愛の裏返し
第一話 出会い
はっきり言っておこう。俺は外道だ。これまで数知れない女を騙してきた。いわゆる結婚詐欺師ってやつだ。バレないように仕事を転々としながら、次のターゲットを探している。
俺は指輪を外した。
「これももういらないな…」
その指輪を橋の下の川に向かって投げた。指輪はやがて見えなくなった。さて、家に帰って次の仕事を探すか・・・。俺は暗闇の中、家に向かって歩き出した。
女は信用出来ない。愛想が尽きたら他の男の元へ去って行く。玩具のような扱いをする…。
と思っていたんだ、あの女と出会うまではな。
私は「愛してる」という言葉を何回も聞いてきた。口では何度でも言えるけれど、心の中はどう思っているのか分からない。金持ちの中年男から3000万騙し取った事もある。
男なんて信用できない・・・。私はずっとそう思っていた。馬鹿にされた学生時代から、自分で努力してこの美貌を手にした。でも、男は顔さえ良ければすぐに寄ってくる。
私はあれから沢山の男から求婚されたが、全部断ってやった。何を考えているのか全く分からない。真面目に私と向き合ってくれる人なんて居ない。そして結婚詐欺に手を出した。罪悪感は湧かなかった。金づるになっていると気づかず、貢いでくる男達を見て嘲笑っているのが今の楽しみ。
本当の私を愛してくれる人なんていない…
私はそう思っていた。あいつと会うまでは。
俺が仕事を探していると、飯島から電話がかかってきた。飯島は学生時代からの友で、信用していた。
「よお、加瀬。元気そうで何よりだ」
「それより何だ?」
「実はな、俺の兄貴が婚活パーティーをやるらしいんだが、男の人数が足りねぇらしいんだ」
「へぇ、つまり人数の埋め合わせで来て欲しいって事か?」
「そゆこと」
「構わないが、何故俺に頼むんだ?」
「お前さ、学生時代から自分を磨いてさめちゃくちゃイケメンになったじゃんか。お前、絶対モテると思うんだよ、俺」
「なるほど」
俺はしばらく考えこんでいた。また新しいターゲットでも探すか。俺は飯島との電話を切ると、再びパソコンに向かい仕事を探し始めた。
 
「ねぇ、香世あんたもそろそろ結婚でも考えたらどうなの?」
「え?結婚?」
道端で偶然にも高校時代の友人に遭遇し、私達は談笑していた。
「だってさ、あんたみたいな美人を男がほっとくはずがないじゃない」
「…結婚ねぇ」
「丁度、会社の先輩から婚活パーティーに来ないかって誘われているの。出来たら友達でも呼んでくれると嬉しいって」
「…じゃあ行こうかな」
「そう言うと思ってたわ」
結婚なんてする気はさらさらない。新しい金づるを見つけに行くだけ。楽しそうに笑う彼女を見ながら私はそう考えていた。
「ここだ」
上等なスーツを着た飯島に連れられてとあるホテルにやって来た。都内でも有数の高級ホテルだ。
「なぁ、お前の兄さんどんだけ太っ腹なんだよ」
「さぁ。俺も知らねえ」
俺は飯島と共にそのホテルの中へ入っていった。中に入ると、ホテルマンがパーティーが開催されている部屋へと案内してくれた。
部屋へ着いた時には既に殆どの参加者が集まっていた。
「…さて、俺は美女を漁りに行くか」
本能丸出しの飯島とは、うって変わって俺は冷静だった。
こういう時は、自分から行かず、向こうから来てくれるのを待つのだ。そうすれば、ホイホイと近づいて来る。俺はこれまで常にそうやって、結婚詐欺を繰り返してきた。
「…腹が減ったから、何か料理でも取りに行って来る」
「加瀬も良い子を見つけろよ〜」
「分かってるよ」
俺は怪しまれないよう、料理のコーナーへと向かった。
私は瑞子と共に、パーティー会場である都内の某ホテルに来た。
「良い男を見つけるぞー!」
「ちょ、瑞子、大声で叫ばないで」
瑞子は、何度も合コン等で失敗して来ている為、今度こそはとこのパーティーにかけているのだという。
私に言わせれば男とくっついても、浮気されるか子供が出来て蒸発されるのがオチだろうと思ったが、それは心の中に仕舞い込んだ。
