アラフォー社畜のゴーレムマスター
第百八話 増援
(これはやばい、な)
ありえたはずのもう一人の自分だからわかる。
最後の最後まで信じていた秘宝という、本来裏切ることなどありえない道具にまで裏切られたリアゴッドが平静でいられるはずがない。
絶大な力を持ちながら誰からも理解されなかった孤独。その孤独こそが秘宝に人格を付与した理由であったに違いないと松田は思う。
人ではなく秘宝にそれを求めたのは、裏切られることがないという安心感であろう。
――――その最後の砦が破られた。
「……そうか、お前も私を裏切るのか」
「申し訳ありません造物主様。私はもう道具であったころには戻れません」
「――ならば死ね! 主人に逆らう秘宝などいらぬ! この世界には永遠の命を持った賢人だけが残ればよい」
ライドッグが死に際して最後に望んだ理想、今やリアゴッドとなった自分に残された唯一の希望にすがるようにしてリアゴッドは叫んだ。
人は愚かであまりに矮小すぎる。
しかし優れた人間が、永遠の命を手にすれば、そして愚かな限りある矮小な人間を粛正すれば、世界は住みよく美しいものになる。
永遠の命を手にすれば、人は無限に学習することができ、死によって優れた知識が断絶することもない。
何よりそうして進歩した人間たちが、いずれ自分と並ぶ賢さを手にするであろう。
そうなればライドッグは孤独から解放される。
ほとんど誇大妄想に近い荒唐無稽な話だが、困ったことにライドッグにはそれを実現してしまうだけのプランと実力があった。
そんなことが実現されてしまえば、無知なただの人間は絶滅するしかない。
全世界の国王や権力者がライドッグを暗殺しようとするのは当然の帰結であった。
――――そして手段は不明だが、ライドッグは志半ばで斃れた。
あと少し、永遠の生命の神秘を解明するまであと少しまで迫っていたというのに。
「悪いな。いろいろと嫌いなものについては共感するが、俺は自分が嫌いであったものになる気はない」
まだ容易に人は信じられない。だが信じられないからといって人を排除しようとは松田は考えていない。
そういう意味で、松田はまだ人を信じられないながらも、信じたいという気持ちを残しているのだろう。
だからこそリアゴッドとは相いれない。相いれない以上両者の激突は必然であった。
「我が秘宝をたぶらかした罪、万死に値する。塵一つ残さずこの世から消し去ってくれる!」
『主様は殺させない!』
「お父様は私が守ります!」
「よくわからないけど、ご主人様の敵は私の敵です! わふ」
会話の意味が難しすぎたのか、理解が追いついていないステラに思わず癒された。そういう時と場合ではないけれど。
「同じ絢爛たる七つの秘宝として貴女を軽蔑します。ディアナ」
宝冠コリンは、秘宝としてあるまじきディアナの変節に憤っていた。
秘宝は造物主によって創造され、その役に立つために存在する。
己を顧みる必要はない。何か見返りを求めることもない。奉仕することに喜びを見出す、ただただ主人のためにのみ存在するのが彼女たちだ。
もしコリンの本音を松田が聞いたら、「社畜か!」と叫んだだろう。
だがディアナは禁断の果実を知ってしまった。
それを本能的に察しているからこそ、コリンはディアナを許すことはできないのだった。
「――――召喚、ゴーレム!」
「ほう……!」
松田が一瞬にして百体の騎士ゴーレムと百体の騎馬ゴーレム、五十体のグリフォンゴーレムを召喚したことに、リアゴッドは素直に感嘆した。
技術は技術として評価すべきというのがリアゴッドの姿勢であった。
その全ては、いずれ訪れる賢人たちの知識として引き継がれているべきものだからだ。
「見事、といおうか。まさかディアナを狂わせたのも、そのゴーレム術式の応用か?」
「張り合いがないものだな。これだけの数を前にして」
「脅威でもなんでもないものを前に私が動揺するとでも思ったのか?」
いまだ全盛期には程遠いとはいえ、ライドッグであったころには国を相手に余裕で勝利していたのである。
