世界を渡る少年
第三十六話
 
 
正しくここは男の地獄であった。
貴族らしくゆったりした造りの浴槽ではあるが、流石に四人ともなると肌と肌の接触は避けられない。
真人の左にシェラ右にプリム背後にはディアナとそれぞれ思い思いの方法で肌を寄せ合う状況は、いまだ木鶏足りえぬ真人にはかつてないほどの責苦に他ならないのだった。
 
だめだ………ここで反応してしまったら負けだ!
 
主に股間が。
 
真人は必死にこの世ならぬ狂気の修行を脳裏に思い描くことで危機の打開を図っていた。
 
両手を骨が見えるほど焼け爛らせたところから治癒さする修行をさせられたこともあった。
胃を完全に破裂させた状態で戦わされたこともあった。
失神するまで出ることのできない水牢に三日三晩放り込まれたこともあった。
 
よく思い出せば生きていることそのものが奇跡だ。
あの狂気の修行に耐えられた自分がこれしきのことに動揺するなど……………!
 
 
「いったいどういう鍛え方をしたらこんなに柔らかい筋肉をつけられるのかねえ………」
 
むにょん、と音のしそうな勢いで真人の肩にディアナがのしかかる。
よく熟れた豊満な胸が真人の肩に押しつけられ自在に形をかえる様は圧巻ですらあった。
 
「本当にご主人様のお肌ってすべすべで柔らかいんですよね〜」
 
追い打ちをかけるように人差し指で真人の胸をシェラがのの字を描くようにつつき始めた。
栄養不良でうるおいに欠けた以前とは違い、今まさに女としての成長期をむかえた瑞々しさは匂うばかりである。
思春期の乙女だけが持ちうる清純な色気が煙るように立ち上っていた。
 
「あ〜もしかしてご主人様、緊張してる〜?」
 
そして真人の右腕の緊張を敏感に感じ取ったプリムが目を細めて真人の顔を覗き込んだ。
幼女らしいプリプリした肌と早くも目覚めつつある女としての性が激しくアンバランスで目を惹かずにはいられない空気を纏っている。
そこはかとない色気すら感じられるほどだ。
 
女性陣の意図ははっきりしていた。
 
 
自分を女性として意識させて現状からさらなるステップアップを目指す……………これだ!
 
うりうりとばかりに意図的に肌をこすりつけ始める三人に真人の意識は彼岸の世界に旅立とうとしていた…………。
 
 
………………ごめんよ真砂…………不甲斐ない兄を許してくれ…………
 
 
プチリ
 
 
兄妹の縁もこれまでですね♪
 
 
なぜか脳裏の真砂はどす黒い瘴気を撒き散らしながら真人に引導を渡すのだった。
 
 
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
 
 
精神力の限界に達した真人は雄たけびをあげながら周りを囲む女性陣には目もくれず一目散に脱衣所へと飛び出していった。
 
 
はらり
 
 
真人の腰を覆う布が真人の急な動きに耐えきれず浴槽へと落ちていく。
そして露わになったモノを三人の娘たちはノドを鳴らしつつもしっかりと目に焼き付けていた。
 
 
「「「大きい!!!」」」
 
 
その後食事をともにした四人はいつになく無口で頬の血行が良いままであったという…………………。
 
 
 
 
シェラの料理舌鼓を打ちつつ、なぜか盛り上がらない昼食が終わった。
食後のお茶を楽しんでいた真人であったが、真人に降りかかる地獄はまだまだこれからが本番であった。
 
「真人ぉ………女のひとり身に傭兵の宿舎は淋しすぎるよ。私も今夜からここに置いてくれやしないかい?」
 
 
ブフーッ!!
 
 
ほとんど同じタイミングでシェラとプリムの姉妹がお茶を噴き出す。
 
…………流石は伝説の傭兵……このような奇襲をかけてくるとは……油断しました!
む〜っ!お兄ちゃんにはこれ以上近づかせないもん!
 
「この屋敷には家族以外は住んでおりませんし……ディアナ様も指揮官として宿舎にいらしたほうがよろしいのではございませんか?」
 
…………むむっ……やはりこの女が最大の障害か!?
 
