猫とマッチョと縁の円

涼木行





 一方、多少なりとも自分の先行きに光明が見えたことで鼻歌交じりに気分よく帰宅した菜更木を待ち受けていたのはやはりアレだった。


「随分ご機嫌な帰宅ですね」


「うおっ、いたのか」


「そりゃいますよ、居候ですから」と百目木エン。


「随分堂々とした居候だな……ちなみにお前いつまでいんだよ」


「いつまででしょうね。ぶっちゃけ家賃浮くんでこのままずっと居候してたいとも思いますが」


「完全に寄生虫じゃねえか。少しは遠慮しろよ」


「とはいえここの家主はあなたではないですからね。お母様も家を留守にすることが多いので大人でしかも教師の私がいると安心するとおっしゃってますし。あなたは出て行って欲しいんですか?」


「そりゃまあ、居候にせよ程度ってもんがあるからな……」


「ほんとに出て行っていいんですか? 猫の件があるっていうのに」


「どうぞ好きなだけいてください」


「そうですか? まああなたがそこまでいうなら私もやぶさかではありませんが。それはそうと猫といえば随分いい出会いがあったようですね」


「お前、んなことまでわかるのかよ」


「私に隠し事は不可能ですからね」


「……まさかつけてたんじゃねえだろうな」


「そこまで暇じゃありませんしだいたい暇だとしても貴重な時間をあなたなんかの尾行には使いませんよ。ほんとなんでそう無駄に自意識過剰なんですか。やっぱり筋トレしてると人の視線に敏感になるんですかね」


「るせえ。お前ならやりかねそうだから言ってんだよ」


「随分ですね。しかし猫縁を求めて猫カフェですか。まあ自分一人で脳筋の頭使ってよく思いついたなって感じですね。大丈夫でしたか? 店の猫全部逃したりしてませんよね」


「そこまでじゃねえよさすがに。だいたい密室なんだから逃げられねえし」


「なるほど、まずは退路を断ってじわじわいたぶったわけですね、恐ろしい……」


「誰がすっかアホ」


「あなたにはその気がなくても猫からすればいたぶり以外の何ものでもない場合もありますからね。愛があれば何してもいいってわけじゃないんですよ。『お前を愛してるんだ! 愛してるんだ!』って言いながら殴ってくるDV野郎じゃないですかまるで」


「ほんと容赦なく人が傷つくことしか言わねえよなお前……急所しか狙ってねえだろ」


「教師ですからね。これもあなたを成長させるためです。愛のムチってやつですよ」


「それこそDV野郎の言い分みてえなもんじゃねえか」


「でも教師って大概そんなもんじゃないですか。特に体育会系なんて」


「お前同業者にも容赦ねえな。そんなんでやってけんのか?」


「まあ全員の秘密握ってますからね、私に歯向かう人なんて一人もいませんよ。だいたいあなたが私の心配だなんて百年早いですね。もう少し自分の心配したらどうですか?」


「別にあんたの心配なんかしてねえよ。つか俺の方だって多少はうまくいってんだろ。さっきいい出会いがあったとか言ってたし」


「確かに猫縁が集まるいい場所、いい人とは出会えたみたいですけどまだまだ足りませんからね。それに逆にあなたがそれらに悪影響を与える場合もありますし。具体的にはそこに依存しすぎるということで。以前も話したと思いますが縁はより広く遠くへ多様にですよ。一箇所に留まってたり風通しの悪い場所では循環も悪く腐るものなんです」


「なるほど、そういうもんか。まあ俺も自分のせいでよそに迷惑かかんのは嫌だしな。猫が関わってんならなおさら」


「それと貴方の場合は一方的に求めすぎですね。これも以前話しましたけど縁はキャッチボールです。求めるだけではなく与えないと。あなたの方から無償で与えることによって初めて何かが返ってくる、縁が生じることだって往々にしてあるものです。もちろん猫との関係においても同じことですよ」


「なるほど……それももっともらしいな。助言あんがとよ」


「いえいえ、私としても早くあなたに独り立ちしてもらわないと困りますから。それこそいつまでも依存されちゃかないませんからね」


 そう言い、エンは極々自然に持っていた日本酒の一升瓶をぐいと口に運びながらその場を後にする。その様子を見つつ「てめぇも酒に依存しすぎだろどう考えても……」などと思いつつ、英士は自室へと引き上げるのだった。







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