消えない思い

樹木緑

第23話 クラスメイト

「先パーイ、おはようございます!」僕は通学路で束さず先輩を見つけて駆け寄った。
先輩が同じ道を通ると知って以来、僕は先輩の登校時間に合わせて家を出るようになった。
朝は予定より早く起きる事になったけど、早起きるのと同時に、夜も早めに休むようになった。
慣れてくると割と体の調子が良い。

「あ、要君、おはよう。昨夜はよく眠れた?」今日も先輩は清々しい笑顔を僕に向けて来る。
「はい!スヤスヤと眠れました!今朝もすっきりですよ。」
そう他愛もない会話を繰り広げていると、チリンチリンと後ろから自転車のベルがする。
「お~っと」と退いて自転車の主を見ると、同じクラスの奥野さんだった。
「おはよう!赤城君と…矢野先輩!」
朝から元気だな~と思い「おはよう、奥野さん。」と僕が挨拶すると、
「おはよう。要君のクラスメイト?」と先輩が聞いてきた。
「はい!要君のクラスメイトで奥野瞳と言います。よろしくお願いします!」
そう言って奥野さんは手を額に当て啓礼をするように先輩に自己紹介した。
「元気いいね~」と先輩が言うと、奥野さんは真っ赤になって、「へへ、それだけが取り柄で…」と笑っていた。
「いや~女の子はちょっと元気なくらいが可愛いよ。」と先輩。
奥野さんは真っ赤になって「アハ、ありがとうございます!」と少し照れていた。
どうやら先輩が優しくて親切なのは、誰にでも適用されるようだ。
「奥野さんは自転車通学?」僕がそう聞くと、
「そうなの!もう、腿が太くなちゃって…またダイエットしなくちゃ」と笑っている。
「女の子は逞しいね~」と先輩が微笑んでいると、
「あ、私今日は日直だから早く行かないと!」そう言って彼女はチリンチリンと、もう一度ベルを鳴らして風の様に去って行った。
「ハハハ、元気な子だね~クルクルと表情も変わって。あっという間に嵐の様に去って行ったね。」と先輩が笑っている。
「そうですね同感です。彼女は気易くて、話し易くて。僕にとっては初めての女の子の友達かも…」と先輩に言うと、
「じゃ、高校に入って一番最初の友達は僕かな?」とウィンクして見せた。
先輩は同意が欲しい時にウィンクするのが癖なようだ。
僕は、「いえ、先輩は僕の初めてのお兄ちゃんです!」と言うと、
「嬉しいねぇ、それは最高の賛辞だよ!」と言って僕の頭をポンポンとしてくれた。

発情期を迎えてずっと学校を休んでいた後、学校に戻って以来、彼女は青木君と同様、僕にとって、とても近しい友達となっていた。

「あ、そうだ、今日の部活はどういう事をするんですか?」と僕が聞くと、
「今週いっぱいは自由だよ。来週になったら新入部員の顔合わせが始まって、それから高校総体や体育祭なんかが立て続けに入ってくるから、忙しくなるぞ~」と先輩は説明してくれた。
「本格的になってきましたね。なんだか楽しくなりそうですね。」僕は少しワクワクとしてきた。
「あ、でも忙しくなる前にゴールデンウィークがあるじゃない?要君、何か予定ある?」と先輩がきいてくるので、少し予定を考えて、
「そっか~もうそんな時期になるんですね。ゴールデンウィークは何も無かったと思いますが、何かあるんですか?部で何かあるんですか?」と答えた。
「いや、ゴールデンウィーク中のクラブ活動は自主だよ。それが文化部の良いところだよね。」そう言って先輩はまたウィンクし、
「もし要君が何もなかったら、家の別荘に招待しようと思って。」と先輩が言ってきた。
「別荘ですか?先輩の家凄いですね。」と僕がびっくりしていると、
「いや、小さい別荘でね、両親は忙しくて中々行かないんだよ。宝の持ち腐れってやつだね。だから僕が毎年、友達を呼んだり、部の合宿に使ったりして貢献してるんだ。ハハハ」と言って笑っていた。
「僕意外にも誰か一緒に?」と尋ねると、
「ん~今年はどこにも行くつもり無かったんだけど、要君と折角仲良くなったから、一緒に行けたら楽しいだろうなぁ~と思って。幼馴染の裕也と優香も誘おうとは思ってるんだけど、裕也は総体前だから恐らくダメだろうね~、優香も来れるか分からないし…」と先輩は答えた。
「僕、行きたいです!」僕は束さずそう答えた。
「ハハハ、ご両親に聞かなくていいの?」
「ダメだと言っても行きます!」
「潔いね~じゃ、今夜お母さんに電話して聞いてあげるよ。別荘の説明なんかしたら安心されるだろうし。」
「ハハハ…お母さんですか…」
「ん?お父さんの方が良い?」
「あ、いえ、お母さんでも平気です。」
「じゃ、今夜電話するよ!」と先輩はウキウキしたように言った。
そしてそれに対して僕は、「それでは、お願いします!」とカラ元気で答えた。

「それにしても、だいぶ暖かくなったよね。」そう先輩が言った瞬間に突風が吹いた。
「ひゃあ~、一瞬凄い風でしたね。」と僕が言うと、
「春一番の吹き残りかも!」と先輩が笑っていた。
そして先輩の顔が僕に近ずいてきたのでドキッとした。
「な、何ですか先輩、顔、近いですよ。」ドギマギとしてそう言うと、先輩は笑いながら、僕の頭に手を伸ばしてきて、
「ほら!」と摘んだ桜の花びらを見せてくれた。
「きっと、さっきの突風で残りの花びらが落ちたんだよ。ほら、まだ頭に幾つか乗ってるよ。」と教えてくれた。
「あ、花びらか~」と深呼吸して先輩の頭を見ると、先輩の頭にも幾つかの桜の花びらが乗っていた。
「先輩の頭にものってますよ!」と僕が言うと、先輩は頭をブンブンと振り回してみたが、桜の花びらは落ちてくれなかった。
それで僕は自分の腕を伸ばして先輩の頭から一枚、また一枚と桜の花びらを取ってあげた。
その間先輩は中屈みになり、僕に身を任せてくれた。
僕はそのまま先輩を抱きしめたかった。
先輩の頭の中に指を絡めて僕の顔を埋めたかった…
「要君、どうしたの?桜の花びらは全部とれた?」先輩のその声にハッとして、
「はい、大丈夫です!全部とれましたよ!」と言うと、先輩は「はあ~ありがとう。中屈みってきついね~僕も自転車通学にしてちょっと鍛えようかなぁ~」と笑っていた。
お互いの頭を払った後、周りを見回すと、多数の人たちが同じような行動をしていたので僕はちょっとおかしくなってしまった。
そして僕達は、もうほとんど散ってしまった桜の木を見上げて、
「もう桜の季節も終わりだね~」としみじみとしていた。


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