猫とマッチョと縁の円

涼木行





「はい皆さん席ついてーってすでに着いてますね。初めまして、縁あって今年一年みなさんの担任をすることになりました新任の百目木どうめきエンです。動物園ではないのであしからず」


 教室に入ってきて黒板の前に立ちそう発言したのは、菜更木にとって見覚えがありすぎるショートカットの黒髪の女。印象的すぎる泣きぼくろ。そしてここでもやはり何故かジャージの上に半纏。


 縁結びの女、百目木エンその人であった。


「ま、これも何かの縁ですから、一年間よろしくお願いします」


 教室の一番後ろで愕然とする菜更木をよそに、エンはどこまでも無表情にそう言い放った。




「まー詳しい自己紹介とかは後ほどということで、まずは始業式がありますんで廊下に出席番号順に並んで体育館に向かってください」


 エンはそう言い教壇を後にする。それを見て生徒らも一斉に立ち上がり、ぞろぞろと廊下に出て行く。その人混みの中を菜更木は急いでかき分けエンの後を追った。


「おいちょっと待て」


「はい? なんですか菜更木君」


「なんでここにいんだよ」


「先程話した通り君たちの担任だからですが」


「そうじゃねえ。いや、っていうかそれマジなのか?」


「マジに決まってるじゃないですか」


「……どういうつもりだよ」


「どういうつもりもなにも高校教師としてこちらに赴任ということになったから来ただけですが」


「……俺がいるから潜り込んできたとかじゃねえよな」


「自意識過剰すぎますね、思い上がりも甚だしい。第一そんな簡単に潜り込めるわけないでしょう学校なんかに。漫画の読み過ぎなんじゃないですか?」


「いやまあそうだけど……じゃあマジで教師なのか?」


「だからそう言ってるじゃないですか。初めに言ったはずですが。こちらで働くことになったから来たと」


「そういやんなこと言ってたな……にしてもなんで先に言わねえんだよ」


「あなたの驚く顔が見たかったので。なかなか面白かったですがやはりそこは『あー! お前がなんでここに!』とか立ち上がってやって欲しかったですね。そしたら私も『あんたこそなんでここにいんのよ!』とかできたのに」


「それこそ漫画の読み過ぎじゃねえか。てか担任って、お前なんかしただろ絶対」


「清々しいほど自意識過剰ですね。してませんよそんなこと。これもずっと一貫して言ってるじゃないですか、『これも何かの縁ですから』って」


「……確かに言われてみりゃそうだけど、」


「縁ですよ、全て。それが縁なんです。私がこの街に来たのもこの学校に来たのもこのクラスの担任になったのも、あの時あなたに会ったのも」


「ほんとかよ……」


「そういうものですから。ところであなた教師に向かってなにタメ口きいてるんですか?」


「いや、だって前からこうだろ」


「ここは学校で私は教師あなたは生徒です。最低限の口のきき方ってものがありますよね? 内申下げますよ? それよりあの件なしにする方がいいですかね?」


「……すいませんでした、以後気をつけます」


「よろしい。では私も忙しいのでこれで」


 エンはそれだけ言うとやはりここでも何故か履いている下駄をカランコロンと響かせてその場を後にした。菜更木はその後姿を眺めながら(マジかよ、嫌な予感しかしねえぞこれ……)などと苦虫を噛み潰したような顔で立ち尽くすほかなかった。




 して、始業式。四月で新年度が始まるということで当然新任の教師も紹介される。その中でも一際異彩を放つ教師がいた。無論、エンである。一応は式で他の面々は皆一様にスーツだというのに一人だけ上下ジャージ、上には半纏、おまけに下駄履き。それでいて若くて美人だというのだから生徒らの注目は自然と彼女一人へ向かう。好奇の視線が彼女一人に注がれる中、マイクが渡りエンの挨拶の番となる。


「おはようございます。初めまして、百目木エンです。別に動物園と同じイントネーションで構いません。教科は英語を担当します」


 その格好で英語かよ、と内心で突っ込んだのは一人ではなかっただろう。


「趣味と特技は縁結びです。縁結びはまあ縁結びの神とか縁結びのお守りみたいなものだと思ってください。それのより確実で強力なものですが。とはいえ縁結びの方は一応有料になりますのでそこは相談の上で。さすがに生徒から金巻き上げるといろいろと問題が出てきてしまいますからね。
 あとはまあその一環で占いもできます。自分で言うのもなんですが占いの方もほぼ百発百中みたいなものなので。こちらは一応カウンセリングも兼ねてみたいなものですから代金は頂かなくても結構です。恋愛の悩みから対人関係友人関係、家族の問題から進路の悩みまで一応なんでも聞きますんでどしどしご来訪の方お待ちしております。まあ聞かなくたって何に悩んでるかなんて見ればわかるんですけどね」


