猫とマッチョと縁の円

涼木行

 


 というのが昨日の出来事。何はともあれ今日から新学期だ、人と関わり縁の円とやらを広げる、か……いいじゃねえか、すべては猫のためだ。やってやるぜ……! などと英士は一人燃えているのであった。


 そういうわけで英士は学ランに着替え支度をし家を出た。ヘルメットをかぶりバイクに跨り、ブロンと景気よくエンジンをふかす。


(待ってろよ俺の猫たち……さっさと縁とやらをじゃんじゃん集めてがっつりお前らとの縁を結んでやるからよ、楽しみにしてろよな!)


 などと晴れ渡った空に向かって心の中で語りかけ、勢い良くバイクを発進させた。


 英士が通う会島あいじま高校。全校生徒約960人であり、一学年約320人の普通科の高校である。


 英士は徒歩や自転車通学の生徒らをよそにバイクで進んでいき、わずかばかりのスペースのバイク用の駐車スペース(そこは教師と共用であった)にバイクを止める。


 バイク(原付きも含め)通学の生徒は英士の他には片手で数えるほどしかいない。一番の理由は免許にも(原付きは比較的安かったが)バイクにも金がかかるからであり、またバイク通学は圧倒的に少ないため通学や下校などの際友人らと共に行動するというのが難しくなってしまうからでもあった。よっぽど家が遠く、加えて公共交通機関などの便も悪いという場合か英士のような一匹狼タイプでなければわざわざ選択しないのである。ちなみに英士の場合は免許は店の手伝いやバイトなどで貯めた金で自腹で取った普通自動二輪免許であり、バイクは叔父のお古でタダ同然であった。


 英士はヘルメットを取るとサイドミラーで少しだけ髪型をチェックし(彼が髪をオールバック気味に固めている最大の理由はヘルメットで髪が押し付けられるからであった)、入り口に向かう。昇降口の前では生徒らが集まり何やら壁を見つめていた。


 ああ、そういやクラス替えか。また場所だの覚えんのめんどいな、などと思いながら英士はクラスが書かれた紙に近づく。背が高い自分はあまり前に出ないほうがいいだろうと遠慮して人混みの後ろから覗き込むが、いかんせん遠くてよく見えない。目を凝らすためただでさえ鋭い目つきが更に鋭く凶悪なものになる。眉間にもシワが寄り、いわゆる「メンチを切る」といった状態だ。それに気づいた前の生徒らは慌てて道を開け、英士は「ども」と言った具合に軽く手刀を切り前に出る。そこでようやく自分の名前を確認し、クラスの数字を確認してさっさとその場を離れた。


 不慣れな新しい下駄箱を過ぎ、不慣れな二学年の教室が集まる校舎を歩き階段を登り、ようやく自分の目指す場所につく。新しいクラス、新しい教室。その中に、英士は一歩を踏み入れる。


 教室はすでに大部分が埋まっているといった具合であり、和気藹々とした話し声で満ちている。その視線の一部が一瞬英士に集まる。誰かが教室に入ってくる度「おっ、新しいクラスメートか、誰だろう」などと反射的に視線がいくものであったが、英士の場合は背が高くガタイも良かったためなおさら自然と視線が向かう。そして目にした瞬間なにか目にしてはいけないものを見たかのようにサッとすぐに視線を戻す。そうして各々思うのだ。「マジで菜更木うちのクラスか」「ガタイ良すぎんだろあれ」「顔も完全に高二じゃねえよ」「ほんと威圧感すげえな……」「でも新学期からちゃんと学校くるんだね……」などと。


 しかしとうの英士は慣れきっていることもあり気にせず黒板に貼られた座席表を確認して自分の席に向かう。その先に、よく目立つ見知った女子の姿があることに気づく。彼女の方もとっくに彼に気づいており、手を上げ笑顔を向ける。


