アラフォー社畜のゴーレムマスター
第四十七話 不名誉な異名
ひとまずDカップ、身長百六十センチに再整形することを松田に約束させたディアナは留飲を下げた。
あくまでも暫定的なものと思えば、少女の肢体も決して悪いものではない。
百人見れば百人が美少女と答えるほどの美貌であり、コンパクトな身体はステラ以上に女性としての自己主張に満ちている。
何よりディアナの本体はあくまでも終末の杖のままであった。
現在の松田の技量では、魔核の移植施術までこなすのは不可能であった。
超レアな遺物である素体を手に入れ、ディアナに相応しい魔核、素体、器が揃うのは相当先になるだろう。
しばらくの間は人形に杖を持たせ、杖(本体)から人形を操ることになる。
もちろん操るのに魔力は必要なのだが、召喚型と違い維持し続けることには魔力が必要ないので、操るだけならディアナの魔力だけでも十分なのだ。
『…………悪くありませんね』
初めて感じる杖でない自分というものに、デイアナは心が浮き立つのを抑えることができなかった。
そっと人形の身体を松田に寄り添わせてみる。
窓に反射して映る無表情な美少女が、どこか照れた様子の松田にぴったりと寄り添っているのを見てディアナは内心で微笑んだ。
『それはそれとして、一刻も早い修正をお願いします!』
こんな杖ではなく一人前の女性として、松田の横に並べたらどんなに素晴らしいことだろう、とディアナは思う。
つかの間の優越感に浸っているらしいステラをみると、胸にもやもやとしたものを感じるが、しばらくの間の辛抱だ、とディアナは自分に言い聞かせた。
「可愛いわっ! これは私に対する挑戦ね!」
「マツダよ。お前はやはり俺の弟子に相応しい男だった」
「待ってください! その共感は断じて認めるわけにはいきませんよっ?」
ドルロイの目が明らかに同類を見つめる目なのを察して、松田は激しく抗議した。
これはあくまでも不測の事態なのである。
決して未成熟な果実に欲情を覚える変態ではない。
たとえ合法ロリであっても、断じてそれを認めるわけにはいなかいのだ。人として男として、それだけは。
とはいえ、ドルロイ夫婦の歓迎は、松田にとって素直にありがたいのも確かであった。
少女の着替えやオシャレなど松田には想像すらすることもできないからである。
早速ディアナを着せ替えすることを決意したリンダに、ぎくしゃくと歩きなれていない幼児のような動きで、ディアナは必死についていく。
魔力で人形を操ることに慣れていないうえ、素体のない人形は人間と同じようには動かしにくい。
それでもディアナは人間と同じように扱われるというのが新鮮に感じられてならなかった。
表情は無表情なまま決して動かないが、ディアナが心ではワクワクしているのを松田は察してくすりと笑った。
その日ディアナはリンダが心ゆくまで、何度も何度も着せ替え人形となっていた。
ザワリザワリと喧騒が広がっていく。
ドルロイの工房で修業に勤しんでいた松田が、探索者ギルドに姿を現したのは一週間ぶりのことであった。
松田がシトリを倒したということは、知る人ぞ知る公然の秘密であった。
少なくとも四十階層近くを攻略する上位ランクの探索者パーティーはほぼ確実に知っていた。
そんな上位パーティーが一目置く松田が注目を集めるのは当然のことであった。
「お久しぶりですね、マツダ様」
「ご無沙汰してます。シーリースさん」
受付のシーリース嬢の笑顔に癒されて、松田も自然と笑顔になる。
小心者である松田にとって、ここまで注目を集めるのは精神衛生上よろしくない事態なのだ。
「もう探索に参加していただけるんですか?」
「素材集めの都合もありますから、一週間探索して、一週間師匠のところで修業することになると思います」
可能性は低いが、万が一再びシトリに遭遇しないとも限らない。
さらに最下層が近いと思われることから、迷宮管理者のかなり上級の魔物と接触できる可能性が高かった。
日々ディアナに催促されている松田としては、最低限努力しているところを見せないわけにはいかなかったのである。
いつだって男は女のプレゼントの催促には勝てないものだ。
「ギルドとしてはありがたいです! まだ四十七階層を突破したパーティーはおりませんし、今はマツダ様がトップパーティーですからね!」