ディアナとシェラの視線がぶつかりあって激しい火花が散る。
しかし外見はあくまでもにこやかに談笑してるように装いながら。
 
「宿舎にいなくても副官がいるさね。それに宿舎には男しかいないからねえ………女のひとり身には危険なところさ」
 
「あら、闘神ディアナ様ともあろうものがご冗談を」
 
「いやいや私もこれで身持ちの固い女さ」
 
「ふふふふふふふふ」
「ふふふふふふふふ」
 
理由はわからないが背筋の寒さに震えを抑えられない真人であった。
 
「それにこの屋敷には年端のいかぬ妹もおりますので………あまり争いごとを持ち込みたくございませんの」
 
「争いなんてのは持ち込むもんじゃなくてやってくるもんさ。むしろあらかじめ用心をしておくほうが間違いないね」
 
ディアナの言葉に真人は真摯なひとかけらを感じ取っていた。
どれだけ逃げても争いから人が逃れることはかなわない。それがひとの業であろう。
だから守らなくてはならないものは守るべく算段を整えておかなくてはならない。決してそれを失わぬために。
 
「ディアナさんに住んでもらうのはいい考えかもしれません。この屋敷もかなり物騒になっていることでもありますし」
 
真人が張った結界とディアナの武力があれば、この屋敷を落とすには一個中隊では足りないだろう。
腕利きの暗殺者であっても無事の生還は難しい。
もちろん自分がおれば二人に手を出させるようなヘマをすることはありえないが真人がいつまでも張り付いていられるわけではないのだ。
自分のやっと手に入れた安息の地をこれ以上踏み荒らさせるつもりは真人には毛頭なかった。
 
 「ご主人様どうして……?」
 
形の良い眉を逆立てているシェラに真人は言った。
 
 「シェラたちは気づかなかったろうけど、この屋敷は少なくとも五回以上は何者かによって侵入されているよ。おそらくオレの素性を探りに来たんだろうけどね。それに王都に戻る少し前から複数の間者から監視を受けている。場合によってはシェラたちに危害を及ぼさないとも限らない。打てる手は打っておくにこしたことはないさ」
 
自分たちを思いやってくれているからこその真人の発言にはシェラも我がままをとおすわけにはいかなかった。
 
「任せておくれな真人。あんたの大事な妹には指一本触れさせやしないよ」
 
ここぞとばかりにディアナが真人の言葉尻にのった。
反対をする隙も与えぬ見事なタイミングであった。
 
 
………くっ………これが私と彼女の間にある十年の経験の差ということか………!
 
甘いね嬢ちゃん。交渉のコツは相手が何を欲しているのかを見抜くことさ。
 
 シェラは天井を仰ぐとひとつ長いため息をついた。
 
………いいでしょう。今回彼女を追い出すことはあきらめましょう。しかし私には次善の策があります………!
 
「そんな………いつの間にか屋敷に得体のしれない連中が入り込んでいたなんて……怖いわご主人様……」
 
一転して脅えの色を露わにしだしたシェラにディアナは不審の眼差しを送った。
それはディアナの同居の肯定に他ならない。こうもあっさりシェラがディアナの思惑を許すとは思えなかったからだ。
 
「プリムもね、すごく怖いの。それにご主人様がいなくてすごく寂しかったし……だからお願いがあるの……いい?」
 
二人に目を潤ませながら上目づかいに迫られて真人に抵抗できるはずもなかった。
 
「もちろんだよ、プリム。なんでも言ってごらん?」
 
 
「「今日からご主人様のベッドで私たちといっしょに寝て欲しいの」」
 
 
「「なにいいいいいいいいいい!!」」
 
何故かきれいに声をハモらせつつ真人とディアナは叫ぶ。
あまりに想定外の一撃だった。
 
 
そ、そうくるか…………だが…………!
 
 
「真人〜私だけのけものにしたりしないよね?ね?」
 
 
ニヤリ……と邪笑を浮かべてシェラが言った。
 
 
「本当に残念ですわ……ご主人様のベッドには私とプリムの三人しか入れないなんて………小さいかたならもう一人は入れたかもしれませのに……」
 
 
ピシリ
 
 
ディアナのコンプレックスを鋭くえぐるシェラの言葉にディアナの中で何かがひび割れる音がした。
 
 
「私だって好きでこんな図体に生まれたわけじゃないわ〜〜〜〜〜!」
 
試合に勝って勝負に負けたディアナであった。
 
 
「オレには選択権はないのか…………」
 
 
その夜、ピンク色のお揃いの枕が三つ鎮座したベッドを前に背中を煤けさせた真人が何かを失った男の顔で佇んでいたという。
そんな真人の胸のうちなど意に介する風もなく姉妹は喜々として真人の両手にしがみついていた。
 
 
「これで勝ったと思うなよ〜〜〜〜〜!!」
 
 
屋敷のテラスではやけ酒をあおるディアナが月に向っていつまでも叫んでいたのだった。
 
 
 
正しくここは男の地獄であった。
貴族らしくゆったりした造りの浴槽ではあるが、流石に四人ともなると肌と肌の接触は避けられない。
真人の左にシェラ右にプリム背後にはディアナとそれぞれ思い思いの方法で肌を寄せ合う状況は、いまだ木鶏足りえぬ真人にはかつてないほどの責苦に他ならないのだった。
 
だめだ………ここで反応してしまったら負けだ!
 