「おはよーエーちゃん」


 とかなり身長の高い女子が言う。


「おう美日光みかみ


「同じクラスなるのすごい久し振りだね。小学生以来?」


「そんなんか。しょっちゅう見かけっからあんまそんな気しねえわ」


「目立つからねー。まあその点ではエーちゃんの方が上だけど。席も結構近いよ。私らデカいからすでに後ろにされてるね。みんな出席番号順なのに」


「まあでも後で動ごかすのもめんどうだしな」


 英士はそう言って自分の席に座り荷物を置きつつ「美日光と同じクラスってのはツイてんな」と考える。


 大甕美日光おおみかみかみ。菜更木家の隣に住む同い年の女子である。身長は日本人の女子としてはかなり高めの自称178。英士とは幼稚園から小中高の仲であり、彼女にとって英士は貴重な「自分より背が高い男子」であった。


 そこへ美日光と一緒にいた女子の一人も話に入ってくる。


「美日光マジで菜更木と幼なじみだったんだな。私こいつの友達の新江木英理にえきえりね。まーこうやって同じクラスになったんだし一年間よろしく」


 と言ってその女子はにこやかに英士に向かって手を差し出す。


「おう、こっちこそよろしく頼む」


 と英士もその手を握り返す。


「もちろん。お互い美日光の友人ってことで一つ仲良くいこうな」


「おう、助かるぜ」


 なんだ、新学期早々出だしいい感じじゃねえか。運が味方してんのか、とにかく縁とやらを集めんならこのチャンスを逃す手はねえ。流れに乗ってついでに他のとも仲良くなっとくか、と調子づいた菜更木は二人のそばにいる彼女らの友人と思しき茶髪の女子にも声をかける。


「そっちのお前もよろしくな」


 と自分から手を差し出す。が、


「えっ? あ、うん、どうも……」


 返ってきたのはなんとも冷ややかな返事であり、無論差し出した手は所在なさ気に空をぶらつくだけであった。


「あーごめんねエーちゃん、伊織いおり人見知りするからさ」


 とすかさず美日光がフォローする。


「別に人見知りなんかしないし」


「こんなこと言ってるけどバリバリするからさー、まあ悪い奴ではないんだよ」


 と英理もすぐさまフォローに回る。


「いや、別に構わねえよこっちもいきなりだったし……あー、そっちのあんたもまあよろしくな」


 と、残りの一人、メガネの女子に今度は手は差し出さずに言い、席を立ち一人トイレへと向かった。


(あの高圧的な感じ、冷ややかな目。あの茶髪うちの姉妹きょうだいらと同じ部類の女って感じだな……馬が合いそうにもねえし関わらんほうがよさそうだぜ。まあでもほんと美日光と同じクラスで助かったわ。あの新江木ってやつは普通にいいやつそうだし、この調子なら縁なんてそっこー集まりそうだな。猫とのウハウハライフもすぐ目の前だぜ……)


