主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第12話 カシム(田中司)は最短で終わらせる

俺はミィに髪止めを買う。シルバーの細工物で、似合いそうだ。エリンも賛成してくれた。多少値が張るが、エリンが構わないと言うので購入した次第だ。
また、両親や、ラウルおじさんにもお土産を買っていく事にした。
父にはお酒。母には服。ラウルおじさんには財布を買った。
友達がいれば、もっと買っていくのだが、カシムに友達はいない。


エリンは心なしか元気がなかった。
やはり俺の様なモブキャラでも公賓扱いである。気をはって疲れが出ているのであろう。
もう一つ考えられるとすれば、俺に婚約者がいると知って落ち込んでいるという事だ。だが、それは、ラーナ姫の件と同様に考えられない。カシムの見た目は可もなく不可もなくといった造形。その上に、もやしっ子キャラ。モブ中のモブ。それがカシムという男だ。
女性に好かれているなどと、こんな考えが出てくる事自体、俺からすれば自惚れていると思わざるをえない。
俺はミィのような美少女を婚約者にしたせいで、自分はモテキャラなんじゃないかと思い上がっているのかもしれない。
これはカシムが元来プラス思考であるという点もある。
カシムは殆ど会話したことのない、喫茶店のユカと付き合えると思っていた程だ。その思考傾向が、俺にも影響を与えているのだ。


「エリン、もう少し付き合って下さい」
「はい、どちらへ?」
俺は喫茶店にエリンと入る。ここはラ・アルトマイドでも有名な喫茶店だ。
「一緒に食べましょう」
「いや、しかし……」
エリンは躊躇する。メイドとしての仕事の範疇を越えているからだろう。
「一人で食べるのも寂しいですし、お願いします」
俺はそう言ってエリンに向かいの席に座ってもらった。パンケーキを頼んだ。女子は甘いものに弱い。エリンは目の前に出されたパンケーキに目を輝かせている。
「いただきます」
俺がそう言うとエリンは、
「宜しいのですか?」
とおずおずと聞いてくる。
「我慢して食べないという選択肢もありますけど?」
俺は少し意地悪だと思うがそう言うと、
「出来ません!いただきます」
そう言って一口。
「!!……美味しい!」
幸せそうな顔をしたエリンを見て、俺も嬉しくなった。
「良かった」
俺はしみじみと思いを吐露した。
「何がですか?」
「元気が戻ったみたいで」
俺がそう言うと、エリンは俺の顔をじっと見つめた。
「何?」
「カシム様はアレですね」
「?」
「スケコマシ」
エリンは俺をそう評価した。こました覚えはないが、エリンは俺に好意を覚えたのかもしれない。スケコマシとは、婚約者のいる俺を警戒してクサしているのだろう。俺はエリンを見つめる。
エリンはニコニコとパンケーキを食べている。こうして見ると普通の可愛らしい15才の少女だ。
元の世界では15才はまだ子供だ。俺は中身41才だから別にいいが、若くしてメイドとして働いているエリンは、まだ遊びたりない年頃なのかもしれない。


◆◆◆◆


夕方になった。俺は荷物をまとめた。
と言っても荷物は少ない。ガンソードと皆へのお土産。飛空艇の乗船チケットさえあればいい。後は下着とかの日用品である。最悪無くなっても構わない。

城内の庭で、俺はコーヒーを飲んでのんびり過ごしていた。レジャーシートを敷いて、俺とエリンは他愛ない会話を楽しむ。彼女は俺がどんな生活をしているか興味を持っていた。
「ラーナ姫に聞けと言われたから?」
「違います。実は王都から出たことがないので、興味があるんです」
エリンは、ばつが悪そうであったが、彼女と1日過ごしていて良い人だと感じた。
「──と言ってもただの貧乏人だからな。学生の時も母親が作る弁当は貧相なものだった。ミィがお弁当を用意してくれなかったら、寂しいランチタイムだっただろうな」
「なるほど。カシム様はその婚約者の事を……」
城内が慌ただしくなり、エリンは言葉を止めた。騎士やメイドが走り回っている。
俺は始まったと思った。
アルフレッドが、こちらへ走ってくる。
エリンは立ち上がり、
「騒がしいですが、どうかされましたか?」
と聞いた。俺には分かっている。
「ラーナ姫の姿が先刻から見えないのだ。それでカシム殿の言うとおり帝国の者にさらわれたんではないかと、捜索をしているんです」
エリンは顔面蒼白になっていた。
「俺も手伝いましょうか?」
「宜しいのですか?」
エリンは帰りの飛空艇の時間を気にしているのだろう。
「もちろんです。国家の一大事ですので」
俺はそう言って二人と別れ、城の外へ出た。


◆◆◆◆


シナリオに沿っていくなら、ここは単独行動である。アルフレッドに指示して、ラーナ姫の居場所を教えるのも悪くないが、何故知っているのかと、問われれば逆に俺が帝国の者だと怪しまれる可能性もあるだろう。
最短ルートでラーナ姫を助けて、そのまま飛空艇に乗って帰れば時間的にも余裕である。

俺は町の見渡せる展望台に向かう。

ここは俺がマイトでゲームをしていた時にラーナ姫にプロポーズした場所である。
ここはそれなりの広さがあり、小型の飛空艇が降りる事も可能である。
要するに最後に、クルード大臣はこの展望台へラーナ姫を連れて来るのだ。
俺はここで待っていれば良い。
展望台から町を眺める。ゲームでは何度か来た場所だ。だが、実際眺めるとまた感動が違う。
「ゲームで見るより実際に見た方が良いな」
風が気持ちいい。これから緊迫した場面になると言うのに俺はこの景色を楽しんでいた。

ぞろぞろと足音が聞こえた。
俺は振り向く。
「五人か」
俺はガンソードを手に奴らに向かう。
全ての攻撃を避け、全員にクリティカルヒットを当てる。ゲームでは基本的な手順で倒していく。

「そこまでだ」
エセ般若の角付きのお面。クルード大臣だろう。ラーナ姫を羽交い締めに、剣を持っている。
「カシム……」
ラーナ姫が俺の名を呼んだ。ラーナ姫を人質に俺をボコる。そういうシナリオだ。

マイトの時もそういうシナリオだった。武器を捨てマイトは、部下の一人に良いようにやられた。奴らの飛空艇にラーナ姫と二人乗せられ、何とか脱出するのだ。正直言って骨が折れるシナリオである。
俺は今日帰るので、そんなものに付き合うつもりはない。

先程俺がぶっ倒した一人がよろよろと立ち上がる。
「武器を捨ておとなしく……」
「ばん!ばん!」
俺は口でそう言ってガンソードから雷撃の魔法を撃った。クルード大臣と、立ち上がった部下に命中して二人共、気を失った。

ガンソードがあれば、すぐ終わる。

唖然とした顔でラーナ姫は俺を見ていた。

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