「は、はあ…………」
トップパーティーであった北極星解散後、総じて攻略は低調である。
もしかしたら再びシトリのような怪物が出るかもしれない、という危機感があるからだ。
未知の下層とはそれほどに恐ろしい。
たった一度遭遇したというだけで、北極星のように壊滅してしまったのでは意味がないのである。
できうることなら誰か先に攻略して情報をくれないか? というのが正直彼らの本音であるのだった。
もしかしたら今日松田がギルドにやってきたことを、一番喜んでいるのは上位パーティーである彼らなのかもしれなかった。
「それじゃあ、今日は探索でよろしいんですね?」
「ええ、師匠からいろいろと素材も頼まれてますし、レベルも上げたいですし」
あの小面憎い神の恩寵のおかげなのだろうが、レベルアツプに伴う松田のスキル取得はほとんど反則に近いものである。
まず土属性の魔法士ならば憤死は確実の理不尽ぶりだ。
それでもなお、ディアナに人間に等しい身体を与えるにはほど遠いのだから恐ろしい。
もっともそれは、新たな人造生命という悠久の時を経て錬金術師に与えられた至高の命題なのだから当然なのかもしれなかった。
「やっぱり四十七階層以降を探索するらしいぞ?」
「さすがゴーレムマスターは器が違った」
このころになると、松田の異名としてゴーレムマスターの名が定着しつつあった。
等級の低い探索者は知らなくとも、トップランカーの探索者はシトリを倒したのが松田であることを知っている。
そして彼が規格外のゴーレムをいつも連れていることも、どうやら操れるのが一体だけではないということも。
にもかかわらず彼らが勧誘に動こうとしないのは、メッサラたちが勧誘に失敗したというのもあるが、松田がドルロイの弟子であるということも大きかった。
特に下層で活躍する人間にとって、自らの使うランクの高い武器を製造するドワーフを敵に回すのは絶対にしてはならない禁忌であった。
無理な勧誘をしてドルロイを怒らせれば、マクンバの鍛冶師全体にそっぽを向かれる可能性もないわけではなかったのである。
まして松田自身を敵に回せば、さらに厄介なことにもなりかねない。
なにせ相手はあのシトリを倒した男なのだ。対応には細心の注意を払ってしかるべきだった。
「…………あのぅ」
おそるおそるシーリースは松田に尋ねた。
「そちらの彼女に登録はお済ではありませんよね?」
正直ステラが下層を探索することにも抵抗があるシーリースとしては、いかにも深窓の令嬢然とした少女が松田と行動をともにすることには不快感すら感じていた。
自然、シーリースが松田を見る目もきついものになってしまったのか、松田は困ったように頭を掻いた。
ディアナを人間に間違われるとは思わなかった。
「いえ、この娘はゴーレムですよ?」
「…………はいっ?」
何か今、聞き捨てならないようなことを聞いたような気がして、シーリースはまじまじと目を見開いた。
いわれてみれば、楚々とした美少女は、先ほどから無表情で微動だにしないままである。
それにどこか歩く様子もぎこちない不自然さがあって、それをシーリースは彼女がこんなギルドのような場所に来ることに慣れていないからだと考えていた。
「――――まさか」
少女がずっと瞬きひとつしていないことに気づいてシーリースは絶句した。
膝のあたりまで伸びた漆黒の髪は天使のように艶やかで、肌理の細かい肌はしっとりとした潤いに満ちている。
きらきらと輝く黒曜石の瞳は宝石のように光沢を帯び、真っ赤に熟れた唇は少女らしからぬ妖艶な色気を放っていた。
それだけを見れば誰も人形などと疑う余地さえないように思われる。
しかし瞬きをしない瞳、そして全く呼吸を感じさせない胸と唇は彼女が人間でないことを示すには十分な理由であった。
「やっぱり、松田さん、貴方は――――」
やはりそう。
恐れていたことが現実になってしまったとシーリースは絶望した。
将来有望で、なおかつイケメンな松田には仄かに思うところあったシーリースであったが、まさか松田が不治の病に侵されていたとは。
「まじかよ、あれがゴーレムって……」
「魔法士の恰好だよな、あれ」
