幼馴染の"仮面"

おむらいす星人

3話 知らない顔

何かの拍子に目が覚める。

時刻は夕方の6時。

母さんも父さんもまだ帰って来ていない。

自分の姿を見ると、制服姿のままで、鏡に映る自分の顔は涙のせいで目が腫れ、髪もボサボサだった。

そうか、帰ってきたあとそのまま眠ってしまったのか。

いつもなら、非効率な時間の使い方をする自分に怒る所だが、どうにもそんな気分になれなかった。

____彼女が出来たんだ。

また幼馴染の言葉を思い出す。

先程より幾分か冷静にはなっていたが、やはり何故か胸が痛い。

コンコン

私の部屋のドアをノックする音。

誰だろう、母さんか?

「友笑、俺だけど…」

それは確かに幼馴染の正司の声だった。

聞き飽きた声だ、間違いない。

でも、なんで、どうして。

「家のドア空きっぱなしになってたから…お前にしては珍しいと思って心配になったんだよ」

なるほど、そういうことか。

いや、納得している場合ではない。

今の私は醜い姿をしている、"完璧"ではない。

こんな姿を_____

「友笑、入るぞ」

「待っ!」

制止の声は間に合わず、ドアが開く。

正司としっかりと目が合った。

見られた、この腫れた醜い目を。

「やめてくれ、見るな…!」

慌てて布団を被る。

「友笑…泣いたのか…?」

「違う、これはお前のせいで泣いたのではない。これは…」

「えっと…俺のせいなのか…?」

しまった、墓穴を掘った。

これでは正解を言っているも同然だ。

「…出ていけ、不法侵入だ。早く、出ていけ」

"完璧"な私が崩れて行く。

「友笑は俺のせいで泣いているのか」

正司はいつもと違う調子で言葉を紡いで行く。

「頭が良くて、美人で完璧な友笑が、まるで赤ん坊の様に目を腫れさせ、髪もぐしゃぐしゃにさせている」

声と言葉だけで様子がおかしいと分かった。

「そうか、そんなに俺が付き合ったのが悲しかったのか」

「せい、じ…?」

「嫉妬か?」

「ちがっ!」

つい布団から顔を出す。

また正司と目が合う。

彼は笑っていた。

笑っていた、私の知らない笑みだった。

16年間一緒に居たのに、初めて彼のそんな顔を見た。

その時感じた感情は恐怖に近いけれど、恐怖ではないよくわからない感情。

「滑稽だなぁ」

恥ずかしさで、顔に熱が集まる。

「どうした?いつもお前が言っているセリフだぞ?」

「…様子がおかしいぞ、正司」

あくまでも冷静に、落ち着いてそう言った。

「俺の彼女は頭は悪くて、髪も染めてる。品行方正とはかけ離れてる馬鹿女だよ。お前とは正反対のな」

「……そうか、そういうのがタイプだったんだな。初めて知ったよ」

「何か言う事は?」

正司はずっと笑っている。




「…おめでとう、長続きするといいな」

「二人目の彼女になってくれよ、友笑」

思考が停止した。

何を言っているんだ…?

「俺さ、馬鹿女だけと恋愛するのも完璧女も恋愛するのもどっちも飽きるから、出来ることならどっちともと付き合いたいんだ。だからさ、二人目の彼女になってくれよ」

「は…?」

「友笑は俺と離れんの嫌で泣いたんだろ?だったら付き合うしかないだろ?」

「そ、んなの、浮気だろ」

「…あのさ、俺には友笑は居なくてもいいし、代わりなんて探せばいいけどさ。

友笑には俺しか居ないんじゃないの?」

正司は平気でこんな事言うやつじゃない。

正司の正は正しいの正なんだ。

こんな間違った事を当たり前のように言うやつなんかじゃない。



こいつは一体…誰なんだ…?


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