異世界歩きはまだ早い

a little

第六話 8割り勇者が悪い

 リズが痩せることを決意してから一週間が経過した。
 本人が痩せる期限を設定した日だ。
 
 この一週間、リズと薫さんは勇者にバレずに修行を行う為に〈レイザらス〉の地下倉庫に通っていた。
 
 あそこならそれなりに広い空間を確保できて、店の在庫さえ綺麗に整理すれば、邪魔になる物もない。第一、部外者に見られることがないので心置き無く修行ダイエットが出来たというのが大きい。
 
 修行の際には回復要員としてセバスさんが常駐していた。薫さんは┠ 自動反撃オートカウンター ┨によってリズの攻撃を跳ね返す事ができるので、リズは全力でぶつかることが出来た。痩せる為の環境として、これ程いい環境は他に無いだろう。

 ただ、修行の度に天井の蛍光灯やコンリクの壁がボロボロになっていて修復が大変だってかなみちゃんは言っていたっけ。それだけ修行が激しいってことだ。

 その間俺はというと、ある情報の根回ししていた。
 
 女神リズニアのことを勇者に聞かれていない街の友人を中心に勇者に何か聞かれたら
 「キークという男なら知っている。」
 という風に答えてもらうようにお願いして回った。
 
 このまま情報が得られないままだと、勇者は『きのこ狩りのリズ』について調べかねない。
 そうなればリズが痩せるより前に居場所をつきとめてくる可能性がある。
 だからこそこちらからあえて情報を流し、行動を限定させる必要があった。とは云え、真に迫る情報を与える訳にもいかので俺は勇者にのみ使った偽名キークを囮(おとり)として使う事にしたのだ。
 
 いくら勇者がキークについての情報を集めようとしても、そんな男の情報は欠片も出てこない。一度出会って顔を知っているだけに、勇者やその仲間達も存在自体がウソだとは思わないハズだ。だから、居もしない架空の人物を探し続けることになる。
 例えウソがバレて俺達に辿り着いたとしても、リズが痩せる為のいい時間稼ぎなってくれればそれでいい。
 
 既に〈お食事処 レクム〉の店主や朝のランニング仲間、宿屋の主人などが『キークが知っている。』という情報を、勇者達に流してくれたという報告は受けている。
 即興で偽名を語っておいて、ホントに良かった。
 
 この一週間のうちに勇者から直接俺達に接触して来ることは無かった。作戦が上手くいったかどうかはともかく、取り敢えず目標だった時間稼ぎは出来たとみていいだろう。
 
 わざわざ変装してクエストを受けに行く日々からもおさらばだ。
 
 早朝の変装ランニングをしながら、変装挨拶をし、帰ってきたら変装セバスさんに変装ブラッシングを施す。
 
 「ただいまー。お、リズか……?」
 
 家に入るとリズの姿があった。薫さんは修行が終わると帰ってきて夕飯を作ってくれていたが、リズは倉庫に篭りきりだったので久びさの対面になる。
 
 リズが帰ってこなかった理由は薫さん曰く、
 「リズニアさんは自分が以前のように動けていないことで、ようやく太っていたことに気づいたみたいです。それで、今は痩せるまで誰にも会いたくないそうです。特に、珖代さんには。」
 ということらしい。
 
 特に俺はダメらしいので、修行の様子は一度も観ることは叶わなかった。
 
 完全に一週間ぶり。
 だから目を疑った。
 
 「お前、リズ……なのか?」
 
 テーブルの定位置に座る彼女が、遠くから見ても普段と違う事がわかる。
 
 全身を包んでいたものが脂肪からオーラに変わっている。
 
 「はい。お久しぶりですね、こうだい。私はこのとーりっ、恥ずかしながら帰ってきましたよ。」
 
 リズは立ち上がり鼻を鳴らした。
 
 
 完全に見違えた。たった一週間で物の見事に痩せている。
 
 
 一見、以前の体型に近づいただけに感じるが、そうじゃないのは全身をまとう無駄のない筋肉をみればわかる。
 
 どこか幼く見えたリズがしなやかなかつ流動的な筋肉によって、少し落ち着いた印象を覗かせる。また、自慢の白金色の髪をお団子状にまとめているので、綺麗なうなじがしっかりと見てとれ、溌剌(はつらつ)とした雰囲気はより一層強くなったように感じる。
 
