主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第6話 ワームドラゴンの効能

ヒューゴと出会った荒野から、2時間程、南下した。

ゴルゴダ砂漠。

【ランドポーター】に、俺とミィ、リリー、に加えて、ニヤを乗せてやって来た。
ヒューゴと、俺達に話しかけてきた山賊Aは、バギーに乗ってついて来ている。

俺は到着すると、ミィとリリーには、ニヤの看病を指示して、ヒューゴと山賊Aにこれからの事を説明する。

「この砂漠に、【ワームドラゴン】がいる。荒野熱を治すには、こいつを倒すしかない」

ドラゴンと言っても、トカゲのデカい奴ではない。
ミミズみたいな奴だ。
直径3メートル。長さ10メートルの化け物。

「そんなのを、倒すって?!」
ヒューゴは驚いている。
「あー、そうだ。【ワームドラゴン】は10個の胃袋を持っている。
その10個目の胃袋の中の液体は、荒野熱の特効薬になっている。
それをニヤに飲ませれば助かるハズだ」

「ハズって…大丈夫なんだろな?」
ヒューゴが俺に食って掛かる。
ハズと言ったのは、ゲームではこれで治るが、この世界ではどうか確信がもてないからだが、おそらく治ると思う。
「どちらにせよ、他に方法はない。
乗った船を降りれば溺れて死ぬだけだ。
ヒューゴ。やるしかないんだ」

俺は地面にTの字を書く。
「いいか、【ワームドラゴン】は意外に臆病なモンスターだ。
だから、二人以上の人数で砂漠を歩くと出てこない。
【ワームドラゴン】の出没する砂漠は、一人では歩くな。と言われている位だ。
だから、ある程度この砂漠を三人で歩く。
それから─」
俺はTの字のたて棒の下を指す。
「俺はここで待機する」
そして、たて棒を下から上になぞる。
「お前達二人はそのまま進む」
T字の横棒まで進めると、
「ここでふた手に別れて、それぞれ一人でうろうろしろ。
それで【ワームドラゴン】をおびき出せ」
山賊Aは青ざめている。
「まさか、俺達に生き餌になれって言うのか
?」
「その通りだ。察しがいいな。【ワームドラゴン】が現れたら、俺の所まで走っておびき出してくれ」

ガンソードで、けりを付けるつもりだ。

「そんな恐ろしい事、出来るかよ!!」
山賊Aは、ビビっている。
「やるしかないと言っただろ?
大体最初にヒューゴの妹を助けてくれって声をかけてきたのはお前だ。
タダで、願いなんか叶う訳ないだろ?
お前が、命をかけてやるか。
諦めてニヤを死なせてしまうか。
山賊A。お前が、選べよ」
うっ!と唸る山賊Aだ。憮然とした表情をしていたが、了承してくれたようだ。

「山賊Aって何だよ…」
山賊Aは、ぼそっと文句を言っていた。


◆◆◆◆


俺達はゴルゴダ砂漠を歩く。

そして、手筈通りに俺は立ち止まる。
二人はそのまま、先を行き、途中でふた手に別れた。
後はその辺をうろうろするだけだ。

俺はガンソードを手にじっと待つ。
【ワームドラゴン】には目が無い。
獲物が動く振動を感知して、食らう。
だから俺は動く事が出来ない。

日射しは刺すように痛い。
フード付きのマントを羽織っているが、汗が滴り落ちた。

それは不意に起きた。
山賊Aの足元をサークルを描くように砂が、ふわっと上がると、一気に食われた。
「「山賊A!」」
俺とヒューゴが、叫ぶ。
いや、ヒューゴお前は名前で呼んでやれよ。

【ワームドラゴン】は、砂漠を泳ぐように、ヒューゴに向かう。
ヒューゴは、襲いかかる【ワームドラゴン】を間一髪かわすと、俺の方へ走る。
ヒューゴは足が速かった。
だが、【ワームドラゴン】の方が早い。
【ワームドラゴン】は飛び魚のように、砂漠を飛んで、ヒューゴに襲いかかる。
ヒューゴは横に飛び退く。

