からスタートした。
まず、玄関の外はポーチになっていて、片側にベンチがおいてありもう片方にはパティオスイングが置いてあった。
中に入ると、大きなリビングルームの真ん中にスパイラル状の階段があり、玄関から向かって左側にダイニング・リビング、そしてその奥がキッチン、右側に寝室、がひとつあった。
そして鉄のストーブがリビングにあり、ストーブの奥にはバスルームがあった。
リビング・ダイニング・キッチンの上は吹き抜けになっていて、階段を上がって行くと、廊下の部分が吹き抜けの所に当たり、そこから下が見下ろせるようになっていた。
二階には寝室が2つと奥にトイレがひとつあった。
僕達は2階にある一つの寝室を使った。その部屋には二つのベッドが置いてあった。
玄関のポーチの上はデッキになっていて、僕達の使う寝室から直接出入りすることが出来、ソファー、椅子、テーブルやハンモックもあった。
そして何とも言えなかったのが、この別荘には露天風呂があったことだ。
そしてお手伝いさんの言ったお風呂の用意が出来ている、は、この露天風呂だった。

「先輩の別荘、露天風呂まであるなんてすごいですね。」
「阿蘇は標高が高いから星がすぐそこに見えるんだよ。露天風呂から見る星空は最高でね~。」
「へー凄い楽しみです。」
「じゃ、ご飯食べてお風呂にしよう!」
そう言って僕達はキッチンへ戻ってテーブルに着いた。
用意してあった夕食は天ぷらにお吸い物、そして新鮮なタイのお刺身だった。
「あ~まんぞく、まんぞく、お腹いっぱい!」と言って、僕はリビングのソファーに転がった。
「先輩、僕、お風呂の前にちょっと一休みしたいので先輩先にお風呂行ってください。」
「えー!せっかくの露天だから一緒に入ろうよ!」
「えっ?一緒にですか?」
「だってせっかくの露天だよ?一人で何て寂しすぎるじゃない!」そう先輩が駄々を捏ねている。
一緒にお風呂?無理無理無理!ちょっと想像してみた。
そして思った。何女子してるんだろ男同士でお風呂に入るのは普通、普通。
そして僕は「じゃ、もうちょっとお腹が落ち着くまで待ってください~」と言ってフウ~っと深呼吸をした。

「要君、ほら、早く脱いで。何女の子みたいにコソコソと…別に取って食おうって訳じゃないんだから!」そう言って先輩は僕のパンツを引っ張った。
「ひゃ~先パ~イ、僕誰かと一緒にお風呂に入ったこと無いんです~。恥ずかしいです~」
「え?中学校の修学旅行どうしたの?」
「僕、家から一晩でも離れた事ありませ~ん」
「そっか、そうだよね。」
「今回の旅行だって、両親が先輩の事信頼してるからOKしてくれたんですよ~」
「だったね。よし!僕は先に入って目を閉じてるから、ササっと脱いで早くおいで!」そう言って先輩は颯爽とお風呂の方へと去って行った。
僕はヨタヨタと服を脱いで腰にタオルを巻いた。
そして、そろそろとお風呂の方へ向けて歩いて行った。
ガラガラガラと戸を開けて外へ出ると、割かし涼しかった。
湯船の中に浸かり、「先輩、そんなしっかり目を閉じなくても大丈夫ですよ」と声を掛けた。
そして、「阿蘇の夜って結構冷えるんですね」と言った。
「そうだね、高い処にあるからね。冬だと雪も積もるんだよ。」と先輩が教えてくれた。
僕はお湯で顔をパシャパシャと濡らし、空を見上げた。
「うわ~凄い星!すぐそこで手が届きそう…」
雲一つない夜空は澄み切って、何処までも満天の星で埋まっていた。
先輩と二人きりで静かな星空の元、この景色を見ながら僕達だけがここに居るって思うと、なんだか切なくなった。
「ねぇ、」と先輩が尋ねてきたので、「何ですか?」と答えた。
「学校で…誰かいいな、と思う人…出来た?」と先輩が不意に尋ねてきた。
「えっ?なぜ急に?」
「なんだかこの星空を一緒に見てたらフッと考えちゃって。」
「何をですか?」
「要君には幸せになってほしいなぁ~って」
僕は先輩のその思いがとても切なかった。
「先輩、僕は先輩にも幸せになって欲しいです。」そう言うと、先輩は微笑みを浮かべた後、うつ向いて静かに涙をポロリとこぼした。
そして僕はそれを見なかった振りをした。

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