以心伝心

うみかぜ

第二十三話 俺は強くなる

美沙と話を済んだ仁人と、由美。仁人は由美にある提案を示した。
「また、いつ俺が襲われるか分かりません。なので今のうちに入院で奪われた体力を戻しておきたいんです。」
退院というべくか、過去に戻ってからは由美の家で生活している。病院にいる時よりは動いているし、料理だってある程度作れるようになった。だけど、自分が狙われた。あの現在に戻った出来事が過去で起きないとも限らない。だから、体力を戻し体を鍛えたい。そういう考えだった。

「もちろんいいけど、トレーニング中に襲われないようにね。」
「そんなヘマしません。」
仁人はこの日からトレーニングを始めた。走る、筋トレ、簡単なものから始めていって、徐々にメニューを増やしていていった。そこまで凝った事はやらず基礎をこなしていった。

月日は経ち、七月の第一月曜日に仁人と由美は直也の家に行く事にした。
今回、過去に来てから、仁人の症状の大幅に改善されていて、食欲もほぼ従来と同じくらい戻していった。トレーニングの効果が、ここにも現れたかもしれない。随分、体も引き締まった。まだまだ、体は細いがある程度の肉はついている。まず、入院して治すものを自力で治したのは本当にすごいと由美も絶賛したほどだった。

七月七日
「また、この日が来ましたね。」
「もう七夕なんだね。」
「本当、時が過ぎるのは早いですよね。」
今日は七月七日。七夕だ。直也が水の事故で亡くなるまで後三週間だった。
「絶対助けます。あいつを」
「そうね。ここまできたら絶対に。」
再び十分ほど歩いて直也の家に向かった。
「待ってたよ、仁人お兄ちゃん。」
仁人の身長を超える小学生の直也に「お兄ちゃん」と呼ばれるのはなんか変な感じだが、どうやら信じてくれているらしい。
「本当にあの陽奈から告白されただろ?」
「うん。ビックリした。」
「彼女とは上手くいってる?」
「まあね。」
純粋な照れ顔。直也らしさの一つだった。
「いいか。直也。これから言うのが俺が過去に戻ってきた本当の理由なんだ。」
そう言って、仁人は本題に乗り出した。
「今から三週間後、直也と俺は海に遊びに行く。そこで遊んでいたら離岸流に飲み込まれ俺は瀕死、直也は死ぬ。」
「っ!!?」
「そんなの、嘘だよな?」
直也は仁人の肩を掴み、揺さぶる。直也がそうなるのも仕方がない。自分が事故で死ぬなんて言われても想像がつかない。
離岸流とは、海浜流系の一種で、海岸の波打ち際から沖合に向かってできる流れのこと。それのせいで事故にあった。
「だけど、いいか。今ならまだ自分を救える。だから、直也には過去の俺から海にいこうと言われても断れ。」
仁人は真剣な眼差しでそう言った。
「分かった。仁人は大抵の事がないと心配とかしないんだ。その仁人がここまでいうなら信じるよ。仁人お兄ちゃん。」
「さすが俺の友だな。」

直也を海に近づけさせない事に成功した。




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