異世界歩きはまだ早い
その2 俺のカキフライ
街を出て東にある枯れない森を抜け、珖代俺とリズニアは崖に来ていた。
橋を越えた崖の向こう側は、つい先日リズとバトった荒野が広がっている。
俺達がここにやってきたのは修行の為ではなく、イザナイダケを収穫しに来たからだ。
季節に左右されず年中崖にびっしり生えているキノコ、イザナイダケ。別名黒ブロッコリー。
崖に生えていた元々の植物の根に菌類が着生、荒野では吸収の難しい水分及び無機物を植物は菌を通じて吸収し、一方で菌は植物の根を通じて有機物を得ることで共生関係を成立させている。気候や湿度で繁殖力は大きく変わり、ユール周辺の崖でのみ生息が確認されている。また、胞子には幻覚を見せる作用があると言われている。
崖際は植物の根により脆くなっている為、収穫の際は注意が必要だ。────by かなペディア
かなみちゃんの有益な情報が載ったメモ、"かなペディア"の情報は以上だ。
崖が崩れやすかったり、幻覚見たり色々あるらしい。だとしてもこのキノコが高く売れる以上、借金返済の為にも多く収穫しておきたいのだ。
「カオウ。トキサ。」
「カオウ! コウダイ!」
「カオウカオウっコーダイ」
「カオウ。ゲル。」
「カオーコウダイ」
俺より先に来ていた同業者の皆さんに挨拶は欠かさない。
かなみちゃんが総商会に掛け合ってくれたおかげで、キノコの販売と収穫が承認された。
権利フリーの状態にありながら、高く売れる品物ということで、今ではこの崖に人を見かけない日は無い。ただ、同業者の殆どが別の街出身の冒険者ばかりで、ほぼ顔なじみだ。地元の人達にはまだ縁起が悪いと敬遠されているのだろう。
街の人達に受け入れてもらいキノコ産業を発展されていく為には、俺達冒険者が身を以て証明するしかない。
縁起が悪いなんてことはないと。
リズにロープを二本括り付け、その反対側を別々の二本の木にしっかりと巻き付けて、ロープを固定する。これで大切な命綱の出来上がりだ。尤も、リズは崖から落ちたくらいで死んだりはしないのだが、一応、念の為だ。落ちた場合の回収もめんどくさいし。
「オッケーだ、リズ。ゆっくり降りてくれー……って聞いてないし。」
リズは忠告を聞く前に勢い良く降りていった。いつものことなので、呆れるだけでとどまった。
崖を蹴るようにしてポンポン降りていくリズ。消防士顔負けの降下術であっという間にロープの限界高度まで降りた。
リズは壁に両足をつけると振り子のように身体を揺らし、勢い良く崖を駆け上る。その姿はさながらミッション・イ○・ポッ○ブルだ。
壁を走りながらキノコを収穫するリズを見て、冒険者達は目を丸くしている。
通常、崖を降りる人に対し、二人から三人が崖の上から指示やロープの調整を行う。また、崖の間は突風も吹きやすく、かなみちゃん特製の衝撃吸収クッションに包まれながらではないと危険なのだ。
だから、クッションを使わないリズの荒業は非常に危険でマネ出来るものもいない。冒険者達は純粋に驚いている者と心配している者とが半々だった。
「ほいっ、到着です。」
大量のキノコを持って自力で戻ってきたリズに、冒険者達は拍手で迎えた。リズは声援に胸を張って応える。
「どうも、どうもです。」
この街にいる冒険者は顔に似合わずみんな優しかった。リズが、キノコ狩り名人と呼ばれるようになる日も近いかもしれない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〖お食事処 レクム〗にて。
普段は忙しいお昼時。
今日はデネントさんの旦那さんが厨房に復帰する準備に入るという事でお店は臨時休業を取っていた。
客として招かれているのは俺達のパーティーだけで、
「日頃のお礼と旦那のリハビリだと思って付き合ってくれないかい?」
と、言われてたので断る理由もない。俺達は席に座って待つことにした。
出てきた料理は意外や意外、カキフライだった。海も無ければ油も貴重なこの街で、まずお目にかかれない料理だ。