 一言でいうなら陸上系スポーツ女子。大事な大会に向けてしっかりと仕上げてきた感じだ。
 
 「カオリンのおかげでこの通り、痩せちゃいました。」
 
 リズはポージング&キメ顔をつくる。
 
 一週間で体重を半分以下に落とすなんてことは、常人には不可能に近い。
 しかしリズはやってのけた。薫さんとの過酷な修行の末に、黄金の肉体を手に入れたのだ。
 
 「一体どれだけ頑張れば、それだけ綺麗に痩せられるんだ?」
 「綺麗ですか? まあ、今までが醜い姿でしたからもっともです。」
 「まあとにかく、えらいぞー! ちゃんと痩せたんだなー!」
 「ここここうだい!?」
 
 俺は褒めながらリズに抱擁した。薫さん曰く、
 「見事、痩せて帰ってきたあかつきには、努力に見合うくらいリズニアさんを沢山褒めてあげてください。私がやるより、珖代さんがやる方が効果的ですから。取り敢えずハグもお忘れなく。」
 とのことだ。
 
 リズは俺に対抗心を燃やすことが多く、今回の努力は俺を驚かせてやりたい気持ちもあったのだとか。
 
 褒めて欲しそうな顔はするのに、本気で頑張った時はそれを口に出そうとはしない。
 素直じゃないヤツめ。
 今日はとことん褒めてやる。
 
 「いやー、えらいえらい、えらいぞー。がんばったな。うん。えらいえらい。」
 「あのー、クサイと思うんですけど。」
 「ああ、一週間風呂にも入らず頑張ってきたんだもんな。えらいぞー。がんばったな。うん、くさいくさい。」
 「えらいえらいみたいに言わないでくださいっ! ……まあ、こうだいが先にお風呂に入ってきたらどうですか。」
 「……ああ、そうか。」
 
 リズが不機嫌になった。
 よく考えれば、ランニングから帰ってきたばかりだから俺の方が汗臭かったか。
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 
 
 「ふぁ〜」
 
 シャワーを浴びるだけのつもりが、俺は湯船に浸かっていた。
 
 かなみちゃんが造ってくれたヒノキ風呂は大人二人が入っても余裕がある広さをしている。
 おかげで目一杯足を広げられるというもの。
 
 無意識に湯船に浸かっていたのは、日本人としての性(さが)なのか、あるいはここのところの勇者騒動で疲弊しきっていたのか、はたまたヒノキ風呂の魔力なのか分からない。
 
 なんにせよ、かなみちゃんがこの家を増設する際に一番力を入れて造ったのがお風呂周りだ。
 
 脱衣所から浴場までその殆どが木製。さらに浴室の床には撥水性のある畳(たたみ)が敷き詰められているほどのこだわりぶり。
 イスに座って体を洗うのもいいが、畳に座って体を洗うのは新鮮だしすごく気持ちがいい。裸で寝転がることも可能だ。
 
 そんなお風呂場で汗を流していると、気づいた時には浴槽の中で口を半開きにしている事が多い。だから理由なんていちいち考えるのはやめだ。
 
 今は肩までゆっくり浸かり、熱くなってきたら広ーい畳で一休憩挟んで、それから上がることにしよう。上がったあとはコーヒー牛乳でも飲もうか。
 
 「こうだーい、シャワーは浴び終わりましたかー。」
 
 脱衣所からリズの声がする。
 
 「あぁー」
 「次、入っていいですかー。」
 「あぁー」
 
 ガラッとドアが開いた。
 
 「あぁー……あぁ!? ってなんで入ってきたぁ!」
 
 目をやるとそこにはリズがいた。しかも完全全裸!
 余りの動揺にすべって溺れかけた。
 
 「次は、私が入るって言ったじゃないですか。」
 「だとしても男が入ってる風呂に入ってくる奴があるか!」
 「別に見られても減るもんじゃないですし隠そうとしないでいいんですよ。」
 「それはこっちのセリフ……じゃなくてお前は隠せ!」
 「まあ、私の鍛え抜かれた身体に目がいっしてまうことも! しょうがない事だと思いますから? 見ても怒ったりはしないですけど?」
 