「ゴーレムが魔法を使えないのは常識だし、体のいい愛玩人形だろ」
「あんな可愛らしい幼女を……なんてひどい男なんだ!」
要するに前衛でしか役に立たないはずのゴーレムに、ディアナのような美少女を錬成した松田は、真性のロリコンだと思われていたのだった。
さらに師匠であるドルロイが、本物のロリコンであることも誤解を招く一因となった。
「すいません、何か取り返しがつかない誤解があるように思います。それに周りのみんなも私を見る目がおかしいような気がするんですが」
「欠点のない人間なんていません。私はマツダ様が更正してくれると信じています!」
「いろいろと待ってください! 私が何を更正するというんですか!」
シーリースや周囲の視線がディアナに注がれていることに、本人が不安に思わぬはずがない。
不慣れな感覚にディアナは表情は無表情なままに、松田の右腕にすがりつくようにして抱きついた。
「ああ、やっぱり!」
「何がやっぱりなんですか!」
「マツダ様、探索が終わったら、食事でもいかがでしょうか? やはり貴方のように将来有望な探索者が幼女に迷うのは――――」
そっとシーリースに手を握られ、ようやく松田は自分の置かれた状況を認識した。
「待て待て待て! 待って! 私は未成熟な女性を恋愛の対象と見る気はありませんよ?」
「ご主人様! この人なんかより私とお食事に行くです! わふ」
ディアナとは反対側の松田の腕をとってステラがふふん、と胸をそらす。
「こんなときばっかりタイミングよくうまいこと言ってるんじゃねええええええ!」
「わふっ?」
いたずらっぽく笑うステラの笑顔は、どこか小悪魔じみた悪意があるような気がした。
この日以降、ゴーレムマスターの二つ名とともに、もうひとつの名が陰でささやかれることとなる。
その名は幼女マスター。
「幼女マスターのゴーレムみたか?」
「明らかに肌艶が増してたよな? やっぱり……」
「着ている服もそこらの仕立て屋の安物じゃねえぞ?」
リンダがディアナを可愛がり、新たな素材によって人間に近づければ近づけるほど、松田の影の異名は説得力を持って広まっていくのだった。
「誤解だああああああああああああああああ!」
あくまでも暫定的なものと思えば、少女の肢体も決して悪いものではない。
百人見れば百人が美少女と答えるほどの美貌であり、コンパクトな身体はステラ以上に女性としての自己主張に満ちている。
何よりディアナの本体はあくまでも終末の杖のままであった。
現在の松田の技量では、魔核の移植施術までこなすのは不可能であった。
超レアな遺物である素体を手に入れ、ディアナに相応しい魔核、素体、器が揃うのは相当先になるだろう。
しばらくの間は人形に杖を持たせ、杖(本体)から人形を操ることになる。
もちろん操るのに魔力は必要なのだが、召喚型と違い維持し続けることには魔力が必要ないので、操るだけならディアナの魔力だけでも十分なのだ。
『…………悪くありませんね』
初めて感じる杖でない自分というものに、デイアナは心が浮き立つのを抑えることができなかった。
そっと人形の身体を松田に寄り添わせてみる。
窓に反射して映る無表情な美少女が、どこか照れた様子の松田にぴったりと寄り添っているのを見てディアナは内心で微笑んだ。
『それはそれとして、一刻も早い修正をお願いします!』
こんな杖ではなく一人前の女性として、松田の横に並べたらどんなに素晴らしいことだろう、とディアナは思う。
つかの間の優越感に浸っているらしいステラをみると、胸にもやもやとしたものを感じるが、しばらくの間の辛抱だ、とディアナは自分に言い聞かせた。
「可愛いわっ! これは私に対する挑戦ね!」
「マツダよ。お前はやはり俺の弟子に相応しい男だった」
「待ってください! その共感は断じて認めるわけにはいきませんよっ?」
ドルロイの目が明らかに同類を見つめる目なのを察して、松田は激しく抗議した。
これはあくまでも不測の事態なのである。
決して未成熟な果実に欲情を覚える変態ではない。
たとえ合法ロリであっても、断じてそれを認めるわけにはいなかいのだ。人として男として、それだけは。
とはいえ、ドルロイ夫婦の歓迎は、松田にとって素直にありがたいのも確かであった。
