異世界歩きはまだ早い

a little

第四話 上位互換

 夕飯はカルボナーラ。
 
 薫さんが一から作るカルボナーラは文句のつけ所がない。
 
 ソースに使われているミルクはハーフ魔牛のものを使用し、繊細で濃厚な味わいを生み出している。振りかけてある粉チーズやベーコンはかなみちゃんが日本で買ってきたものを使っているが、リトーラ地方に伝わるという白いコショウがピリッと辛くも全体の味を引き立たせてくれる。
 
 香り要員のイザナイダケも、こうしてソースに絡めて食べると美味しくなる。
 高級珍味好きなら誰でも食べたくなるだろう。
 
 「リズニア、痩せる気はないのか?」
 
 前の席で食べているリズに聞いた。
 
 「ん? なぜでフ?」
 「だってほら、勇者と闘う事になったら厳しいだろ? その……今のままだとさ。」
 
 外見のことは触れないでおいてやる。いくらリズでも傷つくことがあるかもしれない。
 
 「ああ、そういう事でフか。だったら寧ろ、太るべきでフよ。」
 「はい?」
 
 未だに太っている自覚がないのだろうか。だとしても意味が分からない。
 
 「勇者の中で私は、見目麗しい女神の姿のままインプットされているはずでフから、太ってしまえば絶対に気づかれませんよ。」
 
 自慢でもするかのように鼻を鳴らす。
 
 「何言ってんだよ。解析スキルですぐバレるだろうが。」
 「こうたろうが解析系フキルをお持ちなんですか?」
 
 リズが首を傾げた。どうやら本当に知らないようだ。
 
 「あれ、お前があげたんじゃないのか?」
 「最低限の加護や言語、魔力、その他諸々は授けましたが、解析系なんて一つも渡してないでフオ? 異世界こっちに来てから手に入れたんじゃないでフか?」
 「じゃあ、魔力かいほう……なんちゃらとかいうの、あれもお前が授けた能力じゃないのか?」
 「それは『聖剣』の能力でフゥ。選ばれた者だけが使える奥義のようなものでフし私は関係ないでフゥ。『勇者』のこうたろうが『聖剣』に選ばれただけの話でフね。」
 
 リズは一人で納得する。あの能力も勇者は異世界に来てから手に入れたものらしい。
 
 あれから一年半も経っている。俺だって成長してきたとは思うが、勇者は俺とは比べものにはならないような体験をして強くなってきたに違いない。
 
 敵には回したくない男だ。
 
 「その、剣に選ばれるってのはどういう意味なんだ?」
 「そのままの意味でフゥ。『人が剣を選ぶ』ように、『聖剣は人を選ぶ』。通常だと、新品の剣に自らの魔力を流し込むことで、自分専用の武器に仕上げていきまフよね? ですが、聖剣の場合は魔素や魔力を吸収してしまうのでそうフることが出来ないんでフゥ。だから、平たく言ってしまえば誰でも使える魔系無効の剣なんでフけど……、ちょっと特殊でして。」
 
 聖剣の特徴を俺も目の当たりにした気がする……。何か、何かあった。
 
 「……! 聖剣の帰納か。」
 
 ふと、勇者が群衆に見せた聖剣の機能を思い出した。
 
 「そうでフ! 何処にいても持ち主の元に戻ろうとする性質が『聖剣が人を選ぶ』と云われている特徴なんでフ。正式名称は確か、【回帰納刀】です。」
 
 そう言いながらリズは長いパスタを持ち上げてぐるぐると巻き始めた。
 
 全部巻き上げるとパクッと一口でいった。口の大きなやつだ。
 
 「なるほどな。で、そんな勇者が来ても全然痩せる気は無いと。」
 「家から出なければ勇者には会いまフェんし、それに太ったって言ってもーお腹の肉がチョットつまめる程度でフから私は気にしませんよ。」
 「これのどこがちょっとつまめる程度なんですかね……?」
 「いたたたたたカオリン! カオリン痛いでフって! 痛いでフよ!」
 
 机の下で行われている行為は俺からは見えないが、薫さんはリズの肉をつまんでいるのだろう。
 少し可哀想では、ん?
 