私は思い出しかけた昔のトラウマを吹っ切って、瑞子と共にそのホテルの中に進んで行った。
ホテルの中に進むと、既に多くの人が集まっていた。
金持ちのボンボンらしい男が沢山いた為に私はターゲットを、見定めなくてはいけなかった。
だけども、いきなり突っかかっていくと怪しまれてしまうので、まず私は料理のコーナーへ行った。
そして、適当に何かを取った後、ターゲットに近づいて行く。
料理を取って戻ろうとした時、誰かにぶつかった。
あぁ、俺とした事がうっかりしてしまっていた。
料理コーナーで俺は人とぶつかってしまった。相手は女だった。その女は蒼いドレスを着ていた。
(…まぁ、今回の獲物はこの女で良いか)
そう思った俺はいつものように、紳士風の演技をした。
「…あぁ、すみません。お怪我はありませんか?」
女に手を差し出した。女は俺の手を掴んで立ち上がった。
「こちらこそすみません。不注意でした」
「いえいえ。…お名前を聞いても宜しいでしょうか?」
「深見香世といいます。新宿にあるIT企業でエンジニアをしています」
「…僕は加瀬紀仁といいます。東村山の方にある食品加工工場で、工場長をしています。」
俺は、怪しまれないように名刺を差し出した。因みに、この経歴は全てハッタリである。東村山に食品加工工場なんてものは無い。
女は名刺を受け取ると、それを見ながら
「…工場長なんて凄いですね!」
と言ってきた。よし。上手く騙せたようで、良かった。
ぶつかって来た男は、黒いネクタイをした金持ち風の若い男だった。
その男は私に手を差し出してきた。私はターゲットをこの男に決めた。
そして、その男の手を掴んで立ち上がった。
「…お名前を聞いても宜しいでしょうか?」
「深見香世といいます。新宿にあるIT企業でエンジニアをしています」
「…僕は加瀬紀仁といいます。東村山の方にある食品加工工場で、工場長をしています」
その工場の名前が入った名刺も差し出してきた。
どうやら本当みたい。
それが、あの男との出会いだった。
俺は指輪を外した。
「これももういらないな…」
その指輪を橋の下の川に向かって投げた。指輪はやがて見えなくなった。さて、家に帰って次の仕事を探すか・・・。俺は暗闇の中、家に向かって歩き出した。
女は信用出来ない。愛想が尽きたら他の男の元へ去って行く。玩具のような扱いをする…。
と思っていたんだ、あの女と出会うまではな。
私は「愛してる」という言葉を何回も聞いてきた。口では何度でも言えるけれど、心の中はどう思っているのか分からない。金持ちの中年男から3000万騙し取った事もある。
男なんて信用できない・・・。私はずっとそう思っていた。馬鹿にされた学生時代から、自分で努力してこの美貌を手にした。でも、男は顔さえ良ければすぐに寄ってくる。
私はあれから沢山の男から求婚されたが、全部断ってやった。何を考えているのか全く分からない。真面目に私と向き合ってくれる人なんて居ない。そして結婚詐欺に手を出した。罪悪感は湧かなかった。金づるになっていると気づかず、貢いでくる男達を見て嘲笑っているのが今の楽しみ。
本当の私を愛してくれる人なんていない…
私はそう思っていた。あいつと会うまでは。
俺が仕事を探していると、飯島から電話がかかってきた。飯島は学生時代からの友で、信用していた。
「よお、加瀬。元気そうで何よりだ」
「それより何だ?」
「実はな、俺の兄貴が婚活パーティーをやるらしいんだが、男の人数が足りねぇらしいんだ」
「へぇ、つまり人数の埋め合わせで来て欲しいって事か?」
「そゆこと」
「構わないが、何故俺に頼むんだ?」
「お前さ、学生時代から自分を磨いてさめちゃくちゃイケメンになったじゃんか。お前、絶対モテると思うんだよ、俺」
「なるほど」
俺はしばらく考えこんでいた。また新しいターゲットでも探すか。俺は飯島との電話を切ると、再びパソコンに向かい仕事を探し始めた。
 
「ねぇ、香世あんたもそろそろ結婚でも考えたらどうなの?」
