異世界行ったら従者が最強すぎて無双できない。

カザミドリ

再びの王都へ

 反乱騒ぎの翌日、ギルドへ向かうと既に王都から兵士が来ていた。


「あ、タクト様こちらです」


 レイツさんに呼ばれ近づくと豪華な鎧を着た女性を紹介される。


「こちらは王国近衛騎士のルアンヌ様です」


「初めまして、ルアンヌ・ナナカ・シャバノンです」


 セカンドネーム?と、苗字があるってことは貴族か?


「初めましてタクトです、後ろに居るのは私の従者です」


「ふふ、存じています、そんなに畏まらないで下さい、貴族と言っても名ばかりそれに今はアルメル様に仕える一騎士です」


 アルメル様は確か王女様だよな?充分くらいが高いと思うんだけど………。ん?王女様付の騎士が何故ここに?


「えーと……」


「わたしが何故ここに居るかですね?」


「はい」


 流石話が早くて助かる。


「実は王からタクト様達に再び城へ来てもらえないか?と手紙を預かっています」


 手紙を渡されるが書いている内容は大体ルアンヌ様の言った通りだった。要約すると、勇者の件を聞いた国王様が、正式に且つ大々的に新しい勇者の任命と発表を行いたいとの事らしい。悪い話じゃあ無いんだが。


「う、うーん」


「いかがいたしましたか?」


「ちょっと従者と相談して良いですか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 クロノ達を集めて話合う。何故かレイツさんも混ざっていたが。気にしない。


「と言うわけらしいんだが………」


「タクト様は乗り気で無いのですね?」


「あー、そろそろ腰を落ち着けたいんだよ、ほら、あっちこっち行ってばっかりだろ?てゆーか冒険者として依頼を余り受けてないんだけど、大丈夫なのかな?」


 レイツさんにこの事を聞きたかったので、混ざっていても気にしなかった。


「それなら大丈夫ですよ、各地を廻る事が依頼になっていましたので、あ、因みにこれが達成証明書です」


 渡されたのはギルド長のベイカーさんからの依頼を達成したと言う書簡、これを最後にファストのメグミさんに渡せばいいらしい。


「………尚更王都に行く意味が無くなってない?」


 うーんと悩んでいると。


「タクト様、タクト様は勇者に生ったんですよね?」


 唐突にフェンが言い出す。


「ああ、不本意ながらな」


「なら、何か貰えないんですか?」


 何かとな?


「ふむ、確かに、前の勇者は旅立ちの時に色々便宜と共に貰っていたようですな」


「更に、魔王を倒した暁にはすごい報酬が約束されていたとか!」


「それを真の勇者たるタクト様が受け取れないなど……」


「ん……不公平」


「ではその旨を伝えましょう!」


「え!?レイツさん!ちょっと」


 止める間もなくレイツさんはルアンヌ様に話をする。


「えっと、はい、それは………」


 ルアンヌ様が出したのは何とも歯切れの悪い言葉だった。 


「出来る限りはわたしの方から王に進言してみますが………」


 やはり歯切れが悪い。まさか、報酬が無いなんてな?


「ふむ、分かりました、そこら辺ハッキリさせたいので城に行きましょう」


「ありがとうございます!」


 ルアンヌ様は背筋を伸ばして綺麗に礼をする。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 王都に戻る事が決まり、準備をしていると。


「た、大変だー!」


 街の入り口の方から鎧を着た男が慌てて駆けてくる。


「貴方は確か護送を担当していた……」


「は、はい!罪人を王都に連れていく途中だったんですが」


「何かあったのですか?」


「と、途中で、ま、魔王軍に襲撃を受けました!」


 魔王軍と聞いて嫌な予感がした。


「それで、馬車は?」


「馬車は大破、護衛の騎士が応戦していますが………」


「わかりました、貴方は休みなさい」


「はい……」


 騎士に優しい言葉を掛けるルアンヌ様、だがその表情は雲っていた。


「タクト様、申し訳ありませんが……」


「えーと……一つ聞いて良いですか?ひょっとして襲ってきた魔王軍ってパンツ一丁の集団ですか?」


「いえ、違います」


「じゃあ魔物を従えた女ですか?」


「いえ、それも違います」


 ダナンでもミエムでもない!?三人目の魔王幹部か?この地域魔王軍居すぎじゃないか?何かあるのか?それとも偶然?


