見出された運命の先に

イミティ

第18話

 うぉぉぉぉ……ギリッギリ。最近小説が本当にギリギリに書き終わるのが心臓に悪いので、今までは投稿時間20時~22時でしたが、ちょっと次回からは21時~23時にしたいと思います。

 20時台とか、投稿できる気がしない……。






 一応、一週間とはいえミッチリと騎士団に訓練されていただけはあり、運動音痴な奴でも剣を振るうのは様になっている。
 明らかに全員、成長力は地球の頃より高く、またスキルというのは非常に便利で、やはり技術力に大きな補正をかけてくれているらしい。
 
 また身体能力も、ゴブリンなどよりは圧倒的に高い。五感の鋭さもそれに合わせて引き上げられている。

 そのため、覚悟さえ出来れば遅れをとることは有り得ないと言っても過言では無い戦力差がある。

 ───そう。覚悟さえ、出来れば。

 「ちょっ、無理っ! 夜栄これ、無理だって……!」

 雄平が叫ぶ。普段厨二病を常に患っている雄平も、余裕が無くなればそこに意識を回すことは出来ない。特に今は恐らく思考がパニクっている状態なのだろう。
 ゴブリンが振り回す、今回はナイフではなく、ショートソード。それを雄平は大袈裟に回避しては、そんなふうに叫ぶ。

 「回避だけじゃどうにもならんぞ雄平」
 「そんな事、言ったって! 怖いんだよ!」

 俺の言葉にすかさず反論。言いたいことはもちろんわかっている。

 刃物だ。刃物が怖い。日常で例えれば、包丁を持って振り回している人を想像して欲しい。それがたとえ身体能力では自分に大きく劣るお爺さんやお婆さんだとしても、包丁を振り回しているだけで危険だし、そこに容易に突っ込むことは出来ない。

 こちらが同じように武器を持っているからと言って、はいそうですかと普通は踏み込むことが出来ないのだ。

 恐怖を耐えるのと、恐怖に打ち勝つのは違う。耐えるのはようは、その場で踏みとどまること。今必要なのは、その恐怖に打ち勝ち、精神的にも現実でも一歩足を踏み出すことだ。

 「普段の訓練でも刃物は使ってる。むしろ普段よりも相手は弱いんだから、あとは普段通り進むだけだぞ」
 「分かっては、いるけどさ……!」

 相手の動きは遅い。だが実際に目の前に立たれれば、多分外で見ているよりは、早く思える。それが殺気を伴っているなら尚更、錯覚のように。
 そもそも普段から剣で訓練しているとはいえ、使っていたのは刃が潰れたものだ。それに対して今は、雄平も相手も、斬れば相手に重症を負わせる事が出来る真剣。

 だから雄平は大袈裟に回避してしまう。だが早すぎる回避は、当然相手も回避されたと気づいて対策してくる。故に大きな隙には繋がらない。

 ゴブリンの方も、俺達が攻撃してこないと割り切って、目の前の雄平に集中している。向こうも多分、生きるのに必死だし、いつ逃げ出すかうかがっているのだろう。

 もし逃げ出そうものなら、前と同じように壁で塞ぐだけだが。

 時間は経っていく。グレイさんは万が一がないように意識を集中させつつ、さらに周囲の警戒まで行ってくれているので、あとは雄平の覚悟次第だ。

 「雄平君、平気かな……」
 
 それを見ていた叶恵の心配そうな声に、流石に無責任に答えることは出来ない。俺も雄平が本当にゴブリンを倒せるかどうかは、それこそ目の前に立って表情を見ないと分からない。
 いや、人の気持ちは意外とコロリとかわる。恐怖の克服も、何がきっかけになるか分からない。それを踏まえれば、それこそ未来視でも出来なきゃ予想すらできない。