今さら数百体程度のゴーレムで驚くような神経は持ち合わせていない。
千余年前、ライドッグの手で滅亡させられた小国の数は四カ国に及ぶのだ。
そのリアゴッドをもってしても、これほどのゴーレムを同時制御する魔法士を見るのは初めてのことであった。
「実に面白い異能だ。このまま殺してしまうのが残念でならぬ」
せめてその秘密の一端なりとも解き明かしてから殺してやりたい。
しかし今の力ではそこまで松田を圧倒できるほどの戦力の差がないこともわかっていた。
『気をつけてください主様、あの宝冠コリンの力は……』
クスコが言い終わるよりもリアゴッドの姿がかき消えるほうが早かった。
「……さらばだ。絢爛たる七つの秘宝は私のものだよ」
宝冠コリンの能力は転移。魔力によって強固な防壁を構築しないかぎり、世界中のどこにでも瞬時に転移することができる。
転移と同時も魔法攻撃、この世界でもっとも素早く厄介なヒットアンドアウェイであった。
松田の背後に転移したリアゴッドの指から、花崗岩をも瞬時に溶かす超高熱の熱線が放たれた。
転移されたことには気づいたものの、背後を松田が確認したときには、すでに熱線は放たれている。
「――――させません!」
松田を死の淵からギリギリのところで守り抜いたのは……ディアナである。
彼女の対抗呪文が、衝突の寸前でリアゴッドの熱線をかき消したのだ。
勝利を確信したところを、自分の道具であるディアナに邪魔されたリアゴッドは激しく怒り狂った。
「どこまでもこの私の邪魔をするか!」
「お父様にあだ為すなら、たとえ造物主様でも私の敵です!」
「許さん! 許さん! そんなことは許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
言葉ではなく実力で、はっきりとディアナがリアゴッドに敵対したことは彼にとって認めがたい現実であった。
結局は何らかの手段で松田に惑わされているだけ。松田さえ殺せばすぐにまた自分の従順な道具に戻ってくれると信じていただけに、その衝撃は大きかった。
「この私に! 造物主に逆らうというのなら、お前がこの世に存在する価値などない! 塵芥のごとく消えうせよ!」
再度転移して今度はディアナに矛先を変える。
『お見通しなのよ! あんたの考えそうなことは!』
だが、それをあらかじめ読んでいたクスコが妖気結界を張り巡らせてその攻撃を阻んだ。
「この獣め!」
『誉め言葉と受け取っておくわ』
「行くです! わふ」
クスコに注意が向いた隙を狙ってステラが巨狼の牙を放つが、これはあっさりと転移で躱されてしまった。
転移が一瞬で、かつその移動場所が不規則であるため、事実上期待できるのはまぐれ当たりしかない。
「まさか……そこの娘、人狼か」
以前同じ技を見たことがあるが、その男は人狼だった。
いずれ人狼の里を見つけなければならないと思っていたところに、向こうの方から手がかりが飛び込んできたことに、リアゴッドは口の端を釣りあげた。
「――――よこせ」
なんという僥倖か。絢爛たる七つの秘宝と同時に人狼まで手に入るとは幸先が良い。
「よこせと言われて渡す気はないな」
「ふむ、どうせ殺して奪う予定だったか」
「やってみろ!」
騎士ゴーレムたちを送還し、新たに巨大な盾ゴーレムを召喚する。
同時にバルーン状の丸いゴーレムを可能な限り召喚して、防御陣を形成した。
「そんなものが……うわっ!」
再び転移して攻撃するという必勝パターンを実行しようとしたリアゴッドは突如爆発に巻き込まれ、慌てて転移して逃げた。
「くそっ! なんだこれは!」
「迷宮には便利なもんがあるんだよ!」
松田が召喚したのは、百二十階層で出現した自爆型のエアバルーンである。
敵が近くに接近するのを感知して、自動で自爆してしまう理不尽兵器。ファンタジー世界の近接信管のようなものだ。
これによって松田は物理的な障壁を手に入れた。
「……だからどうした?」
リアゴッドはすぐにエアバルーンの欠点に気づいた。