「………考えても仕方ないか、ルアンヌ様我々も一緒に着いていきます」


「ありがとうございます」


 俺は馬車に乗り込みつつ、まだ見ぬ新しい魔王幹部に不安を抱く。今度はどんな変態が出てくるのだろうか。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 馬車を走らせる事数分、来るときに検問をしていた辺りに差し掛かると。


「グァァァ!」


「魔物?」


「ふむ、どうやらあれのようですな」


 クロノの指差した先には、二メートル程の背丈の魔物が居た。


「襲われているのはメイツか」


「んー、あとは騎士が何人かと変な人ですね」


「変な人?」


 フェンの言葉に引っ掛かり、目を凝らすと確かに居た。


「ピエロ?」


 サーカスなどにいる道化師の格好で、髪をツインテールにした女の子が居た。


「………何でピエロ?」


 疑問は尽きないがそこで応戦していたメイツが吹き飛ばされ、我に返る。


「と、とにかくあの魔物を倒すぞ!」


『はい!』


 クロノ達を従えて走り出す。


「グァァァ!」


 メイツの元に向かう俺達の前に、別の魔物が立ち憚る。


「ちっ、何体居るんだよ!」


 地面から出てきたそいつらは十体以上居た。


「………これは」


 応戦していると、ルアンヌ様が何かに気付いたようだが、それどころではない。


「クロノ、先に行ってメイツさんを守れ!フェンは撹乱、奴等を一点に纏めろ!纏まったらエニとメロウの魔法で一掃する!」


『はい!』


 従者達に指示を出しつつ、魔物の様子を伺う。赤黒い体には血管のような物が浮き出ており、これまた黒い血の様な物が流れている。


「パッと見は人間ぽいな?」


「いえ、恐らく人間なのでしょう」


 ルアンヌ様が真剣な面持ちで語り出す。


「最近王都近郊で、同一の魔物が確認されています、その殆どが何らかの薬を摂取して変貌したと……」


 薬か、魔物に生るような薬、そうそう出回る物でもないだろうに。


「………戻す方法は?」


「ありません、せめて安らかに眠らせてあげるのが……」


「……わかった」


 気の毒だが仕方ない。ルアンヌ様と話している間に一ヶ所に魔物は追い込まれていた。あとは俺がメロウとエニに指示を出すだけだ。


「メロウ、エニ、やってくれ」


「畏まりました」


 炎と氷が魔物達を貫いていくのを見届ける。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 全滅するのを見届け、クロノ達の方に移動する。どうやらこちらでもクロノが止めを指していたらしい。