 エンはそれだけ言うと「どうぞ」と異物を見るような目をしている隣の教師にマイクを渡す。生徒の面々も異質な教師を前にただ呆然と立ち尽くすだけであった。


 後に「百目木ファーストインパクト」と呼ばれる彼女のデビューの瞬間である。






 エンの突飛な発言と一部の生徒の貧血による転倒意外は何事もなかった始業式も終わり、面々は教室に戻る。教室に戻った2-3の面々の話題は当然に自分たちの新たな担任、百目木エンのことであった。


「なにあれスピリチュアル?」
「何かの宗教?」
「霊能力者とかそう言うの?」
「だいぶ頭イッちゃってるだけだろあれ」
「格好もすげえしな。下駄とか初めて見たわ、しかも女で」
「でもチョー美人だよな。若いし」
「何歳くらいなんだろうね。普通に二十代だろうけど」
「てか占いとか良くない? ただで見てもらえるみたいだし試しに見てもらおうよ」
「けどめっちゃ胡散臭いよねー」


 などなど、本人がいないのをいいことに言いたい放題である。そんな中、


「寺男ー。お前から見てあの先生どうなの?」


 と英里がスキンヘッドの男子生徒、最強の霊媒体質にして除霊のプロフェッショナル、「寺生まれのT」こと常香寺男に尋ねる。途端、寺男の答えを待つかのように教室中が一斉にしんと静まり返る。


「あー、悪いこと言わねえからあんま茶化すのはやめといたほうがいいぞ。あの先生マジだから」


 途端、おぉー、と謎の歓声が上がる。


「寺男が言うなら間違いねえか」
「なんせ寺生まれのTだもんな」
「ていうかまず寺男自体が怪しいんだけど。マジなのあれ?」
「バッカお前見たことねえのかよ。『破ァ!』だけで除霊すんだぜあいつ」
「噂じゃ霊能力トッププロスペクト全国でも二位だってな」
「なんだよそれ。まず霊能力全国トッププロスペクトなんてあんのかよ。そんで一位誰だよそれ」