 リズはさり気なくポーズをとったりして、痩せた事のアピールを執拗にしてくる。肉体美を自慢してくる。
 確かにスゴいがそういうことではないんだよリズ。
 
 ほかの所に目がいってしまいそうになるので完全に目を逸らす。
 
 「はぁ〜、一週間ぶりのタタミは気持ちイィーなー。」
 
 リズは畳に直接座って身体を洗っているようだ。何故出ていこうしない。
 
 「誰かにお湯をかけてもらいたいなー。」
 「自分でやればいいだろう。」
 
 泡が排水溝に向かって流れていくのが見える。石鹸のいい香りがする。
 
 「あー修行頑張ったなー、結構きつかったなー。ご褒美欲しいなー。」
 
 リズがあからさまな態度を取り始める時の声を出している。
 これは俺に頼み事がある時の言い方だ。
 
 「……何だよ。」
 「寝そべってますんでー、上からお湯かけてもらえませんです?」
 
 リズの目的は痩せたアピールではなくこれなのか。
 
 「はぁ……じゃあ、うつ伏せになって。」
 「はい。優しくお願いします……。」
 「それは仰向けだ!」
 「もーどっちでもいいじゃないですか。」
 
 そう文句を垂れながらもリズはうつ伏せになった。
 
 柄杓(ひしゃく)ですくったお湯を背中に満遍なくかけるとリズは感嘆とした声をあげた。ご満悦だ。
 
 「ついでにマッサージもお願いしますですよぉ。」
 「なんでそこまでせにゃならんのだ。」
 「相当身体を酷使したなー! 辛かったなー! 勇者と闘えないなー!」
 「ああ、わかったから静かにしてくれ……!」
 
 ただいま朝の八時。寝ている薫さんやかなみちゃんが起きてきてこんな状況を見られでもしたりしてしまったら一巻の終わりだ。言い訳なんか思いつかない。
 
 リズには静かにしてもらうことを条件に、マッサージをしてやることにした。
 
 うん? これは────。
 
 リズの背中や太ももを揉んでみてすぐ分かった。リズの筋肉はただ硬いものではなく、引き締まっているのに物凄く柔らかいのだ。
 太っていた頃の全身マシュマロ感とはまた違った、筋肉とは思えない柔らかさの中にしっかりとした弾力がある。この柔軟な筋肉にリズが短期間に痩せられた理由があるのだろうか。
 
 「……あっ、…………はぁ……はああっ、ヴん、…………ヴっ……ヴヴっ……。」
 「痛かったか?」
 「いた気持ちいいです……。」
 
 リズの吐息混じりのばあさん声は実に気持ちよさそうだ。俺がやり慣れていないのでたまに痛がるがそれも気持ちいいらしい。
 
 このままだとリズが寝てしまいかねないので適当に話題でも振ろう。
 
 「お前はさ、裸見られても恥ずかしくないのか?」
 「そうですね。以前の醜い姿に戻ってしまったら恥ずかしいですけど、今は寧ろ、色んな人に見せて自慢してやりたいくらいです。」
 「それはやめとけ。通り名が『露出狂のリズ』になるぞ。まあ、『きのこ狩りのリズ』も相当ダサいけどな。」
 「いつまでそれいじるんですか! もういじってくるのはこうだいだけですよ! 私、こうだいに通り名付いたら絶対にいじってやりますからね。覚悟してくださいよ。」
 「俺にはつかないよ。ついたとしても一番最後だろうな。」
 