「ご苦労クロノ」


「はい」


 クロノを労いメイツに話しかける。


「大丈夫か?」


「あ、ああ、助かったすまないこんな私を」


「気にするな、困った時はお互い様だ」


 そんな話をしていると。


「ふぇ~助かりました、今度こそわたし死ぬかと思いましたよ~」


 場に似つかわしくない声に振り向くと、先程のピエロの女の子だった。


「君大丈夫か?」


 座り込んだままの彼女に手を伸ばすと、メイツから鋭い声が発せられた。


「よせ!そいつは魔王軍だぞ!」


 その言葉に全員がぎょっとなる。


「ま、魔王軍!?」


「そいつは魔王軍幹部だ、魔物に変貌した彼らも、そいつのせいで……」


 魔王軍幹部でようやく思い出した、確か以前聞いた中に、道化のヒウンと言う名があった。


「まさか、そのまんまの通り名だとはな、お前の目的はなんだ?」


「あ、えっと、その、違うんで、うきゃ!?」


 立ち上がり話をしようとしたヒウンが、足元に転がっていた何らかの薬品の瓶を踏みひっくり返る。


「痛たた、はぅ!?これお馬さんのうんちですぅ……」


 更に起き上がろうと手を着いた所に馬糞が有り、固く握り閉めてしまう。


「わ、わたしはヒウン、一応魔王軍幹部の一人ですが……」


ピーヒョロロ、びちゃっ。


 ようやく立ち上がったヒウンの頭に鳥が糞を落として飛び去る。この電線の無い異世界で何とも珍しい。まさかとは思うがこの子……。


「だ、大丈夫か?」


「はい!いつもの事なんで平気です」


 あ、この子、不運体質だ。


「そ、そうか………」


「はい、改めまして先程は助けていただきありがとうございます」


「………君の目的は?」


 腐っても彼女は魔王軍幹部、聞いても答えてくれるはずなど……。


「はい、魔王軍の強化の為にスカウトしています」


 ………簡単に喋ってくれた。


「スカウトとは?」


「お薬を配っているんです、ダナンさんが飲んだのと同じものを」


 ダナン!?あのブーメランパンツの変態か。


「その薬とは?」


「あ、これです!このお薬には人間の潜在能力を開花させて、限界以上の力と成長を促す作用があるんです、一本どうですか?」


 そんな気軽に渡されても。そうか、ダナンの力にはそんな秘密が有ったのか。


「……因みに副作用は?」


「有りませんよ?用法用量を守っていただければ」


「では、彼らは何故?」


 魔物を指差し問い詰める。


「あぅ、わたしのせいなんです、わたしが……」


 ヒウンがうつむきながら答える。


「わたしが、渡すときに転けて原液をそのまま頭から掛けちゃったから、あんな事に………」


 まさかのドジっ子!?いや、これをドジで片付けていいものだろうか?


「………では、最近王都近郊での事件は?」


「………薄める倍率を間違えて渡してしまって……」


 うん、もはや災害だよ、事故とかそんなレベルじゃないドジだよ。


「……人選ミスって言葉知ってるか?」


「あ、最近魔王様もその言葉言ってました!凄く頭を抱えながら。どうゆう意味ですか?」


「いや、知らないならいい」


 何だろう、魔王って苦労してるのかな?


「さて、どうしたものだろうか」


 安全のためにも、この子はこの場で保護……いや、捕まえるべきか?


「あ、では、わたしそろそろ帰りますので」


「え?あー、うん、気を付けてな?」


「はい!」


 悩んだ据えヒウンを見送る。


「よろしいのですかタクト様」


「ああ、結果的に魔王軍の計画は彼女自信の手でぶち壊されているしな、とりあえず国王に今回の件を伝えて、警戒を強化してもらえばいいだろうよ」


 恐らくだが選ばれている奴等も、どうせろくな奴じゃないはずだし。


「と言うわけで、ルアンヌ様王都に行きましょうか」


「畏まりました、部下に指示を出してから行きますので、王都で落ち合いましょう」


「では、門の前で待ってます」


「はい、お気をつけて」


 一旦ルアンヌ様達とは別れて先に王都に向かう事に。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ルアンヌ様より先に王都に着いていた俺達は街の門前に来ていた。


「何処か目立つ所に居た方がいいか?」


「タクト様!あそこなら分かりやすいんじゃないですか?」


 フェンの指差す方には、ドラゴンの剥製があった。


「あれってもしかして」


「はい、我々が捕まえた物でしょう」


「待ち合わせの人が沢山いますね」


 どうやらハチ公見たいに、待ち合わせの際の目印になっているようで、馬車や冒険者のグループが集まっていた。


「まぁ、目立つからな」


「タクト様タクト様!あっちに屋台がありますよ!」


「……本当に観光スポットみたいだな」


 こうして俺達は王都に戻って来た。



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