なんでも、デネントさんがお礼のためにとわざわざ、海の国からカキと貴重な油を仕入れてくれたそうだ。
カキフライは一人二つ。冗談抜きにほっぺたが落ちそうになるほど美味いカキを、大切に味わっていたがあっという間に完食してしまいそうだ。
「もうこの街に来て三ヶ月近く経ちますけど、こうだいはまだ疑問とかありますか?」
向かいに座るリズが俺に質問してきた。
「疑問? うーん、山ほどあるんだが……」
あるにはあるが、意外にもスっと出てこない。腕を組みながら考える。
「あれかな、俺と薫さんの魔力が0ってバレたら、どっかから命を狙われるとか、ないよな?」
日本語で話しているので誰かに聞かれるような心配はないと思うが、小声で尋ねた。
「その心配はありませんよ。魔力が1未満って方は一定数存在します。魔法が使えない人がそうです。しかし、魔力、魔力量ともに完全に 0 の人間は、おそらくこの世界にこうだいとカオリンだけだと思いますよ。」
聞き覚えのない言葉が飛び出した。
「魔力量?」
「はい。魔力量は生まれた瞬間から決まる、魔力の貯蔵量のことです。魔力が無くても、魔力量が無いって人はこの世界にはいません。何故なら、この世界には“魔素”が溢れてますから。──“魔素”の話はしましたっけ?」
「いやきいてない、と思う。」
「ええと、“魔素”というのはですね、この世界に溢れる小さな力の源で、木とか、草とか、土とか、森、海、大地、雷、炎、生命いのちある者達に至るまで、ありとあらゆるものが持つ自然のエネルギーのことなんです。言わば、魔力の元ですね。両親に“魔素”があれば、魔力量を持つ子供、つまり、素質のあるかもしれない子供が産まれるんです。」
「それって、俺の両親にもし“魔素”があったら、俺も魔法が使えたかも知れないってことか?」
「そうですね。空気や食べ物にも“魔素”は含まれますから“魔素”自体は、こうだいも既に持っているハズですよ。」
「ふーん、“魔素”ねえ……。」
フォークで突き刺したカキフライを見つめる。この美味しいカキフライにも“魔素”が含まれていると思うと不思議な感覚だ。お腹を壊したりはしないのだろうか。
「でもでもー、こっちの世界で子供作っちゃえば、その子は魔法が使えるかもですよぉ?」
リズが冗談半分に訊いてきた。というか、八割がたふざけた感じがゲスい表情にでている。
「かほわ(かもな)。」
カキフライをほうばりながら適当に応えた。
「もー、ノリが悪いですねー。」
「んっ……それじゃ、かなみちゃんはどうして魔法が使えるんだ?」
「それはチートスキルの影響でしょうね。」
「ふーん。」
魔法が使えるようになるスキルを持っている、と言うことだろう。
「お前は魔法使わないのか? それとも使えないとか?」
「使えないことはないですよ。私は魔法が苦手なだけですから。あーでも、ペリーちゃんと闘っていた時は、身体強化の魔法を使ってましたよ。じゃないと厳しいかなって思って。」
ゴジ○相手に猪突猛進するあの時の少女の姿が脳裏に浮かび上がる。
「それで、めちゃくちゃやってたのか……。」
リズの強さの秘密を一部知っただけでなんだか圧倒された気分になって溜息が出る。
「なかじまも┠ 魔法の心得 ┨を持っているので魔法は使える筈ですよ。」
俺の隣にいる中島さんにリズは話を振った。
「そ、そう、なんですよね。せっかく貰った能力ですし、魔法を勉強して賢者でも目指してみようかなー、なんちゃって。あはは。」
中島さんは照れるようにヘコヘコしながら笑った。自分でボケて恥ずかしくなっちゃって照れているのかも。年甲斐もない愉快なおじさんだ。
ふと視線を厨房に向けるとレクム君が顔だけ出して覗いていた。だが、俺と目が合うとすぐ引っ込んでしまう。何か嫌われてしまうようなことをしてしまったのだろうか。
以前、とある少年を、小便チビるほど容赦なく睨んでしまったことがあったのだが、レクム君はそれを誰にも話さないでいてくれた。あの時のお礼をしたいのだが、あれからずっと避けられている様な気して話しかけづらい。
