猫とマッチョと縁の円

涼木行





 開会式の挨拶や生徒会長の話、担当教員による注意事項などの後、全体での準備運動が行われる。生徒たちは各自距離を取り、校庭中に大きく広がり始める。


「おい鵜ノ浦、体操やっから広がれってよ」


 と菜更木がシートの上で爆睡している鵜ノ浦に声をかけるが、「ん~……」という音が返ってくるだけである。


「チッ、仕方ねえ。邪魔だからとりあえず運ぶぞ」


 と菜更木は学校まで来た時同様に横になる鵜ノ浦の身体を肩の上に担ぎ、もう片方の手でリュックやシートを持って体操の邪魔にならない後方へ運んでいく。そうしてまたシートの上に寝かせるのだが、その間鵜ノ浦はぴくりとも起きずされるがままであった。


 そんな鵜ノ浦の様子を近くで見ていた英理たち女子四人衆。


「鵜ノ浦さんってなんかこう、凄まじいわね……」と伊織がつぶやく。


「ここまで羞耻心ない感じなのは確かにすごいな……」と弘巳も続く。


「いつもそうだけど他人の目なんて一ミリも気にしてない感じだよね。すごいマイペースっていうか、我が道を行く! って感じで」と嬉々として話す美日光。


「ありのままにってやつでしょ。着飾らないで堂々としててかっこいいよなー」と英理。


「あんたらほんとプラス思考よね。まぁそんなの人の勝手だしすごいとは思うけど、でもこれはさすがにね……モデルやっててこんなんでいいの?」と伊織。


「まー確かに無防備すぎる気はするよな……モデルっつってもカメラの前でちゃんとしてればいいんだろうけど」と弘巳。


「まーそのギャップがまた男子からは人気なんだけどね。遅刻居眠りばっかで一匹狼なちょっとワルな感じがいい! ってことらしいけど」と美日光も続く。


「たたでさえ綺麗で近寄りがたい雰囲気出してるものね。ていうかそれよりあっちよ。なんで鵜ノ浦さんがあの筋肉バカと一緒に来てんの?」と伊織。


「あーそれは鵜ノ浦さんが朝弱いから迎えに行ったって、」と英理。


「それは聞いてたわよ。そうじゃなくてなんであの鵜ノ浦さんが菜更木なんかと仲良いのよ。家まで迎えに行くなんて相当でしょ?」


美日光「確かに言われてみるとそうだよねー。まーでもあーなるほどなって感じもするじゃん?」


伊織「えっ、何が?」


美日光「似た感じっていうかさ、どっちも授業中寝てばっかだし、ちょっとワルっていうか、一匹狼我関せずのアウトローって感じがさ」


英理「あー確かに。似たもの同士で仲良くなったのかもね」


伊織「……でも全然接点ないじゃない」


英理「さっき去年から同じクラスだって言ってたから去年から仲良いんじゃないの?」


弘巳「でも去年そんな話一回も聞いてないからな。あの二人だったらさすがに噂になるだろ。学校で話してるの見かけるようになったのも学期始まってしばらくしてからだし」


 理「じゃーなんか他に接点あったのかもな。ってことでオッケー伊織?」


伊織「は? えっ、何が?」


英理「いや、お前なんか気になってる感じだったから」


伊織「べ、別に気になってなんかないわよ。ていうかあの鵜ノ浦さんとあんなヤクザまがいの筋肉バカが一緒に来たら誰だって気になるに決まってるじゃない」


美日光「それもそうだね。うちの学校の超有名人の二人だし、鵜ノ浦さんは伊織ちゃんにとってもライバルだもんね」


伊織「なんでライバルになんのよ」


弘巳「そりゃうちの学年のツートップだからな」


英理「トップに立つためにもライバルの動向は要チェックってわけだ」


伊織「そんなの知らないし。別にライバルでもなんでもないから。第一美人トップとかそんなのどうでもいいし」


英理「おーやっぱトップは言うことが違うねー」


弘巳「そもそも別に私らが言ってることじゃないしな。全体としてそういう意見に落ち着いてるってはなしなだけで」


美日光「まー私達にとっては伊織ちゃんが断然一番可愛いんだけどね!」


