異世界行ったら従者が最強すぎて無双できない。

カザミドリ

ギルドは大変らしい

 王都に戻って来た俺達は、ルアンヌ様と合流するとすぐに城に案内される。


「いや、宿とか取りたいんだけど?」


「それでしたら、城の方でご用意致します」


 ふむ、良い宿を紹介してくれるのか。まぁそれなら良いか。


「さぁ、陛下が首を長くしてお待ちです」


「ああ、はいはい」


 城に着くと案内されたのは以前来た謁見の間ではなく、国王の執務室であった。部外者を簡単に入れて良いのかね?


コンコン


「失礼します国王陛下、タクト様をお連れしました」


「おぉ!待っていたぞ」


 ノックをするとすぐに扉が開いた、中には国王様と王女様の二人が待っていた。


「お久しぶりですタクト様」


「はい、アルメル様もお元気そうで何よりです」


「よくぞ来てくださったタクト様」


「はい、お久しぶりです国王様」


 当たり障りの無い挨拶をして、ソファーに座りさっそく本題を聞く。


「えっと、今回呼ばれたのは何故でしょう?」


「その前に改めまして、エシリア王国、現国王テオドール・エシリアでございます」


 ここでようやくお互い自己紹介していない事に気づく。


「あ、失礼しました、冒険者のタクトです、後ろに控えるのは私の従者です」


 ソファーの後ろで立っているクロノ達も紹介する。席空いてるんだから座ればいいのに。まぁ、ルアンヌ様がアルメル様の後ろでずっと立っている方が気になるけど。


「はっはっは、タクト様は冗談がお上手ですな」


「ふふふ、そうですねお父様」


 王族が笑うとこんなに気品が出るんだな。じゃなくて、冗談は言ってないんだが。


「あなた様は勇者ではありませんか」


 首を傾げていると、これまた楽しそうにテオドール様が言う。


「ああ、そういうことですか」


 なるほど勇者の件か。いや、そもそもその話で呼ばれたんだっけ。


「はい、貴殿方は一冒険者ではなく、勇者御一行様です」


「ええまぁそうですね」


 そしてそれまでの和やかな雰囲気からは一変して、険しい表情になる国王様。


「して、これからの皆さんのご予定は?」


 おっと、まさか直ぐに魔王軍との前線に行かされるのか?


「………南の街ファストを拠点に冒険者として活動予定です」


「ほう、では有事の際はファストに行けば皆様に会えると?」


 有事の際、つまりは魔王軍が攻めてきた時だろう。


「ええ、恐らく」


 あえて断言はしない、他に行っている可能性もあるから。決して断る時の伏線ではない。


「………わかりました、では何か有った際はファストに……」


 国王様が話を括ろうとした時、後ろから待ったが掛かった。


「少々御待ちください」


「クロノ?」


 話を遮ったのはクロノであった。


「………何か大事な事をお忘れではないですかな?」


 おっと、久しぶりにクロノ達の殺気を見た気がする。まぁ、その件については俺も気になっていたが。


「忘れていること?」


 アルメル様が首を傾げる。これは天然かそれともわざとか?


「ふむ、こんな事で時間を割くのも無駄でしょう、支援と報酬についてです。なんでも先の勇者は多大な支援と莫大な報酬が約束されていたとか?」


「うっ、それは……」


 アルメル様が苦虫を噛み潰したような表情をする。国王様も同じような顔でため息を吐く。


「やはり誤魔化されてはくれないか」


 誤魔化そうとしてたのね。


「何かあるんですか?」


 気になるので聞いてみたが。


「うむ、実はな、私も君達に支援をと思ったのだが……」


「だが?」


「先の勇者の件で、一部の大臣から反対の声が上がっていてな、今回の勇者は本当に大丈夫なのか?と」


 大変心外である、あれと同じにしないで貰いたい。


「教会が、主に聖女が各街で新しい勇者は神の使いであると宣言したり」


 何してんの聖女様。


「ギルドの各支部が、全面的に新しい勇者を支援すると公表したり」


 何してんのギルド長達。


「我妻が、新しい勇者の素晴らしさを解いていたりしている」


 何してんの王族!?


「いや、ちょっと待って下さい!せめて奥さん止めて下さいよ!」


「残念だが無理だ」


「どうして!?」


「何故なら私や娘も妻と同じ気持ちだからだ……」


「同じ気持ち?」


「そうだ!!我が愛する妻と娘を救うだけではなく、各地の問題を解決している、タクト殿に対して、あろうことか、勇者には報酬を渡すべきではないだと!あのくそ大臣めぇ!」


 と、突然王様に火が着いた。


「くわえて!よりにもよって信用に値する実積が欲しいだと!?各地からの報告を読んでいないのか戯けめ!」


 勢い止まらないなぁ。


「はぁ、だからお父様はあんな約束をしたのですね?」


 アルメル様がため息を吐く。約束?


「そうだ、だからあんな約束を………」


 急に勢いが失くなる国王様。と、思ったら。


「も、申し訳無かった!タクト殿!」


 今度は急に土下座する国王様。これ誰かに見られたら大変な事になるんじゃないか?


