異世界行ったら従者が最強すぎて無双できない。

カザミドリ

東の街イリマ

 さて、矢継ぎ早に変態と遭遇したわけだが。まさかの?魔王軍幹部だった。


「ふふん、驚きに声も出ないようだな!」


「さすがアニキですぜ!」


 いつの間にかワラワラと子分が出てきていた。因みに全員ブーメランパンツ。


「ブーメランパンツの盗賊ってどうなんだろうか?」


 恐怖を与えるという事なら、ブーメランパンツ一丁の集団は効果抜群ではあるが。


「ん?そう言えば人魔って?」


「なんだ?知らないのか?なら教えてやろう!」


 子分①が前に出てきて誇らしそうに語り出す。


「この御方こそ!人の身でありながら、彼の魔神にも匹敵するであろう力を得て、魔王軍にスカウトされた人魔将ダナン様であーる!」


 今にも頭が高い!と言い出しそうな勢いで子分①が矢継ぎ早に説明をする。人の身でありながら魔神に?まぁ、確かにその格好からは人を捨てた感が漂うが。


「……そこまで強そうには見えないな?」


「ふふん、見ているがいい!」


 そう言ってダナンは近くにあった岩に近づいていく。


「はぁぁぁ、ふん!」


 ポージングを取り。


「はぁ!」


 岩に拳を叩き込み粉砕する。ポージングの意味はともかく確かにその力は普通の人のものではない。


「どうだ!見たか俺の力!」


 再度ポージングを取りながら暑苦しく問うダナンだが。


「………フェン」


「はい、タクト様!」


 呼んだだけで意図を察してくれたフェンがダナンの砕いた岩の隣にある倍以上は大きい岩の前に立つ。


「ほっ!」


 少し気の抜けた掛け声と共にフェンが軽く岩を叩くと。


ドオォン!


 まるで爆撃にでも有ったかのような轟音と共に岩の有った場所が吹き飛ぶ。


「…………」


 あんぐりと口を開けて呆然とするダナンとその子分。


「これでよろしいでしょうか?タクト様!」


 子犬が誉めて欲しそうにするように、満面の笑みのフェンの頭を撫でる。


「ああ、バッチリだ」


 バッチリ力の差は見せられただろう。


「おーい!人魔のダナンさん?」


「…………」


「ダメだ、聞こえてない」


「い、いったい、その子は?」


「うちの従者だよ、他に三人同じ様なのが控えてるけど」


 後ろに控えているメロウ達を見て引きつった笑いをするダナン。


「お、お前ら何者だ?」


 何者と聞かれたらまぁ。


「勇者パーティー?かな」


 手の甲を見せてとりあえず勇者と名乗る。


「な!?ゆ、勇者だと!?」


「ダナンのアニキ!そういえばこいつらベイルンの方から来ましたぜ!」


「なに?確かベイルンにはミエムが行っていたはず、そういえばミエムは勇者を倒しに行くと言っていたな、こいつらがここに居るという事は取り逃がした?いや、ミエムは変態だが四天王の一人だ、簡単に取り逃がすとは考えずらい、それに聞いていた勇者とは違うように見える………」


 変態が変態を罵りつつ何か考えていたようだが。


「まぁいい!ミエムが取り逃がしたのなら、俺の手柄にしてくれる!」


 直ぐに考える事を放棄した。潔さに感心するべきか?脳みその固さに呆れるべきか?


「ここで潰れろ勇者!」


 両手を広げ掴みに来るダナンであったが。


「ふっ」


 その前に出て掴み合いをするフェン。本来なら体格差的にフェンが押し負けるはずだが。


「え?いや、ちょっと、くっ、お?ぬぅ……」


 徐々にダナンは押さえつけられ、最終的には地面に這いつくばる形になる。


「ちょっと待って!痛い、痛い、痛い!」


 這いつくばって尚押し込むのを止めないフェン。


「あー、フェン?離して上げなさい」


「はーい!」


 指示すると直ぐにフェンが手を離し、慌ててダナンが逃げる。


「な、何なんだその子供は!?」


「悪い事は言わないから帰れ、追いかけないから」


 正直追う理由も捕まえる理由も無い、勇者とはいえ今後どうするかは検討中である。


「………くっ、今日の所は見逃してやる!有り難く思え!」


「野郎共ずらかるぞ!」


 ダナンが一目散に逃げる中、子分達が慌てて追いかける。


「……はぁ、もう魔王軍は勘弁だな」


 魔王軍って変態の集まりなのか?