 などと一人不敵な笑みを浮かべるのであった。






 その背中を見送っていた美日光ら。英士が廊下に出たのを見るやいなや顔を突き合わせる。


「菜更木普通にいいやつそうだな」


 と新江木が口を開く。


「だからエーちゃんは見かけはあんなんだけど中身はけっこー普通だって言ったじゃん」


 と美日光も続く。そこへ先ほどの少しウェーブがかかったセミロングの茶髪の女子、一見ギャルっぽくも見える桧原伊織ひばらいおりが口を挟む。


「その見かけが一番問題な気がするけど。初めてこんな近くで見たけどあれほんとに高二なの? 30代のヤクザっていっても全然通用すると思うんだけど」


「ダメだよー伊織ちゃん人の顔のこととやかくいっちゃ。生まれつきのもんなんだからさ」


「それはそうだけど、でも髪型とかヒゲとかは別でしょ。だいたいなんなのあのガタイ。身長もそうだけどやたら体でかくない?」


「エーちゃん筋トレしまくってるからねー。ほんとすごいよあの筋肉は」


「確かにありゃ相当だな。服の上からでもわかるぜ……」


 と英理は笑みを浮かべる。


「出た、筋肉フェチ」


 と四人組の一人、メガネの女子柳川弘巳やながわひろみが言う。


「だっていいじゃん、筋肉。お前だってガリガリとかデブより筋肉質のほうがいいだろ?」


「まあ一応は。伊織はどうよ」


「その二つと比べりゃそうだけど程度ってもんがあるでしょ。まぁあいつがどんなもんかは知らないけど」


「ありゃ完璧に仕上げてるぜ多分。でもなんか結構意外だったな。いいやつそうってか結構フレンドリーってのもあるけど、こっちこそよろしく頼むだとか助かるぜだとか。一匹狼なイメージだったけど実は友達増やしたいとかだったりして」


「そうだね、エーちゃんあんまり人に興味ないタイプなのに。なんかあったのかな」


「英理に一目惚れでもしたんじゃない?」


 と伊織が茶化す。


「いやー一目惚れすんならお前にだろ、お前には自分から声かけてたし」


「ないでしょ別に。大体弘巳にだって自分から声かけてたし」


「私のあれは完全についでって感じだったでしょ。握手もなかったし。まああんたにあれだけ拒否られたあとじゃ当然だろうけど」


「別に拒否ってないわよ。てか普通いきなり握手とかしなくない?」


「それくらい普通だろ別に。なんかいかにも菜更木らしくていいじゃん。ヤンキーっぽいっつうかさ」


「なおさら嫌よそんなの。ヤンキーとか嫌いだし。あの人なんか三年のパンチパーマの暴走族としょっちゅうケンカしたりしてるんでしょ?」


 と美日光に聞く。


「んーそれは確かにそうなんだけど、でも違うと言えば違うというか……色々事情があるんだよねー。エーちゃんはただ巻き込まれてるだけっていうか、でも部分的には自発的とも言えるし……」


「なんだそりゃ、全然要領得ねえな。結局どういうことよ?」と新江木。


「んー、あんまり人に話すことじゃないし一応エーちゃんからも口止めされてるから、まー機会があったら話すよ。じゃなければエーちゃんが直接話してくれるかもしれないし。とにかくケンカとは少し違うしエーちゃんが悪いんじゃなくてほとんどあっちに付きまとわれてるって感じだからさ、付きまとわれてるのはエーちゃんではないんだけど」


「よくわからないけどどっちにしたってケンカしてるのが事実なら同じでしょ」


「おー伊織さんは相変わらず厳しいねー。もう少し丸くなって色々受け入れた方が人生楽しいぜー伊織さんよー」と新江木が茶化す。


「あんたらが色々受け入れすぎなだけでしょ」


「んなことねーよ、お前はハナから拒否りすぎなの。さっきのだってありゃさすがにねえだろ、菜更木の方からあんな気さくに声かけてきたのによー」


「あれはその、あんまり急でちょっとびっくりしてたし……しょうがないでしょ」


「急に話しかけられてキョドって無愛想にしか返せなかったってか?」


「伊織ほんとコミュ障だよな」と弘巳。


「うっさい。別にコミュ障じゃないし。初めて合う人と話すのがちょっと苦手なだけ」


「だからそれさっき言った人見知りだろ」


「……もういいわよそれで。てかそれもあるけど私ああいう不良みたいなの苦手なの」


「だからエーちゃんは不良じゃないって。話してみればわかるよ」


 美日光は三度みたびフォローに入る。


「まあ気が向いたらね」


「そんときゃさっきの態度もちゃんと謝っとけよ。結構傷ついてっかもしんないしよ」と新江木も続く。


「あの見かけでそれはないでしょ」


「いやー人は見かけによらないからさ、お前みたいに。だいたいお前みたいな美人にあんな反応されっとけっこうグッサリくるもんだぞ男は」


「なんであんたがそんなこと知ってんのよ」


「実際経験者たちに聞いたから」


「……なんか悪いことしたわねその人らにも……」


「大丈夫だって、そん時もうちらがフォローしといたしさ。けどまーこれで会高あいこう一年ビッグスリーのうちの二人がうちのクラスに揃ったわけだから今年のクラスは中々いけるぜ」
 と新江木。


