幼馴染の"仮面"

おむらいす星人

1話 幼馴染

朝、スマホのけたたましく鳴るアラーム音で目が覚める。

薄く開いた目でスマホを見ると、時刻は7時と表示されていた。

重たい身体を起こし、軽く毛伸びをしてから布団から出る。

おぼつかない足取りで1階へ向かうと、母はいつもと同じ様にキッチンに立っていた。

「おはよう、母さん」

「おはよう、もう少しで朝ご飯出来るから」

いつもと同じ会話。

私は洗面所に向かい、顔を洗い、髪をまとめ、高校の制服に着替える。

私が通っている学校は家からとても近い。

本当はもっと上の高校へ行けたのだが、通学の効率を考え、近くの高校にした。

そこの高校は校則が緩く、化粧も許されている。

だが、化粧はしない。

無駄だ、時間が無駄になる。

だから私の支度は10分ほどで終わる。

10分もすれば朝食の用意も済んでいる。

うん、今日も"完璧"な時間の使い方だ。

いただきます、と言ってから新聞片手に朝食を食べ始める。

「あんた、新聞読みながら食べるのやめなさい」

そう言う母の言葉を軽く流す。

これが習慣で、これが最も良い時間の使い方なのだ。

思えば、昔からこういう・・・・子供だった。

物事を論理的に考え、頭が良く、あまり笑わず冷静で、子供らしくない子供。

友達も一人も居ない。居るとすれば幼馴染。

そもそも友達を必要だと思わない。

こんな私を世間は厨二病とでも言うのだろう。

だが、間違いだと否定するつもりはない。

むしろこういう考え方をするのは一種の病気だろう。

ただ、自分より頭の悪い人間に馬鹿にされるのは無性に腹が立つ。

新聞には芸能人の不倫騒動がでかでかと記載されていた。

…ああ、やはり恋愛は人を堕落させる。

恋愛は最も愚かな行為だ。

私は恋愛などしたくない。

私が私で居られなくなる、"完璧"で居られなくなる。

ごちそうさま、と言ってから席を立つ。

朝から変なことを考えてしまった。

早く学校に行こう。

歯磨きをして、学校の鞄を持ち、靴を履く。

いってきます、と言いながらドアを開けると、むわっとした熱気が私を襲う。

今日も暑いな…。

そんな事を考えていると、後ろから声がした。

「おはよう、友笑」

低すぎない、よく通る男性の声。

その声の持ち主は、私の幼馴染の正司だ。

明るく、誰にでも分け隔てなく接し、友達も多い。

勉強も出来ない訳ではなく、スポーツも万能。

おまけに顔も整っている。

ちなみに友笑は私の名前だ。

友と笑う。

なんて名前と真逆の子に育ったのだろう。

それに比べて正司は名前の通りの人間だ。

「…おはよう、正司」

私とは、正反対の人間。

「顔色悪くないか?ちゃんと寝てるか?」

「問題ない、私は五時間寝れれば十分だ。それに、顔色が悪いのは元々だ」

「はは、確かにそうだな」

だからと言って、正司と話すのは嫌ではない。

むしろ好きだ。

…ああ、勘違いして欲しくないが、私は彼に恋愛感情は持っていない。

よくクラスの馬鹿そうな女子に聞かれるが。

生まれた時から一緒に居るんだ。正司は家族に近い関係で、気持ちが恋に変わるなんて事は絶対にない。

先程も言ったが、恋は最も愚かな行為だ。

人間は恋に溺れ、堕落する。

私は絶対にそういう人間になりたくない。

___私は完璧でなければいけないのだから。



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