主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第14話 モブキャラは身の程を知っている

俺はラーナ姫、王様、その妃と食事をする。素晴らしいコース料理で美味しいのだろうが、緊張のためか味が良く分からなかった。俺達はゆっくりと順番に運ばれてくる料理を食べながら会話する。本来この様な一般市民と王族との食事など考えられない。

王様が口を開く。
「カシム殿は、婚約者がいるのか」
「はい」
「そうか。娘が残念がっていてな。その落ち込みようったら──」
「ちょっと、お父様」
王様の言葉を遮るラーナ姫だ。若干怒っているのであろう、目がつり上がっている。照れもあるのか顔が赤い。
俺はラーナ姫のその態度に信じられないものを見たといった顔をしていたに違いない。
「な、何よ」
「……そうなのか?」
まだ出会ったばかりのラーナ姫だと、「冗談言わないで。私にも選ぶ権利はあるわ」などと言うはずだ。ラーナ姫は攻略するのが難しい。ツンとしている女の子だ。ツンデレではない。ツンしかないのだ。取り付く島がない。
だが、ラーナ姫の反応は意外なものだった。
彼女は俺の疑問に答えるでもなく「んー」と唸ると、料理をパクつく。
不機嫌な様子である。

「がははははははは!」
「オホホホホホホホ」
王様と妃が笑う。
「娘が男にそんな風になるとは珍しい!」
王様はワイングラスをグィッとあおる。そして、俺をひと睨みして、
「娘をどうだ?次期の王にしてやるぞ」
と一言。食卓がしんと静かになる。俺は目線だけを動かしてラーナ姫を見た。本来の彼女なら「嫌よ。こんな奴」と言うはずだ。だが、彼女はお皿の料理を一点に見つめている。まるで、俺の次の発言を待っているかのようだ。

「め、滅相もございません。こんなモブキャラに」
俺は恐縮して王様に答えた。
「モブキャラ……意味は分からんが……振られたな。ラーナよ。がははははははは!」
「オホホホホホホホ」
王様と妃が笑う。ラーナ姫は、「別に……」と言いながらそっぽを向いた。


◆◆◆◆


食事が終わり、デザートとコーヒーが並べられる。
「さて、カシム殿。今回の件、誠に感謝しておる。これは王ではなく一人の娘を持つ父親としてだ」
王様と妃が頭を下げた。俺は驚いた。
「頭を上げてください。他の人に見られたら……」
実際、執事が控えていたので見られている。
「いえ、カシム様。もし帝国へ連れ去られていたら、娘はどうなっていたか。そう思うと肝が冷えます」
妃がそう言って、自分の手を擦る。余程ショックを受けたのだろう。

「もちろん褒美は取らす。それと、これは提案だが、勲章と家名を授けたいと思う。どうだ?」
俺は固まっていた。予想だにしない褒美である。
「お父様、家名は自分で付けられるから、あまり意味がないのでは?」
ラーナ姫は疑問を口にした。
「付けるのを許されない家名があるだろ?」
王様の目が妖しく光る。俺はその目の輝きに嫌な予感がした。付けるのを許されない家名は、王族や伝説の英雄などの家名である。

「テューダーの家名はどうだ?」

テューダーは今の王族であるフェンザー王家の先祖の家名である。
元々テューダーを名乗っていた王家であるが、ある時を境にフェンザーを名乗るようになったという。

タイタンソードマジックオンラインのエンディングの一つに、マイトが王様になるシナリオがある。
今の王家に成り代わり、王様になったマイトは、家名を名乗る。

それが、マイト・テラ・オーム・テューダーである。

王様になったマイトは、側室にゲームのヒロイン達を招き入れ、ハーレムを築くのだ。
ゲームの設定を18禁モードにするとこのシナリオが現れる。俺はエンディングのコレクションの一つとして、これをプレイしたが、このエンディングは好きにはなれなかった。
俺は紆余曲折を経て一人の女性と結ばれるラブコメの王道パターンが好きだからだ。

王様が俺に勲章を与え、テューダーの名を名乗らせようとするのは、つまり王族の者として俺を次期国王の候補に入れようとしている可能性があった。
王様の妖しく光る目は、それを語っているのではないか?

「カシム殿は、カシム・テラ・オーム・テューダーとして──」
「ち、ちょっと。スミマセン!待ってください」
王様がその名を出したので思わず声が出た。
「何だ?不服か?」
王様がキョトンとしている。軽いノリを見せる王様だが、これはあくまで人身掌握術の一つだろう。俺がただの15才なら彼の思惑通り事が運んだに違いない。
そして、その名になったら俺は王となり、ハーレムを築くシナリオに行き着くかもしれなかった。

「先程も言った通り、私はただのモブキャラです。その様な過ぎた名前は付ける事が出来ません」
その展開は避けたかった。ミィが悲しむだろうからだ。

「ではカシム殿よ。何か欲しいものはあるか?何でもいいぞ。わしは王だからな。大抵の事は…」
王は自分の顎を撫でる。俺の事を値踏みしているのだろう。
だが王様に自分の価値を示す必要はない。俺はモブキャラとして、ミィと生きていく人生を選ぶ。普通の市民として幸せな家庭を築きたいのだ。
だが、やはり生活していくにあたって、お金は欲しいわけで。

「一部で良いので──」
俺は前置きをして、

「空中都市ラ・アルトマイドの機関部の整備用パーツをわが社でも受注させて貰えませんか?」
と、俺は王様に頼んでみた。


          

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