「ビッグスリーってなによ」


「は? お前ビッグスリー知らねえの? マジ?」


「なによ、悪い? 別にいいでしょ知らなくたって」


「いやーさすがにこればかりは良くないよ伊織ちゃん。ビッグスリー知らないだなんて去年一年何してたの? って話だよ」と美日光も続く。


「そこまでなの……? 弘巳あんたも知ってる?」


「知ってるけど、ていうかそっちが知らないのが驚きだよ」


「……マジ?」


「そりゃこっちの台詞だぞ。会高一年ビッグスリーっつったらテストにも出るくらい重要だろ。まあもう会高二年ビッグスリーだけど、とにかく知らねえのなんて全校生の中でお前くらいなんじゃねえの?」


「それはさすがに盛りすぎでしょ。ていうかそこまでなら逆になんで私だけ知らないのって感じになるんだけど……」


「伊織そういうとこあるからな」と弘巳。


「あーわかるわ。なんでか伊織だけ大事なプリントもらってねーとかな。まーそういうとこがギャップっていうか伊織をますますかわいくしてるとこなんだけどな。ほんとにくいねーこのかわいこちゃん。美貌だけじゃ足りないってか?」


 と新江木がニヤつきながら言う。


「……あんまふざけたことばっか言ってると怒るわよ」


「悪い悪い。まー伊織は怒ったとこもまたかわいいんだけどなー。とにかくビッグスリーってのは文字通りうちの学年の物理的にデカい三人の総称だよ。一番が身長190の巨人、一年にして柔道インターハイを制した怪物中の怪物、人呼んで『ジャンボ』こと高館貴志たかだてたかし


「あーあのやたらでかい眼鏡の人?」


「そーそれ。なんだ知ってんじゃん。で次が身長186センチ、その光り輝く頭は太陽の如く。ついた異名は数知れず、通称『ハゲ』『坊主』『僧侶』『スキン』、さらには『除霊』に『破ァ!の人』! 彼こそが『寺生まれのT』と名高きお寺の申し子常香寺男じょうこうてらおよ!」


「なんだあんたの幼なじみね。あの人そんな色々呼ばれてたんだ。てかハゲとか坊主って異名じゃなくてただの見た目じゃん」


「それだけ寺男くんが多方面な顔を持っていてなおかつ大勢の人に愛されてるってことだよ」


 と美日光が言う。


「ふーん。まあ確かにあの人やたら顔広いしね。しかしハゲって得なのね。第一寺生まれでハゲで寺男って狙いすぎでしょあれ。キャラ立ち過ぎ」


「おまけに『破ァ!』の一発で除霊までできるしな。ビッグスリーの一角に死角なしだぜ。で、最後の一人が身長184センチの筋骨隆々、オールバックにアゴヒゲ強面は『とてもじゃないが高二にゃ見えねえ!』の声続出。カタギだなんて嘘だろそれ? 人呼んで『会高の若頭かしら』、菜更木英士その人ってわけよ」


「そのナレーションみたいなのいちいち暗記してたりするわけ?」


「まーわりとソラで言えるやつ多いよな?」


「そーだねビッグスリーその三人って言ったら口上もセットって感じだし」


「私一回も聞いたことないんだけどそれ……」


「伊織そういうとこあるからなー」


 と再び弘巳。


「そういうとこあるで収まるような話なのそれ……?」


「まーいいじゃんそれはそれでおいしいポジションなんだし。だいたい伊織ちゃんだって『ツートップ』の一翼じゃん」と美日光。


「あーそういやビッグスリーの二人いるだけでもすげえのにうち今回ツートップどっちもそろってんだよな。いやほんとこりゃ今年はかなりイケるぜ……」


「で、今度はなに? そのツートップって。なんか私も巻き込まれてるみたいだけど」


「おまっ、まさか『会高一年女子ツートップ』まで知らねえのか……? 自分もその一人だってのに……?」


「知らないしいつの間に私そんなのにされてんのって怖いんだけど」


「通称『ツートップ』っていうのはうちの学年屈指の美人二人のことだよ。その一人が人呼んで『ブライトライツ・ブラウン・ビューティー』略して3スリーBこと桧原伊織……そう、あなたのことだよ伊織ちゃん!」


