銀眼貫餮のソウルベット -Pupa cuius oblitus est mundus-

七色Ayeca。

第9話 深緑の気色

 テララは破れた裾の奥の真実に直面し赤面した顔を抱え途端に困惑しはじめた。
 それもそのはずだ。テララは銀眼のその人を目にした当初から、自分と同じ性別だと、勝手ながらそう思い込んでいたのだ。そのように捉え、それまで接してきたのだ。
 しかし無情にも、自分の予想とは遥かに異なる、見たこともない自分にはない"モノ"がそこに、銀眼の人の股間に小振りだが確かに鎮座していたのだ。それは幻ではなく明確にその人物の性別が自身とは異なることを示していた。




「み、見なければい、いい、よね? ……うん、見ない。見えない。見えない。見えない……。……うん。……あっ、でも、服どうしよう……。その、み、見えちゃうし……。…………そうっ! そう、見えちゃうから仕方ないよね。後で洗えばいいし、着せたままで……よしっ!」




 背を向け何やら口早に独り言を呟いているテララが流石に気にかかるのか、銀眼の人、改め銀眼の少年は桶から前のめりになり手を伸ばす。
 しかし、その手が彼女の背に触れる寸前でテララは急に立ち上がり更に口早に話はじめた。




「……え、えと、それじゃ早く身体洗うの済ませちゃおっか。あ、あな……あなたも寒いよね。うん、そうよ。そうしよ? あっ! 服はもう着たままで平気だから、うん……と言うか着てて……お願い……ね?」




 唐突に動きだしたテララに驚き固まる銀眼の少年を尻目に、テララは水瓶まで足早に進み、冷静を装いつつ溜めた水に指を突き立てて水温を大間かに計った。




「……これくらいだったら、後で居間で温めてあげれば大丈夫、かな? ……キャッ!?」




 水中に突き立てた人差し指が不意に先程目にした物を想起させ、いたいけな悲鳴を上げる。今は亡きテララの母親よ、貴女の娘は健全に育っています。
 一先ず水温が適温であることは確認できたので、ますます顔を赤らめた少女は水瓶に立て掛けられた小振りの桶で水を掬い、銀眼の少年の背後まで歩みしゃがみ込んだ。




「え、えっと……、それじゃまず右手から洗おうか。手出してみて? 冷たかったらごめんね?」




 テララはまだ動揺を拭いきれていない様子だったがそう言って銀眼の少年の右手をそっと取り、水をその腕にかけてやった。
 その腕に滴る感触は、それまでに感知したことのないほどの激流を伴ったのだろう。激しい身震いと共に、その銀眼をめいいっぱいに見開き興奮の波に呑み込まれた表情でテララと桶を何度も見詰め、再度その感覚を催促するよう空いた左手で空を何度も仰いでいる。




「……テッ?! ……τ、ラλ……α、テ……α、テーー! ラーーーー!!」
「フフッ……気持ち良かった? きれいにしようね? それじゃ、目閉じて? こうやって、ぎゅーーって。分かる? ぎゅーーって」
「……γ……γιυ、υυ、ギューー?」
「そうそう。上手、上手! そのまま、ぎゅーーね?」




 テララは銀眼の少年に目を瞑るように促すと、今度は桶の水をその頭上から一息にかけてやった。




「……γι、ギュッ、ギュアーーーー!!!? テララッ、テッ、ララッ!? テララッ!!」
「フフフッ。気持ちいいでしょーー? それじゃ、髪も洗っちゃうからねーー?」




 最早、銀眼の少年の興奮は言うまでもなく絶頂に達したようだった。通りすがりに子供がその浮かれ様を見れば思わず怯え震えあがるほどに、奇声を上げながら桶の中に溜まってゆく水に手足を大きくばたつかせ小躍りしている。先程までの無垢な愛らしさとは打って変わって、なんと腕白な子供か。


 しかしその一方で、テララは再び予想外の出来事に言葉を失い少年の髪を洗う手を止め固まってしまっていた。
 水をかけた少年の髪をすすいでやるや、その赤黒く血濡れた髪は見る見るうちにその色を落し、薄く変色してゆくのだ。
 水の感触にはしゃぐ銀眼の少年に構わず、テララは無心で彼の髪をひたすらに濯いだ。
 そして、やがてそこにあらわとなった少年の姿に、思わずテララは感嘆の息を漏らした。




「あなたの髪……とても……きれいな色しているのね……。透き通っていて……、なんだか雲みたい……」




 水が滴り艶を帯びた銀眼の少年の髪は、それまでの血色とはまるで異なり、く指が透けんばかりに純白に一変してしまったのだ。
 テララはその髪を梳きながら、そのあまりにもの美しさに思わず見惚れてしまっている。すると、不意に少年が向き直り互いの息がかかるほど間近な距離で目線が合った。
 目と鼻の先で目にする少年の銀眼は瞳の奥に吸い込まれそうな程淀みなく透き通っていた。
 そこに映る少女はそれまでの人生の中で出会ったことのないほどの神秘的な美しさに言葉なく目的も忘れただ見入っていた。




「……テ、ララ……? ……テ、ラ、ラ? ……テラ、ラ!」




 だが、自分の名を何度も呼ぶ声にテララは意識を引き戻される。と同時に、血の気が一気に顔中に集まり胸の高鳴りが頬を熱く打ちはじめ、テララは銀眼の少年から咄嗟に距離を取って顔を覆い隠した。




「……キャッ!? えっ!? 何っ!? これ……! 私、風邪でもひいちゃったのかな……? あっ、えっとごめんね。ぼーーっとしちゃって……。は、早く身体洗っちゃおうね」




 これまで一度も感じたことのない胸内の昂りにテララは首を傾げつつ、気を取り直して銀眼の少年の身体を洗い、持ってきた布で汚れを丁寧に繰り返し拭ってやった。もちろん、少年の大事なところは自身で拭いてもらった。

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