主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第4話 ゲームの世界に転生したと気付く田中司

朝。俺は目覚めた。俺が転生する前のカシムなら起きない。ミィが起こしに来るのだ。
社畜であった俺は朝早くに目覚めるように習慣が出来ていた。
部屋を見渡す。自分の家も鉄製である。所々に木が使われていたが、基本的には鉄である。
既視感なのか何となくこの部屋の作りに見覚えがある気がした。

自分の部屋を出てリビングへ。
父と母は起きていてパンとコーヒーを飲んでいた。
「おはよう。今朝は早いのね」
母は驚いていた。
「まぁ、これからこの時間には起きるわ」
俺は二人にそう告げた。
「どうしたんだ?一体」
父はびっくりしていた。カシムはそんな奴じゃないからだ。俺はテーブルに付いてテレビのニュースを見た。
「そろそろ卒業だし」
俺は適当に最もらしい事を言った。テレビはブラウン管で室内アンテナが付いていた。画像が悪いし、白黒だ。
だが、俺はそこから流れる画像から目が離せなかった。

「一ヶ月後にラーナ姫が社交界デビュー致します。楽しみですねぇ。どうですか?解説のケリーさん……──」
音声が自分の耳から遠のいていく。

◆◆◆◆

ラーナ姫……。
俺もバカではない。が、これはあまりにも受け入れがたい事実だ。荒唐無稽と言ってもいい。
タイタンソードマジックオンラインの文字が頭の中に浮かぶ。
俺はゲームの世界に転生していた。
ゲーム世界に転生するようなラノベは読んだ事があるが、まさか現実にそんな事があるのかと、いやそもそも俺は本当に転生してるのかと。
実のところ俺は病院のベッドの上で植物状態で横たわっていて、これは夢みたいなものを見ているのではないか、とすら考えていた。

鉄の町や自分の部屋に見覚えがあるのも頷ける。タイタンソードマジックの世界は鉄鉱石が、豊富に採れるのだ。ここカシムの生家があるギザトの町もそれ故にほぼ鉄製になっている。

ミィの家名であるペンダルトン。俺はその名前に覚えがあった。カシムとミィは俺がゲームをしてる時は見てないと思うが、ペンダルトン家は商人でわりと多岐に渡る冒険者の商品を仕入れる事で有名だった。俺もマイトとしてゲームを遊んでいる時に欲しいアイテムがあると、ペンダルトン商会の世話になっていた。
おそらくカシムとミィはモブキャラなのだろう。

目の前に用意されたパンとミルクを飲む。
そこには実感がある。本当に食べていると思う。味、匂い、食感全てがリアルだ。

顔を洗い、歯を磨く。鏡の前には、田中司とは別の男。ライトブルーの瞳と、銀髪の華奢な体をした15歳の男性が写っていた。
顔は悪くないと思うが、イケメンでもない。
モテそうでモテない。
合コンで、「彼女いないの?モテそうなのにね」と相席した女子に言われそうな奴だ。
ちなみに、こう言う女子は、(私には来ないでよね。あなたの事はタイプじゃないの)と思っている。

◆◆◆◆

「おば様、おはようございます」
「あら、ミィちゃん。おはよう。カシム、ミィちゃんが迎えにきたよ」
「カシム、おはよう。今朝は早いのね」
ミィが迎えにきた。昨日の事があったが、今朝はいつも通りのミィだ。
「おはよう。んじゃあ、行ってくるわ」
俺は準備も適当に家を出た。俺達は家を出てすぐに手を繋いだ。
ラブラブだ。異世界転生して、いきなり中身41歳の俺が、高スペックな彼女(嫁)をゲットした。
手の繋ぎ方もいわゆる恋人繋ぎだ。ゲームの世界なのに、彼女の手や寄り添う体温は紛れもない現実として感じられた。
俺の生きてた時代にはフルダイブ式のゲームは無かったが実際あればこんな感じなのかもしれない。

◆◆◆◆

「おい、カシム!今日もお手手つないで登校かよ?!は!」
例の三人組だ。ビフとステーとキース。こいつらも毎日飽きないのか。校門で毎日このやり取りをしている。
俺は手をほどく。いつものカシムの反応が見れると、にやける三人組。
だが、俺はミィの小さな肩を抱き寄せ。
「いいだろ?俺達、愛し合ってるんだぜ?なぁ」
俺はミィに笑いかける。ミィは俺の顔を呆然と見ていた。

空気が凍っていた。ビフ、ステー、キースの三人組は固まっていた。

俺はミィの手を引いて校舎に入った。
「いやぁ、あれで彼らも俺達に絡んでこなくなるかもって思ったんだけど……」
ミィの様子がおかしくなっていた。教室に入るとき、ミィは俺の二の腕の所をギュッとつかんで、
「……私達、結婚するんだよね?」
と不安そうな目をして俺に確かめてくる。俺はうなずいた。
「良かった。夢じゃなくて」
と、ミィは安心したように笑顔で教室に入っていった。

俺はミィはこんなに可愛いのになぜカシムは彼女を、うっとおしいと思っていたのか分からなかった。

授業内容は相変わらずさっぱり分からない。ここがゲーム世界なら適当な内容なのだろう。真面目に受ける必要はないようだ。
リアルを感じるなら、ミィの肩を抱いた時の彼女の肉感的な存在と、リアルな女子の匂い。俺はかなり大胆な事をしたなと思っていた。

授業中、ミィの熱っぽい視線を感じた。ミィはまだ若いから俺の社会的なステータスより自分の感情で熱くなっているようだ。
これが分別のついた大人になってくると収入が少ないとか、細マッチョがいいとか言い出すのだ。やはり早めに結婚を決めたのが功を奏しているのだろう。ミィには悪いが俺は前の世界の様に失敗したくはないのだ。

◆◆◆◆

俺は昼休みにミィの気合いの入った弁当を食べて、屋上に誘った。
「ミィのお父さんに挨拶に行こうと思うんだ」
俺はこういう事は早めにケリを付けた方がいい。ギリギリになって挨拶に行くとこじれそうだ。
「え?いいの?」
ミィが驚いていた。
「いいも何も。俺、本気でミィを貰うから」
ミィの瞳は潤んでいた。前世では縁の無かった美少女だ。俺はミィの手を取った。スッと引くとミィは俺の胸にピトッとくっついた。
「カシムの心臓の音が聞こえる」
「そうか」
「……何かカシム変わったね」
「そうか?」
そうだろうな。中身は田中司だからな。俺はミィの体温を感じた。首元に顔を近づけ匂いをかぐ。ミィは香水を付けていない。健康的な人の匂いだ。実感があって、ゲームの世界とは思えなかった。
まだ15才だから、性欲は抑えないとな。

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