レクム君の代わりに厨房からデネントさんがやってきた。どうやら味の感想を聞きに来たらしい。
「美味いってなんて言うんだ?」
「デリシャスです。」
リズに訊いたのは間違えだった。
「それは英語だろ………え、ホントにデリシャスなのか?」
見た感じ、ウソをついている様子は無かった。どっちなんだ……。
デネントさんは
「ウチで三回も飯を食うのは、アンタ達くらいだよ。」
と言う。聞けばこの街には朝食という文化がないらしい。大きく分けて、" 午前食 "と" 午後食 "になるらしく、客足が伸びても三度もご飯を食べに来るような連中は珍しいそうだ。尤も、薫さんやかなみちゃんを見に、何度も足を運ぶお客さんなら、チラホラいるそうだが。
朝食の文化を街に広めればもっと客足が伸びるかもしない。流石に、これ以上の恩返しは迷惑だろうか。
そんな事を思いながらデネントさんを見ると不思議なことが起きていることに気づいた。
デネントさんと薫さんが顔を見合わせて微笑み、頷き合っているのだ。
言葉は通じ合えない筈の二人の母親の姿。静と動。最も近くて遠い存在同士が触れている。分かりやすく例えるとするならば、江戸っ子基質のデネントさんと雅みやびな京人の薫さんが意外にも気が合う、みたいな。
同じ子を持つ母親として何か通じ合えることでもあったのだろうか。不思議だ。あの二人は○ュータイプなのか……?
「いらないなら、貰いますねー。」
ぼうっとしていた俺のカキフライをリズが横取りして一口で食べた。丸々一個をだ。
「おい、お前! 何勝手に食ってんだ! 返しやがれー!俺のカキフライイィ」
首根っこを掴んで揺さぶる。
「うううううー!」
もう戻って来ないのは分かっている。実際、返されても困るだけなので、カキフライを食われた恨みをぶつけるために揺さぶった。
コイツには食べ物の恨みの怖さ、いつか思い知らせてやらねばいけないと心に誓った。
橋を越えた崖の向こう側は、つい先日リズとバトった荒野が広がっている。
俺達がここにやってきたのは修行の為ではなく、イザナイダケを収穫しに来たからだ。
季節に左右されず年中崖にびっしり生えているキノコ、イザナイダケ。別名黒ブロッコリー。
崖に生えていた元々の植物の根に菌類が着生、荒野では吸収の難しい水分及び無機物を植物は菌を通じて吸収し、一方で菌は植物の根を通じて有機物を得ることで共生関係を成立させている。気候や湿度で繁殖力は大きく変わり、ユール周辺の崖でのみ生息が確認されている。また、胞子には幻覚を見せる作用があると言われている。
崖際は植物の根により脆くなっている為、収穫の際は注意が必要だ。────by かなペディア
かなみちゃんの有益な情報が載ったメモ、"かなペディア"の情報は以上だ。
崖が崩れやすかったり、幻覚見たり色々あるらしい。だとしてもこのキノコが高く売れる以上、借金返済の為にも多く収穫しておきたいのだ。
「カオウ。トキサ。」
「カオウ! コウダイ!」
「カオウカオウっコーダイ」
「カオウ。ゲル。」
「カオーコウダイ」
俺より先に来ていた同業者の皆さんに挨拶は欠かさない。
かなみちゃんが総商会に掛け合ってくれたおかげで、キノコの販売と収穫が承認された。
権利フリーの状態にありながら、高く売れる品物ということで、今ではこの崖に人を見かけない日は無い。ただ、同業者の殆どが別の街出身の冒険者ばかりで、ほぼ顔なじみだ。地元の人達にはまだ縁起が悪いと敬遠されているのだろう。
街の人達に受け入れてもらいキノコ産業を発展されていく為には、俺達冒険者が身を以て証明するしかない。
縁起が悪いなんてことはないと。
リズにロープを二本括り付け、その反対側を別々の二本の木にしっかりと巻き付けて、ロープを固定する。これで大切な命綱の出来上がりだ。尤も、リズは崖から落ちたくらいで死んだりはしないのだが、一応、念の為だ。落ちた場合の回収もめんどくさいし。