 雄平が戦い始めて五分ほどが経過し、被弾はゼロだが、集中力はそろそろ限界に近いはず。ただでさえ剣の攻撃を回避しているのだ。普段以上に疲れるだろう。

 ───雄平、頼むぞ。

 特別親しくはなく、クラスメイトとして仲が良いぐらいの相手だが、それでも友人と呼べる。だから俺は、心の中でひっそりと祈る。

 月並みではあるが、真剣に頑張れと思う。

 その祈りが通じたのかどうかは知らない。

 雄平が初めて、回避以外の動きを見せる。

 「───あぁもう、やるしかないだろこんなの!!」

 それは、自棄に近い。でも一か八かの賭けと言うには、行動はしっかりしていた。

 俺が先程やったように、回避はせずに、雄平はゴブリンの攻撃をしっかり剣で受け止め、外へと弾く。俺と比べたらすこしぎこちないかもしれない。至近距離で刃物を受け止めるのは怖くて、力が少し抜けてしまったのかもしれない。

 だが、ゴブリンにはそれで十分だった。

 「このっ!!」

 もうビジョンは見えているはず。だから雄平は、それを追いかけるように、がら空きになった胴へと躊躇いなく剣を振るい、腹の辺りが裂ける。

 その時点で雄平は、一線を超えていた。恐怖を乗り越え、確実に成長していた。

 ただ───少しだけ、予備動作が大きかっただけだ。そのせいでゴブリンが僅かに後退する時間を生んでしまい、致命傷だが、即死には至らなかった。

 そして───死ぬ直前の生き物は、最後のあがきをする。

 「原田君……!?」
 「ゆ、雄平く───」

 ゴブリンが我武者羅になって、その剣を雄平に向かって投擲した。武器を投げるのはそれこそ一か八かの賭けで、本来なら悪手だが、今は雄平は完全に脱力しそうになっているタイミング。
 
 それは、一矢報いるだけなら十分だ。突然飛んでくる凶器に、そのタイミングで対応することは雄平には難しい。

 それに対してグレイさんが動こうとして───止めた。本来ならグレイさんはこういう時のために注意を払っていたのだろうが、今回は俺が先に対処をしていたからだ。

 ゴブリンが投げるとほぼ同時、俺は横から、その剣に向かって自身の剣を投げつけることで、雄平に当たるのを阻止した。

 剣と剣が空中でぶつかり、キンッと軽い音を立てて見当違いの場所に弾かれる。
 そうすれば今度は、ゴブリンが隙を晒す番だ……!

 「───雄平!」
 「っ、あ、あぁ!」

 叫べばすぐに、呆然としていた雄平は動き出す。ゴブリンも慌てて動こうとするが、傷を負った上に防御する武器もない状態では、次の一撃を防ぐ術はない。

 雄平が肉薄し、大きく剣を振りかぶって───。

 「セイヤァッ!!」

 ───気合いの籠った掛け声と共に、ゴブリンの首から胸辺りまでを、大きく剣が斬り裂いた。



 ◆◇◆



 流石は男だ、と俺は言ってやりたかった。実際に言ったし、ゴブリンを殺した感触を思い出して吐きながらも、次からは平気だと断言した雄平は、やはり地球の頃よりも数段成長している。

 ただ残念なのは……そんな雄平を見て女性陣もどこか覚悟が決まったのか、叶恵達も全員、無事にゴブリンを倒せたことだった。

 ───雄平のように、吐くことはなく。

 「くっ……この俺だけが、無様を晒すなど……!」
 「元気出せって。お前のお陰だったって、俺は分かってるから」

 帰りの道中、雄平はそんなふうに落ち込んでいたが、先程も言ったように、雄平のあの姿が女性陣に覚悟を決めさせたのは違いない。

 それは多分、俺には出来ない。必死になって、進まなきゃいけないからと雄平のように土壇場で覚悟を決めるのは、無理だろう。
 多分俺の立ち位置が行けない。今のところ、クラスメイトは俺に対し『刀哉なら出来て当たり前』という認識を持っている。だから俺が目の前で実践しても、『刀哉だから出来る』というある種のスポーツ選手などに向けるような認識が出てしまうのだろう。

