お前らなんかにラブコメは無理だ!

かりあん

第0話  大学0年生

––20XX年X月。
晴れた日の夜。星空がよくみえる。そして、僕の目の前に誰かいる。
相手の顔も表情もきちんと判別することができないが、僕に向かって話しかけてきたことはわかった。
「やっと、会えたね。」
状況が飲み込めない僕が、それでも何か反応をしようとした瞬間、僕の意識が途絶えた。

––2016年3月。
「……!」
(なんだ、夢だったのか…?またか…)
このような夢は頻繁に見る。もう慣れた。もはや日常茶飯事だと言っても過言ではない。
天瀬紬あまがせつむぎはいつもの朝と同じように目を覚ます。何の変哲も無い一日の始まりのようだ。カーテンを開けると爽やかな青空が視界に飛び込んできた。花粉がたくさん飛んでいそうだ。
それでも今日は外出しなければならない日だ。のんびりしている暇は残念ながらあまり存在しない。紬はそそくさと親の用意してくれた朝ごはんを掻き込み、身支度を整えて親に挨拶し家の外に出る。
外に出ると季節相応の桜が咲き乱れ、今日はいい一日になりそうな予感がした。実は今日は紬が受験していた大学の合格発表の日である。大変縁起が良い。だがそれは地上にいる全ての受験生にとって縁起が良い天気でもある。
合格発表はウェブ上でも行われるため厳密には大学に行く必要もない。自宅から都内にある大学に通うには、満員電車という日本の生産性を下げる乗り物に乗るという試練をくぐり抜けなければならない。しかし今日は、せっかくだし生の掲示板を見てみたいという気持ちが勝った。通っていた予備校が大学の近くにあることもある。
大学に到着し、合格掲示板に足を運ぶ。受かっていることを祈りながら紬は恐る恐る合格掲示板の前の人だかりに加わり、自分の番号を探した。
番号を探したら、すっかり時代遅れになった折りたたみ式携帯電話を鞄から取り出すと、紬は真っ先に親に報告のメールを入れた。親にメールを入れて程なくして、我が朋友、糸織奏太いとおりかなたからメールが届いていた。奏太は高校同期にして受験生活の労苦を共にした仲間である。

『天瀬、どうだった?』
『サクラサク。奏太はどうだ?』
まあわざわざ奏太の方からメールが来るということは、彼は受かっているということなのだろう。遠慮はいらない。
『やったな。天瀬、おめでとう。俺も受かったぜ!』
『よかった。奏太もおめでとう。僕たちこれから東大生だね。奏太は今からどうするの?』
『そうだな。俺は予備校に行ってそのあと高校に行く。そうだ、晩飯一緒に食わないか?』
『了解。色々終わったら横浜駅で待ち合わせな。また連絡ちょうだい。』
メールを送り、古びた携帯電話をたたむ。自分の顔が緩むのが堪えきれない。長い受験生活が終わり、夢にまでみた大学生活が始まるのだ。いろんな高校から来た人と、まるで高校時代のように友達とワイワイし何の変哲も無い大学生活を送る権利をやっと得た。高校を卒業したばかりの紬にとってはこのような想像をするだけで十分だった。
受かったことに浮かれたあまり、そのあとはよく覚えていない。通っていた予備校にお礼を言ったあと、横浜の母校に挨拶に行き、そのまま奏太たちと夕ご飯を食べて横浜市内の自宅に戻った。
受験に合格してから念願の東大生になるまで、様々な手続きがあった。3月中旬は忙しかった、ただそれだけだ。大学生になるまでの誰もが経験するであろう入学手続きなど、語っても不毛なものだ。特筆すべき出来事を強いて挙げるならば、部屋の模様替えをした、また合格発表の前夜と同様に映画のワンシーンのような夢をみたぐらいだ。
この時の僕は、自分の夢にまでみた大学生活が波乱万丈なものになるなんて全く思っていなかったのだ。
そのようにして、あっという間にオリエンテーションの日になった。この日から、僕の運命が動き出すことになる。

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