なんのことはない。バルーン自体はただ浮いているだけの存在である。
直接的な攻撃手段を持たないバルーンなど、射的の的と何も変わらない。
次々にバルーンは撃ち落され、それを補充するようにまたバルーンを召喚する。
損害比と残存魔力量を考えれば、松田のじり貧であった。
莫大な魔力量を誇る松田ではあるが、伝説の魔法士ライドッグの転生体であるリアゴッドの魔力量がそれに劣るとは考えにくい。
だからといってほぼ一秒ごとにランダムに転移するリアゴッドに対して、まぐれ以外の有効な攻撃手段が松田には思い浮かばなかった。
「巨狼の――――」
「避けられるだけじゃなくて、思いっきり狙われるだけだから止めて」
エアバルーンの結界は味方の行動も阻害しているうえ、逆に結界の外に出られると守る手段がない。
下手に特攻されて、返り討ちに遭うほうが松田には恐ろしかった。
「どうした? 威勢が良いのは最初だけか?」
禁呪で丸ごと消し去るのもいいが、それでは人狼の娘が消えてなくなってしまう。
不老不死の地平を解明するためには、人狼の協力が絶対に必要なのだ。
にもかかわらず、いつの間にか人狼は巧妙に姿を消しておりリアゴッドにも尻尾を掴ませずにいた。
それはもともとライドッグの不老不死の研究が誤って流出した結果なのだが、リアゴッドはそれを知らなかった。
「…………運には全くもって自信がないが……わりと悪運には不自由してなくてね」
「どういう意味だ?」
確かに戦いには運が左右する場合がある。
しかし運ごときで、このリアゴッドが戦いに敗れるとでも思っているのならとんだ侮辱だ。
お前たちなど、人狼の娘がいなければいつでも抹殺できる塵芥にすぎぬのだということを教えてやる。
リアゴッドの独想は、素っ頓狂な一人の女性の声に断絶を余儀なくされる。
「ようやく追いついたぞマツダ! って、なんだこれはああああああああ!」
王女マリアナとゆかいな仲間たちが追いついたのだ。
ありえたはずのもう一人の自分だからわかる。
最後の最後まで信じていた秘宝という、本来裏切ることなどありえない道具にまで裏切られたリアゴッドが平静でいられるはずがない。
絶大な力を持ちながら誰からも理解されなかった孤独。その孤独こそが秘宝に人格を付与した理由であったに違いないと松田は思う。
人ではなく秘宝にそれを求めたのは、裏切られることがないという安心感であろう。
――――その最後の砦が破られた。
「……そうか、お前も私を裏切るのか」
「申し訳ありません造物主様。私はもう道具であったころには戻れません」
「――ならば死ね! 主人に逆らう秘宝などいらぬ! この世界には永遠の命を持った賢人だけが残ればよい」
ライドッグが死に際して最後に望んだ理想、今やリアゴッドとなった自分に残された唯一の希望にすがるようにしてリアゴッドは叫んだ。
人は愚かであまりに矮小すぎる。
しかし優れた人間が、永遠の命を手にすれば、そして愚かな限りある矮小な人間を粛正すれば、世界は住みよく美しいものになる。
永遠の命を手にすれば、人は無限に学習することができ、死によって優れた知識が断絶することもない。
何よりそうして進歩した人間たちが、いずれ自分と並ぶ賢さを手にするであろう。
そうなればライドッグは孤独から解放される。
ほとんど誇大妄想に近い荒唐無稽な話だが、困ったことにライドッグにはそれを実現してしまうだけのプランと実力があった。
そんなことが実現されてしまえば、無知なただの人間は絶滅するしかない。
全世界の国王や権力者がライドッグを暗殺しようとするのは当然の帰結であった。
――――そして手段は不明だが、ライドッグは志半ばで斃れた。
あと少し、永遠の生命の神秘を解明するまであと少しまで迫っていたというのに。
「悪いな。いろいろと嫌いなものについては共感するが、俺は自分が嫌いであったものになる気はない」
まだ容易に人は信じられない。だが信じられないからといって人を排除しようとは松田は考えていない。
