勇者?いいえ、聖・魔剣使いです。〈 聖・魔剣使いの英雄談〉

カザミドリ

7.聖魔剣の英雄

「野郎共!準備はいいか!」

『おぉ!!』

ダイア皇帝が先頭に立ち、俺達は魔王へと向かうため魔物の壁に突撃する。

「……まるで盗賊だな」

「良いんだよ、この方がうちは気合いが入るんだ!」

盗賊のような帝国軍の声に呆れつつ前に足を踏み出そうとしたが。

「明くん!?」

踏み出そうとしてよろめく、思ったよりもダメージが蓄積されている。

「くっ、何とか……」

「無理はしないで下さい、今回復を……」

「いや、その時間が惜しい……」

見れば魔王の腕は徐々に治り始めている。

「直ぐにでも動き出しそうだな」

「確かに時間は無さそうだね、なら……」

「うむ!」

敦によっておぶられる俺。

「……何してんだ?」

「このまま魔王の所まで行くのだ!……むう?」

敦の背から飛び降りる。

「却下だ、何が行くのだ!だ、恥ずかしくて死ねるわ!」

「でも、明くん……」

「平気だ、だが、出来るだけ体力は残したいな」

聖魔剣の性能的にも、俺の体力的にも、一撃必殺に拘る理由がどんどん増えていく。

「わかりました、これよりベアトリス王国も、工藤様の道を作るため、決死隊に加わります!」

『おぉ!』

ミレナ女王の言葉に兵士達が陣を牽いていく。

「いいのか?」

「はい、どのみち工藤様が失敗すればこの世は終わり、ならば我らは未来を信じて工藤様の道を作りましょう」

「責任重大だな」

「ええ、わたくし達の未来のために」

クリスティア法王が微笑みながら、俺の背中に手を翳す。

「………これで少しは回復したはずです、どうか、この世界のために……」

「分かってる、その為にここまで来たんだからな」

「では、我らも戦線に加わりましょう、多少の露払いはできると思います」

そう言って法国の兵士も戦線に加わる。

「私達エルフも前に出ましょう」

「リュカ族長」

「………この先、エルフと人が手を取り合い続ける未来のために、私達も礎に成りましょう」

エルフの戦士達も戦線に加わる、結局総力戦になり、次々と魔物を押し込んでいく。

「……仕方ない、もうひと頑張りか、まったく嫌になるな」

「明?」

「世界のためにとか、未来のためにとか、盛り上がってるけど、俺は……」

「勇者じゃない!でしょ?みんな分かってるわよ、あんた行く先々で言ってたもんね」

「うん、でも、明くんはみんなにとって、私達にとって、勇者だよ」

「それが嫌なら、もっといい呼び方があるよ?」

「うむ、明にぴったりの呼び名だ」

「あー、だいたい分かるから良いわ言わないで」

『聖魔剣の英雄!』

澪、司、鈴、敦が声を揃えて言う。言わなくていいって言ったのにだ。

「というか、それって……」

〈私が命名しましたマスター〉

やっぱりナビさんか。

〈私はマスターを英雄にすると言いました、そしてようやく、ようやくマスターは英雄になったのです!〉

「いや、成りたくてなったわけじゃないし、まだ終わってないし……」

ぼやきながら澪達を見ると。

「さぁ明くん、行こう魔王を倒しに!」

「ああ、終わらせようじゃないか」

「うむ、皆の未来のために」

「それで、明日もみんなで笑い会うために!」

それぞれの決意は固く、手を差し出してくる。

俺は手を取り。

「ああ、行こう、最後だ!」

ダイア達が奮闘する前線に向かって走る。


「遅いぞ、明!」

「悪かった、状況は?」

「戦線を徐々に押し上げているが……」

「いるが、間に合いそうに無いか?」

魔王の腕は既に半分ほど回復していた。

「ああ、なのでこれから決死隊による中央突破を行う、明達はしっかり後ろを着いてこい!」

「大丈夫なのか?」

「ふふふ、嘗めてもらっては困る、選んだのは各国の精鋭だ、必ずお前達を魔王の下へ送り届ける!」

「………わかった、頼んだぞ」

言い終わるや、ダイア皇帝が号令を掛ける。

「一同前へ!突撃ィ!!」

『ウォォ!!』

怒号と共に兵士達が駆け出し、狭いながら魔王へと続く道が作られる。

「明!」

「おう!」

ダイア皇帝、ミレナ女王、クリスティア法王、リュカ族長の先導により、作られた道を掛ける。途中前に出てきた魔物は四人によって倒される。

ダイア皇帝達の頑張りにより、俺達は魔王の下へたどり着くが。

「………ふん、小賢しい人間供が」

「ちっ、一歩遅かったか」

先に腕を修復した魔王が動き出す。

「今度こそ、引導を渡してくれるわ!」

「それは、こっちのセリフだ!」

再び振り上げられる魔王の腕、先程より厚く巨大な剣に成り振り下ろさせれる。

「あっちも決死か……」

「明……」

「ああ、分かってる、行くぞ!」

「うむ」

「うん!」

「あ、いて!」

ん?いま、何か、不吉な声が………?

「鈴!」

「明、鈴が!」

「………ここにきて転ぶか!?」

「みんなごめーん!」

鈴が床に寝そべりながら謝る。いいから早く立て!

「くっ、明どうする!?」

「こうなったら鈴無しで!」

「いや、澪、確実を求めるなら鈴も……」

そうこうしている間も魔王の剣は迫ってくる。

「ふははは、無様に死ぬがいい!」

いや、本当にな、ここまでカッコ悪いのは、無いわ。

「ぬぅ!?」

魔王が驚愕の声を上げるので、視線を鈴から魔王に戻す。そこには。

「工藤!」

「工藤くん!」

ガシャン!

委員長とキャプテン、それに瀕死のデュラハンが魔王の剣を受け止めていた。

「むぅ、小賢しい!」

「おあいにく様、私の力は防御に特化したものなのよ!工藤くん!今のうちに!」

おぉ!何か、委員長が主人公っぽい感じを出してる、脇役なのに。

「明!ごめん!」

ようやく鈴が戦列に加わる。

「いや、本当にな?」

「明くん、今は……」

「分かってる、全員、ガラドボルグを持て!」

司達に急いで柄を握らせる。

「ぐぅ!」

「きゃあ!」

ガシャン!

俺達がガラドボルグを振り上げるのと同時に、委員長達が吹き飛ばされる。

「ぬぅ、聖魔剣使い!」

「勝負だ、魔王!」

振り上げたガラドボルグの刀身が光に変わる。

光と闇の剣はぶつかり合いつばぜり合いを繰り広げるが。

「くぅ、明くん!徐々に押されてるよ!」

一瞬均衡したが、少しずつ押し込まれていく。

「ちぃ、まだ足りないのか……」

足りない分は気合いで!なんて、無理だよな。

「工藤くん!」

「工藤!俺達も手伝うぞ!」

そう言って戦列に加わるのは、先程吹き飛ばされた、委員長とキャプテン。

「よし、行くぞ!」

とは言ったものの、つばぜり合いはようやく均衡したぐらいだった。

「押し込めないか?」

「無理よ!」

何とか後一歩踏む出せないか?そう思っていると。

「工藤 明!」

「また、誰か……」

来てくれたと思ったが、考える限り一番最悪な人選だった。

「日野、お前……」

味方か?敵か?

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