赤の絆

咲羅 屡依

5話 救助(1)


6日目。
携帯電話の充電は、10%以下。
電源を落として消費電力を下げるが、元に戻る事はない。

食事は親父が持ってくる。
酔っ払いが持ってくる物だから、親父のつまみの余りとか、お菓子類ばかり。

水はペットボトルで与えられた。
トイレは飲みきったペットボトルに溜めておくと、親父が飯を持ってきたついでに回収していく。

世話はされている。
ただ、大便が6日間出来ていないのと、身体を大きく動かしていないため、腹の痛みと怠さは時間が経つにつれて我慢し難いものになった。

「限界かな…」

電話の電源を入れる。赤いランプで充電が残り僅かだと報せてくる。

画面に番号を表示させる。
ワンプッシュで表示出来るこの番号。
ずっと鳴らせなかった。

知暁の2文字。
晴はこれを「ともあき」って読んでたっけ。

本当は逃げたくない。
助けてなんて言えない。
姉を守るのが弟の務めだ。

けど、もしこれが最後なら、姉ちゃんの声を聞きたい。


俺は力ない震える手で通話ボタンを押した。



2コール。
たったそれだけのコール音の後、優しい声が聞こえた。


俺を呼ぶ声。
俺を気遣うような優しい声。


俺は掠れた声で、
「姉ちゃん…逃げて…」
それだけ告げて通話を切った。


ゴトンと電話が手から離れて落ちる。
栄養失調、運動不足、便秘、あとは何だろうな。身体が悲鳴をあげてるのがわかる。

力が失われていく感覚。
俺は目を瞑り、もう一度姉の名を呼んだ。












10日目。
携帯電話の充電は7日目の夜になくなった。
与えられていた水もなくなったが、その頃から親父は1度も来ていない。物音すらしていないから、家にいないのかもしれない。


動く気力はもうない。
力も残っていない。

10日間縛られ続けている両手足は数日程痺れていたが、今はもう感覚がない。

水と食料もなくってから3日も生きている自分に驚く。いつ気を失ってもおかしくない。
気を失ったら、多分もう助からない。


俺は扉をコンコンと足で叩いた。
蹴る力はもうないから、足を扉にあてるだけだが、音を鳴らさないよりマシだろう。


これが俺の最後の力だった。




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