そういう意味で、松田はまだ人を信じられないながらも、信じたいという気持ちを残しているのだろう。
だからこそリアゴッドとは相いれない。相いれない以上両者の激突は必然であった。
「我が秘宝をたぶらかした罪、万死に値する。塵一つ残さずこの世から消し去ってくれる!」
『主様は殺させない!』
「お父様は私が守ります!」
「よくわからないけど、ご主人様の敵は私の敵です! わふ」
会話の意味が難しすぎたのか、理解が追いついていないステラに思わず癒された。そういう時と場合ではないけれど。
「同じ絢爛たる七つの秘宝として貴女を軽蔑します。ディアナ」
宝冠コリンは、秘宝としてあるまじきディアナの変節に憤っていた。
秘宝は造物主によって創造され、その役に立つために存在する。
己を顧みる必要はない。何か見返りを求めることもない。奉仕することに喜びを見出す、ただただ主人のためにのみ存在するのが彼女たちだ。
もしコリンの本音を松田が聞いたら、「社畜か!」と叫んだだろう。
だがディアナは禁断の果実を知ってしまった。
それを本能的に察しているからこそ、コリンはディアナを許すことはできないのだった。
「――――召喚、ゴーレム!」
「ほう……!」
松田が一瞬にして百体の騎士ゴーレムと百体の騎馬ゴーレム、五十体のグリフォンゴーレムを召喚したことに、リアゴッドは素直に感嘆した。
技術は技術として評価すべきというのがリアゴッドの姿勢であった。
その全ては、いずれ訪れる賢人たちの知識として引き継がれているべきものだからだ。
「見事、といおうか。まさかディアナを狂わせたのも、そのゴーレム術式の応用か?」
「張り合いがないものだな。これだけの数を前にして」
「脅威でもなんでもないものを前に私が動揺するとでも思ったのか?」
いまだ全盛期には程遠いとはいえ、ライドッグであったころには国を相手に余裕で勝利していたのである。
今さら数百体程度のゴーレムで驚くような神経は持ち合わせていない。
千余年前、ライドッグの手で滅亡させられた小国の数は四カ国に及ぶのだ。
そのリアゴッドをもってしても、これほどのゴーレムを同時制御する魔法士を見るのは初めてのことであった。
「実に面白い異能だ。このまま殺してしまうのが残念でならぬ」
せめてその秘密の一端なりとも解き明かしてから殺してやりたい。
しかし今の力ではそこまで松田を圧倒できるほどの戦力の差がないこともわかっていた。
『気をつけてください主様、あの宝冠コリンの力は……』
クスコが言い終わるよりもリアゴッドの姿がかき消えるほうが早かった。
「……さらばだ。絢爛たる七つの秘宝は私のものだよ」
宝冠コリンの能力は転移。魔力によって強固な防壁を構築しないかぎり、世界中のどこにでも瞬時に転移することができる。
転移と同時も魔法攻撃、この世界でもっとも素早く厄介なヒットアンドアウェイであった。
松田の背後に転移したリアゴッドの指から、花崗岩をも瞬時に溶かす超高熱の熱線が放たれた。
転移されたことには気づいたものの、背後を松田が確認したときには、すでに熱線は放たれている。
「――――させません!」
松田を死の淵からギリギリのところで守り抜いたのは……ディアナである。
彼女の対抗呪文が、衝突の寸前でリアゴッドの熱線をかき消したのだ。
勝利を確信したところを、自分の道具であるディアナに邪魔されたリアゴッドは激しく怒り狂った。
「どこまでもこの私の邪魔をするか!」
「お父様にあだ為すなら、たとえ造物主様でも私の敵です!」
「許さん! 許さん! そんなことは許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
言葉ではなく実力で、はっきりとディアナがリアゴッドに敵対したことは彼にとって認めがたい現実であった。
結局は何らかの手段で松田に惑わされているだけ。松田さえ殺せばすぐにまた自分の従順な道具に戻ってくれると信じていただけに、その衝撃は大きかった。
