見出された運命の先に

イミティ

第9話


 お久しぶりです! 今回も叶恵だよ! ごめんなさい!
 ま、まぁ、叶恵好きを一人でも増やせたらなということで。





 「……恥ずかしいところ見せちゃった。ごめんね、刀哉君」

 涙も収まり、時間を置けば自然と精神も落ち着いてくる。
 叶恵が先程のことを思い出してか少し顔を背けながら言ってくるが、気にするなと首を振る。

 幼馴染みで、昔から叶恵のことを見てきている。今更その程度のことで、何がある訳でもない。

 「それより、もう大丈夫か? また泣きつかれたら流石に俺も大変だ」
 「ちょ、ちょっとその言い方は酷いかも……もう平気だよ。刀哉君には散々怒ったし、褒めたし、それに……喜んだから」
 「……そうかい」

 泣きながらの情緒不安定な状態ではあったが、既に叶恵からは十分色々言われた。耳が痛いようなことも……胸が締め付けられるようなことも。

 「……叶恵が気にしてたのは、俺の事だけか?」
 「え? あ……蒼太君の、こと?」
 「その言い方だと、もう聞いてはいるんだな」
 「……うん」

 今日何度も見た、顔に落ちる陰。叶恵は俺の事ばかり気にしていたようだが、実際のところ蒼太の死が今回は何よりも影響している。
 その点叶恵は、何故か大丈夫そうに見える。

 「蒼太君、殺されちゃったって……酷い話だよね。私、刀哉君のことばかり気にして、蒼太君のこと、忘れようとしてるんだもん」
 「いや……」
 「ううん、そうだから仕方ないよ。でも、今言われて思い返してみても、何でだろ、悲しいんだけど、皆みたいにはならないんだ」

 蒼太が死んだことに強いショックを覚える。死の恐怖に怯える。自分も死んでしまうかもしれないという感覚を恐れる。
 大体はそれで塞ぎ込んでいるが、叶恵はそうはならないと言う。

 「……薄情、かな」
 
 そして美咲なんかと違うのは、叶恵自身、何故そうなのか理解しておらず、故にそう思ってしまう。
 樹は純粋に蒼太とは疎遠だったから、そして止まっては行けないと理解していたから、割り切っていた。だが叶恵は……。

 「薄情じゃないと思うぞ。蒼太が死んだこと、悲しいだろ」
 「うん。悲しい、悲しいよ。だけど……怖く、ないの」
 
 あんなに俺の死を恐れていた叶恵が、蒼太の死には一歩引いた捉え方をしている。
 おかしいと言えばおかしいが、しかしそれは、酷く単純な理由にも思える。

 比較するのは嫌だが、叶恵にとって蒼太はクラスメイト。この世界では十分関係の深い存在と言えるが、それでも、俺と叶恵の関係とは違う。
 
 昔から、子供の頃から一緒にいる幼馴染み。叶恵が俺を意識している理由の大きいところは、それだろう。

 俺と叶恵は、言わば家族に近い。クラスメイト、友人、親友、そういったものよりも関係は深いかもしれない。

 つまり。

 「私……刀哉君が居るから、平気なのかな……」

 俺という存在が、叶恵に安心感をもたらしているということ。

 クラスメイト達が拓磨のようなリーダーを必要とする中、叶恵は幼馴染みである俺を必要とした。その違いだろう。俺は生きていて、こうして健全な状態で居る。
 恐らく叶恵にとって俺は、安らぎを得られるような相手なのだろう。
 そしてそれは……俺にも言えること。

 「アハハ、わ、私ダメだなぁ。こんな時でもまだ刀哉君に頼ろうとしちゃうなんて」

 叶恵は、ほとんど無意識で漏らしていたのか、すぐにハッとなって、首を横に振った。

 「こういう時、刀哉君に頼るなんて、卑怯なのにさ……」
 
 誰かの死を、他の人に守ってもらうことで和らげる。蒼太が死んでも、俺が居るから平気だと自分に言い聞かせる。叶恵がしているのは恐らく、そういう事だ。
 確かにそれは、ある意味乗り越えとは違う。どこかで破綻が出てきてしまうような、少し脆く……そして強力だ。

 叶恵が言うような、『卑怯』とはまた違う。それは立派な精神的補強で、人間としておかしなことでもなんでもない。むしろ正常だ。
 そんなことを説明しても、本人からしたら納得なんて得られないだろうが。

 「幼なじみなんだし、頼って当然なんじゃないか?」
 「えぇっ? いや、そのっ……め、迷惑とかじゃ、ない?」
 「好きな相手から頼られることを、迷惑とは呼ばないな」

 誰だって仲のいい相手から頼られれば嬉しいし、男なら、女の子から頼られるだけでどこか満たされる感覚を味わうはずだ。
 幼馴染みで、家族同然の叶恵から頼られるのなら、それはむしろ喜ぶことだろう。というより普段から頼られていた気もするし、今更とも言える。

 ……まぁそれも、長くは続かないと知っている。

 俺は叶恵を見た。当然叶恵は、今の俺の発言を変な風に捉えたらしく口をパクパクとさせている。意図的なものじゃないが、自分で言ったあとで、何となくこうなるかなとは予想していたものだ。