 「ね、ねぇ珖代。リズはこのままヒキニートになるつもりなのかな……?」
 
 隣に座るかなみちゃんが不意に耳打ちをしてきた。
 
 「うん、どうだろうね。週に一回のきのこ狩りの時にしか家を出てないし、お兄さん的にはほとんど変わらないと思うのだけど。」
 
 リズに口元を見られないように隠しながら言う。
 
 「ちょっと、聴こえてまフよ。」
 
 聞こえるようにいっている。
 
 「好きで引きこもる訳じゃないんでフ。こうたろうが諦めて帰ってくれるまでのチョットの辛抱でフから。」
 「……やっぱりだよ。」
 「やっぱりだね。」

 二人でジッとリズニアを睨む。
 
 「ちゃんと私の話聞いてました!?」
 「意外とこれ気持ちいいですね。」
 「いいい痛い痛い! だからつねんないで下さいっ!」
 
 薫さんは悪魔のような笑みでリズをつまみ続けてるようだ。
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 
 
 ──リズの家出ない宣言から三日後。
 
 俺はいつものように弟子ーズとしてギルドに来ていた。しかし、少し様子が変だった。
 
 きのこ狩り申請窓口だけが行列を成している。
 ここで申請を出しておかないと冒険者達はきのこ狩りが出来ないので並ぶことは多少ある。でも今回はその行列がギルドの入口付近まで続いている。
 
 聞いてみるしかない。
 
 「カオウ、ジンダ。」
 
 列の最後尾にいた顔見知りの冒険者に声をかける。
 
 「カオウコーダイ。」
 「今日はどうしたんだ? すごい行列だな。」
 「それがよ、最近いいクエストが回ってこねぇから、早めに申請出そうってやつが多く並んでんだ。お前も申請するなら今だぞ。もう一週間先まで予約がいっぱいだって話だ。」
 「そうか、俺は別にいいよ。ありがとな。」
 「こうだい。」
 
 いつもの席でいつもと変わらないダンディーな師匠が俺を呼んだ。
 
 「師匠、きのこ狩りがいい感じに来てますね。これ以上人気が出たら受け付けのシステムを改善する必要がありそうですね。」
 「残念だが今回はクエストが回ってこないとこで起きた逆転現象に近い。まだまだ課題はあるだろうな。」
 「それなんですけど、どうして急に依頼が回らなくなったんですか?」
 「既にCランクの依頼は無くなった。Dランクもまばらにしか残っちゃいない。」
 「え!? なぜそんなことに?」
 「原因は勇者さ。アイツがここいらの最高ランクに当たるCを片っ端から終わらせたんだ。で、今はDランクの依頼をいくつも同時に引き受けて颯爽と出ていった訳でこうなっている。危険が伴うきのこ狩りが賑わってるのはそのしわ寄せってやつだ。」
 「勇者がですか……。」
 
 確かに以前あった時に勇者は、依頼を受けて回っていると言っていた。
 
 リズが見つかるまでの暇つぶしとも言っていたが、他にやる事はないのだろうか。
 
 「そう言えば、女神リズニアを知りませんかと、アイツに訊かれたな。」
 「それで、なんて答えたんですか!」
 
 俺はテーブルに身を乗り出して聞いた。
 
 「そんな大層な名は知らないとだけだ。」
 「……ありがとうございます。」
 
 思わぬところから情報が漏れなかったことにそっと胸をなで下ろした。リズのことを知っている人達には、リズのことを内緒にしてもらうように早めに頼んだ方がよさそうだ。
 
 「お礼を言われる筋合いはないな。実際に分からないだけだしな。俺が知っているのはただのリズニアだけだからな。」
 「師匠……。」
 
 感嘆とした声が思わず出てしまった。
 
 師匠は、俺がリズの正体を話していないことに何か理由わけがあることに勘づいているようだ。
 
 その理由をちゃんと話していないのにも関わらず、隠し事をしている俺達を売らずに守ってくれたのだ。無条件に涙が出そうになる。
 
 この人にも、いつかちゃんと事情を話さなきゃダメだ。
 
 「勇者は善意、もしくは暇つぶしでやっているつもりだろうが、生活の為に依頼を受けてる奴からして見ればとんだ迷惑でしかない。このままだといいことは無い。断じてだ。この問題はおそらくお前達に掛かっている。ちゃんと話し合って、決断は早めに決めることだ。」
 「……リズニアが追われている理由、聞かないんですか。」
 