 などとこちらも言いたい放題である。


「へー、お前が言うならそうなんだろうけどマジって実際どれくらい?」


 と英里がふたたび尋ねる。


「どんくらいって言ってもなぁ……まだちゃんとは見れてないけど相当だと思うぞ」


「じゃー寺男君と比べたらどっち上?」


 と今度は美日光が尋ねる。その質問に寺男は思わず鼻で笑って返す。


「どっち上ってんなの比べもんになんねえよ。まあ俺とは方向性が違うから単純に比較はできないけどな」


「はー。で、それってどっちが上なのよ」


 と再び英理。


「あっちが上に決まってんだろ。俺なんか足元にも及ばねえよ」


「マジで? あの人そんなすごいの?」


「多分な。俺が見た中では一番。うちの親父よりだいぶ上だろ」


「そんなかよ……んじゃ除霊なんかもうへのかっぱ?」


「そこはさっき言ったみたいに方向性の違いがあるからな。まあ除霊くらい難なくできるだろうけど」


「まずその方向性の違いってのがなんなのよ。除霊とかに方向性なんてあるの?」


 と今度は伊織が突っ込む。


「除霊自体が霊能力全般の方向性の一つでしかないからなぁ。あの先生は縁結びがどうこう言ってたしそっちに特化してんじゃないかな」


「……よくわかんないけどとにかくあんたに言わせりゃ嘘言ってないってことねあの先生」


「まあそういうことだよ。多分占いとかほんとに当たるし縁結びとかも普通にできるぞ」


 そのことばに再び教室中がどよどよとざわめく。


「寺男のお墨付きが出たってことは安心だな。すぐこれ広まって占い殺到すんじゃねえの、特に女子とか。うちらも行ってみる?」


「でも別に見てほしいこととかないしね」


 と伊織が英里に返す。


「何言ってんの伊織ちゃん、なんでもいいからとりあえず占ってもらうのが楽しいんじゃん。自分は何言われるかなーとか気にならない?」


「んー、別に。占いとか信じないし」


「とか言って実は隠れてめっちゃ占いとか見て気にしてるんだよな伊織は」
 と弘巳。


「してないわよそんなの。ていうか鵜ノ浦さんまだ来てないわね」


「おっ、やっぱりツートップのライバルのことは気になるか」と英里。


「なってないし。第一ライバルじゃないから」


「けど新学年早々遅刻はすごいな。休みかもしれないけど」


 弘巳も続いたその時、教室の扉がガラッと開き一人の女子が姿を現す。


 背が高くスラっとしており、脚も恐ろしく細く長くいかにも「モデル」な体型。黒く長い髪を後ろで縛り、動くたびに優雅に揺れる。顔もまた恐ろしく整っており、そこにある憂いを秘めた表情(実際はただ眠いだけなのだが)すら完璧に画になっていた。




 鵜ノ浦宇乃うのうらうのその人である。




「おっ、噂をすればなんとやら」


 英里がぼそっと小さくつぶやく。彼女の登場に教室も自然と静まり返る。しかし当の本人はそんな静けさをよそにふらふらと黒板の前に行き、自分の席を確認するとまっすぐそこへ向かい、腰を下ろすとすぐさまかばんを枕に机に突っ伏して眠り始めた。


「……マジで眠り姫だなあの人」と英里。


「しかしほんとすごい体型してるわね。なにあの脚の長さ?」伊織も続く。


「腰の高さからまず違うもんな」と弘巳も言う。


「まーでも身長だけならうちのミカミの方が断然上だぜ」


「えっへん! って身長だけならってどういうことっすか」


「大丈夫よあんたも胸とか肉付きの良さとかは勝ってるから」


「伊織もギャップ萌えっぷりでは圧勝だしな」と英里がすかさずいじる。


「いや、意味分かんないし。てかなんでいきなり私の話になるのよ」


「そりゃツートップのライバルだしな。常にトップを争う宿敵ってやつ?」


「だから別にライバルとかじゃないって。そもそも争ってなんかないし」


「大丈夫だよ伊織ちゃんも胸はともかく肉付きの良さと美貌では負けてないからさ」


「あんたねぇ……さっきの復讐でしょそれ」


「なんのことですかねー」


 と美日光がとぼけたところで再び教室の扉がガラッと勢い良く音を立て開き、先ほどの騒ぎの中心人物、クラスの新たな担任である百目木エンが入ってきた。途端、教室中に散らばっていた面々が慌てて各々の席に戻っていき、しばらくして自然にしんと鎮まり返る。


「どうも、改めましてこのクラスの担任で新任の百目木です。自己紹介はまあ先程始業式で十分しましたからね、あれ以上は特にありません。何か質問があれば答えますが」


 一瞬の間、静寂。後、新江木英里がひょいっと片手を上げる。


「どうぞ新江木さん」


「はい。てかもう名前覚えてるんですね」


「覚えてはいませんよ。別に覚えなくても見えるんで」


 至極当然、教室内は再び静まり返る。


「――あー、その見えるっていうのは?」


「まあ見えるというより『わかる』ですが、とりあえず見れば名前くらいは普通にわかりますね。他にも色々わかりますがまあ皆さんにも一応はプライバシーというものもあるでしょうから勝手に秘密など見たりはしないので安心してください」