「オッケーだ、リズ。ゆっくり降りてくれー……って聞いてないし。」
リズは忠告を聞く前に勢い良く降りていった。いつものことなので、呆れるだけでとどまった。
崖を蹴るようにしてポンポン降りていくリズ。消防士顔負けの降下術であっという間にロープの限界高度まで降りた。
リズは壁に両足をつけると振り子のように身体を揺らし、勢い良く崖を駆け上る。その姿はさながらミッション・イ○・ポッ○ブルだ。
壁を走りながらキノコを収穫するリズを見て、冒険者達は目を丸くしている。
通常、崖を降りる人に対し、二人から三人が崖の上から指示やロープの調整を行う。また、崖の間は突風も吹きやすく、かなみちゃん特製の衝撃吸収クッションに包まれながらではないと危険なのだ。
だから、クッションを使わないリズの荒業は非常に危険でマネ出来るものもいない。冒険者達は純粋に驚いている者と心配している者とが半々だった。
「ほいっ、到着です。」
大量のキノコを持って自力で戻ってきたリズに、冒険者達は拍手で迎えた。リズは声援に胸を張って応える。
「どうも、どうもです。」
この街にいる冒険者は顔に似合わずみんな優しかった。リズが、キノコ狩り名人と呼ばれるようになる日も近いかもしれない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〖お食事処 レクム〗にて。
普段は忙しいお昼時。
今日はデネントさんの旦那さんが厨房に復帰する準備に入るという事でお店は臨時休業を取っていた。
客として招かれているのは俺達のパーティーだけで、
「日頃のお礼と旦那のリハビリだと思って付き合ってくれないかい?」
と、言われてたので断る理由もない。俺達は席に座って待つことにした。
出てきた料理は意外や意外、カキフライだった。海も無ければ油も貴重なこの街で、まずお目にかかれない料理だ。
なんでも、デネントさんがお礼のためにとわざわざ、海の国からカキと貴重な油を仕入れてくれたそうだ。
カキフライは一人二つ。冗談抜きにほっぺたが落ちそうになるほど美味いカキを、大切に味わっていたがあっという間に完食してしまいそうだ。
「もうこの街に来て三ヶ月近く経ちますけど、こうだいはまだ疑問とかありますか?」
向かいに座るリズが俺に質問してきた。
「疑問? うーん、山ほどあるんだが……」
あるにはあるが、意外にもスっと出てこない。腕を組みながら考える。
「あれかな、俺と薫さんの魔力が0ってバレたら、どっかから命を狙われるとか、ないよな?」
日本語で話しているので誰かに聞かれるような心配はないと思うが、小声で尋ねた。
「その心配はありませんよ。魔力が1未満って方は一定数存在します。魔法が使えない人がそうです。しかし、魔力、魔力量ともに完全に 0 の人間は、おそらくこの世界にこうだいとカオリンだけだと思いますよ。」
聞き覚えのない言葉が飛び出した。
「魔力量?」
「はい。魔力量は生まれた瞬間から決まる、魔力の貯蔵量のことです。魔力が無くても、魔力量が無いって人はこの世界にはいません。何故なら、この世界には“魔素”が溢れてますから。──“魔素”の話はしましたっけ?」
「いやきいてない、と思う。」
「ええと、“魔素”というのはですね、この世界に溢れる小さな力の源で、木とか、草とか、土とか、森、海、大地、雷、炎、生命いのちある者達に至るまで、ありとあらゆるものが持つ自然のエネルギーのことなんです。言わば、魔力の元ですね。両親に“魔素”があれば、魔力量を持つ子供、つまり、素質のあるかもしれない子供が産まれるんです。」
「それって、俺の両親にもし“魔素”があったら、俺も魔法が使えたかも知れないってことか?」
「そうですね。空気や食べ物にも“魔素”は含まれますから“魔素”自体は、こうだいも既に持っているハズですよ。」
「ふーん、“魔素”ねえ……。」
フォークで突き刺したカキフライを見つめる。この美味しいカキフライにも“魔素”が含まれていると思うと不思議な感覚だ。お腹を壊したりはしないのだろうか。