 師匠は一度、グラスの中のものを飲み干すと口を開いた。
 
 「誰だって聞かれたくないことの一つや二つ、必ずある。特に過去についてはだ。この一年半、お前がどういう人間かを俺はみてきているんだ。俺を師匠と呼ぶお前を、その仲間を、俺が信用しないでどうする。」
 
 普段の厳しい印象とは違い、優しい目が向けられた。
 
 やはりこの人に付いてきて良かった。
 
 「わかりましたっ!! 今から皆と話し合ってきます!」
 
 深々とお礼をしてから、俺はギルドを後にした。
 
 「ユイリーには、ちゃんと伝えておけよ……。」
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 
 
 大事な話し合いをする時はいつも決まって、皆で家に集まるようにしている。
 
 薫さんやリズは家にいるからオッケーとして最初はあの人だ。
 
 俺は今、〈れいザらス〉本店に来ていた。
 
 街のイメージを損なわないシックなカラーの外観とは裏腹に、店内はカラフルな色であしらわれいる。
 
 店内はいつもながら観光客でごったがいしている。
 
 トランプやコマを消耗品かのように大量に買い込むお客さんを見ていると、中国人の爆買いも目じゃなくなる。
 
 けん玉やフラフープはその場でお試しが出来るようになっていて、子供たちが楽しそうに遊んでいる。某有名テーマパークのお土産コーナーをモチーフにかなみちゃんが設計した店は、入るだけなら誰でも可能なので、店内の装飾やデザインを楽しんで帰られるお客さんもいたりする。
 そんなこんなで途切れることのない客の八割がリピーターらしい。
 
 経営に関して俺は一切関わっていないので詳しいことまでは分からないが支店もいくつかあるそうだ。店ごとにコンセプトも若干変えているようなで、いつか行ってみたいものだ。
 
 中央のレジで働いている娘に店長に会いたい旨を伝えると、俺が誰だか分かったようですぐに案内してくれた。
 
 店の奥にある大きな階段から地下の倉庫に向かう。
 
 打ちっぱなしの鉄筋コンクリートの大部屋は、むき出しの蛍光灯・・・・・・・・が連なって照らしているだけの無機質な部屋だ。
 
 とはいえ、ここは在庫置き場としての顔を持っている。積まれたダンボールの山くらいはある。
 
 在庫置き場の一番奥につくと、彼女は壁の小さな窪みに人差し指を置いた。
 
 暫くして電子音がなり、壁と思われた部分が大きく開いていく。
 
 彼女の誘導に従ってその中へ足を踏み入れる。
 部屋は一気に暗くなるが、下から間接的に漏れる青い光で足元だけは確認できる。
 
 長い廊下の最後に待つ自動ドアをくぐると巨大なモニターが置かれた大きな空間に出た。
 モニターにはこの世界の地図がでかでかと表示されていて、現在地が赤く点滅している。
 
 「本部長代理! キクミネ様をお連れしました!」
 
 インカムをつけて何処かと連絡を取る元盗賊の人達に、あれこれ指示を出す店長を彼女は呼びだした。
 
 「ああ、ご苦労様! キミは持ち場に戻ってくれていいですよ!」
 「はっ! 失礼します!」
 
 そのまま彼女は戻っていき、店長兼、本部長代理の中島茂茂しげしげさんが俺の元まで駆け寄って来た。
 
 「どうしたんですか喜久嶺さん! わざわざこんな場所まで来るなんて……もしかしてお嬢ですか? 生憎ですがお嬢は今ですね、スペード支部の発電基地建設の為に国外に出てしまっていて」
 「いえ、かなみちゃ……お嬢は自分で呼びますから大丈夫です。今は代理に用があってきたんです。」
 「私にですか?」
 「これからパーティー会議を始めますので、一度家に戻ってきてくれますか? 忙しい様でしたら無理強いはしませんが。」
 「いえ、大丈夫ですよ。今すぐ向かいます。皆さんも、各自休憩を取るようにお願いしますよ!」
 「「「はい!」」」
 