「そうしてもらえるとこちらも助かります……その見えるとかっていうのは霊能力的な何かなんですか?」


「まあそう考えてもらっても別に構いません。先程そちらの寺生まれのTさんが皆さんに解説したようなものなので」


 なんで知ってるんだこの人、盗み聞きでもしてたのかよ……それともマジの霊能力者とか……? などと一様に恐怖する面々。


「あ、そうですか。あー、で質問なんですけど、なんで下駄なんですか?」


「水虫なんで」


「あ、左様で……なんかすいません」


「いえ、構いませんよ嘘ですから」


 嘘かよ! と内心全力で突っ込む面々。


「あ、嘘なんですね。ならよかったです。じゃあ半纏は?」


「これはまあ上着代わりですね。楽なんで」


「あ、そうですか……以上です」


「そうですか。他には?」


 エンの問いかけに、男子生徒の一人が恐る恐る手を挙げる。


「えっとその、答えたくなかったら構わないんですけど先生いくつですか?」


「いくつに見えます?」


「え? いや、まあその……二八くらいですかね……」


「なるほど、今回の体はそれくらいに見えるんですね」


 今回の体って何? と思うがやはり一様に口にだすことはできない面々であった。


「まあ私のことはこれくらいにしておきましょう。他になにかあれば後ほど個別に対応しますので。それと占いだの悩み相談だのも先ほど話した通り大歓迎ですので是非。じゃあちゃっちゃとやることやっちゃいましょうか。新しいクラスですのでまずは各役職だの係だの決めませんとね。というわけでくじ引きを用意してきました」


「えっ、くじで係決めるんですか?」


 と生徒が突っ込む。


「ええ。こういうのはくじで決めるのが一番ですから」


「でも人によって向き不向きとかあるんじゃないですかね」


 と寺生まれのTこと寺男が意見する。


「確かにそうかもしれません。ですが高校のクラスの係なんぞ例え不向きだろうと別に死ぬようなものではありませんから。それに例えくじであろうとそれは一つの『縁』ですからね」


「『縁』ですか」


「ええ。エニシです。偶然であり同時に運命ですね。くじだろうと何かの縁があってその係につくわけです。そこには自分の向き不向きや好みで選んでは絶対に出会えないような経験があるかもしれません。思ってもみなかったようなことに遭遇することもあるかもしれません。人に出会い交友関係が広がり世界が広がるかもしれません。向き不向きや好き嫌いで選んでいては決して出会えなかったような何かに出会えることもあるかもしれません。私は皆さんにそういう経験をしてもらいたいのです」


 エンの説明に、自然と教室中が静まり返る。


「人生は冒険です。何事も挑戦です。あなた達はまだ若く、この世は知らないことで満ち溢れています。しかし自分が知っている方へだけ進んでいてはそうした未知と一生出会えずに終わってしまうかもしれません。だからこそくじ引きのようなある種の偶然性であり運命的な道標も時には必要なのです。だから私はたとえ不服であっても皆さんには偶然自分のものとなった係や役職を『これもなにかの縁だから』と思ってポジティブに受け止め全うしてもらいたいのです。わかっていただけましたでしょうか?」


 エンの話に、皆バラバラながらもコクンと頷きを返す。が、しかし。


「ならよかったです。決して『係決めとか生徒らに任せとくと長くかかるしいつまでも決まんないとかあるしめんどくさいからくじ引きにすっか』とかそういうわけではありませんので」


 という続きを聞き「あ、そっちが本心ですか」と納得し皆一様になにか達観したような笑みを浮かべつつまた小さく頷くのだった。


「というわけですからそっちの席からじゃんじゃん引きに来ちゃってください。係の都合上くじも男女分かれてるので気をつけてくださいね。あと引いてもまだ見ないように。一斉に見たほうが面白いんで」


 だんだんこの人のことわかってきたわ、と思いつつ意見するのも面倒なので各々指示に従いくじを引き自分の席へと戻っていく。最後の一人が引き席に戻ったのを確認するとエンは意気揚々と立ち上る。


「では一斉にオープン!」


 その声を合図に皆がガサガサと開き、各々に歓声や落胆の声を上げる。


「うわ、サイアク……」


「どったのよ伊織。なになに?」


 興味津々に覗き込んでくる英里に伊織は机に突っ伏したまま自分の紙を突き出す。そこに書かれた文字を見た途端英里はゲラゲラと笑い出す。


「ははは、こりゃすげえ。やっぱ持ってるよなーお前。ほら」


 そう言い英里が美日光と弘巳にも紙を見せると、二人もやはり途端に吹き出す。


「いやこれは、さすがすぎるだろ伊織」


「ほんとそれしかないってとこ引くの天才的だよねー伊織ちゃん」


「うっさい。人事だからって笑ってんじゃないわよ。ほんとサイアク……」


「いやーでもそれこそ先生が言った通りのお前じゃ絶対選ばないってやつじゃん? いいじゃんたまにはこういうのもさ、別に死ぬわけじゃないんだし物は試し人生何事も経験だと思ってさ」


