異世界行ったら従者が最強すぎて無双できない。

カザミドリ

コンプリート

 さて、王族の人気についての一悶着が有ったが、概ね解決したと思う。


 次は教会についてなのだが。


「ところでベイカーさん、あれは何ですか?」


 「あれ」とは、絶賛長蛇の列ができているミリーさんへのお祈りである。ちなみにその列を整理しているのはケインさんとクレアさんを除いた、残りの朱の鳥メンバーである。


「クレアさんは何故あんな札を?」


 『勇者を導いたシスターミリーへの巡礼!一回銅貨一枚!』


 金取るのかよ!?アコギな商売をしているが。


「いらっしゃい、いらっしゃい!」


「すいません!一回お願いします!」


「はい毎度!じゃあお祈りは一人一分まででーす!」


 以外に儲かっているのか、すごい笑顔でクレアさんが商売していた。


「まったくクレアは………」


「こちらは済んだし助けに行くか、タクトお前達は先に奥の部屋に行っててくれ、お前が行くと騒ぎになるからな」


「はぁ……?」


 首を傾げつつ言われた通りにギルドの奥へ。


 数分後、ベイカーさんとケインさん達が部屋に入ってくる。


「いやー、儲かった儲かった」


「うぅ、ひどいわよクレア」


「まぁまぁ、美味しいものごちそうするから機嫌直してよ」


 クレアさんとミリーさんは楽しそうに話していたが、部屋で待っていた俺達を見つけると、それぞれ真逆の反応をした。


「あ!?タクトくん!」


「ひぇ!?た、タクト様!?」


 クレアさんは嬉しそうに、ミリーさんは少し畏怖を込めてそれぞれ呼んだ。いや、クレアさんは少し金ヅルを見つけたような顔してる。


「タクトくーん、来てたなら声かけてくれればいいのにぃ、ちょっと私と良いことしない?」


 しなだれかかって来るクレアさんだが、その目には金の文字が浮かんでいた。


「クレア!タクト様に失礼です、離れなさい!」


 そろそろメロウ辺りが怒るだろうと思ったが、それよりも先にミリーさんが怒った。


「えー?平気よタクトくんなら」


「平気じゃありません!申し訳ありませんタクト様」


 ミリーさんがクレアさんを怒ると言う珍しい構図なのだが、まず先にツッコミなきゃいけない事がある。


「ミリーさんは何で様付けなんですか?前みたいに気軽に呼んで下さい」


「そ、そんな恐れ多い!タクト様はもうわたし達とは違う存在なのです!」


 違う存在って、神にでもなったと?ミリーさんの反応に困っていると。


「ふふん、私が説明しましょう!」


 クレアさんが腰に手を当てながら、何故か誇らしげに語り出す。


「タクトくんって勇者になったじゃない?」


「ええ、まぁ……」


 頷きつつ手にある勇者の証を見せる。


「その神の使い勇者を、教会に導いたのは誰?」


「………あ、ミリーさん?」


 確かに教会に興味を持ち、見学できるように手配してくれたのはミリーさんだった。


「その通り!勇者タクトを導き世界に光と希望をもたらしたのは、何を隠そう我がパーティーのシスターミリーなのである!」


「やめてー!?」


 大袈裟に言うクレアさんの言葉に、恥ずかしさのあまりミリーさんが絶叫する。


「とまぁこんな感じで、行く先々で引っ張りダコなんだよ」


 と、ケインさんが締めるとおふざけは終わったようで。


「ほんとびっくりしたわ、一体何があったの?」


「ええっと、実は……」


 ようやく話をする空気になったので、前回王都を出てからの話をする。


「……アンデッドの大群を討伐に、勇者の紋章を授かり、魔王軍幹部の撃退に、それに反乱か……君は何を目指しているんだ?」


 言いたいことはわかるけど。


「全部やりたくてやった訳じゃないですからね?」


 不本意だが、当初の無双異世界ライフは叶えられつつある。まぁ、従者の方が無双しているけどな。


「あはは、とりあえず近況報告はこのくらいですかね」


「そうか、この後はどうするんだ?」


「ファストを拠点に冒険者をする予定です、最近冒険者してないので」


 最近は主に魔王軍の幹部にしか会ってない気がする。


「わかった、なら、ギルドからの支援はファストのギルドに送ろう」


「よろしくお願いします」


 一通りの報告も終わり、後はファストに帰るだけなのだが。


「タクトくん達は直ぐに出発?」


「ええ、そのつもりです」


「でも、このまま出ていったら騒ぎにならない?」


 ふむ、確かにミリーさんであの騒ぎなら、俺が行ったらどうなるのか?


「じゃ、ミリー行こうか?」


 とても良い笑顔でミリーさんの手を引くクレアさん。


「ク、クレア?なぜですか!?」


「なぜって、タクトくんがもみくちゃになってもいいの?」


「い、いえ、それは」


「ミリーであの騒ぎなんだから、タクトくんはもっとすごいと思うけど?」


「た、確かに、ですが」


「まさか、異界神から選ばれたタクト様を、敬虔な信者であるミリーが見捨てたりしないわよね?」


「うぅ、わかりました……」


 捲し立てるクレアさんにミリーさんが折れる。


「さぁ、行くわよ!」


 ミリーさんを連れていくその背中に、稼ぎ足りないと見えたが言わないでおこう。




 ミリーさんとクレアさんの囮のお陰で、無事ギルドを出た俺達。


「それじゃ、ファストに行こうか?」


「はい、今から出れば明日の昼には着くでしょう」


「………また、馬車が速くなってないか?」


 知らぬ間にクロノによって、魔改造されている俺達の馬車。もう馬なしで走り出しても驚かないだろう。


「よし、行くか!」


 馬車を走らせて目指せファスト!