 モニターを食い気味に見ていた人達が、一斉に振り返り返事をした。
 物凄い統率力だ。
 
 「中じ……代理、紙とペンを貸してもらえませんか?」
 「ええ、構いませんよ。何に使うんですか?」
 「まあ、見ててください。今からお嬢を呼びます。」
 
 中島さんから渡された紙とペンでもって、俺は必要事項を書き記していく。
 
 「まずこのように、紙に今日の日付け、来て欲しい場所、時間、理由を書きます。用意が出来たらこのベルを使います。」
 
 俺は懐からベルを取り出した。
 
 「それはなんですか?」
 「魔物にしか聴こえない音を出す〈魔物除けのベル〉を改良して作った、かなみちゃんにしか聴こえない音を出す〈かなみちゃん寄せベル〉です。」

 中島さんがそわそわし始めた。
 
 「喜久嶺さん……。」
 
 スタッフ達が俺を睨んでいる。
 
 「あっ、お嬢寄せベルです。」
 
 れいザらスのスタッフは何故か皆、かなみちゃんや中島さんを名前で呼ぶとすぐに不機嫌を表す。
 
 彼らなりのプライドなのか尊敬の表れ方なのか分からないが、ちゃんと役職で呼ばないとずっと睨まれたりする。
 なので、ここではかなみちゃんをお嬢と呼ばなくてはいけないのだ。
 お嬢って役職なのか……? まあその辺は置いておこう。
 
 「私たちにも聴こえないんですか?」
 
 中島さんの疑問に答えるべく、ベルを振る。
 一等賞が出たくらいに大袈裟に振ってみせる。
 
 「ほら、どれだけ振っても俺達には聴こえないですよね? あとはベルの音を聴いたお嬢が、┠ 叡智 ┨の能力を利用してこの紙を読んでくれて、来てくれるという仕組みです。」
 「なるほど、便利ですね。」
 「そうでした、代理。セバスさんは見ませんでしたか?」
 「朝から見てないですねー。力になれず申し訳ない。」
 「いや、大丈夫です。じゃあ、俺はセバスさんを探しに行きますんで、先に家に戻ってて下さい。」
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 
 
 セバスさんは普段からいつの間にか隣にいる神出鬼没のセントバーナードだ。だからいてほしいときに隣に居ないことは滅多にない。
 だからこそいない時に探すのは一苦労。居そうな場所の候補が一つとしてないのだ。
 
 根気強く探しながら、俺は街の人達に聞き込みをしてまわった。
 
 一匹で歩いている所を目撃したと云う情報を皮切りに、次々情報を得ては向かい、得ては向かい、セバスさんの今日一日の行動を追い続け、ついにセバスさんご本人に会うことが出来た。
 
 大通りに面したギルドの前をよろよろと歩いているセバスさんに声をかける。
 
 「セバスさん、探しましたよ。これからパーティー会議なんで一緒に帰りましょう。」
 「バウ。」
 
 一つ返事を返してくれたセバスさんが俺の後ろを付いて歩いてくる。
 
 セバスさんが何をしていたのかは、後でかなみちゃん経由で聞いてみよう。
 
 今は話し合いをどうするかを考えなければならない。
 
 勇者がリズの情報を得られないままそうそうに撤退してくれるなら今のままでも構わないだろうが、リズを狙う理由や依頼への執着はそのまま看過できるものじゃ無くなっている。
 
 場合によってはリズだけじゃなく、俺達も勇者一行と闘うことを考えた方がいいかも知れない。
 
 その時のためにも、誰と誰がどのように闘うのかをしっかりと話し合う必要もあるだろう。
 
 出来れば闘いは避けたいのだが、ん?
 
 考えながら歩く俺とすれ違うように、あのサングラスの黒人カクマルが横切った。
 
 大通りの人混みの多い場所でもあの男はものすごく目立つ。
 思わず振り返り目で追った。
 
 今がチャンスなんじゃないか?
 
