カレーなる異世界ライフ!!
第5話 さぁ召し上がれ!
「美味しいわぁ!!」
「おぉ、うまいうまい!」
「ほんとう? よかったぁ!」
キーマカレーに対するリオルさんとロウネさんの評価は上々だった。
今回のカレーはトマトベースでカルダモンの香りも相まって爽やかな風味になっている。
ひき肉が入っているが油をしっかり拭きとったためにしつこくないし、オールスパイスが肉にも馴染んで臭みを消し、味に深みを出していた。
さらにクミン、カルダモンには胃の不調を改善し消化促進をする効能があるから、このキーマカレーではお肉を美味しく食べてもらうための万全の下地を用意できたと思う。
「これがカレーなのねぇ。クミンって香りが強いから隠し味程度にひと摘みくらいしか使ったことがなかったけれど、料理の前面に押し出すなんて考えもしなかったわ」
「スパイスはあくまで肉・魚の臭み消しとか味に複雑さを加えるためにしか使っとらんかったからのぅ。いやそれにしても食べたことのない味じゃ。しかしうまい!」
2人とも食堂を経営している身としてカレーという料理に色々と考えることがあるのか口々に感想を言いつつ、それでもパクパクと食べ進めてくれる。
しかし私としてはまだ少しだけ気がかりになっている点があった。
「2人とも身体の方に何か異変とかは無い……? 身体がフワフワするとか、そういう……」
「うむ? そうじゃのう、確かに体がフワフワするというか、なんじゃ元気が溢れ返るような感覚がするのぅ」
「そうですねぇ。若返った気分とでも言うのかしら? すごく体調がいいわぁ。これもスパイスの効能なの?」
「それがちょっと分からないというか……。前の世界ではこんなことはなかったんだけど、こっちの世界ではもしかしたらスパイスの滋養強壮の成分が強いのかな、と思って」
2人は顔を見合わせて、それから私に向けてロウネさんが首を横に振って答える。
「ここまで身体を元気にしてくれるスパイスなんて聞いたことがないわねぇ」
「そっかぁ……」
そうするといったい何が原因なのだろうか?
顎に手を当てて深く考えこもうとする私を、しかしリオルさんは「まあまあ」と言って止める。
「いいじゃないか。身体に悪いわけでもなし、むしろ良いくらいなんだから。それにこんなにも美味しいんだからそれで充分じゃて、なぁ?」
「そうですねぇ。これならいくらでも食べられちゃいそうだわぁ」
そう言って、2人はお皿を空にするとあろうことかおかわりもして作った分のカレー全部を平らげてしまう。
少し不思議なことはあったけれど、2人を喜ばすことができたよかった。
美味しいと褒められて、綺麗に空になったフライパンを見て、嬉しくて胸が熱くなったのだった。
食後、洗い物をして居間に戻ると、2人がお茶を用意して待っていてくれた。
「ソフィアちゃん、ごちそうさまだったね。とっても美味しかったよ」
「そう言ってもらえて本当によかったよ。カレーってこの世界にないみたいだったから、2人の口に合うかどうかでドキドキしてたんだぁ」
どうぞとロウネさんが差し出してくれたグラスを受け取る。
冷やしたハーブティーだった。ゴクゴクと飲むと口の中が清涼感溢れる香りで口の中のスパイシーさが洗い流されていく。
「ソフィアちゃん、ちょっとお話があるんじゃが、いいかのぉ?」
「うん! どんなこと?」
「実は明日からこのカレーをランチに出してみたいんじゃが、ダメかのぅ?」
「……え?」
パッと意味を理解できず、首を傾げる。
その横でロウネさんが満面の笑みで手を打った。
「いいわねぇ。きっとみんな美味しい! って言って食べてくれるに違いないわぁ」
ロウネさんもリオルさんの言葉に納得の様子だ。
少し考え、結論に至る。
(『みんな』っていうことは、まさか食堂のランチ!?)
「今日食べたカレーそのままでも充分いいと思うんじゃが、ソフィアちゃんはどう思うかのぅ?」
「え? いや、その前にいいの? 私、お料理の資格とか免許とか持ってないし、味とかもお客さんみんなを喜ばせられる自信とかないよ……?」
「あら、ソフィアちゃんの世界ではお料理を振舞うのに資格が必要だったの? この町では特にそういったものはないから安心していいわぁ」
「それにそんなに気を張らんでいいから。充分美味しかったからみんなも喜ぶと思うしの。どうじゃ? 作ってくれんかのぅ?」
正直、唐突な話でびっくりしていて、どう答えたらいいやら分からない。
しかしそんな中で脳裏によぎるのはランチタイムで席の空いている食堂の様子だった。
(――もし、このカレーが2人の言う通りお客さんに喜んでもらえるものだったら)
そう、もう少しお客さんが増えるかもしれないのだ。
それは些細なことだとは思うけど、私の考えていたこの食堂に役立てることの1つなのかもしれない。
正直まだお客さんを満足させられるような自身は芽生えていなかったが、それでもチャレンジできることならしてみよう。
「い、いいよ! 明日のランチでちょっとがんばってみるよ!」
リオルさんとロウネさんに少しでも恩返しをしたい、そういう気持ちもあってこの一歩を踏み出してみようと決意を胸にそう答えた。
2人が顔を見合わせて喜び、私はその表情を見れただけでも言った甲斐があるなぁと思ってしまう。
こうして私は翌日から食堂のキッチンへと、カレー担当で入ることとなったのだった。
――そして、その一歩がこれからの私の生活を大きく変えるきっかけになっていくのだけれど、この時の私はそんなこと微塵も考えはしなかった。
「おぉ、うまいうまい!」