少女の着替えやオシャレなど松田には想像すらすることもできないからである。
早速ディアナを着せ替えすることを決意したリンダに、ぎくしゃくと歩きなれていない幼児のような動きで、ディアナは必死についていく。
魔力で人形を操ることに慣れていないうえ、素体のない人形は人間と同じようには動かしにくい。
それでもディアナは人間と同じように扱われるというのが新鮮に感じられてならなかった。
表情は無表情なまま決して動かないが、ディアナが心ではワクワクしているのを松田は察してくすりと笑った。
その日ディアナはリンダが心ゆくまで、何度も何度も着せ替え人形となっていた。
ザワリザワリと喧騒が広がっていく。
ドルロイの工房で修業に勤しんでいた松田が、探索者ギルドに姿を現したのは一週間ぶりのことであった。
松田がシトリを倒したということは、知る人ぞ知る公然の秘密であった。
少なくとも四十階層近くを攻略する上位ランクの探索者パーティーはほぼ確実に知っていた。
そんな上位パーティーが一目置く松田が注目を集めるのは当然のことであった。
「お久しぶりですね、マツダ様」
「ご無沙汰してます。シーリースさん」
受付のシーリース嬢の笑顔に癒されて、松田も自然と笑顔になる。
小心者である松田にとって、ここまで注目を集めるのは精神衛生上よろしくない事態なのだ。
「もう探索に参加していただけるんですか?」
「素材集めの都合もありますから、一週間探索して、一週間師匠のところで修業することになると思います」
可能性は低いが、万が一再びシトリに遭遇しないとも限らない。
さらに最下層が近いと思われることから、迷宮管理者のかなり上級の魔物と接触できる可能性が高かった。
日々ディアナに催促されている松田としては、最低限努力しているところを見せないわけにはいかなかったのである。
いつだって男は女のプレゼントの催促には勝てないものだ。
「ギルドとしてはありがたいです! まだ四十七階層を突破したパーティーはおりませんし、今はマツダ様がトップパーティーですからね!」
「は、はあ…………」
トップパーティーであった北極星解散後、総じて攻略は低調である。
もしかしたら再びシトリのような怪物が出るかもしれない、という危機感があるからだ。
未知の下層とはそれほどに恐ろしい。
たった一度遭遇したというだけで、北極星のように壊滅してしまったのでは意味がないのである。
できうることなら誰か先に攻略して情報をくれないか? というのが正直彼らの本音であるのだった。
もしかしたら今日松田がギルドにやってきたことを、一番喜んでいるのは上位パーティーである彼らなのかもしれなかった。
「それじゃあ、今日は探索でよろしいんですね?」
「ええ、師匠からいろいろと素材も頼まれてますし、レベルも上げたいですし」
あの小面憎い神の恩寵のおかげなのだろうが、レベルアツプに伴う松田のスキル取得はほとんど反則に近いものである。
まず土属性の魔法士ならば憤死は確実の理不尽ぶりだ。
それでもなお、ディアナに人間に等しい身体を与えるにはほど遠いのだから恐ろしい。
もっともそれは、新たな人造生命という悠久の時を経て錬金術師に与えられた至高の命題なのだから当然なのかもしれなかった。
「やっぱり四十七階層以降を探索するらしいぞ?」
「さすがゴーレムマスターは器が違った」
このころになると、松田の異名としてゴーレムマスターの名が定着しつつあった。
等級の低い探索者は知らなくとも、トップランカーの探索者はシトリを倒したのが松田であることを知っている。
そして彼が規格外のゴーレムをいつも連れていることも、どうやら操れるのが一体だけではないということも。
にもかかわらず彼らが勧誘に動こうとしないのは、メッサラたちが勧誘に失敗したというのもあるが、松田がドルロイの弟子であるということも大きかった。
特に下層で活躍する人間にとって、自らの使うランクの高い武器を製造するドワーフを敵に回すのは絶対にしてはならない禁忌であった。
無理な勧誘をしてドルロイを怒らせれば、マクンバの鍛冶師全体にそっぽを向かれる可能性もないわけではなかったのである。
まして松田自身を敵に回せば、さらに厄介なことにもなりかねない。