「実はお父様はこんな約束をしてしまったのです」


 アルメル様が言うにはこんな流れらしい。


 大臣が支援を認めない。→国王様は支援をするべき。→大臣「そもそも勇者は我々が呼んだ者ではない、それでは信用に値する実積がない」→国王「実積ならあるだろうが!報告書読んでないのかハゲ!」→大臣「誰がハゲだ親バカ国王!とにかく支援はできない!」→国王「じゃあいいよ!その代わり魔王を倒したら、勇者の言い値で報酬を渡すからな!」→大臣「上等だ!やれるもんならやってみろ!」と、言うことらしい


「いえ、あの、そこまでは言ってません」


「え?でも大体はそうでしょ?」


「………はい」


 大体は合っているそうだ。


「とりあえず、支援は受けられないけど報酬は貰えると?」


「うむ、何でも言ってみなさい、絶対に叶えると国が約束しよう」


 まぁ、特に困っている事はないので支援が無くても良いのだが。


「うーん……」


 これと言って欲しいものもない、故に報酬も思い付かない。


「そ、そうだ、莫大な富はどうだ?使え切れない程の金貨を用意しよう!」


「うーん……」


 金には実は困っていない。ドラコンの捕獲やアンデッド事件などで既に莫大な富は持っていた。


「な、なら、爵位を渡そう!公爵に仕様じゃないか!王族の次に高い地位だ!」


「うーん……」


 前にも思ったが貴族になるのは遠慮したい。しがらみが多くなりそうだからなぁ。


「ほ、他には……思い付かん……」


 何故か知らないが、国王様が焦っていて、今は項垂れている。


「タクト様、どうか私達を御見捨てにならないで下さい!」


 見捨てるつもりはないが、まぁ、見捨てるに値するとは思うけど。


「しかしなぁ……」


「タクト様宜しいでしょうか?」


 ここでようやくクロノが助け船をくれた。


「どうしたクロノ?何でも言ってくれ」


 こう言うときはクロノに任せるのが一番だと俺は知っている。


「土地などはいかがでしょうか?」


「土地?それは領地と言うことか?」


「いえ、タクト様と我々が独自で運用できる土地でございます」


 それってつまり。


「独立国では?」


「左様でございます」


 おいおい、流石にそれは……。


「うむ、よかろう!魔王討伐の暁には、タクト殿に国を作る許可を出す!」


 なんか、大変な事になってない?


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「はぁ………」


 結局、国とは明記せず土地と自由に使っていい権利で落ち着いた。


「まぁ、自由に使っていいなら、他の使い道もあるだろうしいいか」


 めんどくさい事は考えず、城を出る。


「念のためギルドに寄っていくか」


 国は支援しないが、ギルドと教会は全面的支援してくれるらしい。とりあえずギルドに挨拶をして、教会は聖女様に会った時にでも伝えればいいだろう。


「だから!ギルドにも限界があるんです!」


「それをどうにかしてもらいたくって、貴方に話をしているのでしょう!」


「お二人とも落ち着いてください!」


 ギルドに入ると二人の男女が言い争いをしていた。男の方はギルド長のベイカーさん、女性の方は王妃様だ。


「ですから!」


「だから!」


 言い争いをしているのだが………ギルド長は強面筋肉大男で王妃様はいかにも王族らしいきらびやかなドレス姿なのも合間って、端から見ると、盗賊が貴族の娘を拐おうとしてるようにしか見えない。


「お二人とも!」


 幸いなのは真ん中で宥めようとしているケインさんがいることか。


「何してんのあの二人?」


 と、ギルドの真ん中で言い争う最高責任者同士に気を取られていたが、奥にも異様な光景が有った。


「さぁ、いらっしゃいいらっしゃい!」


「うぅ、なぜこんなことに………」


 奥には元気に客引きをするクレアさんと、少し涙目でお祈りを捧げられているミリーさん。何で祈りを捧げるはずのミリーさんが祈られているのか非常に気になるのだが。


「まずはベイカーさんの方だな」


 二人共ヒートアップしていて、いつ胸ぐらを掴み出すかわからない。


「あのー、二人共何してるんですか?」


 控えめに声を掛ける。


「ん?おぉ!タクト君良いところに!」


「まぁ!タクト殿!」


 王妃様の前だからか、若干ベイカーさんの口調が丁寧だった。


「何か有ったんですか?」


「あ、あぁ、実はな……」


「ギルドが寄付を受け取ってくれないのです!」


「寄付?」


 先手必勝とばかりに、王妃様が俺の手を取って話を続ける。


「タクト殿への寄付でございます!国からは出せませんが、ギルドを介してならと思い!」


 そこでギルド長の方を見るが。


「…………」


 静かに首を横に振っていた。


「えっと、支援は今のところ必要ありません、幸い資金には困っていないので、それに報酬については先ほど国王様と約束しましたので満足しています」


「そうなのですか?しかし、今はよくても後々は……」


「それに関しては、ギルドと教会が支援を申し出てくれていますので」


「………わかりました、タクト殿がそう言うのでしたら」


 何とか説得に成功し、王妃様は城に帰って行った。


「いやぁ、助かったよタクト」


「ギルド長、あれで良かったんですよね?」


「あぁ、幾らなんでも王族から金は受け取れないからな」


 ふむ、まぁ、受け取っても良かったんだが、後々拗れるのも嫌だしな。


「この国の王族は、良いことなんだが国民から人気が有ってな、国は支援しないと発表しているが、王様は大々的に応援すると言っているから、寄付と言う名目で支援金を渡す人が絶えなくてなぁ、ギルドとしては依頼でもないのに貰うわけにもいかないしなぁ」


 国王が嫌われているよりは良いが、慕われているのも困るとは、なんとも贅沢な話だ。


「………タクトから国民に言っては貰えないか?」


「いやですよ演説なんて、頑張って断って下さい」


 ガックリと肩を落とすベイカーさん。ギルドは大変らしい。



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