「ほんとう? よかったぁ!」
キーマカレーに対するリオルさんとロウネさんの評価は上々だった。
今回のカレーはトマトベースでカルダモンの香りも相まって爽やかな風味になっている。
ひき肉が入っているが油をしっかり拭きとったためにしつこくないし、オールスパイスが肉にも馴染んで臭みを消し、味に深みを出していた。
さらにクミン、カルダモンには胃の不調を改善し消化促進をする効能があるから、このキーマカレーではお肉を美味しく食べてもらうための万全の下地を用意できたと思う。
「これがカレーなのねぇ。クミンって香りが強いから隠し味程度にひと摘みくらいしか使ったことがなかったけれど、料理の前面に押し出すなんて考えもしなかったわ」
「スパイスはあくまで肉・魚の臭み消しとか味に複雑さを加えるためにしか使っとらんかったからのぅ。いやそれにしても食べたことのない味じゃ。しかしうまい!」
2人とも食堂を経営している身としてカレーという料理に色々と考えることがあるのか口々に感想を言いつつ、それでもパクパクと食べ進めてくれる。
しかし私としてはまだ少しだけ気がかりになっている点があった。
「2人とも身体の方に何か異変とかは無い……? 身体がフワフワするとか、そういう……」
「うむ? そうじゃのう、確かに体がフワフワするというか、なんじゃ元気が溢れ返るような感覚がするのぅ」
「そうですねぇ。若返った気分とでも言うのかしら? すごく体調がいいわぁ。これもスパイスの効能なの?」
「それがちょっと分からないというか……。前の世界ではこんなことはなかったんだけど、こっちの世界ではもしかしたらスパイスの滋養強壮の成分が強いのかな、と思って」
2人は顔を見合わせて、それから私に向けてロウネさんが首を横に振って答える。
「ここまで身体を元気にしてくれるスパイスなんて聞いたことがないわねぇ」
「そっかぁ……」
そうするといったい何が原因なのだろうか?
顎に手を当てて深く考えこもうとする私を、しかしリオルさんは「まあまあ」と言って止める。
「いいじゃないか。身体に悪いわけでもなし、むしろ良いくらいなんだから。それにこんなにも美味しいんだからそれで充分じゃて、なぁ?」
「そうですねぇ。これならいくらでも食べられちゃいそうだわぁ」
そう言って、2人はお皿を空にするとあろうことかおかわりもして作った分のカレー全部を平らげてしまう。
少し不思議なことはあったけれど、2人を喜ばすことができたよかった。
美味しいと褒められて、綺麗に空になったフライパンを見て、嬉しくて胸が熱くなったのだった。
食後、洗い物をして居間に戻ると、2人がお茶を用意して待っていてくれた。
「ソフィアちゃん、ごちそうさまだったね。とっても美味しかったよ」
「そう言ってもらえて本当によかったよ。カレーってこの世界にないみたいだったから、2人の口に合うかどうかでドキドキしてたんだぁ」
どうぞとロウネさんが差し出してくれたグラスを受け取る。
冷やしたハーブティーだった。ゴクゴクと飲むと口の中が清涼感溢れる香りで口の中のスパイシーさが洗い流されていく。
「ソフィアちゃん、ちょっとお話があるんじゃが、いいかのぉ?」
「うん! どんなこと?」
「実は明日からこのカレーをランチに出してみたいんじゃが、ダメかのぅ?」
「……え?」
パッと意味を理解できず、首を傾げる。
その横でロウネさんが満面の笑みで手を打った。
「いいわねぇ。きっとみんな美味しい! って言って食べてくれるに違いないわぁ」
ロウネさんもリオルさんの言葉に納得の様子だ。
少し考え、結論に至る。
(『みんな』っていうことは、まさか食堂のランチ!?)
「今日食べたカレーそのままでも充分いいと思うんじゃが、ソフィアちゃんはどう思うかのぅ?」
「え? いや、その前にいいの? 私、お料理の資格とか免許とか持ってないし、味とかもお客さんみんなを喜ばせられる自信とかないよ……?」
「あら、ソフィアちゃんの世界ではお料理を振舞うのに資格が必要だったの? この町では特にそういったものはないから安心していいわぁ」
「それにそんなに気を張らんでいいから。充分美味しかったからみんなも喜ぶと思うしの。どうじゃ? 作ってくれんかのぅ?」
正直、唐突な話でびっくりしていて、どう答えたらいいやら分からない。
しかしそんな中で脳裏によぎるのはランチタイムで席の空いている食堂の様子だった。
(――もし、このカレーが2人の言う通りお客さんに喜んでもらえるものだったら)
そう、もう少しお客さんが増えるかもしれないのだ。
それは些細なことだとは思うけど、私の考えていたこの食堂に役立てることの1つなのかもしれない。
正直まだお客さんを満足させられるような自身は芽生えていなかったが、それでもチャレンジできることならしてみよう。
「い、いいよ! 明日のランチでちょっとがんばってみるよ!」
リオルさんとロウネさんに少しでも恩返しをしたい、そういう気持ちもあってこの一歩を踏み出してみようと決意を胸にそう答えた。
2人が顔を見合わせて喜び、私はその表情を見れただけでも言った甲斐があるなぁと思ってしまう。
こうして私は翌日から食堂のキッチンへと、カレー担当で入ることとなったのだった。
――そして、その一歩がこれからの私の生活を大きく変えるきっかけになっていくのだけれど、この時の私はそんなこと微塵も考えはしなかった。
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