「そうだよ伊織ちゃん。『これもなにかの縁だから』」


「こんな縁くそくらえよ」


「そんなお下品な言葉使っちゃダメだぜー伊織さんよー。せめて『お便をお食べあそばせ』とかにしとけって」


「つっこむ気力もない」


「こりゃ相当だな……まあでもあんた一人じゃないしなんとかなるでしょ。一応副だっているんだし」
 と弘巳。


「それこそその相手が問題じゃない。男子と二人とかほんと勘弁」


 伊織は再び深いため息をつき机の上に突っ伏す。


「それじゃあここからは見事委員長を引いた二人に任せますので前に出てきてください」


 とエンが言う。誰が委員長引いたんだ、と好奇の目が教室中い向けられる中、伊織は「はぁ~」と大きくため息をつき半ば投げやりに勢い良く席を立つ。そこで英里、続いて二人が勢い良く拍手をし、それが教室中に伝播する。伊織はキッと英里たちを睨みつけ、心底嫌そうな顔で黒板の前に立った。


「もう一人、男子の方は誰ですか?」


 エンの声に、再び教室内が一様に鎮まり返る。好奇の目、主に「桧原さんと委員長やれる運の良い奴はどこのどいつだよ」という男子たちの羨望と嫉妬が混ざった視線があちこちへと向けられる中、


 ――その男は教室の一番後ろでゆらりとその巨体を立ち上がらせた。




 無論、菜更木英士である。




 途端、教室内の空気がピンと張り詰める。その中を菜更木はうつむきながらゆっくりと前に向かい、エンの前に立つとバンと紙を机の上に置く。そこには紛れもなく「委員長」と書かれていた。


「――マジでやんの?」


「そりゃあなたが引きましたからね」


「……お前細工しただろ」


「してませんよ。ほんと自意識過剰ですね。だいたいどうやって細工なんかするんですか。それは自分で選んで引いたんですよね?」


「そりゃそうだがお前ならそれくらいわけねえだろ」


「買いかぶり過ぎですよ。それと教師に対して『お前』はないと思うのですが」


「くっ……すんませんした……いやでもさすがにこれはねえだろ」


「何がです?」


「いや、何がって俺が委員長とか」


「なんでです?」


「ぜってーわかってて聞いてんだろそれ」


「さて、なんのことでしょう。まーこれもなにかの縁ですから潔く諦めてやりましょう、委員長」


「『なにかの縁』じゃねえよこんな縁あってたまるか。どう考えても俺がやるようなもんじゃねえだろ」


 英士の言葉にエンは一つ大きく溜息をつくと


「菜更木君」


 とちょいちょいと手招きをし教室の角に向かう。


「んだよ」


「わかってないようですね。これは縁を集める大チャンスなんですよ?」


 エンは菜更木の顔を見て囁く。


「……どういうことだよ」


「委員長ともなれば自ずと色んな人と関わることになりますからね、当然それだけ縁も集まります」


「まあ確かにな」


「ええ。全ては猫のためですよ」


「全ては猫のため……」


「そうです。全ては猫に繋がってるんです。これは縁であり運命ですよ。あなたと猫の縁が結ばれるための運命です」


「……そうなのか?」


「そうですよ。すべての道は猫に繋がってるのです。全てはあなたが猫と仲良くなるために仕組まれたものなのです。運命が全てそこへと向かっているのです。つまりあなたと猫は結ばれる運命なんですよ」


「そ、そうなのか……!?」


「ええ、くじの結果から見てもそれは間違いありません。全ての運命が貴方に味方しています。全ては猫のためです」


「……そうだったな、全ては猫のためだ……」


「そうです。全ては猫のため。猫のためならなんでもする」


「ああ……全ては猫のため、猫のためならなんでもするだ……」


 菜更木はそう復唱し、すっくと上体を起こすとエンに向かってズビシと右手を差し出す。


「任せろ先生。俺が委員長ばっちりやってやるぜ!」


「ええ、任せましたよ色々と!」


 ほんとちょろいですねこの人、と思いながらエンも差し出された手をがっしりと握り返す。そして一連の流れを見ていた生徒たち、


(一体何があったんだよそこで……)


 とやはり一様に内心で突っ込むほかなかった。






 ということで、何の因果かはたまた縁か、クラスメートらの「ほんとに大丈夫かよ菜更木で……」という思いや彼と組むことになり一層絶望が深まっている伊織をよそに、無事英士が委員長に就任することとなったわけであった。







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