主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第8話 カシム(田中司)は告げ口する

「署長自ら取り調べしてやってんだ。何とか言ったらどうだ?」
署長と名乗った男は、俺の【ガンソード】を手にしている。
「しかし、何だこれは?こんな物でタブラに勝ったってのか?」
【ガンソード】は俺以外は使えない。
俺自身の生体登録をしているからだ。
「あんた、タブラから幾らか貰ってたのか?」
俺は何となくそう思った。わざわざ署長が取り調べするなどおかしいからだ。
「ああ、お前のせいで俺の収入源が一つ減ったわ」
なるほど。それでタブラは子供達に盗みをさせても捕まらなかったのか。

「で、収入源を失わせた俺を署長様はどうしようってんだ?」
もし明日のシナリオをクリア出来なければ、世界は何らかのペナルティを受ける筈だ。
こんな事をしている場合ではない。
「適当に罪を被せて、強制労働送りだな」
署長は、残忍な笑みを浮かべる。

「署長」
ドアをノックして職員が入ってきた。
「何だ」
「そちらのカシム様にお迎えが参りました」
うやうやしく職員は俺にお辞儀する。
その職員の態度が気に入らないのだろう。署長は、
「何でこんな奴に……どこのどいつが、迎えに来たってんだ。追い返せ」
無茶苦茶な事を言う。
「それは困るな」
ドアを開けて、迎えの者が入ってきた。

騎士アルフレッド・マイヤだ。

「こ、これはアルフレッド様!このような所に。どうされましたか?」
署長は揉み手で、アルフレッドにすり寄る。
強者に弱く、弱者に強いのが、この男の特徴なのだろう。
更にアルフレッドの後ろから、
「カシム、大丈夫?」
ラーナ姫だ。署長は驚愕の表情をしている。
「な、何故ここに。貴方様が?!」
署長の目線が俺とラーナ姫の間を行ったり来たりしている。二人の関係性が全く分からないからだ。普通はそうだろう。王族が一般人のもとに訪れる事はないのだから。
「署長。こちらのカシム殿は、姫様を救って下さった恩人だ。それを拘束するなど不義理があってはならん事だ。今回の件を聞いた姫様が──」
「すぐに釈放しなさい!」
アルフレッドの説明途中にラーナ姫が、割り込んできた。
怒っている様だ。
「し、しかし…」
署長は俺の方をちらりと見る。タブラとの金銭のやり取りをペラペラとしゃべった上に、強制労働送りにしようとしていた男である。
それが知られれば、処分は免れないだろう。

俺は拘束された両手を突き出し、
「外してくれますか?署長殿」
「っぐ!」
ラーナ姫の命令に背くなど、出来るはずもない。署長は、俺の拘束を解いた。
「やっと自由になったか」
俺は手首をさする。するとラーナ姫が俺の手を取って、
「大変だったわね。さぁ、行きましょう」
「どこへ?」
「お城よ。まさか断らないわよね?」
流石に出来ないだろう。俺のためにわざわざラーナ姫自ら出向いてきたのだ。
だが、その前にやる事がある。
「もちろん、喜んで。でもその前にこちらの署長殿の事でお耳に入れておきたい事が──」
俺は署長をジロリと睨む。署長は汗をかいていた。
「こちらの署長殿は、タブラという窃盗団の元締めから賄賂を貰っていた様です」
俺はビシッと署長を、指指して言った。完全に告げ口である。
「それは本当か?」
アルフレッドが署長に詰め寄る。
「う、嘘だ!この男は嘘をついている!例え姫様の恩人であろうと、その様な嘘は許しませんぞ!」
署長は俺に対する言葉使いを変えていた。だが、その目は俺に対する殺意で溢れていた。
「調べれば分かるだろう?」
俺はラーナ姫に聞いた。
「まぁ、確かに調べれば分かる事ね」
「だが、証拠隠滅のおそれもあるだろ?彼を拘束した方が良くないか?」
俺は念には念をいれるタイプだ。
「しかし、カシム殿の証言だけでは、そこまでは……」
アルフレッドが戸惑っている。
署長はニヤリとする。
「では、こうしませんか?」
署長は先程の残忍な笑みを浮かべる。

「審議を決める決闘──これで決着をつけませんか?」

前世の世界ではおおよそ理解できない話だが、ゲームならではのルールがある。
簡単に言えば、強い者が正しいという事だ。
調べがつけば、処分を免れない署長はこの制度を俺に申し込んだ。
俺としてはこれを受ける必要はない。
だが、ルンの事や証拠隠滅の恐れなどが、これで一気に解決するのは、俺にとってもメリットのある話だ。
特にルンの窃盗罪も免責にしてもらえる可能性もあるので、俺はこれを受けた。


◆◆◆◆


署長は俺に決闘を申し込んだ位である。
体は鍛えていて、手に持つグレートソードも様になっている。
俺はガンソードを返して貰った。
決闘は、屋外の通りで行われた。そのため野次馬が集まってきていた。野次馬も証人となるからだ。

「では、これより署長の賄賂罪における、審議をかけた決闘を執り行う。これの勝者は、これに関わる要求を一つ通す事が可能だ。二人とも異存は無いか?無ければ無言を持って答えよ」
アルフレッドが決闘の見届け人をしてくれた。
俺も署長も無言で答えた。

「では、それぞれの望みを答えよ」
「俺は賄賂に関する全ての捜索の無効だな」
署長はいけしゃあしゃあと言ってのけた。
これは、自分で黒だと言っている様なモノだ。
アルフレッドもラーナ姫もそれを感じ取ったのだろうが、既に決闘が始まった状態ではどうする事も出来ない。
「俺は、これに関わったルンという女の子の免責を望む」
まぁ、他にも関わっている子供もいるのだろうが、俺はルンしか知らない。
ここで、全員を免責にすると、自ら望んで窃盗をしている者も不問になる訳で。俺はタブラに盗みを止めたいと言ったルンだけを助ける事にした。
中にはやりたく無くても、気が弱くやらされている者もいるのだろう。
だが、罪は罪である。やらないという意思を示したルン以外は、ズルズルと犯罪を犯す可能性があった。
これは、俺の勝手な考えだ。
別に全員助ければいいじゃないか。と思う奴もいるのだろう。
これは、田中司の考え方である。それは致し方ない。カシムなら、慰謝料と称して金をタブラに要求しているだろう。

「では、初め!」
アルフレッドが、開始の合図をする。

まぁ、署長は俺の敵では無かったが。

          

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