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ファストへ向けて王都を出た俺達なのだが。


「……何も起きないな?」


「どうしましたタクト様?」


「ん?いや、いつもならこの辺でトラブルが起きるから」


「今回は何もありませんね!」


「ん、平和」


 まぁ、そんな頻繁に魔王軍幹部に会うのが可笑しいのだが。


「あと会ってないのは、疾風のハウザンだっけか?」
  
 まだ見ぬ魔王軍四天王の一人。


「はい、名前的には速いんでしょうか?」


「んー、風使いとか?」


「そうですね、名前だけならその可能性もありますね」


「ん、警戒?」


 そう、名前だけならな。だが、今のところ魔王軍幹部は、変態二、可哀想一、なんだよ。


「……疾風、疾風ねぇ、どんなかなぁ」


「タクト様、前方に何やら立ち往生している集団が居ます」


 そんな事を思っていたからか、トラブルが起きた。


「口は、災いの元」


「うん、的確な感想ありがとうエニ」


 外の様子を見るため御者台の方に行く。


「ん?あれは何をしているんだ?」


 立ち往生している馬車の方を見ると、護衛の冒険者だろか?その集団が背中合わせに立ち周りを警戒しているのだが。


「何も居ないよな?」


「居ませんな」


「居ないですね」


「居ませんわ」


「ん、居ない」


 全員が居ないと言う、俺はともかくクロノ達が居ないと言う。


「なら、近づいてみるかクロノ」


「畏まりました」


 冒険者に近づくと。


「おい、そこの馬車!ここは危険だ直ぐに離れろ!」


「危険?何があった?」


「魔王軍だ!」


 まさかの言葉に絶句する。


「ま、魔王軍?誰だ?誰が居る?」


 いや、まだ幹部と決まったわけでは………。


「魔王軍幹部の……」


 希望は断たれた。


「疾風のハウザンだ!」


 まさかの初めて、そしてこれで魔王軍四天王をコンプリート。


「噂をすればですね!」


「何でフェンは嬉しそうなの?で、そのハウザンは何処だ?」


「実はさっきから姿が見えないんだ」


(あの……)


「うちの従者も気配を感じないらしい、もうここには居ないんじゃないか?」


(すいませぇん)


「いや、奴は突然姿を現した、俺達は馬車が攻撃されるまで気付くことさえできなかった」


(あのぉ!)


「ん?そういえば、あんたどっかで見たな?」


「あ、ああ、前に一度王都で会っているはずだ、ほら、ドラゴンの」


(ちょっと……)


「あの整列してた人か、確かケインさんが神話クラスって言ってたっけ?」


「ふっ、ただの名ばかりだよ」


「それでも頼りにしてるぜ、先輩」


「ああ、任せておけ」


「すいません!!」


 と、俺とクラフトさんが話していると、俺の目の前に突然誰かが姿を現した。


『うわぁ!』


 あまりに突然過ぎて、俺とクラフトさんの驚きの声が重なる。


「い、いつの間に」


「わたしずっと居ましたぁ」


 若干涙目のフードを目部下に被った………女の子?いや、男の子か?


「こ、こいつだ、こいつがハウザンだ!」


 この子が!?


「うぅ、やっと気付いて貰えました」


 本当に気づかなかった、現に俺だけではなく、クロノ達ですら目を丸くして驚いている。


「え、ええっと、おま……君がハウザン?」


「はい、そうです」


「魔王軍幹部の疾風の?」


「うぅ、はい、みんなからはそう呼ばれてます、でも」


「でも?」


「わたし速くなんて動けません!ただみんなから気付いてもらえないんです!」


 ………なるほどこの子もまた、可哀想な子だ。


「えっと、なんかごめん」


「いえ、いいんです馴れてますから」


 遠い目をするハウザン、それを見て武器を構えていたクラフトさん達は武器を下ろした。うん、気持ちはわかる、この子に武器を振り上げる事は出来ない。


「………君はここで何をしているんだ?」


「あ、はい、この馬車の積み荷を狙うように魔王様に言われました」


 あー、言っちゃうんだ。何だろう前の不幸ピエロといい、魔王軍幹部の可哀想な子は素直な子なのかな?


「で、積み荷って?」


「あ、ああ、積み荷と言うか護衛だな、ある要人をファストまでお連れするのが今回の依頼だった」


「要人?あと、だった?」


「ああ、もう送り届けて、今は帰り道だよ」


「えぇ………」


 狙った物は既に無い、その事はこの子は知っているのだろうか?


「あ、はい、行きの時に見かけましたので知ってます」


「知ってるの!?」


「はぃ、行きの時も、声を掛けたんですが、無視されてぇ」


 涙目になるハウザン。居たたまれないように視線を反らすクラフトさん。


「そ、それで?」


「か、帰りは、気付いて貰いたくて、通りすぎる前に魔法で馬車を爆発しました」


「君、結構大胆な事するね?」


 魔法で馬車を爆発って派手だな。


「………これくらいしないと、みんな気付いてくれないんです」


「すまない」


 悲し!もはやクラフトさんが謝るしか出来ないでいるよ。にしても、確実に人選ミスだろ、この子はもっとこう、潜入とか隠密行動の方が………ん?何だ?何か違和感が。


「き、君はこれからどうするんだ?」


「はい、気付いて貰えたので、帰ろうと思います」


「そ、そうか……」


「お邪魔しました」


 ペコリと一礼して去っていくハウザン。何故だろう、顔を上げた時の笑顔が物悲しい。


 こうして狙った訳でもない魔王軍四天王をコンプリートしてしまった。






 

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