 とやたらハイテンションに美日光が言う。


「たまに耳にしてたけどそれ私のことだったのね……っていうかなんでいちいちその二つ名みたいなのついてんのよ。だいたいそのブライトライツなんちゃらってのも意味わからないし」


「意訳するなら『光り輝く美しき茶色』とか?」と弘巳。


「うわっ……誰がつけてんのそれ」


「誰だろ。こういうのって発案者わからないで気づいたら広がってるって感じだから。あとはまあ『茶髪の美しい女』とか」と新江木。


「軽く恐怖感じるわねそれ……まさかあんたらじゃないでしょうね?」


「まっさかー、うちらにそんなネーミングセンスあると思う?」


「そうね、あんたらの場合もっとエグいアダ名つけるし」


「『あざとい』とか?」


「あざとくないし」


「とにかくあざとい桧原」


「……怒るわよ?」


「伊織ちゃんはモノホンの天然だもんねー。狙ってやってるんなら私軽く人間不信になるよほんと」と美日光が言う。


「……で、そのツートップとかいうののもう一人は誰よ」


「おっ、話変えた。まーいいけど、もう一人は人呼んで『眠れる姫の宇乃』こと鵜ノ浦宇乃うのうらうのさん。学年一、いや学校一を争うお前のライバルだぜ」


 と英里が神妙な面持ちで言う。


「争ってないし。ていうかあの人もうちのクラスなんだ。まだ来てないみたいだけど」


「聞いた話じゃかなりの遅刻魔みたいだからな。まさかの新学年初日から遅刻かこれ?」


「授業中もしょっちゅう寝てるみたいだしね。特に午前中の早い時間は。まーそれもあってなんだが謎の多い神秘的な人みたいになってるんだけど」と美日光。


「ただでさえ美人だしスタイルめちゃくちゃいいしなー。その上学校じゃ寝てばっかでほとんど誰ともしゃべんないし。孤高の存在って感じで」


「ふーん、あの人そんなんなのね。でもなんかモデルとかやってるって聞いたけど」


「あー見たことあるよ雑誌に載ってるの。それもあって少し近寄りがたい雰囲気あるからなあの人。モデルの話は禁句って感じだし。何考えてるかいまいちわかんない部分あるかな」と弘巳。


「とにかくその鵜ノ浦さんもいて伝説のツートップが夢の共演ってわけよ。けどそれだけじゃ終わらないぜ? なんたってこのクラスにはうちら『かしまし四人娘』がいるんだからよ……」


「四人ってそれ私も入ってるの?」


「当たり前じゃん伊織ちゃん。女三人よればかしましいって言うしね! 字も女三つで姦しいだし!」


「四人じゃん」


「それだけかしましいってことだよ。かしましいの更に一つ上を行く! みたいな?」


「私別にかしましくないんだけど」


「いやいやいやなーに言っちゃってんのよ伊織さん。冗談だろ?」と英里。


「いや、あんたらは確かにかしましいけど私は全然だから。第一弘巳だって別にかしましいとかじゃないじゃない」


「いや、私はかしましいだな」


「は? いきなり何言ってんのあんた?」


「事実だからね。伊織もでしょ?」


「いや、だから私は全然でしょ」


「あー、つまりそのその伊織は『かしまし四人娘』じゃないってこと?」


 と英里が確認するように言う。


「うん、まぁ……っていうかそんなの今はじめて聞いたし」


「そうか……悪かったな伊織。うちらはずっとお前のこと仲間だと思ってたけどこっちの勘違いだったんだな……悪かったよほんと、独りよがりで、まあ三人よがりだけど、お前の気持ち考えないで無理させてたみたいでさ」