主に股間が。
 
真人は必死にこの世ならぬ狂気の修行を脳裏に思い描くことで危機の打開を図っていた。
 
両手を骨が見えるほど焼け爛らせたところから治癒さする修行をさせられたこともあった。
胃を完全に破裂させた状態で戦わされたこともあった。
失神するまで出ることのできない水牢に三日三晩放り込まれたこともあった。
 
よく思い出せば生きていることそのものが奇跡だ。
あの狂気の修行に耐えられた自分がこれしきのことに動揺するなど……………!
 
 
「いったいどういう鍛え方をしたらこんなに柔らかい筋肉をつけられるのかねえ………」
 
むにょん、と音のしそうな勢いで真人の肩にディアナがのしかかる。
よく熟れた豊満な胸が真人の肩に押しつけられ自在に形をかえる様は圧巻ですらあった。
 
「本当にご主人様のお肌ってすべすべで柔らかいんですよね〜」
 
追い打ちをかけるように人差し指で真人の胸をシェラがのの字を描くようにつつき始めた。
栄養不良でうるおいに欠けた以前とは違い、今まさに女としての成長期をむかえた瑞々しさは匂うばかりである。
思春期の乙女だけが持ちうる清純な色気が煙るように立ち上っていた。
 
「あ〜もしかしてご主人様、緊張してる〜?」
 
そして真人の右腕の緊張を敏感に感じ取ったプリムが目を細めて真人の顔を覗き込んだ。
幼女らしいプリプリした肌と早くも目覚めつつある女としての性が激しくアンバランスで目を惹かずにはいられない空気を纏っている。
そこはかとない色気すら感じられるほどだ。
 
女性陣の意図ははっきりしていた。
 
 
自分を女性として意識させて現状からさらなるステップアップを目指す……………これだ!
 
うりうりとばかりに意図的に肌をこすりつけ始める三人に真人の意識は彼岸の世界に旅立とうとしていた…………。
 
 
………………ごめんよ真砂…………不甲斐ない兄を許してくれ…………
 
 
プチリ
 
 
兄妹の縁もこれまでですね♪
 
 
なぜか脳裏の真砂はどす黒い瘴気を撒き散らしながら真人に引導を渡すのだった。
 
 
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
 
 
精神力の限界に達した真人は雄たけびをあげながら周りを囲む女性陣には目もくれず一目散に脱衣所へと飛び出していった。
 
 
はらり
 
 
真人の腰を覆う布が真人の急な動きに耐えきれず浴槽へと落ちていく。
そして露わになったモノを三人の娘たちはノドを鳴らしつつもしっかりと目に焼き付けていた。
 
 
「「「大きい!!!」」」
 
 
その後食事をともにした四人はいつになく無口で頬の血行が良いままであったという…………………。
 
 
 
 
シェラの料理舌鼓を打ちつつ、なぜか盛り上がらない昼食が終わった。
食後のお茶を楽しんでいた真人であったが、真人に降りかかる地獄はまだまだこれからが本番であった。
 
「真人ぉ………女のひとり身に傭兵の宿舎は淋しすぎるよ。私も今夜からここに置いてくれやしないかい?」
 
 
ブフーッ!!
 
 
ほとんど同じタイミングでシェラとプリムの姉妹がお茶を噴き出す。
 
…………流石は伝説の傭兵……このような奇襲をかけてくるとは……油断しました!
む〜っ!お兄ちゃんにはこれ以上近づかせないもん!
 
「この屋敷には家族以外は住んでおりませんし……ディアナ様も指揮官として宿舎にいらしたほうがよろしいのではございませんか?」
 
…………むむっ……やはりこの女が最大の障害か!?
 