 しかし……叶恵が俺を頼って精神的に保っているのは構わない。だが、それと俺がずっと一緒に居られるのかは別なのだ。
 だからまるで『これからもいつも通り頼れ』と言わんばかりの自身の言葉が、叶恵に嘘をついてしまったかのようで、チクリと胸を刺すような痛みが広がる。

 「す、好きな相手……?」

 それを、俺は無理やりに作った表情で隠した。幼馴染みを騙すような真似をしたくはないが、それでも仕方の無いことだと割り切って、叶恵の反応に呆れたように返すのだ。

 「……幼馴染みとしてだからな」
 「え? あ、うん、もちろん分かってるよ!」

 もちろんと言えるほど理解しているのかは分からないが、叶恵は慌てたように頷いた。
 しかし、意識してしまったのか、叶恵は時折俺と視線が合ってもすぐに逸らしてしまう。

 微かに空気が変わるのを察知する。このままだと、少しずつ変な雰囲気に流されそうだ。

 「何にせよ、お前が大丈夫ならそれでいい。そうとなれば、ほら、そろそろ帰った方がいいぞ」
 「も、もう?」
 「いくら幼馴染みでも、こんな時間帯に男女が二人っきりで居るのは良くないし、他の奴らに知られたらストレスがかかるからな」

 俺と叶恵が一緒の部屋にいた。男連中は嫉妬するだろうし、今の状態じゃ決してただの嫉妬で済むとは言いきれない。クラスメイトは信頼しているが、精神状態を考えるなら余計なストレスをかけてしまうことになる。

 叶恵は特に美少女だし、余計にだ。

 「……刀哉君も、その、そういう気分になったりするの?」
 「そう簡単にはならん。というか、普通そういうの聞くか?」

 普通の女の子なら、そうは思っても、実際に聞かないだろう。幼馴染みだからこそ、ある程度聞ける。それでも顔は赤くしているようだが。
 そういう気分、と言われて、叶恵相手にそうなるかと言われれば、微妙なところだ。

 いや、叶恵は性格、容姿のどちらも非常に魅力的で、幼馴染みだけあって相性もいい。だからまぁ、本当に欠片もそういう感情を抱かないかと言われればそんなことはないが、それでも、そうやって考えなきゃいけないぐらいのものだ。

 叶恵が、不満顔という訳では無いが、どこか思うところがあるような表情をする。
 それを敢えて俺はスルーして。

 「ほら、俺の気が変わって襲われくなかったら、帰った帰った」
 「お、襲うって……刀哉君のエッチ」

 襲うの意味をすぐそう捉えている叶恵は、やはり意識している証拠だ。
 自身の体を抱くようにして顔を赤らめた叶恵は、俺のジト目を受けるとすぐに体を翻す。

 「わ、わかったよ。あまり刀哉君に迷惑かけてもよくないし、帰るね」
 「素直でよろしい」
 
 叶恵と居るのは別にいいのだが、何よりもこのあとも予定がある。それを流すことは、無理だ。幼馴染みを優先してやりたい気持ちはあるが、この瞬間だけは理性的にならないといけない。

 今クラスメイトに必要なのは、俺じゃないのだから。

 それを解決するための時間も、既にタイムリミットギリギリだ。

 部屋の外に出ていく叶恵を見送ろうとするが、退室する直前、叶恵は僅かに顔をこちらに向けてくる。

 「……どうした?」
 「ん、あのさ……本当は、最初に言えたら良かったんだけど」

 わざわざ扉の方を向いたというのに、叶恵は再度、俺の方に体を向けた。微かに赤い頬と、その視線を受けて、すぐに促すような真似は出来なかった。

 何秒か、はたまた何分か。俺と視線を合わせようとしては逸らしてを繰り返す叶恵は、結局最後まで目を合わせられずに、小さく呟いた。

 「……ごめん。何言いたかったか、忘れちゃったっ」
 「……そうか」

 無理をしたような笑み。しかし忘れてしまったなら、仕方ない。何を言いたかったか、聞くことは出来ない。

 叶恵は居た堪れなくなったのか、逃げるように部屋から出て行った。一度も振り返らず、部屋へと戻っていった。

 その最後の表情がまるで泣くのを我慢していたようにも見えて……なんて、俺は自嘲気味に考えた。

 「……不器用なやつ」

 俺は人の感情を色々と読める。その相手が幼馴染みなら、何となくだけでも色々と理解出来てしまうものだ。

 ……それを言えば、叶恵が何を言いたかったのか理解していながら、何も言えなかった俺の方こそ、不器用で、不甲斐ないのかもしれない。





 さて、後はもう拓磨だけ。次回で今度こそ第二章の序盤が終わり、次次回からはまた次に向かっていけるはず。
 何度似たようなことを言ったか……次回は明日……いや、明日は知り合いとカラオケ(この時期なのにとかは言わない)に行くので、明後日になる可能性が高いと思います。

 戦闘シーンまで、もう少し! 多分!

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