「いや、別にそういうわけじゃないけど……」


「いいよ、無理すんなって。これからは私と美日光と弘巳三人でやってくからさ……お前はお前で自由にやれよ……ほんと悪かったな今まで、お前の気持ち考えないで巻き込んでてさ……」


「……いや、その、別に構わないけど……」


「え?」


「……別に私も入ってていいけど、そのかしまし四人娘とかいうやつ……」


「でも嫌なんでしょ?」


「別に嫌ってほどじゃないし、あんたたちがそこまで言うなら私も別に構わないし……」


「大丈夫だって、別にそこまでじゃないからさ。三人でも問題なくやれるしうちらもお前に無理させたくないから」


「別に無理とかしてないし……」


「いやー、けどさぁ、」


「いいから黙って私も入れればいいでしょそれ!?」


「えー? でもなー、さっきはあんなに嫌がってたのになー? いきなりどうしちゃったのかなー?」


「……わかったわよ、言えばいいんでしょ言えば? 私もみんなと一緒がいいって言ってんの! 四人の方がいいって言ってんの! これでいい!?」


 そう宣言する伊織の顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっている。それを見た三人、一瞬の間の後、口元を手で覆いぷるぷる震えながら感涙しはじめる。


美日光「これはやばい、かわいすぎるよ……またレベルを上げたみたいですね姐さん……」


英里「ああ、また別の次元にいきやがったなこいつ……ほんと国宝もんやでこのデレっぷり……」


弘巳「ツンとデレの使い分けがもはや神業だよなほんと……」


伊織「……もういい。あんたらなんか知らない」


 伊織はすっかりむくれてまだかすかに紅潮している顔をそっぽに向ける。しかしそんな様子もまた三人の琴線を激しくくすぐるのであった。


「わかったわかった、ほんと悪かったって伊織。伊織があんまりかわいすぎてさ。うちらが悪かったから許してくれって」


 と英里がニヤついたまま謝るが、視線を向けず無視する伊織。


「ほんとごめん伊織ちゃーん。私たちも伊織ちゃんに話してもらえないと寂しくて死んじゃうからさー機嫌直してよほんと、全部私たちが悪かったからさー」


 美日光に謝罪にもやはり無視を続ける。それを見て英里、


「まーもういいんじゃねえの? こっちは十分謝ったし、伊織がうちら無視なんてどうせ長続きしないんだからさ。ほっときゃそのうちあっちから勝手に話しかけてくるって」


「それもそうだねー。伊織ちゃんの機嫌直るまで待とっか」


「んじゃ今回は何分持つか賭けだな。まー普通に三分持たないだろ」


「それはさすがに舐めすぎだよー。さすがに次の休み時間くらいまでは持つんじゃない?」


「いやーホームルーム始まるまですら無理だろどうせ。なあ伊織?」


「知らない。あんたが私の事ばかにしてるってことはよくわかったけど」


「バカにはしてないよ別に。てかもういいの?」


「無視してもあんたら喜ばせるだけだってよくわかったから」


「さすがに伊織もそのへんはわかってきたか」


「まあうちらは伊織ちゃんならなにやっても喜ぶんだけどね」


「いきなり水かけたりしても?」


「それはさすがにムッと来るだろうけど伊織はそんなことしないからな。しかし水かけるとか嫌がらせの発想もこれまた伊織らしくてかわいいな。思いついたのがそれかよって感じで」


「あんたらほんと打たれ強いっていうか何言っても効かないのね……」


「まー伊織ちゃん相手ならね。目に入れても痛くないってやつだよ」


「それおじいちゃんが孫とかに使うやつじゃないの」


「まー実際それに近いものはあるかもな」


「……わかった、もう色々諦める」


「いやー無理だろ諦めるとか。伊織強情だからなあ。まあ一生イタチごっこが続くみたいな諦めだったらなんも言わんけど」


「安心して、そっちの諦めだから」


 伊織はそう言い、はぁと大きくため息を付いて机に突っ伏すのだった。


 しばらくしてチャイムが鳴る。教室の席も全て埋め尽くされている。




 そして事件は起きる。









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