 しかし雄平は違う。雄平は別に運動が優れているわけでも、頭が特別いい訳でも、コミュニケーション能力が高いわけでもない。言っては悪いが平凡に位置する方だ。

 そんな、普通の雄平が頑張ってやったからこそ、叶恵達も皆が共感と勇気を得ることが出来る。

 それは多分、俺には難しい。特別な葛藤もなくゴブリンと戦い、余裕を持って攻防が行え、何も躊躇いなく倒せてしまう俺には、そんな勇気を与えることが、出来ない。

 雄平には確かに勇気を与えたのかもしれない。だが決定的なものではなかった。あくまできっかけに過ぎない。
 対して雄平は、叶恵達に覚悟を決めさせた。

 それは少し、羨ましいことで、けどすぐに振り払ってしまう。

 俺には俺のできることがあって、今回はそれを実践しただけだ。雄平も雄平なりに頑張って、自分だけでなく周りにも結果を残した。

 そこを履き違えることはない。多分俺が最初にやらなかったら、雄平は乗り越えるために更に時間を費やし、危険に身を晒すことになっただろう。
 それを考えれば、別に俺のしたことは無駄ではない。

 「───トウヤ殿、ユーヘイ殿、カナエ殿、カホ殿、ヒトミ殿、チズル殿、皆今日はよく頑張った」

 そうした森の入口までの道。グレイさんは後ろからそうやって労いを飛ばしてくれた。

 「無事に乗り越えたようで安心している。目標のゴブリンを二体ずつ倒すことこそ叶わなかったが、この分なら次からも戦えるであろう」

 皆して立ち止まって、嬉しそうに頷く。グレイさん、つまり剣の先生から褒めてもらえるのはとても嬉しいことで、光栄な事だ。
 更にグレイさんは、わざわざ俺の前にやってくる。

 「そしてトウヤ殿、貴殿のお陰で、私が入らなければならないような事態には陥らなかった。貴殿はリーダーとしてもとても優れている……感謝すべきは私では無いかもしれないが、労いぐらいは言わせてくれ。お疲れ様」
 「ありがとうございます。こちらこそ、グレイさんが居てくれたおかげで、精神的に安定しました。今日はお疲れ様です」

 言えば、俺の肩を叩いてくれる。非常に大きく、そして力強く……それだけで、今日一日の頑張り全てを認めてもらった気分だ。

 そうやってもらえば、すぐに叶恵からも「刀哉君お疲れ様」と弾むような声で感謝を貰い、そのまま四人も続く。

 何だか照れくさい。別に褒められることも慣れてない訳じゃないが、こうしたふとした時の、一斉放火には弱いのだ。さっきは自分に出来ることをしただけとか割り切っていたが、それでもこうして褒められることは、心が満たされる気がする。

 「叶恵達も、今日はよく頑張ったよ。皆お疲れ様」



 そして、入口までつき待っていれば、残りの六人もやがて合流する。そちらはどうやらこっちよりも大変だった様子。拓磨のようにリーダーのような奴も居らず、そのせいかゴブリンを倒せたのは二人だけらしい。
 
 そんな彼らに対し雄平が厨二病を持ってしてマウントを取ろうとしていたのは、神無月がすぐに横から「刀哉クンが助けてくれたお陰でね」と口を挟んで、出鼻をくじいていた。
 ともかく、全体で見れば完璧ではなかったが、少なくともこちらは、十分良い成果だったと言える。

 後は帰って、一応拓磨達にもこのことをしっかり話そう。そして万全の状態で明日を迎えてもらいたい。
 それに、今日ゴブリンを倒せなかった残りの四人には、お節介かもしれないが、少し声をかけてケアでもしよう。見るからに落ち込んでいるみたいだしな。

