赤の絆

咲羅 屡依

6話 救助(2)

サイレンが聴こえる。
人の声も。


だけど目を開けない。
目蓋が重い。

辛うじて指先がピクリと動いた。
そんな俺の手に温かいものが触れる。


手?
誰の?

何が起きてるんだ?



俺は意識だけで感じとる。
大人の人の怒鳴り声に混じって親父の叫び声もした。それに姉ちゃんが涙声で怒鳴ってる?

何で姉ちゃんがここに?


俺は困惑しながらも、動かない身体ではどうすることも出来なかった。











それからどれだけ眠っていたんだろう?
俺が目を覚ますと、今までの感覚が嘘のようになくなっていて、お腹は痛くない。身体も怠さはあるが、普通に動く。

腕には無数の点滴。
ゆっくり身体を起こす。


「ここは…病院?」


辺りを見渡す。状況が少しずつ見えてきた。


病室の隅にあるソファーを陣取って寝ている翔英さん。
パイプ椅子を並べて、その上に器用に寝ている晴。それから…。


ベッドサイドに突っ伏して眠る姉ちゃん。


「俺は、助けられたの?」


姉ちゃんの髪をそっと撫でる。
力は思うように入らないけど、あの時よりは確実に動く。


点滴は栄養を流し入れてくれんのかな。


その時、姉ちゃんがピクリと動いた。
眠そうに起き上がり、目を擦る。

起きている俺と目が合うと、数回パチクリ瞬きをした。


「姉ちゃん…えっと、ありがとう?」
俺が照れ臭そうに笑うと、姉ちゃんの目から滝のように涙が流れ落ちた。

「え、ちょ、姉ちゃん?」
俺は焦った。あわあわしていると、圧し殺すような笑い声が聞こえた。

寝ていたはずの翔英さんと晴がこちらを見ながら笑っている。


姉ちゃんは電話の俺の様子から嫌な予感がしていたらしく、色々調べて回り、近所で最近俺が目撃されていない事を聞いた。もしかして殺されたんじゃないかと焦って翔英さんが父親に事情を話してくれた結果、状況確認してみて、場合によっては逮捕状を取ってくれると、本気で動いてくれたと姉ちゃんは泣きながら話してくれた。


「俺、死んだと思った」
そう呟けば、姉ちゃんはまた大泣きしながら俺にしがみついている。


駆けつけた看護婦に検温とか色々されてたら医者がきた。

「脳に異常はないけど、栄養が足りてないのと腸炎になってるからね。あと2、3日は入院しようね。」

医者はそう告げて病室をあとにした。
看護婦も点滴を付け替えてから出て行った。


「良かったな、暁斗!」
晴が笑顔で拍手している。
翔英さんもほっとしたような表情だ。


これで、本当に親父から解放されたのかと思うと、自然と涙が溢れた。

つーっと頬を伝う涙。
姉ちゃんはそれを見て、俺の首に手を回し、ギュッと抱き付いてきた。

「もう大丈夫だから。」
小さく、震えた声が耳元から聞こえた。



俺はゆっくり、姉ちゃんを抱き締め返した。

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