「え?結婚?」
道端で偶然にも高校時代の友人に遭遇し、私達は談笑していた。
「だってさ、あんたみたいな美人を男がほっとくはずがないじゃない」
「…結婚ねぇ」
「丁度、会社の先輩から婚活パーティーに来ないかって誘われているの。出来たら友達でも呼んでくれると嬉しいって」
「…じゃあ行こうかな」
「そう言うと思ってたわ」
結婚なんてする気はさらさらない。新しい金づるを見つけに行くだけ。楽しそうに笑う彼女を見ながら私はそう考えていた。
「ここだ」
上等なスーツを着た飯島に連れられてとあるホテルにやって来た。都内でも有数の高級ホテルだ。
「なぁ、お前の兄さんどんだけ太っ腹なんだよ」
「さぁ。俺も知らねえ」
俺は飯島と共にそのホテルの中へ入っていった。中に入ると、ホテルマンがパーティーが開催されている部屋へと案内してくれた。
部屋へ着いた時には既に殆どの参加者が集まっていた。
「…さて、俺は美女を漁りに行くか」
本能丸出しの飯島とは、うって変わって俺は冷静だった。
こういう時は、自分から行かず、向こうから来てくれるのを待つのだ。そうすれば、ホイホイと近づいて来る。俺はこれまで常にそうやって、結婚詐欺を繰り返してきた。
「…腹が減ったから、何か料理でも取りに行って来る」
「加瀬も良い子を見つけろよ〜」
「分かってるよ」
俺は怪しまれないよう、料理のコーナーへと向かった。
私は瑞子と共に、パーティー会場である都内の某ホテルに来た。
「良い男を見つけるぞー!」
「ちょ、瑞子、大声で叫ばないで」
瑞子は、何度も合コン等で失敗して来ている為、今度こそはとこのパーティーにかけているのだという。
私に言わせれば男とくっついても、浮気されるか子供が出来て蒸発されるのがオチだろうと思ったが、それは心の中に仕舞い込んだ。
私は思い出しかけた昔のトラウマを吹っ切って、瑞子と共にそのホテルの中に進んで行った。
ホテルの中に進むと、既に多くの人が集まっていた。
金持ちのボンボンらしい男が沢山いた為に私はターゲットを、見定めなくてはいけなかった。
だけども、いきなり突っかかっていくと怪しまれてしまうので、まず私は料理のコーナーへ行った。
そして、適当に何かを取った後、ターゲットに近づいて行く。
料理を取って戻ろうとした時、誰かにぶつかった。
あぁ、俺とした事がうっかりしてしまっていた。
料理コーナーで俺は人とぶつかってしまった。相手は女だった。その女は蒼いドレスを着ていた。
(…まぁ、今回の獲物はこの女で良いか)
そう思った俺はいつものように、紳士風の演技をした。
「…あぁ、すみません。お怪我はありませんか?」
女に手を差し出した。女は俺の手を掴んで立ち上がった。
「こちらこそすみません。不注意でした」
「いえいえ。…お名前を聞いても宜しいでしょうか?」
「深見香世といいます。新宿にあるIT企業でエンジニアをしています」
「…僕は加瀬紀仁といいます。東村山の方にある食品加工工場で、工場長をしています。」
俺は、怪しまれないように名刺を差し出した。因みに、この経歴は全てハッタリである。東村山に食品加工工場なんてものは無い。
女は名刺を受け取ると、それを見ながら
「…工場長なんて凄いですね!」
と言ってきた。よし。上手く騙せたようで、良かった。
ぶつかって来た男は、黒いネクタイをした金持ち風の若い男だった。
その男は私に手を差し出してきた。私はターゲットをこの男に決めた。
そして、その男の手を掴んで立ち上がった。
「…お名前を聞いても宜しいでしょうか?」
「深見香世といいます。新宿にあるIT企業でエンジニアをしています」
「…僕は加瀬紀仁といいます。東村山の方にある食品加工工場で、工場長をしています」
その工場の名前が入った名刺も差し出してきた。
どうやら本当みたい。
それが、あの男との出会いだった。
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