主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第9話 カシム(田中司)は武器を手に入れる

卒業式も明日となった。
ミィのサポートもあって、無事に卒業出来る運びとなった。
正直、訳の分からない授業内容に、俺は参っていたが、ミィがここだけ押さえとけば赤点は免れるというので、頑張って覚えた。
勿論、今後は必要ないのでテストが終わるとすぐ忘れてしまったが。

相変わらず友達も出来ず、俺にはミィだけだった。そもそもカシムは同級生に相手にされていない。話かけても無視されるのだ。
結局、元のカシムもそうだが、俺もクラスメイトの名前は誰一人覚える事がなかった。
覚えても意志疎通が出来ないなら意味は無さそうだからだ。クラスメイトにとってカシムはモブキャラであり、俺にとって、クラスメイトはモブであるという事なんだろう。

ミィは社交的で友達も多かったし、人気者であったが、俺に構ってばかりであった。
また、男子の学生にもちょくちょく呼び出されては告白されて全部断っていた。
俺はミィに
「友達と遊ばなくていいのか?」
と聞いたが、
「私はカシムが一番だから」
と言うのだ。婚約してからミィは自分の気持ちを俺に伝える様になっていた。
それまでは、気持ちを抑えていたんだそうだ。
ただ、周りの友人に言わせると、ミィの気持ちは駄々漏れであったと。
「お前って、俺の事本当に好きだよなぁ?」
と茶化して言ったら、
「カシムはどうなのよ?」
と言い返してくるミィ。そこで俺は
「俺はもちろん大好きだ!」
ミィの両肩を掴んでちゃんと答えた。照れるおじさんはキモいと思う俺だ。さくっと言ってしまえばいい。
ミィは真っ赤になって、
「ズルいよ。今までそんな素振りも見せなかったのに…う、嬉しい!」
目を潤ませて俺に抱きついてくる。
こんな事を教室でやっているのである。
男子の嫉妬に満ちた目が俺に降りかかる。

「あ、そうだ。パパが頼まれてた物が手に入ったから家に寄ってくれって言ってたよ」
俺が卒業祝いに、せがんだ物が見つかったらしい。
「助かった。ギリギリだったな」
「ギリギリ?」
ミィは首を傾げていた。


◆◆◆◆


俺はミィの部屋でおじさんを待っていた。

「ただいま」
おじさんは、玄関で声を出した。俺達がイチャついていたら困るからなんだろう。
確かに俺達はイチャイチャしていた。
ミィは足を開いて向かい合わせになって、俺の膝の上に座っていた。俺達は抱き合って、お互いの存在を確かめあっていた。
くっつく位はいいと思う俺である。口づけもそれ以上もしていない。
この世界にいればいる程、ゲームの世界を実感してしまう俺は、ミィの感触と匂いだけが、安心出来るものになっていた。
ミィ中毒と言っても過言ではない。

「パパ、おかえり」
ミィは迎えに行った。俺もミィに続いて
「おかえりなさい」
と言った。おじさんはケースを持っていた。俺が頼んだ物が入っているのだろう。
リビングに着くなり、おじさんは
「カシムから頼まれた物が手に入ったよ。しかし、何でこんな骨董品を欲しがるんだ?」
おじさんはよく分かっていないようだ。
ケースを開けた。

ガンソード。

銃であり剣である武器だ。
タイタンソードマジックオンラインでは一周目では登場しない武器だ。
クリアしてニ周目から出現する武器だ。
あればかなり助かる武器である。特に俺のようなモブキャラは。

「方々を探し回ったけどね。なんと蚤の市で二束三文で売られていたのさ。太古の武器らしいけど、トリガーを引いても撃てないし、斬れないしで、オモチャだねこれは」
俺はそれを手に取る。ズシリとして重みがある。
「まぁ、知らない人にとってはそうだろうけど…」
俺はボソッとつぶやいて、ガンソードを観察する。銃口部分は剣の形になっているが、刃が付いていないので斬れない。
リボルバーの弾倉部分を外すとそこには丸い穴が開いていた。スロットが、3つもある。当たりの武器だ。
俺はニヤリとする。
「カシム、随分嬉しそうじゃないか。しかしこんな安物でいいのか?」
おじさんは良く分からない物を欲しがる俺が理解出来ないようだ。
「最高の品ですよ。値段じゃないので」
俺は満足した。
「そうか。まぁ確かに格好いい武器だが」
おじさんも、そのフォルムに惹かれていた。

「やっぱり二人共、男の子って感じね」
ミィは俺達のやり取りを見て呆れた感想を持ったようだ。


◆◆◆◆


俺は明日の卒業式には出ない。そう先生にも言ってある。
今夜の間に町から出ていかなければならなかった。
到着日時を逆算すると、最初のゲームオーバーのイベントが王都に着いて間もなく始まる計算だ。

おじさんは車で駅まで送ってくれるというのでお願いした。
車は魔石と蒸気で動く、クラシカルなフォルムをしていて格好いい。
俺とミィは後部座席。
ミィは寂しそうに俺の手を握っていた。
両親は二人共仕事で来れない。
親に卒業祝いにと頼み込んで、王都行きのチケットをせがんだ。金銭的な事もあって、チケットはギリギリで手に入った。
両親は二人共、給料を前借りして残業も増やして今日も働いている。
本当に親には感謝だ。
駅に着いた。俺とミィをおろした後、おじさんは駐車場まで車を置いてくるので先に行っといてくれとの事。
俺とミィは手を繋いで駅構内を歩く。

そこには見知った奴らがいた。
ビフと、ステーと、キースの三人組だ。
そいつらは俺の前に立ち塞がった。三人共、痛々しく包帯を巻いている。
「……」
俺は黙っていた。お礼参りという訳でも無さそうだ。
「お前、王都に見物に行くんだって?」
ビフは口を開いた。
「あぁ。家は貧乏だから、往復チケットしかないけどな」
「そうか…」
余り会話が弾まない。友達ではないからな。
「俺の親父が、宿を取ったからそこに泊まれよ」
ビフは俺に王都の宿の地図を渡す。俺は首を傾げる。
「今まで悪かったな。お前強かったんだな。それにミィを幸せにするってスゴい頑張っていたって聞いたからさ」
ビフは目付きの悪い顔をニッとさせていた。
笑顔が似合わない面構えだ。
「なら遠慮無く。礼を言うよ。ありがとう。それと、俺も悪かったな、怪我させて。明日の卒業式は出れるのか?」
「出ねぇよ。俺も明日この町を出ていくんだ。大工になろうと思って親方の所に修行に行くんだ」
「そうか。頑張れよ」
「カシム、お前もな。ミィを泣かすなよ」
「あぁ」
すれ違いざまビフはミィに軽く頭を下げた。
ミィは無表情で会釈した。ミィはビフには興味が無い様だ。ビフの瞳が一瞬揺れた様な気がしたが、俺は気づかない振りをした。

俺達はそれで別れた。別に俺達に友情なんてない。ビフはミィが好きで、俺が邪魔だった。
ステーもキースも、そんなビフの気持ちを知って、俺が、カシムが、嫌いだったのだろう。
俺は遊びに行く訳ではない。世界に終わりが来るシナリオが発動するのか、それを止める英雄が現れるのか確認しに行くのだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品