「でもでもー、こっちの世界で子供作っちゃえば、その子は魔法が使えるかもですよぉ?」
リズが冗談半分に訊いてきた。というか、八割がたふざけた感じがゲスい表情にでている。
「かほわ(かもな)。」
カキフライをほうばりながら適当に応えた。
「もー、ノリが悪いですねー。」
「んっ……それじゃ、かなみちゃんはどうして魔法が使えるんだ?」
「それはチートスキルの影響でしょうね。」
「ふーん。」
魔法が使えるようになるスキルを持っている、と言うことだろう。
「お前は魔法使わないのか? それとも使えないとか?」
「使えないことはないですよ。私は魔法が苦手なだけですから。あーでも、ペリーちゃんと闘っていた時は、身体強化の魔法を使ってましたよ。じゃないと厳しいかなって思って。」
ゴジ○相手に猪突猛進するあの時の少女の姿が脳裏に浮かび上がる。
「それで、めちゃくちゃやってたのか……。」
リズの強さの秘密を一部知っただけでなんだか圧倒された気分になって溜息が出る。
「なかじまも┠ 魔法の心得 ┨を持っているので魔法は使える筈ですよ。」
俺の隣にいる中島さんにリズは話を振った。
「そ、そう、なんですよね。せっかく貰った能力ですし、魔法を勉強して賢者でも目指してみようかなー、なんちゃって。あはは。」
中島さんは照れるようにヘコヘコしながら笑った。自分でボケて恥ずかしくなっちゃって照れているのかも。年甲斐もない愉快なおじさんだ。
ふと視線を厨房に向けるとレクム君が顔だけ出して覗いていた。だが、俺と目が合うとすぐ引っ込んでしまう。何か嫌われてしまうようなことをしてしまったのだろうか。
以前、とある少年を、小便チビるほど容赦なく睨んでしまったことがあったのだが、レクム君はそれを誰にも話さないでいてくれた。あの時のお礼をしたいのだが、あれからずっと避けられている様な気して話しかけづらい。
レクム君の代わりに厨房からデネントさんがやってきた。どうやら味の感想を聞きに来たらしい。
「美味いってなんて言うんだ?」
「デリシャスです。」
リズに訊いたのは間違えだった。
「それは英語だろ………え、ホントにデリシャスなのか?」
見た感じ、ウソをついている様子は無かった。どっちなんだ……。
デネントさんは
「ウチで三回も飯を食うのは、アンタ達くらいだよ。」
と言う。聞けばこの街には朝食という文化がないらしい。大きく分けて、" 午前食 "と" 午後食 "になるらしく、客足が伸びても三度もご飯を食べに来るような連中は珍しいそうだ。尤も、薫さんやかなみちゃんを見に、何度も足を運ぶお客さんなら、チラホラいるそうだが。
朝食の文化を街に広めればもっと客足が伸びるかもしない。流石に、これ以上の恩返しは迷惑だろうか。
そんな事を思いながらデネントさんを見ると不思議なことが起きていることに気づいた。
デネントさんと薫さんが顔を見合わせて微笑み、頷き合っているのだ。
言葉は通じ合えない筈の二人の母親の姿。静と動。最も近くて遠い存在同士が触れている。分かりやすく例えるとするならば、江戸っ子基質のデネントさんと雅みやびな京人の薫さんが意外にも気が合う、みたいな。
同じ子を持つ母親として何か通じ合えることでもあったのだろうか。不思議だ。あの二人は○ュータイプなのか……?
「いらないなら、貰いますねー。」
ぼうっとしていた俺のカキフライをリズが横取りして一口で食べた。丸々一個をだ。
「おい、お前! 何勝手に食ってんだ! 返しやがれー!俺のカキフライイィ」
首根っこを掴んで揺さぶる。
「うううううー!」
もう戻って来ないのは分かっている。実際、返されても困るだけなので、カキフライを食われた恨みをぶつけるために揺さぶった。
コイツには食べ物の恨みの怖さ、いつか思い知らせてやらねばいけないと心に誓った。
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