英理「というところに落ち着いたけどオッケーっすか伊織さん?」


伊織「……全然オッケーじゃないけどこれ以上あんたらの相手するの疲れるからもうそれでいいわよ……」


 と言い、ニヤニヤ笑う三人は無視して大きなため息をつき準備体操に戻る伊織なのであった。










 準備体操の後、校長が壇上に上りあいさつをする。


「えー、いよいよ待ちに待った歩行祭が始まります。この行事は50年以上の歴史を誇る当校の伝統行事ですが、そんな誰得な話はどうでもいいです」


 校長のぶっちゃけトークに、


「誰得だと!?」
「つかどうでもいいのかよ!」
 などといったつっこみが上がる。が、それらを無視し校長は続ける。


「この行事について私があなた方に話すべきことなど一つしかありません。すなわち、『男どもよく聞け! イベントとはほの字のあの娘の好感度をグッと上げるチャンスだ!』ということです」






 静寂。






 後、野郎どもによる雄叫び。そして(え、何言ってんのこのおっさん)とドン引きが止まらない女性陣。




「先ほどこの行事は50年以上の歴史があると言いましたが、その長い歴史の中でこの行事をきっかけに交際を始めあわゆくばセッ……っといけません教師が公の場で使うべき言葉ではありませんでしたね、失礼。あわゆくばセイコウまで持ち込んだ人たちも数知れず、『歩行祭マジック』と呼ばれさくらんぼ少年たちの希望の糧となってきました」




 鳴り止まない男子どもの歓声。終わらない女性陣のドン引き。




「――という話を今思いついたわけですが、まあ私のこの創作を現実にするか否かはあなた方の手にかかっているわけであります。さあ男子の皆さん、そして男性教諭の皆さん。今こそコントロールの全てを下半身に委ねて己が欲望を解放する時です! セイコウという名の勝利が欲しくば、このチャンスを何としてでもものにしてみなさい! ここは戦場です、これは戦です、これは戦争です! 武器はその腰にぶら下げた44マグナム or AK47です! さあそいつを好き放題ぶっぱなしなさい! クリーク! クリーク! クリーク!」


『クリーク! クリーク! クリーク!』


 校長に続いて腕を高らかに掲げ復唱する、兵士となった男達。そしていつの日か必ずあの邪智暴虐の校長を懲戒免職させようと決意し罵詈雑言を浴びせる女性陣。カオスとしかいいようのない光景がそこには広がっていた。




「――というような話をしろとニーハイが大好きで非常に卓越した絶対領域を誇るJKである私の娘アヤ(17歳)を人質にとられ『従わなかったら絶対領域を油性マジックで黒く塗りつぶす』と教頭に脅されました。ですので私は一切悪くありません。文章を考えたのも全て教頭です。最後に文中のセイコウは全てセイコウの方のセイコウであり決してセイコウの方のセイコウではないのであしからず。これで校長の話を終わります」


 最後に責任を全て教頭になすりつけ、校長が檀を降りた。無実の罪を負わされた教頭はただ呆然と校長の横顔を眺める他なかった。


 なににしても校長のぶっ飛んだ挨拶で一層お祭りじみた空気――混沌に満ち満ちていたが――に包まれたのは事実であった。やる気に満ち溢れ円陣を組み互いに健闘を誓い合う男子たち。それを冷めた目で見る女子。まさに最初からクライマックスである。


 そして最後に閉会の挨拶、ならびにスタート合図のために再び教頭が壇上に上る。


「えー……私が校長にあのような話をしろと脅したというのは事実無根であることを一応言っておきたいと思います。あと校長、あとで体育館裏に来て下さい。それではこれで開会式を終わります。続いてスタート合図の方をさせていただきます」


 教頭はそう言ってピストルを頭上に掲げ――引き金を引いた。


 パンという乾いた音が響いた後、歓声と同時に歩行祭が始まった。







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