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 さて、ダナンが去り一難去ってまた一難……とはならず、その後はイリマまで何事もなく進んで居たのだが。


「タクト様、検問があります」


「……またか」


「また勇者ですかね?」


「いやフェン、勇者今俺だからね?」


「あはは、そうでした」


 勿論俺達は道を塞げなんて言っていない。


「何のための検問何だ?」


「……ふむ、以前のものより些か険しいですな」


「はい、何か空気がぴりぴりしてます」


 どうやら何か相応の理由があって検問が開かれているらしい。


「クロノあまり刺激しないようにゆっくり近づいてくれ」


「承知しました」


 殺気立つ検問にゆっくりと差し掛かる。


「停まれ!」


 もう言い方が殺気立ってる。


「これは何の騒ぎですか?」


「ギルドマスターレイツ様の命により、盗賊の一斉排除をしている!中を改めさせてもらうぞ!」


「はぁ、どうぞ」


 うーん、ギルドマスター直属の命令なら仕方ないか。盗賊関連で何かあったのかも。


「む!?この少女達は何だ?何処から拐ってきた!」


「いえ、拐ってません、従者兼冒険者仲間です」


「嘘をつくな!怪しいな……」


 あー、人の話を聞かないタイプの兵士だ。


「まぁまぁ、そんなにぴりぴりしなさんな」


 後から話を聞かない兵士を宥める声が聞こえた。


「悪いねぇ、ちょいと苛立ってるのよ許してやってくれ」


 そこにはヨレッとしたオッサン兵士が居た。鎧を身に付けているんだが、雰囲気と言うか、纏う空気がヨレッとしている。


「隊長しかし!」


「まぁまぁ、とりあえず全員のギルドカード確認したらどうだい?」


「む、それもそうですな………」


 部下を宥めつつ解決策を投じる、できる上司だ。


「いやー申し訳ないがギルドカードを見せてもらっていいかな?」


「いいですよ」


 低い姿勢からの柔らかい物言いに快くギルドカードを渡す。メロウ達もギルドカードを出して確認してもらう。


「はい、確かに皆さん冒険者ですね」


「失礼しました!」


 冒険者で有ることを確認すると直ぐに部下の人は謝って来た。


「いえ、分かって貰えれば大丈夫です」


 その後馬車に積んでいた申し訳程度の食料(ほとんどの荷物はメロウが空間魔法で収納している)などを確認して検問は無事終わる。


「はい、大丈夫ですね通っていいですよ、お騒がせしました」


 通行の許可は貰ったが、興味本意で話を聞くことに。


「どうしてあんなに威圧的と言うか、苛立ってたんですか?」


「ん?ああ、君達が来る前にここを盗賊に突破されちゃってね」


「盗賊にですか?」


 俺達の対応をした二人の他にも、武装した兵士が多く駐留しているここを突破する盗賊が居るなんて………心当たりは一つしかない。


「………もしかして変な格好、具体的にはパンツ一枚の集団では?」


「よく知ってるね?我々も彼らがこの近くに潜伏しているのを知らなかったのに」


 兵士の視線が鋭くなる。


「ええ、まぁ、来る前に絡まれたんで」


 隠すことでもないので素直に答える。


「ほぅ?彼らは魔王軍の幹部だよ?よく無事だったね」


 更に視線が鋭くなるのが分かった。


「そうですね、この子のお陰で撃退できました」


 フェンの頭を撫でながらにこやかに言うと。


「………君達は本当に何者だい?」


 さっきまで穏やかだった兵士隊長の顔が険しくなったので仕方なく。


「一応勇者です」


 名乗ったのだが。


「…………」


 どうやらまだ伝わっていなかったらしく、目を点にして驚く兵士隊長とその部下。それだけでは留まらず、検問所に居た兵士も馬車の御者もこちらを見て唖然としている。


「あ……ああ………」


「大丈夫ですか?」


「も、申し訳ありませんでした!!」


 先程とは比べ物にならない謝罪をされる。両手、両膝を地面につける所謂土下座スタイルである。


「えっと?」


「す、直ぐに冒険者ギルドにご案内致します!おい!道を開けろ!」


 その後何が何だかわからないまま冒険者ギルドに連れて行かれ、そこで目にしたのは。


パーパパパンパパパパー!!


 パレード並の鼓笛隊によるトランペットの様な楽器演奏と。


「ようこそいらっしゃいました!勇者タクト様!!」


 満面のギルドマスターレイツさんによる大歓迎だった。前にも思ったけど俺、レイツさんに何かしたっけ?


 こうして俺達は東の街イリマにたどり着いた。



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