「この私に! 造物主に逆らうというのなら、お前がこの世に存在する価値などない! 塵芥のごとく消えうせよ!」
再度転移して今度はディアナに矛先を変える。
『お見通しなのよ! あんたの考えそうなことは!』
だが、それをあらかじめ読んでいたクスコが妖気結界を張り巡らせてその攻撃を阻んだ。
「この獣め!」
『誉め言葉と受け取っておくわ』
「行くです! わふ」
クスコに注意が向いた隙を狙ってステラが巨狼の牙を放つが、これはあっさりと転移で躱されてしまった。
転移が一瞬で、かつその移動場所が不規則であるため、事実上期待できるのはまぐれ当たりしかない。
「まさか……そこの娘、人狼か」
以前同じ技を見たことがあるが、その男は人狼だった。
いずれ人狼の里を見つけなければならないと思っていたところに、向こうの方から手がかりが飛び込んできたことに、リアゴッドは口の端を釣りあげた。
「――――よこせ」
なんという僥倖か。絢爛たる七つの秘宝と同時に人狼まで手に入るとは幸先が良い。
「よこせと言われて渡す気はないな」
「ふむ、どうせ殺して奪う予定だったか」
「やってみろ!」
騎士ゴーレムたちを送還し、新たに巨大な盾ゴーレムを召喚する。
同時にバルーン状の丸いゴーレムを可能な限り召喚して、防御陣を形成した。
「そんなものが……うわっ!」
再び転移して攻撃するという必勝パターンを実行しようとしたリアゴッドは突如爆発に巻き込まれ、慌てて転移して逃げた。
「くそっ! なんだこれは!」
「迷宮には便利なもんがあるんだよ!」
松田が召喚したのは、百二十階層で出現した自爆型のエアバルーンである。
敵が近くに接近するのを感知して、自動で自爆してしまう理不尽兵器。ファンタジー世界の近接信管のようなものだ。
これによって松田は物理的な障壁を手に入れた。
「……だからどうした?」
リアゴッドはすぐにエアバルーンの欠点に気づいた。
なんのことはない。バルーン自体はただ浮いているだけの存在である。
直接的な攻撃手段を持たないバルーンなど、射的の的と何も変わらない。
次々にバルーンは撃ち落され、それを補充するようにまたバルーンを召喚する。
損害比と残存魔力量を考えれば、松田のじり貧であった。
莫大な魔力量を誇る松田ではあるが、伝説の魔法士ライドッグの転生体であるリアゴッドの魔力量がそれに劣るとは考えにくい。
だからといってほぼ一秒ごとにランダムに転移するリアゴッドに対して、まぐれ以外の有効な攻撃手段が松田には思い浮かばなかった。
「巨狼の――――」
「避けられるだけじゃなくて、思いっきり狙われるだけだから止めて」
エアバルーンの結界は味方の行動も阻害しているうえ、逆に結界の外に出られると守る手段がない。
下手に特攻されて、返り討ちに遭うほうが松田には恐ろしかった。
「どうした? 威勢が良いのは最初だけか?」
禁呪で丸ごと消し去るのもいいが、それでは人狼の娘が消えてなくなってしまう。
不老不死の地平を解明するためには、人狼の協力が絶対に必要なのだ。
にもかかわらず、いつの間にか人狼は巧妙に姿を消しておりリアゴッドにも尻尾を掴ませずにいた。
それはもともとライドッグの不老不死の研究が誤って流出した結果なのだが、リアゴッドはそれを知らなかった。
「…………運には全くもって自信がないが……わりと悪運には不自由してなくてね」
「どういう意味だ?」
確かに戦いには運が左右する場合がある。
しかし運ごときで、このリアゴッドが戦いに敗れるとでも思っているのならとんだ侮辱だ。
お前たちなど、人狼の娘がいなければいつでも抹殺できる塵芥にすぎぬのだということを教えてやる。
リアゴッドの独想は、素っ頓狂な一人の女性の声に断絶を余儀なくされる。
「ようやく追いついたぞマツダ! って、なんだこれはああああああああ!」
王女マリアナとゆかいな仲間たちが追いついたのだ。
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