 再びグレイさんに先導される形で帰還。そうやって帰った後のことを考えながらいれば、街の壁の外側からでも分かるほどに、何かが街から上がっていた。

 「……あれは、煙か?」

 グレイさんが呟く。確かに煙のように見える。だが黒い煙など、しかもあの大きさだと、随分と何かが燃えていることに……。
 それを認識すれば、不安が募っていく。火事は日本ではありふれた事件だが、だからこそ実感出来てしまう。そして不安に駆られる。

 「……ベルト、今日は街では催しなどは何も予定していないはずだな?」
 「はっ! 少なくとも大々的に催されるような行事は何も無かったかと」

 副騎士団長のベルトさんが言うが、だがあの煙の規模的に、ちょっとゴミを燃やしましたとか、そんな程度のものでは無い。大きな建物が燃えていてもおかしくは無いほどだ。

 そんなことは百も承知だろう、グレイさんは僅かに考える素振りを見せると、すぐに指示を出す。

 「もしかしたら何かが起こっているのかもしれない。マリー殿が居るはずだから、大事にはならないはずだが……一応先に私は街に戻る。ベルトは勇者殿達を連れて、警戒をしながら戻れ。街についても警戒を解くな」
 「了解しました」

 返事を聞くや否や、グレイさんはその巨体を弾丸のような速度で弾き飛ばした。まだ街までは半分程距離が残っているが、あの速度では数分とかかるまい。その速度に俺すらも呆然とするが、引き継いだベルトさんが、顔を引きしめて先導する。

 その足も少し早い。街で何か起きていたらと考えるのは普通だし、俺も不安が胸に渦巻いていた。

 「……刀哉君、美咲ちゃん達、大丈夫かな……?」
 「……分からない」

 叶恵の心配に、そう答えることしか出来ない自分がもどかしい。街でもし何か起こっているなら、城にいる拓磨達も、もしかしたら危険かもしれない。

 一体何が起きているのか。ベルトさんも、他の騎士さんも確認したいはずだ。帰りは行きの半分程度の時間で門まで着けば、跳ね橋は既に下げられていた。
 行きに見た門番が、その跳ね橋の奥から非常に焦った様子でこちらに駆け寄ってきているのが見える。

 「べ、ベルト副騎士団長!」

 余程想定外の事態なのだろう、門番は酷く動揺しており、それが俺達にも伝染する。そう長い時間走っていたわけでもいはずなのに息切れしているのは、緊張や焦りで動悸が激しくなっている証拠だ。
 ベルトさんが対応し、門番の肩を掴むが、動揺は消えそうにない。
 
 「落ち着け、一体街で何が起こったんだ。今の状況は?」
 
 このような事態には慣れているのか、ベルトさんは声を荒げずに聞くが、それでも僅かに口調が早い。焦燥しているのは同じ、ということなのだろう。
 門番も動揺こそ消えないが、それでも自分の成すべきことを把握したのか、言葉をつっかえながらも報告する。

 「そ、それが、城に正体不明の賊が侵入しました! 飛行魔法を扱い、魔術師団の迎撃をものともせずに直接城に……」
 「なっ……!? っ、団長は? 今はどこに?」
 「グレイ騎士団長はすぐに城へと急行しています! ですが、マリー魔術師団長が今日の正午に、突如東の平原に出現したSレート級と思われる魔物を討伐しに行ったため……」
 「ま、待ってください! それでは今、城は……」

 思わず俺は、そう聞いてしまっていた。割り込んだ俺をベルトさんは、咎めはしなかった。門番も俺の事を見て、その言葉を躊躇いがちに告げる。

 もし、もし今頼りになるマリーさんが居らず、グレイさんも行ったばかりであるというのなら、つまり城にいる拓磨達は……。

 「ゆ、勇者様が危惧する通り、城は現在防衛力が半減しており……滞在している勇者様方の安否は、誰一人確認でき〃〃〃〃ていません〃〃〃〃〃






 ってな感じで、次回からは第一章もクライマックスに入っていきます。
 主人公が不在の間に……よくありますよね。うん。

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