 俺につきそうな通り名は『威圧の珖代』くらいだ。そのままそれになればいじりにくいだろう。
 
 「そのうちすぐだったりして。」
 「よし、終わりだ。」
 「えー、もうちょっとだけお願いしますよー……ってどこ行くんですか?」
 「どこって風呂から出るんだよ。」
 「湯船に一緒に入って百まで数えましょうよ。ジャパニーズ、ハダカノツキアイです。」
 「お前疲れてんだろう。一人でゆっくり浸かって休んでおけ。」
 
 それだけ伝えて風呂を出る。
 おっと、聞き忘れていたことがあった。
 
 「あーそれとリズ、普通の牛乳とフルーツ牛乳どっちがいい?」
 「フルーツでお願いします!」
 「オッケー、チビペンギンに入れておく。」
 
 速効で着替えてから冷蔵庫に向い、コーヒー牛乳を一気に飲む。冷たくて甘いものが喉を一気に駆け巡る。
 うまい! この瞬間の為に頑張ってると言っても過言ではない。

 そのあとフルーツ牛乳を取り出し、脱衣所にあるペンギン模様の小さな冷蔵庫、通称〈チビペンギン〉にストックして俺は家を出た。
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 
 
 ギルドに向う。
 
 リズが痩せたので変装の必要はもう無い。寧ろ、勇者に対しての接触アプローチをここから考えていなかったので、このまま自然にバレてくれた方が楽だったりする。
 
 そんなことを考えているうちにギルドに到着。都合良くバレる展開は起きなかった。
 
 ギルドは一週間前とは違い落ち着きを取り戻している。
 きのこ狩りの受け付けはウソみたいに一人も並んでいない。
 
 きのこ狩りを未だに受けたがらない冒険者は多い。街の観光客は増えても冒険者の顔ぶれはそれ程変わってはおらず、縁起の悪い迷信を信じているものが未だに多いのが原因だ。特に、四〇歳以上の冒険者は一切受けてくれない状況にあって、我らがダットリー師匠ですら、何故か大金を積まれても断るそうだ。
 現在きのこ狩りをする冒険者は決まった数人だけになってしまっている。なかなか上手くいかないものだ。
 
 (ユイリーちゃんおはよう。)
 (おはようございます。こうだいさん。)
 
 今日はユイリーちゃんが先に来ていた。師匠の前なので、お辞儀で会話をした。
 
 「おはようございます、師匠。」
 「こうだい、もう異変には気づいているか。」
 「異変、ですか?」
 
 師匠はいつものように、日本語で話しかけてくれる。
 相変わらずダンディーな声だ。
 
 「異変も何も、ギルドマスターが勇者に依頼停止処分を下してくれたおかげで、元に戻ったんじゃないですか?」
 
 ギルドマスターには俺から直談判した。依頼の管理を担うギルドマスターなら、勇者であっても強制的に止めることが出来るからだ。
 
 前に助けたことが理由で、俺への恩があるギルドマスターさんはしっかりと停止処分をしてくれた。
 しかし停止処分をくらったのは勇者本人では無い。なんでも、依頼を直接受けていたのは勇者では無く仲間の大男カクマルだったそうだ。
 そもそもCランクの依頼を受けるためには最低でもDランク以上の冒険者になっている必要がある。
 
 この街最高ランクのCとDランク以外の依頼は一切受けていないので、おそらく肌の黒い大男はCランク以上の冒険者だ。カクマルは一人でクエストを受けに来ていたのだろう。
 
 どおりで街に一人でいる所を目撃する訳だ。


 異変とは言われても、ギルドは以前のような喧騒を取り戻しただけで、いたって普通。勇者達のことで何か見逃しがあるのかもしれない。一応、整理してみよう。

 これまでの情報を元に、彼らの素性をまとめるとこうなる。
 
 〖聖剣使いの勇者〗水戸 洸(こう)たろう。六代目聖剣使いにして日本出身の勇者。実力、実績共に最強クラス。
 
 〖ダガー使いのピタ〗ドワーフ族という低身長の一族にも関わらず、自分よりもはるかに大きな大剣を振りまわす少女。ダガーに持ち替えたときの彼女のスピードはリズにも匹敵するらしい。
 