ディアナとシェラの視線がぶつかりあって激しい火花が散る。
しかし外見はあくまでもにこやかに談笑してるように装いながら。
 
「宿舎にいなくても副官がいるさね。それに宿舎には男しかいないからねえ………女のひとり身には危険なところさ」
 
「あら、闘神ディアナ様ともあろうものがご冗談を」
 
「いやいや私もこれで身持ちの固い女さ」
 
「ふふふふふふふふ」
「ふふふふふふふふ」
 
理由はわからないが背筋の寒さに震えを抑えられない真人であった。
 
「それにこの屋敷には年端のいかぬ妹もおりますので………あまり争いごとを持ち込みたくございませんの」
 
「争いなんてのは持ち込むもんじゃなくてやってくるもんさ。むしろあらかじめ用心をしておくほうが間違いないね」
 
ディアナの言葉に真人は真摯なひとかけらを感じ取っていた。
どれだけ逃げても争いから人が逃れることはかなわない。それがひとの業であろう。
だから守らなくてはならないものは守るべく算段を整えておかなくてはならない。決してそれを失わぬために。
 
「ディアナさんに住んでもらうのはいい考えかもしれません。この屋敷もかなり物騒になっていることでもありますし」
 
真人が張った結界とディアナの武力があれば、この屋敷を落とすには一個中隊では足りないだろう。
腕利きの暗殺者であっても無事の生還は難しい。
もちろん自分がおれば二人に手を出させるようなヘマをすることはありえないが真人がいつまでも張り付いていられるわけではないのだ。
自分のやっと手に入れた安息の地をこれ以上踏み荒らさせるつもりは真人には毛頭なかった。
 
 「ご主人様どうして……?」
 
形の良い眉を逆立てているシェラに真人は言った。
 
 「シェラたちは気づかなかったろうけど、この屋敷は少なくとも五回以上は何者かによって侵入されているよ。おそらくオレの素性を探りに来たんだろうけどね。それに王都に戻る少し前から複数の間者から監視を受けている。場合によってはシェラたちに危害を及ぼさないとも限らない。打てる手は打っておくにこしたことはないさ」
 
自分たちを思いやってくれているからこその真人の発言にはシェラも我がままをとおすわけにはいかなかった。
 
「任せておくれな真人。あんたの大事な妹には指一本触れさせやしないよ」
 
ここぞとばかりにディアナが真人の言葉尻にのった。
反対をする隙も与えぬ見事なタイミングであった。
 
 
………くっ………これが私と彼女の間にある十年の経験の差ということか………!
 
甘いね嬢ちゃん。交渉のコツは相手が何を欲しているのかを見抜くことさ。
 
 シェラは天井を仰ぐとひとつ長いため息をついた。
 
………いいでしょう。今回彼女を追い出すことはあきらめましょう。しかし私には次善の策があります………!
 
「そんな………いつの間にか屋敷に得体のしれない連中が入り込んでいたなんて……怖いわご主人様……」
 
一転して脅えの色を露わにしだしたシェラにディアナは不審の眼差しを送った。
それはディアナの同居の肯定に他ならない。こうもあっさりシェラがディアナの思惑を許すとは思えなかったからだ。
 
「プリムもね、すごく怖いの。それにご主人様がいなくてすごく寂しかったし……だからお願いがあるの……いい?」
 
二人に目を潤ませながら上目づかいに迫られて真人に抵抗できるはずもなかった。
 
「もちろんだよ、プリム。なんでも言ってごらん?」
 
 
「「今日からご主人様のベッドで私たちといっしょに寝て欲しいの」」
 
 
「「なにいいいいいいいいいい!!」」
 
何故かきれいに声をハモらせつつ真人とディアナは叫ぶ。
あまりに想定外の一撃だった。
 
 
そ、そうくるか…………だが…………!
 
 
「真人〜私だけのけものにしたりしないよね?ね?」
 
 
ニヤリ……と邪笑を浮かべてシェラが言った。
 
 
「本当に残念ですわ……ご主人様のベッドには私とプリムの三人しか入れないなんて………小さいかたならもう一人は入れたかもしれませのに……」
 
 
ピシリ
 
 
ディアナのコンプレックスを鋭くえぐるシェラの言葉にディアナの中で何かがひび割れる音がした。
 
 
「私だって好きでこんな図体に生まれたわけじゃないわ〜〜〜〜〜!」
 
試合に勝って勝負に負けたディアナであった。
 
 
「オレには選択権はないのか…………」
 
 
その夜、ピンク色のお揃いの枕が三つ鎮座したベッドを前に背中を煤けさせた真人が何かを失った男の顔で佇んでいたという。
そんな真人の胸のうちなど意に介する風もなく姉妹は喜々として真人の両手にしがみついていた。
 
 
「これで勝ったと思うなよ〜〜〜〜〜!!」
 
 
屋敷のテラスではやけ酒をあおるディアナが月に向っていつまでも叫んでいたのだった。
 
 
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