なにせ相手はあのシトリを倒した男なのだ。対応には細心の注意を払ってしかるべきだった。
「…………あのぅ」
おそるおそるシーリースは松田に尋ねた。
「そちらの彼女に登録はお済ではありませんよね?」
正直ステラが下層を探索することにも抵抗があるシーリースとしては、いかにも深窓の令嬢然とした少女が松田と行動をともにすることには不快感すら感じていた。
自然、シーリースが松田を見る目もきついものになってしまったのか、松田は困ったように頭を掻いた。
ディアナを人間に間違われるとは思わなかった。
「いえ、この娘はゴーレムですよ?」
「…………はいっ?」
何か今、聞き捨てならないようなことを聞いたような気がして、シーリースはまじまじと目を見開いた。
いわれてみれば、楚々とした美少女は、先ほどから無表情で微動だにしないままである。
それにどこか歩く様子もぎこちない不自然さがあって、それをシーリースは彼女がこんなギルドのような場所に来ることに慣れていないからだと考えていた。
「――――まさか」
少女がずっと瞬きひとつしていないことに気づいてシーリースは絶句した。
膝のあたりまで伸びた漆黒の髪は天使のように艶やかで、肌理の細かい肌はしっとりとした潤いに満ちている。
きらきらと輝く黒曜石の瞳は宝石のように光沢を帯び、真っ赤に熟れた唇は少女らしからぬ妖艶な色気を放っていた。
それだけを見れば誰も人形などと疑う余地さえないように思われる。
しかし瞬きをしない瞳、そして全く呼吸を感じさせない胸と唇は彼女が人間でないことを示すには十分な理由であった。
「やっぱり、松田さん、貴方は――――」
やはりそう。
恐れていたことが現実になってしまったとシーリースは絶望した。
将来有望で、なおかつイケメンな松田には仄かに思うところあったシーリースであったが、まさか松田が不治の病に侵されていたとは。
「まじかよ、あれがゴーレムって……」
「魔法士の恰好だよな、あれ」
「ゴーレムが魔法を使えないのは常識だし、体のいい愛玩人形だろ」
「あんな可愛らしい幼女を……なんてひどい男なんだ!」
要するに前衛でしか役に立たないはずのゴーレムに、ディアナのような美少女を錬成した松田は、真性のロリコンだと思われていたのだった。
さらに師匠であるドルロイが、本物のロリコンであることも誤解を招く一因となった。
「すいません、何か取り返しがつかない誤解があるように思います。それに周りのみんなも私を見る目がおかしいような気がするんですが」
「欠点のない人間なんていません。私はマツダ様が更正してくれると信じています!」
「いろいろと待ってください! 私が何を更正するというんですか!」
シーリースや周囲の視線がディアナに注がれていることに、本人が不安に思わぬはずがない。
不慣れな感覚にディアナは表情は無表情なままに、松田の右腕にすがりつくようにして抱きついた。
「ああ、やっぱり!」
「何がやっぱりなんですか!」
「マツダ様、探索が終わったら、食事でもいかがでしょうか? やはり貴方のように将来有望な探索者が幼女に迷うのは――――」
そっとシーリースに手を握られ、ようやく松田は自分の置かれた状況を認識した。
「待て待て待て! 待って! 私は未成熟な女性を恋愛の対象と見る気はありませんよ?」
「ご主人様! この人なんかより私とお食事に行くです! わふ」
ディアナとは反対側の松田の腕をとってステラがふふん、と胸をそらす。
「こんなときばっかりタイミングよくうまいこと言ってるんじゃねええええええ!」
「わふっ?」
いたずらっぽく笑うステラの笑顔は、どこか小悪魔じみた悪意があるような気がした。
この日以降、ゴーレムマスターの二つ名とともに、もうひとつの名が陰でささやかれることとなる。
その名は幼女マスター。
「幼女マスターのゴーレムみたか?」
「明らかに肌艶が増してたよな? やっぱり……」
「着ている服もそこらの仕立て屋の安物じゃねえぞ?」
リンダがディアナを可愛がり、新たな素材によって人間に近づければ近づけるほど、松田の影の異名は説得力を持って広まっていくのだった。
「誤解だああああああああああああああああ!」
コメント