 この男を追えば、勇者が今受けている依頼や居場所が知れる気がする。それに、この男自身が何者なのかも分かるような。
 そんなチャンスが今にも路地を曲がって消えてしまいそうだ。
 
 気付けば俺はあの男の背中を尾行していた。
 
 「セバスさん、尾行したいので気づかれないように行動お願いします。」
 「バウ……。」
 
 小さく吠えて頷く。
 
 俺達は男の後ろを物陰に隠れながら尾行を続けた。
 
 俺が隠れながらバレないようにしているのに、セバスさんはとぼとぼ歩きながら俺を追い抜かし、カクマルの後ろを堂々と陣取った。
 
 犬だから、というのもあるだろうがさすがは┠ 気配遮断 ┨の持ち主。あれだけ近づいても問題ないとは驚いた。
 
 いや、今ちらっとセバスさんを見たぞ! 
 まずい。セバスさんがついてきていることがバレている。
 
 止まってくださいセバスさん……。
 
 遂に、足を止めてしゃがみ、辺りをキョロキョロと見だした。
 
 男が警戒に入った。
 
 ここで見つかれば、誤魔化しきれない。
 
 こっちに近づいて来てないか確認するため、壁に耳を澄ましながらじっと待機する。すると微かにだが声が聞こえてきた。
  
 「ヨーシヨシヨシ。いい子だ。俺が怖くないのか? ん? 可愛い奴め。」
 
 警戒は勘違いだったようだ。
 ほっとしたがあの大男はあんな感じの奴だったのか……。
 人は見かけによらないものだな。
 
 
 敵になるかもしれない男の意外な一面を垣間見たあと、男を尾行して街を出た。
 
 やって来たのは枯れない森の奥にある城の前。何気にここまで城に近付いたのは初めてだ。
 
 「勇者もここにいるのか……?」
 
 木の後ろから顔だけを覗かせてみる。
 
 「うーんどうかな?」
 「うわ!? か、かなみちゃん!?」
 「しーー! バレちゃうよ。」
 「なんでここにいるの……?」
 
 後ろから聞こえたかなみちゃんの声に一瞬バレたかと思い大声をあげてしまった。
 
 「いくら待っても珖代が帰ってこないから探しに来たんだよ。まさか、尾行してたなんて思わなかったよ。」
 「ごめんね、伝えるべきだったよね。」
 
 今は紙とペンがある訳だしきちんと伝えるべきだった。
 
 「珖代、あれはなに?」
 
 かなみちゃんが指さすのは石で出来ている魔物の彫刻だ。
 置いてある理由は分からないが城の傍だから何かしらの意味があるとは思われる。
 
 「たぶんギヒアの……石像じゃないかな?」
 「でもあれ、生体反応があるから生きてるよ……!」
 「生体反応……? 生きてるようには見えないけど……。」
 
 聞き慣れない表現に困惑していると男は石像に向かい、足を振りあげた。
 
 大男から放たれた重く鋭い蹴りが、ギヒアの石像を豪快に砕いてみせた。
 
 「なにやってるんだ……」
 
 軽々と壊す姿から、あの大男も見た目通りにただ者では無いことが分かる。
 むしゃくしゃしててやった、とかいう様子では無いが何がしたいのだろうか。
 
 「これ以上先は珖代じゃ無理だから、セバスとかなみで行ってくるね。」
 
 そう言って、数分程して二人が戻ってきた。
 
 どんな様子だったのか聞くと、かなみちゃんは覚悟を決めたように重い口を開いた。
 
 「あの人、生きものを石に変える┠ 石化 ┨のスキルを持ってるみたい……。」
 「それってギヒアが生きたまま石に変えられちゃってたってこと?」
 「うん、ギヒアだけじゃないよ。目が合った生き物はどんな生き物でも石に変えられちゃう、┠ 威圧 ┨の "上位互換" だよ。」
 
 その言葉に俺はただただ頷くことしか出来なかった。様々な憶測が頭の中で渦巻いて考えられなくなっていた。
 
 このことを含めて皆に話す必要がある。一旦、家に戻ることにしよう。
 
 そこで考えればいい。
 
 そうすれば何か思いつく筈だと、思い込んでいた。
 
 もしもの時に、奴を止めておくとこも出来ないと知らずに。
 
 
 

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