その瞬間、俺と【ワームドラゴン】は向かい合った。
ガンソードの射程距離だ。

俺は魔力を込めて、ガンソードを撃った。
雷撃を含んだ魔力弾が射出され、【ワームドラゴン】に当たった。
一撃で、【ワームドラゴン】は沈黙した。
煙が噴いている。
まぁ、最初の方のモンスターだからな。
ガンソードだと、余裕である。

「山賊A…」
俺は【ワームドラゴン】に近づくと、黙祷した。
「勝手に殺すなよ」
口から手が出てきた。粘液で濡れていた。
「山賊A!」
俺とヒューゴは手を引いた。
ズルリと山賊Aは【ワームドラゴン】の口から出てきた。
「こいつ、歯が無いんだな。助かったわ」
山賊Aは、飲み込まれた感想を述べた。
確かに【ワームドラゴン】には歯がない。
だから中から剣で切れば出れるのではないか?と思われそうだが、食われれば中の内臓の肉でガッチリと押さえつけられて動けない。
そうして胃液で時間をかけて消化されるのを待つだけだ。
生きながら溶けていくのだから、地獄の苦しみである。

「それから言っておくが、俺は山賊Aじゃないからな!
トビーって名前があるんだ。
ヒューゴも何一緒になって山賊Aとか言ってんだよ?!」
「だはは!すまねぇ。でも生きていて嬉しいぜ」
ヒューゴは笑っていた。


◆◆◆◆


ナイフで、【ワームドラゴン】の腹を切る。
中からドロリと内臓があふれ出てくる。
俺は10番目の胃袋を切って、中の液体をビンに入れる。
ドロドロとした緑色の液体が、ビンに入った。
「これを飲ませるのか?」
ヒューゴは信じられないと言った顔をしていた。


◆◆◆◆


「これを飲ませるの?」
ミィはヒューゴと同じ反応をした。
気持ちは分かる。
「早く飲ませないと」
俺はミィを急かす。
「う、うん」
ミィは、ニヤにビンの中身を少しずつ飲ませる。
ヒューゴが心配そうに見ていた。

【ランドポーター】をヒューゴ達の住みかまで戻す。
その頃にはニヤの熱はすっかり下がっていた。
【ランドポーター】からマットレスを一枚出して、山賊の家に入れた。
流石に布一枚では問題ある。

「多分もう大丈夫だけど、栄養のある物を食べさせてやってくれ」
そう言って携帯食料も置いていった。
「何から何まで悪いな」
ヒューゴに感謝された。
「あぁ、それとリリーは騎士だから。山賊は辞めた方が良い」
「「え?!!」」
全員が、リリーを見た。
リリーはコホンと咳払いする。
「見たところまだ子供ですし、国の補助が行き届いていないのも事実です。
ですが、もう辞めてください。何ならラ・アルトマイドで保護しましょうか?」
「それが、良いかもな」
空中都市まで行かなくても、施設はあるはずだ。
「では、そのように処理させてもらいます。皆さん何か異論はありますか?」
皆黙っていた。
「分かりました。では連絡を取らせていただいて、迎えを寄越しますので」
そう言ってリリーは【ランドポーター】に戻っていった。
ラ・アルトマイドの騎士団に報告するのだろう。【ランドポーター】は通信も出来るからな。

「じゃあな、ヒューゴ。またいつか会おう」
「おう。連絡してくれ。
約束通り、いつでも駆けつけるからな」
俺とヒューゴはこうして握手をして別れた。

今回俺も学ばせて貰った。

やはり、ゲームシナリオを優先させて動くよりも、心に従って動いた方が良いかもな

俺はいつまでも見送ってくれるヒューゴや、仲間の元山賊達を見てそう思った。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く