消えない思い

樹木緑

第14話 登校道で

何時ものように朝がやって来た。
今朝は何だかウキウキして目が早く覚めた。
ベッドから飛び起き、カーテンを開けると、雲一つない青空が目に飛び込んでくる。
窓を開けて、朝一番の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、静かに吐き出した。
向こうに公園が小さく見える。
そして河川敷の川が朝日を浴びてキラキラと輝いているのが分かる。
なんだか今日は良い一日になりそうだと思った。

僕は部屋を出て真向かいにあるバスルームに入って行ってシャワーを浴びる準備をした。
今朝は、時間に余裕があったので、朝にシャワーを浴びる気分だった。
脱衣所でパジャマを脱いで、洗濯機の中に放り込んだ。
下着は別洗いなので、洗濯かごに入れた。
ドアを開けて中に入ると、少しひんやりとした。
蛇口を捻り、あったかいお湯が出るようになったのを確認してシャワーに切り替える。
目を閉じて、お湯を顔にたっぷりと浴びせかけると、全身がエネルギーで満ちるようだった。
シャワーが終わると、タオル一枚を巻いて部屋に戻った。
体を十分に乾かし下着を身に付け、壁に掛けてあった制服に着替えた。
僕の学校はブレザーになっている。
紺のトップにボトムは緑に黒のタータンチェック。
ネクタイも同じ緑に黒のタータンチェック。
これは学年ごとに色が違う。
一年生は緑、二年生は白、三年生は赤、という色分けになっていた。
そしてこの色は高校3年間持ち上がりとなる。

着替え終わると、昨夜のうちに準備しておいたカバンを持って、キッチンへと向かった。
キッチンではお父さんが既に朝食を食べていた。
「お父さん、おはよ!今日は早いんだね。」と言って頬にキスをすると、
「今帰って来たんだよ。昨夜のシーンは夜の格闘シーンだったから結構神経を使って疲れたよ。」
そう言って味噌汁を一口ごっくんと飲んで大きく欠伸をする。
僕はチェアーの下にカバンを置いて、お母さんの頬に「おはよう!」とカウンター越しに、キスをした。

「そうだ、お父さんって美術監督の矢野って人知ってる?」と、お父さんの横に座りながら聞いてみた。
「矢野…矢野…あー矢野正彦?」と少し考え込んで思い出したようだった。
「あ、いや、名前までは知らないけど、直接矢野先輩から聞いたわけじゃないから、はっきりとは分からないけど、彼の家族をしてっる人が、美術部部長の矢野先輩のお父さんが映画製作会社を持ってて、美術監督してるって言ってたから、お父さん知ってるかな?と思って…」
「あーそれだったら矢野正彦で間違いないな。」
「知ってる人なの?」と尋ねると、
「いや、一緒に仕事をした事は無いな。」と、お父さんが言うと、朝食を運んできてくれたお母さんが、
「そう言えばほら、数年前、僕の演奏会に来てくれた…楽屋まで花束を持ってきてくれた矢野さんって彼じゃなかったっけ?」と付け加えた。
「あ、そうだね、息子さんと来てたね?」とお父さん。
「あっ!思い出したよ。あの時の子が矢野君だ!まだ中学生位だったよね?」とお母さん。
「あ~だから矢野先輩、お母さんの事知ってたんだ。」と僕は言った。
「そうだよね、司君、おぼえてる?凄く熱心に沢山ファンレターくれたよね?」と初耳だ。
「だったな、なんだかラブレターみたいなファンレターで、可愛いなっていってたよな?」とお父さん。
「そうそう、一度返事出したことがあって、凄い喜んでくれて…」
「今でも先輩からファンレターってくるの?」と僕は聞いた。
「回数は少なくなったけど、今でも来るよ。ファンレターは全て読んでるもん。でも今までそれが結びつかなったよ! 凄い偶然だね。」とお母さんもびっくりしている。
「じゃ、うちに呼んじゃったら、お母さんのことバレないかな? この前もお母さんの事、如月優に似てるって言ってたし、写真だって持ってたんだよ。雑誌の切り抜きとかもスクラップにして持ってるって言ってたし…」と、僕は少し心配になって来た。
「大丈夫、要は心配しなくても良いよ。」とお母さんはあまり気にしていないようだ。
「ほんとに大丈夫?先輩、ちょっと感が良い人かも。」と言うと、
「ま、バレた時は、バレた時だね。要は矢野君の事、信頼できると思うんでしょう?」
「うん、先輩は絶対だいじょうぶだよ!」そう言うとお母さんは、
「だったら良いよ。それに僕の熱烈なファンでもあるみたいだからな。」とウィンクして見せると、横からお父さんが、
「でも、優君は僕のだぞ!」と相変わらずベタ惚れなところを見せてくれた。

「いってきま~す!」そう言って玄関のドアを開けた。
「車には気を付けて!」と玄関まで両親揃って見送りに来てくれた。
何時ものように公園を突き抜け、河川敷まで出ると、行き交う人ごみの中に、見知った後姿が見える。
「矢野先パーイ!」と大声を上げると、先輩は後ろを振り返って
「あ、要君!おはよう!」と大手を振って答えてくれた。
走って先輩の処まで行き、「おはようございます。先輩も歩きなんですか?」と聞いた。
「そうだよ、要君も徒歩組?」
「はい、僕、この近くに住んでるんです。先輩は第3中学区域だと聞いたんですけど…それだと逆方向じゃ?」
「あ~中学まではね。高校になってから引っ越したんだよ。」
「じゃあ、朝一緒になる事、あるかもですね?」とちょっと嬉しくなった。
「何時もこの時間帯に登校してるの?」
「今日は何時もより早く目覚めちゃって、いつもはこれよりちょっと遅いくらいで…でも先輩がこの時間に登校するんだったら、僕も早起きがんばろうかな」
「ハハハ一緒に登校出来たら楽しそうだね。」先輩はそう言って笑った。
「そうれはそうと、美術部に入ってくれるかどうか決めた?」と先輩は聞いてきた。
「僕、凄く美術部には入りたいんです。でも両親が凄く過保護で、心配性なんです。それで、昨夜、両親と話し合ってみたら、先輩を夕食に招待しなさいって。先輩のお手を煩わせる事になるんですが、色々と話したい事があるみたいで…」
「そんなの、お安い御用さ、いつ伺えばいいかな?」と先輩は気さくに請け負ってくれた。
「本当に大丈夫なんですか?」と念を押す。
「ああ、僕は何時でも良いよ。」
「じゃあ、母に都合のいい日を聞いておきますね。ありがとうございます!」
そういって僕の胸は高鳴った。





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