ぜ、絶対にデレてやるもんか!

ねぼすけ

Lv.15 もっと近くにいたい⑤

「な、何で……」

  笑みを絶やさない赤崎さんの真意が分からない。あたしを恋敵とみなしたのだろうか。えっ、それってつまり、香月への恋心がバレてる……!?

「何でも何も二人とも生徒会に戻りたいんだよね? だったら、早く距離を置いた方が得策じゃない?」

  再び、痛い所を突かれた。終始、心の片隅では気づいていた矛盾に目を瞑ってきたのが仇になったのかも。
  でもでも、赤崎さんは『デレた方が負け』の勝負のことは知らないはずだし。

「生徒会長には、不仲が原因で勘当されたから、その……」

  咄嗟に嘘をつくけれど、赤崎さんには「結局、喧嘩しちゃうんでしょ?」と軽くあしらわれてしまった。

「もう上谷も高一だよ? 彼女とデートとかしたいって思うのが普通じゃない?」
「そ、それはそうかもだけど……」

  確かに赤崎さんから見れば、恋人でもなく友人でもない唯の同級生のあたしが香月の恋路の弊害となっているように見えるのだろう。そして、彼女はそれを快く思っていない。
  あたしが香月の彼女になりたいから、なんて傲慢なこと言えるはずないじゃない……。

「赤崎さんはその……あ、あいつのこと……」

 「好きなの?」と聞いてしまおうか。いや、でもそんな身も蓋もないこと言ってしまうのは幾ら何でも失礼ことだ。
  ううん、違う。本当は赤崎さんみたいな可憐な子が香月を想っているなんて恐ろしい現実を認識したくないだけ。恐らく、何人もの男子を骨抜きにしてきたんだろう彼女に香月が惚れない保証は何処にもないんだから。

「……上谷はもと同中のクラスメイトで、生徒会役員の同期、ただそれだけだけど、ちょっと特別な男友達ってところかな」
「特別……」

  言葉の一部を鸚鵡返しにすると、赤崎さんは例の如く快活に笑った。意味深な発言だった。他意はないのか、はたまた秘めたる恋心があるのか。

「……中学時代のあのバカって今と同じ?」
「あ! 聞きたい聞きたい? 中学時代の上谷はね……」

  あたしは固唾を呑んで、次なる言葉を待つ。あからさまに嬉しそうな赤崎さんは一体、何を語るのだろう。二人の中学時代には、どれほど濃密な思い出が詰まっているのだろう。
  気になって仕方がないので、無言で首肯して続きを促した。

  華やかに色づいた二人の思い出を耳に入れる恐怖よりも、知りたいという好奇心が僅かに勝っていた。
 
「最初に会ったのは確か――」
「――ごめん、ちょっと待たせた!」
「……って上谷!?」
「何でいきなり現れんのよ!?」

  心臓が止まるかと思った。まさか、聞かれてないよね? あたしも赤崎さんも血の気が引く思いで答えたけれど、当の香月は嬉々としてりんご飴を渡してきただけだった。


  ◆ ◆ ◆


  玲奈を夏祭りに誘ったら、生徒会の同期で仲の良かった赤崎柚月と邂逅した。長らく会っていなかったが、気の置けない友人に変わりはない。
  だが、玲奈と彼女は初対面。二人に余計な気を遣わせてしまったのではないかと己の甘さに辟易した。そのお詫びとしてのりんご飴だったのだが、戻ってきて第一声に玲奈に怒られた。赤崎の方は何故だか、必死に笑いを堪えていた。意味が分からない。

「あんた、もうちょっとタイミングってもんがあるでしょ」

  りんご飴を二人に手渡す。
  その返事として何故だか、玲奈には呆れられる始末。赤崎の方に助けを求めて視線をやるも、「今のは上谷が悪い!」と嬉々として言われた。理不尽だ。
  まぁ、当初の懸念に反して二人は意気投合したようで何よりだ。赤崎の提案を受けた時、玲奈は面白くなさそうにしていたのにな。俺の心配は杞憂に終わりそうだ。

  りんご飴を食べながら、話していると自ずとこの後打ち上がる花火の話に移った。

「八時からの花火、どうする? 実は私穴場知ってんだけど」
「カップルの巣窟とか止めてくれよ」
「だから穴場だって言ってんじゃん、人なんて滅多にいないよ」

  なんと、それは邪な妄想を煽る発言だ。人目につかない場所で、肌面積の多いキャミソールの女子と蝶柄が施された桜色の浴衣を身に纏う激カワ玲奈と肩を並べて花火ですか。健全な男子には何とも興奮するシチュエーションである。勿論、えっちぃことをする度胸はございません。

「……目がスケベ、絶対変なこと考えてる」
「べべ、べっつに〜? そんなこと断じてないけどぉ?」
「動揺しすぎでしょ、語尾がアホになってる」
「こ、こここれがおお俺の平常運転だ」
「今度、一緒に精神科行く?」

  さすが玲奈たん。憎まれ口の端々に垣間見える優しさが心に染みる……。唯、悪口を言う時に限って、どうしてそんなに嬉々としているんでしょうか。やっぱり、プラマイゼロじゃないか。

「お〜い、ちょっと二人とも〜? 二人だけの世界に入るのは止めてくんない?」

  そんな赤崎のからかうよう発言に、顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。一体、彼女は何のつもりなのだろうか。確かに、中学時代から小悪魔的な所はあったけれど。

「べ、べべべっつにー、そんなんじゃないぞ?」
「だ、だだ誰がバ香月なんかと!」
「あれあれ玲奈さん? さっきは俺をバカにしておいてそれはないんじゃないんですかねぇ」
「不名誉な呼ばれ方してることには突っ込まないんだねー」

  見れば、赤崎の目が死んでいる。傍から見れば、イチャイチャしているように見えるんだっけか。だが、君が蒔いた種じゃないか。

「と、とにかく早くしないとせっかくの花火が見れないからな、行くぞ」
「れっつごー!」

  気を取り直した赤崎の掛け声を契機に、俺も歩を刻み始める。通りはお世辞にも空いてるとは言えず、雑踏の中に足を踏み入れるしかない。
  その時だった。ジージャンの袖が後ろに軽く引っ張られた。
 
「また逸れちゃうから……これくらい我慢してよ」

  袖を指で摘みながらもしっかり握っている。唇を尖らせて恥じらう玲奈がいた。だからあなた、不意打ちに俺の心を動揺させないでくれます? 語彙力がお亡くなりになっちゃうから。

「……か、勝手にしろ」
「……うん」

  勿論、玲奈の顔を直視出来なかった。恥ずかしさで共倒れしそうだ。

「ちょっと二人とも〜? 早くしないと始まっちゃうけど〜?」
「分かった分かった、今から行くって」 

  友人にドタキャンされたというのに、心なしか普段の赤崎よりも明るく見えた。これも玲奈のお陰だろうか。

「……何笑ってんのよあんた」
 
  辛辣の刃が突き刺さる。うん分かってた、薄々そうなんじゃないかって予感はあった。そうだ、これぞ俺が愛してやまない神谷玲奈だ。

「お前なぁ、普通そこはこう……もっと花も恥じらう乙女らしくだな……」
「何よそれ、どんなキャラ期待してるわけ?」
「いえ、あなたはそっちの方が十分輝いてますとも」

  確かに不意打ちに見せる可愛さは、男としてグッとくるものがあるが、それが平常運転となれば命がいくつあっても足りん。
  まぁ、ツンギレ玲奈たんも悪くない……いやそれどころか最高というのが本音だ。

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