 〖高位魔法士のトメ〗トメ・ハッシュプロ……なんとかドメスティックさん。どこかの元令嬢魔法士。若くして三種混成魔法を使える天才。魔法だけならかなみちゃんにも劣らないとか。
 
 〖石化のカクマル〗サングラスの大男。騎士だと思っていたがCランク以上の冒険者。出身はおそらく、欧米かアフリカ系といったところ。┠ 石化 ┨という┠ 威圧 ┨の上位互換の能力を持ち合わせいるという。俺にとっては苦手な相手だ。
 
 最後に騎士 スケイン・ポートマン。レイの情報だと、小国の貴族騎士らしい。誇り高き騎士道精神と屈強な肉体から『不死身の騎士』と呼ばれているらしい。薫さんのカウンターでもそう簡単には倒せないだろう。
 
 「知らないなら、街に出てみるといい。あちこちで不満の声が上がっている筈だ。」
 「不満の声ですか。分かりましたちょっと行ってきます!」
 
 俺はギルドを出て街を見て回ることにした。
 不満の声とは一体どういう事だろうか。
 
 「全く、なんてことをしてくれたんだ……!」
 
 道端で師匠の知り合いが頭を抱えている。
 
 「カオウ。どうしたんですか?」
 「カオウ。ああ、こうだいか。街の外で放し飼いにしてたハーフの魔牛達を、勇者が魔物と勘違いして、殺してしまったみたいなんだ。」
 「全部ですか!?」
 「いや、数は把握し切れてないけど全部では無い筈だ。それでも、君の育ててくれていたチョイチョイも無事なのかどうか分からない状態だ。」
 「そんな……」
 「それだけじゃねぇぞ! 勇者のやつ、薬草を根っこから抜いちまったんだよ!」
 
 俺達の会話を聞いていたのか、別の男が話に入ってきた。
 
 「そいつは本当かい!?」
 
 師匠の知り合いはかなり動揺している。セバスさんがいるので、俺の薬草の知識はかなり疎い。
 
 「どういうことですか?」
 「普通、薬草は上半分だけを狩る。そうして根っこを残しておけば、葉っぱの部分は幾らでも生えてくるから何度も薬草が取れる。でも根っこからいかれちまったら種でも植えない限り絶対に生えてこねぇ。ただでさえこの辺りじゃ取れる量も少ないってのに調合屋は商売あがったりだよ。」
 
 その話しにつられて、また別の村人が割り込んできた。
 
 「つーかあれだろ! いっときギルドから依頼が消えたのってアイツが原因なんだろ? 俺はそう聞いたぜ。」
 「マジかよ! それで依頼が無かったのかよ! 何考えてんだよ勇者さまはよぉ!」
 
 更にそれを聞いた冒険者が怒りをあらわにしながらやって来た。
 
 「お前ら、それだけじゃねぇぞ! 地元の人間でもごく一部しか知らない〈万能草・・・〉まで根っこから抜かれてたって話だ! 今までの話からすっと、これも勇者のしわざに違ぇねぇ!」
 
 
 ん? ばんのうそう?
 
 
 ちょっとまった。
 
 
 知っているぞ。それは勇者違うぞ。
 
 
 「だな! あのやろう!」
 「ふざけてやがるな!」
 「何が勇者だよ! 迷惑しかかけてねぇじゃねぇか!」
 
 地元の人がたくさん集まってきてしまった。
 
 「あの、皆さん、落ち着いて。勇者もた、たぶん迷惑をかけるつもりは……無いですよ。」
 
 最後の万能草だけは、かなみちゃんの熱を治す為に俺とリズが根っこから抜いて持って帰ってきたものに違いない。
 
 勇者の迷惑行為が度重なって、勇者の悪行のひとつみたいに数えられている。
 
 勇者、ゴメン。それは完全に濡れ衣だ。
 
 憤りをあらわにする民衆に、万能草を根っこから抜いたのは僕達ですとは口が裂けても言えない。
 
 申し訳ないが、ひとつ多めに罪を被ってもらおう……。バレたらめっちゃ怖いんでなぁ。
 
 

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